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新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

磁性金属内包カーボンナノカプセルの液相合成

研究課題名 磁性金属内包カーボンナノカプセルの液相合成
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
①国内外でも磁性金属ナノ粒子(以後金属内包カーボンナノカプセル)の研究は数多く行われているが気相中での合成方法が主であり,まれに液中で合成例はあってもいずれも炭素電極を用いてアーク放電させた方法である。アーク放電による作製例でもっとも興味深いものが,炭素電極間に水中でアーク放電を発生させオニオンライクカーボンを作製したものでNature誌に報告されている。さらにこのグループは同様の方法を応用して他物質系でフラーレンなどのナノ材料の合成にも成功している。これらはカーボンナノカプセルの合成法は収率やエネルギー効率のきわめて悪い気相法から,液相合成法に関心が移ってきていることを端的に表している。しかし,これら新しく考案されてきている液相合成法もカーボン系材料を作製する際に炭素電極を用いている点は従来から進歩が見られず,炭素電極間のアーク放電により電極からのアモルファスカーボンが主な生成物になってしまい,収率が悪いだけに留まらず分離精製が非常に困難となっている(③において説明)。本研究の溶液からの金属内包カーボンナノセル合成法は,炭素電極を一切用いず代わりに金属電極を用い,カーボン源は有機溶媒としている点が全くオリジナルである(特許出願済)。炭素電極を用いないことによって生成物中のアモルファスカーボンが激減し,カーボンナノカプセルの含有量が劇的に増えることが期待出来る。このように有機溶媒からの合成法は磁性金属内包カーボンナノセル作製には特に有利な方法と考えられるが,現時点で我々の知る限り我々の研究以外に報告例は無いために本課題を提案するに至った。
②高機能材料の作製は一般に,高度な原料と緻密な作製プロセスを必要とする。そのためには多くの資源とエネルギーを必要とし,多くの廃棄物や廃エネルギーを排出しがちである。これを防ぐには,「より環境負荷の少ないプロセスで高機能材料を作製できないか?」を真剣に考える必要がある。このような基本理念に基づき我々のグループでは,「高機能セラミックスなどを高温や高エネルギーを掛けずに溶液から直接作製できるプロセスを開発しよう」と提案してきた。本課題ではこのプロセスの利点を最大限活かしつつ,後述する全く新規な独自の方法で各種磁性金属ナノ粒子をカーボンナノカプセルに内包させることによって,高度の対環境安定性を獲得した金属内包カーボンナノカプセルの効率的かつ環境に優しい液相合成法の開発を目指す。簡潔にまとめると,本年度には(1)購入予定の高出力高周波電源を用い,既存の反応装置のスケールアップを行い,環境安定化磁性金属ナノ粒子の大量合成を試みる。次にこれらのナノ粒子は均一に分散させることが非常に困難であることがすでにわかっているので,(2)反応溶液への界面活性剤添加等を併せて検討しナノ粒子を均質分散化する。進行が早ければ合成条件の検討に加えて(3)磁気・安定性など諸物理特性の測定,(4)反応条件の相違が生成するナノ粒子の粒径・形状・磁気特性に与える影響を調査する,さらに(5)反応装置の連続フロー化を行う。(6)申請者は「バイオ・ナノフォトニクスのためのUPCナノ粒子の合成と機能化」というテーマで共同研究(主に発光無機ナノ粒子の液相合成を担当)を行っており,本申請課題の磁性ナノ粒子も同様の手法でバイオ応用が可能と考えている。研究の進行に従って下記に挙げたようなバイオ・メディカル応用の可能性に関しても現在進行中のプロジェクトと絡めて検討する予定がある。
③金属内包カーボンナノカプセルは内包されている金属を非常に薄く緻密なグラファイトレイヤーが覆ったもので,たとえば鉄のような化学的に非常に不安定な金属ナノ粒子でさえも磁気特性を失わずに安定化することができる。たとえば最近注目されているドラッグデリバリーなど生命科学系の用途はこれらの磁性体を生体内に直接注入する必要があるため,磁気特性はもとより高度な化学的安定性および高度な(生体に対する)安全性が要求される。本研究課題で取り扱う金属内包ナノカプセルはこの化学的安定性・生体安全性両方の特性を高度なバランスで保つことができる有望な材料と考えられる。このような有望な材料であるが先のような理由で工業化を前提にした大量作製・均一分散化は難しい。応用範囲は非常に多岐にわたると考えられるが,ある程度の純度・量を得ることができなければ各種の特性試験すらできない,という状況である。本研究により我々が考案した有機溶媒を炭素源とした液相からの合成法を発展させれば,安価かつ大量に比較的純度の高い磁性金属内包カーボンナノセルが作製できるようになると考えられ,実用化に大きく近づくことができると考えている。

(研究実施報告)
 本研究課題ではエタノールを溶媒とした新しい液相放電合成法により,ニッケル金属ナノ粒子内包カーボンを直接作製することに成功した。反応は常温常圧の窒素雰囲気下で40KVppの高電圧高速パルスを一対のニッケル電極間に印加して行った。その後反応溶液をろ過し不純物を取り除いた後遠心分離器を用いて磁性金属内包ナノ粒子を分離した。以上の操作により得られたナノカプセルの透過電子顕微鏡観察によれば,生成したナノカプセルは直径20-30nm程度の大きさであることが確認された。内部のニッケル金属ナノ粒子を覆っているグラファイト層は透過電子顕微鏡観察の結果3-4nmであることがわかった。さらに表面を覆っているグラファイト層の層間隔は0.34nmであることがわかり,これはグラファイトの相関距離と一致することが確認された。得られたナノカプセルを塩酸に分散させ,加熱させる耐薬品性試験を行った結果,本研究で作製した金属内包カーボンナノカプセルは高度な安定性を示し,内部のニッケル金属ナノ粒子は完全に薄いグラファイト層で覆われていることが確認出来た。耐薬品性試験後の各種磁気特性試験の結果,内部のニッケル金属ナノ粒子は磁気特性を失っていないことが確認され,さらに260℃でアニールしたものについては磁気特性の向上が見られた。本試験の結果280℃以上の加熱によって表面のグラファイト層は破壊されると結論づけられた。得られたナノカプセルは依然として収率が悪いため,今後も引き続き精力的な研究を行い,大量合成を実現する必要がある。
研究者 所属 氏名
  理工学部 准教授 渡邉友亮
研究期間 2007.6~2008.3
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