新領域創成型研究・若手研究詳細 2007年度

マウス乳腺における異所性ならびに異型PRL解析

研究課題名 マウス乳腺における異所性ならびに異型PRL解析
研究種目等 若手研究
研究概要 (研究目的)
① 研究の学術的背景
 プロラクチン (Prolactin:PRL) は,脳下垂体前葉で合成・分泌される分子量約23kDaのペプチドホルモンであり,主な生理作用は,哺乳類乳腺における発達,乳汁合成と分泌の開始,維持である。また,近年PRLは組織特異的に産生されること(異所性PRL),リン酸化,糖付加,プロテアーゼ切断等のバリアントが存在すること(異型PRL)が報告され,それらが独自の機能を持つことが知られている。中でも,プロテアーゼによって切断を受けた16kDaPRLが毛細血管内皮細胞の成長を阻害し,23kDaPRLと拮抗する作用を持つという報告はこれまでのPRLの機能からはまったく予想外でユニークな生物学的作用として申請者を含む多くの内分泌研究者を驚かせた。
 そこで申請者らも,「異所性ならびに異型PRLの解析とその生理作用」に興味を持ち研究を行なってきた。これまでに,異所性PRLが乳腺,乳頭,脳,脾臓,胸腺,精巣で発現していること,異型PRLとして下垂体においてリン酸化を受けたPRLが二つ存在すること,プロテアーゼ切断を受けた16kDaPRLが乳頭,脾臓,胸腺,精巣,精子で存在することを明らかにしている。
 このような背景のもとに申請者らは,新たに乳腺における異所性ならびに異型PRLについて研究を行なうという着想に至った。乳腺は16kDaPRLの生理作用についてもっともよく研究されている組織であり,ラットの乳腺上皮細胞で産生されたPRLが乳がんにおいてたんぱく加水分解酵素を促進し脈菅形成を阻害することはすでによく知られている。マウスにおいても16kDaPRLが腫瘍の成長を阻害すること,分娩後心筋症を引き起こすことなどが近年報告されているが,実はマウスにおける16kDaPRLの研究は未知な部分が多い。例えば,マウス16kDaPRLはラットと同様にカテプシンDによってC末側が欠損したものなのか,それともヒトと同様にトロンビンによってN末側が欠損したものなのか,そしてその切断部位はこれらと同様なのかを明確に示した報告はない。あるいは,生理的条件下での16kDaPRLプロセシングに関する報告は極めて少なく,プロセシングを受けるPRLが異所性のものなのかそれとも下垂体由来なのかも不明である。
 申請者はこれまでに,16kDaPRLを優先的に認識する抗体とLaser Capture Microdissection (LCM) 法により乳腺上皮細胞のみを採取する方法を用いて乳腺PRLの解析を行い,マウス乳腺において16kDaPRLが存在すること,離乳後の乳腺上皮細胞でPRL発現が著しく増加すること,乳腺退行時に16kDaPRLがアポトーシスに関与するという結果を得ている。
② 研究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか
1. マウス乳腺16kDaPRLはラットと同様のものなのか?それともヒトと同様のものなのか?
2. 乳腺の生理状態によって特異的な異所性PRL発現は見られるのか?
3. PRLプロセシングはPRLレセプター(PRLR)を介しているのか?
4. マウス16kDaPRLの上昇によりアポトーシスは促進されるのか?
を明らかにする。
③ 当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
○組織切片から採取した乳腺上皮細胞で解析を行なう点
 これまでの研究は,乳腺組織全体または培養細胞を用いた解析が主だった。しかし,PRLは乳腺脂肪組織や乳汁中にも存在しているため乳腺上皮細胞からの発現か判断が難しかった。本研究では組織切片から直接細胞を採取するため,明確にこれらの区分ができる。
○16kDaPRLとPRLRの関係に着目している点
 異所性PRLがプロセシングを受けるという報告はマウスではこれまでにない。また,マウスにおいてPRLRにはロングフォーム以外に機能の明確でないショートフォームが3種存在しており,これらと16kDaPRLに着目した研究もない。
 よって,内分泌研究者に与えるインパクトは非常に大きいことが予想される。

(研究実施報告)
 2007年度は次の3実験を計画し,以下のような結果を得た。
実験1 乳腺PRLとPRLRの関係を探る実験
 乳腺でも異所性PRLが発現していることと16kDa PRLが発現していることはわかっていたが,その発現が乳腺上皮細胞由来なのか脂肪組織なのか疑問が残っていた。そこでLaser Capture Microdissection (LCM) 法により乳腺上皮細胞のみを採取してReal-Time PCRを行い離乳後の乳腺上皮細胞でPRL発現が上昇し,そのときPRLレセプターは逆に発現が低下することを明らかにした。また,精巣と同様に離乳後乳腺で起こるアポトース細胞と16kDa PRLの局在が一致することを明らかにした。
実験2 乳腺16KDaPRLのプロテオーム解析
 マウスにおいてEndogenousな 16kDa PRL の存在は確認されたがマウスPRLがどのようなプロテアーゼで切断されるのかを明らかにするため,組換え体を用いて切断実験を行った。トロンビン,カテプシンD,MMPファミリーの中で最も切断効率のよいとの報告があるMMP8を用いて実験を行い,少なくともカテプシンD ,MMP8でマウスPRLが約16kDaに切断されることと,その16kDa PRLがN末端を含む「vasoinhibins」であることを同定した。さらに,これらのプロテアーゼがマウス16kDa PRLの発現が確認されている組織で発現していることを確認した。
実験3 器官培養,細胞培養を用いて異型PRLの機能を探る実験
 23kDa PRLおよび16kDa PRLに該当するアミノ酸部位を発現ベクターに組み込み,pET-49b(+)にクローニングした。その後大腸菌の系で大量培養し組み換え体を回収した。
 以上,マウス乳腺における異所性ならびに異型PRL解析に関し,いくつかの新しい知見を得ることができた。
研究者 所属 氏名
  研究・知財戦略機構 ポスト・ドクター 大橋充代
研究期間 2007.6~2008.3
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