第3期 R001
三原順表紙担当雑誌等

第3期 R002
『はみだしっ子』単行本花とゆめコミックス 全13巻

第3期 R003
愛蔵版『はみだしっ子』他『はみだしっ子』関連

第3期 R004
『ルーとソロモン』関連

第3期 R005
『ムーン・ライティング』『Sons』単行本

第3期 R006
『XDay』『ビリーの森ジョディの樹』などその他の単行本

第3期 R007
白泉社文庫新旧カバーバージョン

第3期 R008
イラスト集レコード類等

  右:『チェリッシュギャラリー 三原順 自選複製原画集』
     (1979年4月20日/白泉社)
 左表:『チェリッシュギャラリー 2 三原順 自選複製原画集 2』  
    (1984年4月25日/白泉社)
  奥:『かくれちゃったの だぁれだ』
    (1984年7月25日/白泉社)
右手前:『サウンド・コミック・シリーズ はみだしっ子』
    (1983年2月21日/キャニオン・レコード)
 左裏:『ハッシャバイ ねんねんころりよ』
    (1977年7月25日/白泉社)

第3期 R009
「ルーとソロモン」特集

本ケース内の3枚のイラストは、『LaLa デラックス』春の号で行われた「ルーとソロモン総集編」用に描き下ろされたもののようである。もう一枚描き下ろされたとおぼしきイラストがあり、もしそうだとすると、この特集用に4枚のカラーイラストを描き下ろしたことになる。いずれにしても、とても力の入った特集号であった。
正面・左右:
「ルーとソロモン」ポスター用イラスト原画
      (1979年『LaLa デラックス春の号』
      5月大増刊ソロモン総集編)
手前:1979年『LaLa デラックス春の号』
   5月大増刊ソロモン総集編

第3期 R010
「ルーとソロモン」特集

「ルーとソロモン」第1話「その日まで」より。全編を通してソロモンの決めゼリフとなる、「食ってやる?」の初登場シーンである。ソロモンは、かわいい愛玩犬と抱き合わせで売られた不細工で大きな犬である。長女ピアとその友人からはいたぶられ、大人からは無実の罪を着せられ遠くに捨てられるなど、様々な試練に遭ううちにすっかり心のすさんだソモロンが、人間への仕返しに、家族の中の一番かわいい赤ちゃんを「食ってやる?」となった。だが、結局ルーの無心の愛情と信頼に負けて家族の一員となる。それでもソロモンは「食ってやる~」の精神を忘れない。心に牙をもつ、でも気のいい奴、それがソロモンである。
正面:ルーとソロモン「その日まで」本文原画
   (1976年『LaLa』9月号)
 右:単行本花とゆめコミックス
   『ルーとソロモン』1巻扉用原画
   (1979年7月20日)
 左:単行本花とゆめコミックス
   『ルーとソロモン』2巻扉用原画
   (1980年5月25日)

第3期 R011
「ルーとソロモン」特集

右横のイラストは、1978年『LaLa』2月号で募集された全員プレゼントのクリアバッグ用に描かれたイラストと思われる。が、実際には使われていない。よくみるとエンピツ線で、当時の担当者酒井氏がソロモンに踏み潰されペッタンコになっている。使われたのはルーとソロモンがニコニコ笑っているイラスト(本展示のスーツケース内参照)。
 正面:ルーとソロモン
    「あなたに捧げる花言葉」本文原画
    (1979年『LaLa』11月号)
  右:ルーとソロモンクリアバッグ
    全員プレゼント用イラスト未使用原画
    (未発表)
  左:「三原順のトランプランド」用
    カット原画
    (1979年1月20日)
手前左:ルーとソロモン
    「わんサイドゲーム」予告カット原画
    (1980年『LaLa』6月号)
手前右:ルーとソロモン
    「わたしの好みはライトグリーン」
    予告カット原画
    (1979年『LaLa』12月号)

第3期 R012
「ルーとソロモン」特集

第3期 R013
「ムーン・ライティング」特集

中央は、ムーン・ライティング・シリーズ第1作「ムーン・ライティング」からの1ページ。アップで描かれた美しい少年トマスは、主人公ダドリー・デビッド・トレヴァー(D・D)の親友である。トマスは狼男の家系であり、時期が来たら自らも美しい狼に変身する身になると信じてやまなかった。だが、なぜか父は猪男に、そして自分は豚男になってしまう。周囲のカラーカット類は、トマスが豚に変身したときの姿。

 正面:「ムーン・ライティング」本文原画
    (1984年『花とゆめ』5号)
  右:「ムーン・ライティング」
    カセットレーベル用イラスト原画
    (1985年『花ゆめEPO』2号)
  左:ムーン・ライティングシリーズ
    「お月様の贈り物」予告カット原画
    (1984年『花とゆめ』18号)
手前右:「ムーン・ライティング」予告カット原画
    (1984年『花とゆめ』6号)
手前左:テレフォンカード用原画
    (1987年『花ゆめEPO』3月号)

第3期 R014
「Sons」特集

ジェッツコミックスの表紙用イラストより2枚。この表紙は、主人公D・Dの顔を大きくアップで使っており、三原順のペンタッチの力強さが伝わってくる秀逸なデザイン。単行本3巻までは、本編内のコマから印象的なカットを用い多少加工して使われており、4巻以降は表紙用にイラストが描き下ろされている。展示している、5巻の斜め下向きの表情の美しさにはハッとさせられる。また、6巻の後ろ向きのアップという表紙には度肝を抜かれ、三原順の茶目っ気も感じられる。三原順はマンガ本編だけでなく、イラストで後姿をよく描いており主要キャラクターの赤ちゃんの時の後姿ばかり描いたイラストまである。
手前:『Sons』5巻カバーイラスト原画
   (1989年7月1日)
 奥:『Sons』6巻カバーイラスト原画
   (1990年8月29日)

第3期 R015
「Sons」特集

「Sons」13話より扉絵。「Sons」はムーン・ライティング・シリーズの5作目にあたる。最終的には5年に渡る長期連載となった、三原順後期の代表作である。出生の秘密をもつ主人公のD・D一家をはじめ、その親戚一家の家族のありようが描かれる。ストーリーは、作者自身が"ホームドラマ"と記しているように(ジェッツコミックス版最終7巻あとがき)、確かに家族について描かれているのだが、その関係性の複雑さと重さは、いわゆる"ホームドラマ"のイメージとはかけ離れたものである。
三原順といえば「はみだしっ子」が有名だが、本作を三原順の最高傑作と呼ぶ読者も一定数いるほど完成度の高い作品。

正面:「Sons」扉原画
   (1988年『花ゆめEPO』7月号)
 右:ムーン・ライティング・シリーズ
   「ウィリアムの伝説」予告カット原画
   (1986年『花とゆめ』3号)
 左:「Sons」予告カット原画
   (1988年『花とゆめ』4号)
手前:お年賀カードプレゼント用イラスト原画
   (1986年『花とゆめ』23号)

第3期 R016
「Sons」特集

「Sons」 14話より1ページ。主人公D・Dの親戚一家の息子ジュニアが、父親ウィリアムに銃を向けようとする緊迫したシーン。中央ののぞき込みケースに展示されているスクリーントーンの切り残しは、このシーンに使われたものである。左のイラストがジュニアの父親ウィリアム。
正面:「Sons」本文原画
   (1988年『花ゆめEPO』9月号)
 左:「Sons」予告カット原画
   (1987年『花とゆめ』12号)

第3期 R017
サーニン特集

「はみだしっ子」
グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人の少年が、各々の事情で肉親の保護を受けることなく生活することとなる。ストーリーは、4人一緒の放浪生活を描く序盤(PartⅠ「われらはみだしっ子」~PartⅨ「そして門の鍵」)、グレアムとアンジーがある大きな秘密を抱え、かつ4人離れ離れに生活せざるを得なくなる中盤(PartⅩ(山の上に吹く風は」~PartⅩⅡ「裏切者」)、再び4人一緒に生活することになり、さらに申し分のない保護者が見つかりもするが、かつて抱えた問題の大きさや、新しく発生した事件などに翻弄され立ち向かう終盤(PartⅩⅢ「窓のとおく」~PartⅩⅨ「つれて行って」)に分けることができる。

サーニン
本名はマイケル・トーマス。サーニンは飼っていたインコの名で、ロシア人の曾祖父が孫につけたいと思っていたロシア系の名前。「はみだしっ子」の中では年は上から3番目。母は、父と曾祖父との確執に疲れ精神を病み、雪の日に死ぬ。そのことが原因で失語症になったサーニンは、叔母の家の地下室に閉じ込められる。いっしょにいたインコが、覚えた言葉を繰り返ししゃべるのを聞くうち、だんだんしゃべることができるようになったが、その時からサーニンと名乗るようになる。アンジーに地下室から助けられ、なかまに入る。シマシマのシャツが好き。また、動物好きで活発なので「野生児」と称され、しばしば展示の原画のように腰みのをつけた姿で描かれる。原画は、サーニンについて描かれた番外編「S」の扉絵。各キャラクターの名前の頭文字を取って描かれた番外編が4人全員分ある。
正面:はみだしっ子番外編「S」扉原画
   (1976年『花とゆめ』24号)

第3期 R018
サーニン特集

雪と一緒に描かれたサーニンのイラストを集めた。三原順は北海道札幌市の出身であり、生涯を札幌で過ごした。データで原稿を入稿できる現在とちがい、当時、売れっ子のマンガ家が上京しないのは珍しい。おそらく地元にとても愛着があったのだろう。雪の降る土地に暮らしていたためか、三原順の雪の描き方はバリエーション豊富で、その冷たさまでも伝わってくるようである。正面のカットなど、比較的小さく何気ない作品にみえるが、吹雪く雪の表現がすばらしい。本作以外でも、三原作品には雪の登場するシーンが多く、どのシーンもとても印象的に描かれている。このケース以外にも雪を描写した原画が何枚もあるので、その質感にも注目してほしい。

手前右:はみだしっ子 partⅩ
    「山の上に吹く風は」予告カット原画
    (1977年『花とゆめ』4号)
手前左:はみだしっ子partⅣ
    「雪だるまに雪はふる」予告カット原画
    (1975年『花とゆめ』22号)
 奥左:単行本花とゆめコミックス『われらはみだしっ子』
    カバー折り返しイラスト原画
    (1976年2月20日)
  右:はみだしっ子partⅣ
    「雪だるまに雪はふる」予告カット原画
    (1975年『花とゆめ』22号)

第3期 R019
サーニン特集

「夢をごらん」前編のカラー扉。サーニンを囲むように描かれた数々の写真は、この回に登場する喫茶店のマスターが、常連客を写したポートレイトだろう。マスターは優しく誠実な人物であり、それまでの「はみだしっ子」に登場する大人の中ではとても信頼できる人物として描かれるが、実は戦争に参加したことがあり、戦場とはいえ人を殺した経験に苦しんでいる。マスターは、店の常連客のポートレイトを貼ったアルバムをときどき開いては、写真の中の"人間"を見、"モノ"ではないと再認識し、その心の均衡を保っているのである。
正面:はみだしっ子partⅦ「夢をごらん」
   前編・扉原画
   (1976年『花とゆめ』15号)
 右:はみだしっ子番外編
   「眠れぬ夜」予告カット原画
   (1976年『花とゆめ』8号)

第3期 R020
サーニン特集

正面のイラストは花とゆめコミックス『はみだしっ子』6巻「裏切者」のカバーイラスト。「裏切者」は、なかまとはぐれて体を壊したサーニンが、このイラストにも描かれている愛馬エルバージュ(エル)と出会い、元気を取り戻してゆく回。

  正面:単行本花とゆめコミックス
     『はみだしっ子6 裏切者』
     カバーイラスト原画
      (1978年4月20日)
   右:はみだしっ子partXV
     「カッコーの鳴く森」予告カット原画
      (1978年『花とゆめ』16号)
   左:はみだしっ子part?
     「裏切者」予告カット原画
     (1978年『花とゆめ』1号)
手前左右:はみだしっ子番外編
     「ボクと友達」予告カット原画
     (1976年『花とゆめ』13号)

第3期 R021
サーニン特集

はみだしっ子partⅩⅡ「裏切者」の本編冒頭近く、カラーの美しいページである。マンガ本編のカラーページは、単行本掲載時にはモノクロで印刷されるため、このページをカラーでみることができるのは、最初の掲載以来ではないかと思われる。 サーニンは登場シーンから「信じてよ、裏切ったりしないから」と言っている。サブタイトル「裏切者」を意識した始まりだといえるだろう。

正面:はみだしっ子part?
   「裏切者」本文原画
   (1978年『花とゆめ』2号)

第3期 R022
サーニン特集

「裏切者」解決編より1ページ。「裏切者」は前後編で完結せず、解決編が描かれておわった。こういう場合は「完結編」となるのが普通で、「解決編」というのは珍しいかもしれない。だが、「裏切者」のストーリー自体にミステリー的要素があるので、話を通して読むと、解決編という言い方がとてもしっくりくるのがわかる。展示したページは、サーニンが愛馬エルとレースに出場したものの、やむを得ない事情で、疾走している途中、故意に立ち止まった一連のシーンのうちの1ページである。周囲の馬が走り抜けていく中、サーニンが空を見上げる様子を、中央に映画のフィルムを縦に置いたような、とても効果的で斬新なコマ割りで見せている。『花とゆめ』のマンガスクールへの投稿者のうち、上位投稿者に配る複製原画に選ばれるほどのシーンだったことが、右欄外をみるとわかる。
正面:はみだしっ子part?
   「裏切者」本文原画
   (1978年『花とゆめ』5号)

第3期 R023
サーニン特集

鳥とともに描かれたサーニンのイラストを集めた。鳥はサーニンにとってとても重要な動物であるためか、一緒に描かれることが多い。サーニンの、鳥に教わり言葉を思い出すというエピソードは、三原順の蔵書にもあった、野坂昭如の『戦争童話集』中の一編「青いオウムと痩せた男の子の話」にもあり、この童話をモチーフにして発展させたとも考えられる。

正面:サーニン大特集 表紙原画
   (1978年『別冊花とゆめ』冬の号)
左右:「三原順のトランプランド」用カット原画
   (1979年1月20日)
手前:はみだしっ子カレンダー原画
   (1979年『花とゆめ』2号)

第3期 R024
サーニン特集

はみだしっ子partⅩⅥ「もうなにも…」より。二つ右隣のR022のシーンでは、大人の仕組んだ酷い八百長レースに巻き込まれ、途中でゴールすることを諦めざるを得なかったサーニンが、将来騎手になり、愛馬エルと、それが難しければその子どもと「今度こそあのゴールを駆け抜ける」と言うシーン。
正面:はみだしっ子partⅩⅥ「もうなにも…」
   本文原画
   (1978年『花とゆめ』21号)

第3期 R025
デビューまで

手前右は、三原順のペンネームが誕生した瞬間を示すメモ帳。"三原綱木"は、彼女が当時好きだった元ブルー・コメッツのギタリストの名前であり、「じゅん」の字も色々模索した上で、結局本名の順子から取ることにしたことがわかる。展示してあるLPは三原順の遺品の中にあったブルー・コメッツのもの。奥左は、「はみだしっ子」の原型小説「Day Tripper」が書かれた高校時代のノートの束。奥右はデビューしてからのものだが、「はみだしっ子」の掲載開始前に何度も描き直されたといわれるボツネーム用のノートである。

中央:「はみだしっ子」原型小説ノート11冊
 奥:「はみだしっ子」ボツネーム帳
手前:亜土ちゃんミニノート 3冊
 左:『ヨーロッパのブルー・コメッツ』
   (ブルー・コメッツ/1968年)

第3期 R026
デビューまで

正面原画は『別冊マーガレット』72年9月号の「第51回別マまんがスクール」で佳作をとった「マッド・ベイビィ」の扉。この回のスクールは、受賞者ページに名香智子、くらもちふさこ、倉持知子と、後にプロとして大活躍するメンバーが名を連ねていた。黒を基調に四角のコマを並べたデザイン性の高いこの扉は、その中にあってもひときわ目をひくものであった。第56回、「ぼくらのお見合い」で金賞をとってデビュー。それまでの評では、「とにかくストーリーがわかりにくく、ひとりよがりである」という注意が多かったが、徹底してわかりやすくしたことで金賞受賞となった。白泉社文庫『三原順傑作選'70s』の和田慎二による解説にこういう一節がある。
「…だが彼女の投稿作を目にする機会に恵まれた常連投稿者にとっては、いやおうなしに意識せざるを得ない作家であった。この時期にファンと敵(ライバル)を作っていったことを彼女自身は知るまい」。
iPadでは、三原順の投稿作への講評が読める。左の雑誌はデビュー作掲載の『別冊マーガレット』73年3月号(前月の2月号にて、第56回別マまんがスクール金賞受賞)。

正面:「マッドベイビィ」扉原画
   (1973年『別冊マーガレット』9月号)
 右:『別冊マーガレット』1973年3月号

第3期 R027
三原順の本棚 1

[手前]
『自閉症 うつろな砦』 1巻
(ブルーノ・ベッテルハイム/黒丸正四郎 他 訳/みすず書房/1973年)
[中央]
はみだしっ子partⅩⅤ
「カッコーの鳴く森」より【原画】
(初出:1978年『花とゆめ』17号)
原画は、はみだしっ子partⅩⅤ「カッコーの鳴く森」より、サーニンがクークーの手を取るシーン。クークーははみだしっ子の4人がサマーキャンプに行った際出会った少女で、身体機能に障害があるわけではないが、人の話にほぼ無反応な少女である。サーニンはこの少女のことが気になり、キャンプ中にだんだんと心通わせるようになる。展示のシーンが、ベッテルハイムの『うつろな砦』から来ていることは、三原順自身が、自作品の名言を抜いて編集された本『はみだしっ子語録』の中でコメントしている。
『うつろな砦』は現在では、自閉症の原因は親の育て方であるという誤解を広めた書とみなされているため要注意である。だが、「はみだしっ子」では自閉症という言葉は使われておらず、マーシアという女児の症例にヒントを得た、三原順独自の創作として受け止めるべきであろう。ケース左側面に展示した遺品のルーズリーフにはマーシアの症例が綿密にメモされている。

第3期 R028
三原順の本棚 2

[左]
『カエルのバレエ入門』【遺品】
(ドナルド・エリオット文、クリントン・アロウッド絵/葦原英了、薄井憲二訳/岩波書店/1983年)
[中央]
「Sons」第24話より【原画】
(初出:1990年『花ゆめEPO』7月号)
「Sons」終盤で、主人公D・Dのクラスメートであるロージーは、家族の中にいると、自分だけが呪いをかけられたカエルのような気分になると言う。いつかもう人間に戻れなくなる日が来るような気がする、とも。「家族にまったくなじめない」というのは三原作品に頻繁に登場するテーマだが、ここでカエルにバレエを躍らせてしまう演出もまた秀逸である。
遺品の絵本は、カエルの絵でバレエを解説している。一見ふざけているようだが、かなり真面目なバレエ入門書である。

第3期 R029
三原順の本棚 3

[手前左]
『シートン動物記1,2』【遺品】
(アーネスト・T・シートン/内山賢次訳/新潮社/1956年)
[手前右]
オオカミの手【遺品】
[中央]
「Sons」第2話より【原画】
(初出:1986年『花ゆめEPO』6号)
原画は「Sons」序盤、D・Dの飼い犬ロボの名が、シートンが倒した狼の名にちなむという話題が出るシーン。祖父が狼男であるトマスは、D・Dと狼の話をするのが楽しい。トマスに「名前負け」と言われ、いじけたロボのドタバタがこの後に描かれるが、「Sons」終盤、雪山でD・Dを守り勇敢に戦うロボの姿への遠い伏線でもある。物語構成の緻密さもまた三原作品の魅力だ。
遺品の『シートン動物記』は、ひときわ古く、三原が幼い頃からずっと大切にしてきたことが窺える。三原作品には多くの動物が登場し、生き生きと描かれている。子どもの頃に読んだ本書からたくさんのインスピレーションを得ていたのだろう。また、同ケース内のおもちゃの狼の手袋も、三原順の遺品である。「ムーン・ライティング」でD・Dがふざけてはめるシーンがあるが、三原自身もこれで遊んでいたらしい。

第3期 R030
三原順と音楽 1

[手前]
カセットテープ
ピーター・ポール&マリー『全曲集』【遺品】
[中央]
ルーとソロモン「 レモン・トゥリー」より【原画】
(初出:1981年『LaLa』2月号)
原画は「ルーとソロモン」内の一話、サブタイトル「レモン・トゥリー」より、ルーが園芸教室でレモンを見つけ酸っぱいと知らずかじり付くシーン。「私の理想は小公女なのに、まるでジャングル・ブック…」と嘆き、ルーを女の子らしく育てようと決意したママが、ルーを様々な習い事に通わせる、という回である。「ルーとソロモン」は姉のピアの活躍が目立つ作品だが、終盤、だんだんルーが成長し自我が芽生えてくるところも描かれる。この話もそんな中の一編。
「レモン・トゥリー」のサブタイトルはピーター・ポール&マリーの曲から。酸っぱい恋の思い出の歌である。

第3期 R031
三原順と音楽 2

[手前]
『ひとりぼっちの野原/つれていって』【遺品】
(ザ・キャッツ/1971年)
[中央]
「Sons」第22話より【原画】
(初出:1990年『花ゆめEPO』3月号)
「つれて行って」は「はみだしっ子」最終編のタイトルで知られるが、三原作品の中で繰り返し使われる象徴的なフレーズ。ザ・キャッツ『ひとりぼっちの野原/つれていって』 は1971年の曲。小鳥に向かって、「つれて行ってよ、空の上に」と語りかけるような静かなナンバー。鳥もまた、三原作品でしばしば象徴的に使われるイメージである。
「Sons」終盤、雪山で死に行くジェニファーが、天国のジュニアに語りかける言葉もまた「連れて行って」である。この前回、ジェニファーは自分のジュニアへの思いを理解しない仲間達と揉めている。本気で自分を愛してくれたジュニアを追い詰め死なせたと自分を責める彼女もまた、破綻した心を抱えた三原界の住人であった。

第3期 R032
三原順と音楽 3

[右手前]
『JOY TO THE WORLD』【遺品】
(スリー・ドッグ・ナイト/1974年)
[中央]
はみだしっ子partⅣ
「雪だるまに雪はふる」より【原画】
(初出:1975年『花とゆめ』23号)
はみだしっ子 PartⅣ「雪だるまに雪はふる」のラストページ。寒い雪の夜も犬が3匹いれば大丈夫と、4人は暖め合う。スリー・ドッグ・ナイトとは、冬の寒さが厳しい夜は犬とともに寝ることで暖を取るという北アメリカの先住民(アボリジニという説もある)の習慣に由来している。ものすごく寒い夜のことをスリー・ドッグ・ナイトと呼ぶとのこと。
三原順の遺品の中には、もちろんアメリカのバンド、スリー・ドッグ・ナイトのレコードもあった。1968年にデビューした3人組で、「ママ・トールド・ミー」「喜びの世界(ジョイ・トゥ・ザ・ワールド)」「ショー・マスト・ゴー・オン」などのヒット曲を持つ。「ショー・マスト・ゴー・オン」は初期短編「ラスト・ショー」のイメージ曲にもなっている。