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新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

熱水消毒における,土壌中での水分と熱の移動

研究課題名 熱水消毒における、土壌中での水分と熱の移動
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
 オゾン層を破壊する恐れがあることから我が国では2005年にこれまで土壌消毒剤として広く使われてきた臭化メチルの使用が全面禁止された。そこで,今後は環境への負荷の軽減を考えた上での土壌消毒法を確立しなくてはならない。その一つとして,1985年から研究が始まった熱水を用いた土壌消毒法がある。この方法は,安価で環境負荷が少ないので代替の土壌消毒法として適していると考えられる。しかし,この方法は歴史が浅く,國安ら(1986)や西ら(1990)が行ってきた作物の品種ごとでの熱水土壌消毒法の妥当性の研究が主である。しかい熱水消毒法でも使用法を間違えると,臭化メチルと同様に,大きな環境負荷となる恐れがある。例えば,永井ら(2006)が指摘するように,熱水は土壌内の硝酸態窒素や塩素の溶脱を促すため,投入量超過の場合は,地下水汚染を引き起こす恐れが示唆される。さらに,必要以上の熱水を使用したことによる水とエネルギーの経費に加えて,地下水汚染の洗浄に過大な費用がかかる。このような負の影響を軽減するために,適切な熱水管理法を研究する必要がある。
 本研究では,さらに圃場実験は神奈川農業技術センター内のビニールハウスで行う。まず供試土として関東ロームを用い,90℃の熱水を地表面から加え,土壌中における水分と熱の移動を実験的に把握する。これによって,関東ローム土壌での熱と水分移動を明らかにすることを目的とする。
 この研究を行うことによって,水分量を適量にすることが可能となり,エネルギーと水の両面で大幅な経費の削減ができる。また,大量の水の投下によって,土壌中の汚染物質が一度に大量に地下水に浸透することを防ぎ,結果として河川などへの突発的な大量の汚染物質の流出を防ぐことになる。そのため,水質環境保全においても本研究は重要な役割を果たすと考えられる。

(研究実施報告)
 熱水消毒では,一般的な作物の根群域である土壌深さ40cmまでを線虫や細菌を死滅させるため40℃以上にすることが重要である。最終的には熱水消毒時における最適な水管理を行うためのシミュレーションモデルの作成が目標である。2007年度は神奈川県農業技術センターのハウス内で4回熱水消毒(牽引方式2回,チューブ方式2回)実験を行い,水分と熱の移動を経時測定した。
 熱水散布は実際の農家で行われる時と同量(280?/m2)で実験を行った。1回目の実験では目標温度(深さ40cmにおいて40℃以上)に達しなかった。これは簡易ビニールハウス側面から熱水の地表流出が見られ,試験区への投入量が減少してしまったためと考え,2回目はガラスハウスに変えて実施した。その結果,側面からの表面流出がなくなり,目標温度に達した。これにより農家が行っている熱水投入量は妥当であることがわかった。3回目はシミュレーションモデルの作成を念頭に置き,チューブ方式で熱水消毒を行った。その結果を基に既存のシミュレーションモデルで最適な熱水投入量を決定して4回目の実験を行った。その結果,目標温度に達したが,初期地温の違いから熱水投入量を増やしたにもかかわらず期待した温度上昇は見られなかった。
 本研究で使用した牽引方式,チューブ方式による熱水散布では,共に深さ40cmで40℃以上になったことから,農家が実際に行っている熱水消毒における熱水投入量は線虫や細菌を殺すには十分であることがわかった。しかし,初期地温が異なる状態においても根群域が40℃に到達したことから,現状では過剰に熱水を投入している可能性が高いことがわかった。また,熱水の投入量を変えて水分と熱の移動を比較した実験から,熱水投入量を単に増やしても水そのものの温度上昇に多くの熱量が使われるので,効率よく地温を上げることができないことがわかった。以上のことから,適切な水管理が効率の良い地温上昇に不可欠だとわかり,今後はそのためのシミュレーションモデルの作成が必要だと考えられる。
研究者 所属 氏名
  農学部 助手 落合博之
研究期間 2007.6~2008.3
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