講師 ジャパン・デジタル・コンテンツ信託株式会社
代表取締役 土井 宏文
代表取締役 土井 宏文
1 コンテンツビジネスの現状
コンテンツビジネスとは、経済価値のある情報を制作・加工し、メディアや流通業者を通じて消費者に提供するビジネス全般をいう。わが国のコンテンツ産業全体の市場は約14.7兆円という規模であり、自動車産業(約20.8兆円)に次ぐ規模である。もっとも、GDP比率では、世界平均3%、米国5%に比べて2%と低く、海外売上比率は米国17%の5分の1以下の3%となっている。「知的財産立国」の実現を目指しているわが国にとって、コンテンツは重要な資産であり、この活性化を図ることが重要であることから、「知的財産推進計画2005」では「第4章コンテンツをいかした文化創造国家への取組」として、①業界の近代化・合理化を支援すること、②コンテンツの制作・投資等を促進すること、③人材育成を強化し、顕彰を充実すること、④コンテンツ流通大国に向けた改革を進めること、⑤海外展開を拡大することなどが列挙されている。
2 コンテンツビジネスの構造
わが国のコンテンツビジネスは、少数の大手流通業者が発注会社として千数百社の小規模な制作会社に制作を発注するという構造になっており、いわば制作会社が大手流通業者の下請としてコンテンツを制作している。
従来、コンテンツを制作する場合には、このコンテンツをビジネス利用する事業者が各々のビジネスに見合った窓口権を取るために制作費を出し合う製作委員会方式によって資金調達が行われてきた。すなわち、製作委員会に参加した各事業者間で、興業、放送、出版、商品化、BB配信等の権利である窓口権の構成(座組)を決定する。製作委員会は民法上の任意組合であることが多く、その財産たる著作権は「総組合員の共有に属する」こととなり(民668条)、ただ制作を請け負うのみの制作会社には権利が残らないという構造となっている。したがって、コンテンツ制作は業界内の資金のみで行われ、また制作会社は物的担保に乏しいため金融機関等から資金を調達できないため、慢性的な資金不足に陥っているのが現状である。
3 資金調達
そこで、資金調達供給環境を整備することが、コンテンツビジネスを展開していくうえで急務となる。すなわち、コンテンツ制作会社が有する資産である知的財産を活用した資金調達手法について検討していかなければならない。そして、知的財産は画一的な金融手法には適合的でない性質を有することから、各ケースに応じた様々な手法を検討しなければならない。
まず、コンテンツ制作の資金調達手法は、自己資本と他人資本に分類することができる。自己資本のみで制作が可能であれば資金調達の必要性は乏しいように思えるが、現実には、投資リスクを分散させ、また他人資本の配当利率を抑えることで自己資本に対する配当利率を上げて投資効率を向上させるという効果があるため、自己資本と他人資本を組み合わせて資金調達することが多い。
他人資本の調達方法としては、企業金融(コーポレート・ファイナンス)と事業金融(プロジェクト・ファイナンス)に大別することができる。前者は、最も一般的に行われている資金調達であり、銀行借入、社債発行、新株発行などがある。この場合には企業の財務状況が投融資判断の材料となる。他方、後者は、特定の対象資産のみを引き当てとした融資であるノンリコースローン、製作委員会やコンテンツファンドといった組合形式を用いた手法、特定目的会社や特定目的信託を利用して資産対応証券などを発行する流動化・証券化といった手法がある。この場合には事業が調達主体となり、対象事業の収益性が投融資判断の材料となる。
資金調達は、企業等が保有する特定の資産を新たに設立した資産保有のための媒体(SPV(Special Purpose Vehicle))である組合や会社等に譲渡し、その媒体を通じ当該資産からのキャッシュフローを裏付けとして行われる。これを資産流動化(securitization)という。この場合、原所有者の倒産からSPVを隔離すべく、資産は完全譲渡されることが企図される。具体的には先述した製作委員会のほか、以下のものを挙げうる。
①匿名組合
投資家である組合員が事業のプロである営業者に対して出資し、対外的な行為はすべて営業者が行うという形態である。営業者は、自己の名において組合契約で定められた営業を行い、当該営業から生じた利益を組合員に分配する。製作委員会方式で用いられる任意組合が業界の事業者が窓口権を取得するために出資するのに対して、匿名組合は事業と関係ない純然たる投資家が出資するのがほとんどである。
②投資事業有限責任組合
民法上の組合契約である任意組合をベースとしつつ、任意組合において問題とされた組合員(投資家)の責任範囲を投資額の範囲に限定することを法的に担保したものである。
③有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)
「個人又は法人が出資して、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約し、各当事者がそれぞれの出資に係る払込み又は給付の全部を履行する」ものであり、①出資者が有限責任で、②損益や権限の分配が自由に決定できるなど内部自治が徹底し、③構成員課税の適用を受けるという3つの特徴を有する。
④資産流動化法上の特定目的会社(Special Purpose Company(SPC), TMK)
資産の現所有者が資産をTMKに譲渡し、TMKが証券を発行することで一般投資家から資金を調達し、これを売買代金として原所有者に戻すという手順で証券化を行い、TMKが証券化された資産の管理を管理会社に委託して、その収益から投資家に配当を行う制度である。
⑤資産流動化法上の特定目的信託
資産の原所有者が資産の管理・処分・収益の分配等を信託会社に委託し、信託会社が特定目的信託契約に基づいて信託受益権を分割し受益証券として投資家に販売することにより資産の流動化を図る制度である。
⑥商品ファンド
投資家から集めた資金を専門家が商品や金融の先物取引で運用し、その利益を投資家に還元する実績配当型の金融商品をいう。商品ファンド法2条1項3号は「その使用により得られる収益の予測が困難な物品として政令で定めるもの」を指定物品とし、「映画」がその一つとして規定されている。そのため、映画の製作等で資金調達する場合には同法の規制を受けることになる。
⑦信託
委託者の信頼できる第三者(受託者)に財産を引き渡し、一定の目的(信託目的)に従って、受益者のために、受託者がその財産を管理処分する制度である。信託には、財産管理機能、転換機能、および倒産隔離機能があり、資金管理や金融など幅広い用途に活用することができる。昨年の信託業法改正によって知的財産が受託可能財産になったことから、コンテンツ制作のための資金調達の新たな手段として注目されている。
