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本棚『北欧学 構想と主題 —北欧神話研究の視点から』尾崎 和彦著 北樹出版、8,500円+税



福祉国家、平和と人権、エコロジー、優れたデザインなど北欧の魅力は多様である。その秘密は何かという問いかけは普遍的である。文学や音楽はもちろんのこと近年ではアニメやゲームのインスピレーションの源泉でもある北欧神話、そして北欧の生んだ巨人、実存主義哲学者キェルケゴール、著者はこの両者について多くの研究書と翻訳書を刊行してきた。これまで研究の集大成であるこの浩瀚な著作は、北欧神話とキェルケゴールの接点を探ることで、北欧的なるものの特質を描き、「北欧学」という新たな学の確立を意図している。

社会全体の象徴で時間を超えた神話と、主体性の極みであり「今」を熟視する実存主義との関係を探るなかで、著者は人間のために巨人と戦い続ける個性あふれる神々の姿に、何よりも自らに誠実であろうとして格闘を続ける「単独者」キェルケゴールを重ね合わせ、どんな犠牲も正当化することのない「北欧的ヒューマニズム」を見出した。本書はまさにこの豊穣な北欧文化への誘いの書となっている。

外池 力・政治経済学部教授
(著者は名誉教授)