こうの史代(1968年〜)
終戦10年後の広島を舞台に、被爆女性・皆実の悲劇を描いた「夕凪の街」。「原爆」コーナーでも紹介したこの作品は「このお話はまだ終わりません」ということばで、いったん幕を閉じる。「桜の国」は、そのことば通り、舞台を現代に、主人公を皆実の弟・旭とその子供たち——七波と凪生に引き継がせた続編。半世紀たっても消えない「被爆」という呪縛と、しかしそれでもつながっていく命の連鎖を描く。作者が得意とする軽やかで細やかな日常描写が、戦争の傷は、こうした日常の中にこそ不意に現れるということを気付かせる。
「夕凪の街」「桜の国」に続いて発表された、戦争と広島をテーマにした作品。軍港都市・呉に嫁いできたすずを主人公に、彼女と、彼女の家族の銃後生活——衣食住の工夫、流行歌やカルタといったささやかな娯楽などが、呉の風景と共に丁寧に描き重ねられる。すずが絵を描くことが大好きという設定や、彼女の心身状態の変化を画材や描法を変えることで表現するなど、本作は、「描く」ということもひとつの重要なテーマとなっている。
壁面全体
「夕凪の街」(複製)
「桜の国」原画
「この世界の片隅に」原画
戦争漫画は「戦後漫画の伝統」だと思っているところがあります。夏ごとに読み切りが載ることもそうですし、手塚治虫先生らも戦争体験をされてらして、その体験が傷として残り、作品となり、そこから人生観や死生観を抱いた読者の方々はたくさんいます。戦争漫画は、たくさんの漫画家さんによって描かれなければいけないと思っています。ひとりが独占して描いてしまうと他の人が描きにくくなりますし、みんなが戦争について自由に語れなくなります。いろんな絵柄の人がいて、いろんな描き方の人がいないと、届く人が減ってしまうと思います。このジャンルは幅広くなっていってほしい。
こうの史代
戦後70年スペシャル対談 おざわゆき×こうの文代
[戦争の時代を漫画で描くということ]より
「あとかたの街」5巻 (2015年11月13日)
映像:映画『この世界の片隅に』PV
テーブルケース
右:おざわゆき「凍りの掌」原画 左:戦争マンガとは何を指すのか