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●第5章 コミケット――プロとアマチュアの敷居の低さ
森川 2000年代に入ってから、政府がマンガやアニメを「コンテンツ産業」と称し、有望な輸出産業だと見なすようになってきています。ところが、なぜ日本においてマンガやアニメがそんなに豊かに生まれるようになったのかということについては、政策化の動きとは裏腹に、まだ基礎的な研究すら十分になされていません。
  とりわけ見過ごされがちな要素の一つに、日本におけるプロとアマの敷居の低さがあります。そしてその敷居を下げ、相互環流や結節をうながしている重要な機構に、コミックマーケットを始めとする同人市場と、二次創作などに寛容な風土があります。そうした機構や風土がなぜ日本において独特に形成され、大きく拡大したのかが、今後の研究課題になってくるはずです。
筆谷 個と個を結ぶ場所がコミケットの「ハレの場」だったということは間違いないです。ネットが普及する前は本当にそうでしたし、普及した今でもその意味は大きいです。
市川 当時は今以上にリアルな場所を作ることは重要だったと思います。そして、コミケットは「来るもの拒まず」で全てを受け容れて大きくなっていく。敷居はありません。新しいものを知ることができたことの方がうれしいからです。ある種の知識・表現への貪欲さがコミケをここまで大きくしていったのではないでしょうか。
筆谷 吾妻さんの時代よりももっと普通に、プロのマンガ家が個人として即売会に参加して、直接自分の本を売ったりする場合が今は増えています。残念ながら商業誌で継続できなかった作品や商業誌の番外編、後は、商業誌では書けなかったような作品を同人誌で出すということはよくあることです。
  自分の本を目の前で買ってくれる、コミュニケーションができるというのは、商業誌で仕事をすることとはまた違った楽しさがあるみたいです。一方ファンにすれば、同人誌というメディアがあったからこそ読むことができないはずのものが読める。作者と直接触れ合える。これも、敷居の低さのひとつと言えます。
安田 そういった本が図書館にあり、それにアクセスできれば機会が広がるわけで、先ほどの筆谷が言ったように「0」が「1」になる。
森川 政府がアニメなどの産業支援を打ち出し始めたことの余波の一つとして、大学や大学院が、マンガやアニメ、キャラクター関連のコースや学科を相次いで新設しました。これにともなって、学術的に研究する学生や研究者も増えていくはずです。
  そのときに研究に使う資料として、一般書店に流通した出版物であれば、国会図書館にある程度収まっています。しかし先ほども話に出たように、同人誌に当たらないとわからない部分が相当あるわけです。同人誌出身だったり、同人市場での人気をバックにしてプロになったりする作家が増えていますが、そうした潮流に焦点を合わせるには、そうした作家の同人誌時代の作品に研究者がアプローチできるようにする必要があります。作家論や作品論はもちろん、日本のマンガ・アニメ・ゲームにおいて同人市場が果たしている役割を正確に描き出す上でも、これは重要です。
筆谷 例えば文学だったら書簡や同人で発表した作品なんかも保存されて、研究者が閲覧できたりするわけですが、そういう研究がマンガでも行われていくようになれば面白いですね。
市川 僕の趣味である映画においても同じように、有名な監督の学生時代の自由奔放な自主製作映画とかが存在するわけです。その作家の過去をどこまで追うのかということになるわけですが、そうした初期作品に、結構後々の作品にまで引き継がれていくような表現があったりしますから、本人は見せたくないかもしれませんが(笑)、作家研究としては保存されるべきものだと思います。
森川 作家の処女作や本格デビュー前に書かれた作品には、多くの場合、その作家のルーツが見いだせます。そこには、その作家が誰に影響を受けたのかとか、どうしてそういうモチーフを扱うようになったのかといった、商業的に売れてしまうと隠すようになったりする部分が、生々しく現われていたりするわけです。
  コミックマーケットにおいては、先ほどの「全てを受け容れる」「来る者拒まず」という、米沢前代表を始めとする方々が作り上げた理念を支柱として、膨大かつ広範なジャンルの同人誌が頒布されてきました。それが同人誌のすべてではないとしても、コミケの見本誌は、その時々のマンガ・アニメ・ゲームの潮流とともに、そのファンの人たちの活動を包括的な断面として切り出すことができる随一の蓄積になっています。ファンの側での受容のされ方を調べようとすると、例えば、テレビアニメならアニメ雑誌の読書投稿欄などが材料になりますが、もっとマイナーなジャンルになると、とたんに同人誌しか知る術がなくなってしまいます。ところが同人誌は、国会図書館にもほとんど収蔵されていません。それが、コミケの見本誌については、1975年のものから現在のものまで、ほぼ欠本がない状態で保存されているわけです。これは、類いまれな奇跡のようなことでもあり、大変な注力によって維持されてきたのだと思います。いきなりは難しいとしても、いずれはこれをできる限り理想的な形で活用できるような「場」を実現させたいですね。
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