明治大学 平成17年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム
広域連携支援プログラム-千代田区=首都圏ECM-
本プログラムは、文部科学省が公募する、平成17年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択されました。」
現代GP採択関連講座
市区長・教育長リレー講座「子供と地域の街づくり」―街づくりにおける広域連携の枠組みつくリ―
[報告書]  PDFPDF版
開催日時:平成17 年10 月14 日 参加人数:参加人数32人
講師:東京都杉並区長山田宏 テーマ:地域で育むわたしたちの先生〜杉並師範館
 今日は師範館の話ということですが、私が杉並でこの6年間経験したことをお話したいと思います。平成11年に現職と戦い、当選いたしました。応援してくれる団体もありませんでしたから、どこに気を遣うこともなく、思う存分この数年やりました。
 今は2期目です。2期目は「教育の再生」と「区役所の改変」を掲げております。当初41歳で区長になり、部・課長127名の中、私より年下の管理職は2人しかいない状況で、こちらも向こうも非常にやりにくかったと思います。私は区の仕事は何も知りませんからどう覚えていったかというと、区に寄せられる要望苦情を毎日読んで、返事を書いたり、変と思うことは課長さんに来てもらって聞く。それが1年続くと、ほとんど区役所の仕事は覚えてしまいました。
 そんな時、私を応援してくれた地域の方がいらっしゃって「うちの中学の1年生の英語の先生は1学期中1回も英語をしゃべらなかった。」と、先生を替えてくれとのことでした。最初はそんな馬鹿なことがあるのかと思いましたが、確かめてみたら本当にそうでした。教育長に「替えてください」って言いました。そのとき、私は教育委員会と区長の関係を判っていませんでした。すぐ替わるものだと思っていましたが、2学期になっても替わりませんでした。
 そこでいろいろ調べてわかったことは、教員の人事権は東京都にある。だから区の教育委員会が文句を言っても簡単にはいかない。結局その英語の先生には無理やり休暇を取ってもらって代用の先生に来てもらいました。こんなことが塾だったら通用しますか?つぶれないからこんなことが平気でできるのです。そんなこともあり、私は公立学校の再生ということが何よりも急務であると思い始めました。

学校予算を増やしてみたけれど・・・!?
 最初の1 年はいろいろな学校の現状を聞きました。よく、校長がもっとリーダーシップをといわれますが、校長は「人事権がない」「自由に使えるお金がない」と言いますので、翌年の予算に盛り込みました。そうしましたら、独自性のない同じことを提案してきます。校長先生の中にも横並び式、縦並び式というのがありまして、横並び式とは隣の学校がやっているか。縦並び式とは前例があるかということです。結局この予算ではほとんど何も変わりませんでした。
 そこで、学校の財政を調べてみると校長の自由になるお金がないわけではありません。ただ、新たなことをするには何かを削らなくてはならない。それができないのです。この財政運営の中で校長先生の権限強化をしても先生の意識そのものが変わらないと何も変わらないことが判りました。そこで、教育改革の原則は、1つ目は競争。2つ目は人事権。3つ目は学校の独自性を出す力の3つだと考えました。この3つで実力のある先生も、地域が協力しようという気持ちも一杯あるので、教育レベルは上がっていくだろうと思いました。
 1つ目の競争。杉並区は平成14 年に学校選択制を始めました。当初、これを始めるのに地域との関係が薄れるとの批判がありました。しかし、そんなことはありませんでした。学校は地域から選ばれないと生徒に来てもらえないので、学校側が地域との関係を築こうと努力するからです。平成14年度には指定外に行った生徒は14.8%、平成17 年は20.8%という状況になっています。
民間人の校長先生
 もう一つ学校間の競争の中で大事なことは校長が頑張ることです。横並びを変えるのは制度を変えてもだめ、人を変えることです。これをどうしようか?そこで考えたのが経営感覚を持ち、教育に情熱を持つ民間校長でした。校長に関しては教職員免許を持たなくても良いという規制緩和がされました。収入は10分の1になりますが、リクルートのフェローをやっていた藤原和博さんに和田中というところに入ってもらいました。3年たちました。藤原さん
は一切予算をくれとはいいません。足りないものは地域からとお金を集めだし、芝生のグラウンドを作りました。お金を通じて学校参加の仕組みを作ったのです。更に地域の方や有識者による「和田中学校地域本部」を作って学校の経営会議をします。事務局長には職員会議にも参加してもらう。今の制度の中でできることを周りに判らせてくれたのです。
 本当は藤原さんと競い合えるような民間校長をもう一人くらいほしいのですが、都は1 区に1 人だとやらせては
くれません。
指とま制度
 その次に、いい先生を集める為に平成16 年「指とま(この指とまれ)制度」を始めました。どのような制度かといいますと、校長先生がHP上で「こういう教育方針でこんなことをする先生を募集しています」と明らかにする。応募してきた先生と、校長が面談し「この人をほしい」と区の教育委員会に希望する。これは区が人事異動の希望を出すための資料にするだけですから、都の人事権を侵害するものではありません。
 結局、小学校で志願した先生が50人、お見合いが成立したのが38人、78%。中学校が10人希望し、6人、6割の希望の案を都に申請して100%認められました。
独自の教員育成
  指とま制度は一つの突破口を開きましたが、区内で移動するだけであまり、大きな効果はありません。そこで、独自採用をしなければという考えが強くなってきました。来年からは法律が変わり、独自に区市町村が教員を採用できるようになります。しかし、独自採用の給料は全額自分たちで出せという条件になっています。ということは区採用の先生を加配すれば、区の職員の数を増やすことになります。
 杉並区は10 年で4500 人の職員を1000 人減らそうとしているところですが、教育を変えていくには良い先生を採用してでもその人たちが起爆剤となって杉並区の教育のレベルを上げていかなければと思っています。そこで考えたのが「杉並師範館」です。来年の4 月に30 名の塾生を全国から募集します。杉並区の教育理念に賛同し発展に尽くしたいという志を持った人たちに研修を終えたあと、再来年4 月から杉並区職員として、小学校低学年に配属したいと思っています。小学校低学年で、生活指導、学習の基礎をしっかりと目が届くような体制で師範館の塾生通して作り出していきたいこれが、杉並区の教育改革です。5 年が勝負です。教育は人なりで、使命感と愛情と熱意を持った教師が地域の中でどのくらいいるかが子供にとっては大事で、また、学校というのは地域に広がります。教育というテーマで地域が取り組んでいくことで、福祉、環境の問題についても良い影響があると思います。まず教育が最重要です。だから制度が変わるのを待つのではなく、杉並師範館を通して、学校が大きく変わるということを世間に見せて示していきたいと思っています。私は公立学校はある程度の競争と責任を持って運営されなければ日本の教育のレベルはあがらないと思います。そして、親の無駄な教育の出費がなくなることが公立学校の存在している大きな理由だと思っています。
参加者との主な質問応答
Q: 先ほどの英語の先生のような人が出てきたらどうしますか?
A: 出てこないと思いますが、区の職員としてしっかり処分します。つぶれない組織が変わっていくためには異物の存在がとても大事です。実は魚の卸売の手伝いをしていたときの話です。鮮魚をイケスに入れて運ぶとき例えばアジはアジだけではだめなのです。その中にうなぎなど異物を入れないと身がゆるくなる。異物を入れることによって身が引き締まり鮮度が保たれるのです。うそのような本当の話です。藤原さんなどもアジの中のうなぎで、先生方は、もともと能力のある人たちが多いのですから火がつけば変わっていきます。そこが重要です。
Q: アジの中で異物として登場してもアジになれと周りから言われることでアジになってしまうこともあります。
A: それには組織の内部の情報をなるだけオープンにしておくということ。外部の評価がしやすい組織を作っておく。クローズの中だとうなぎは殺されてしまうかまたはアジになってしまおうと思ってしまいます。
Q: お金をどう使うかどう貯めるか仕事をしてお金を稼いで世の中は回っているという教育を私は受けたことがありませんが、一番大事なことが抜け落ちている気がしますが。
A: 私も同感です。杉並区全中学校でやっているのが職業体験。1 週間やります。2,3 日ではだめです。地域の企業やお店に協力してもらって、現実の職業を体験する。これは中学2 年生には一石何鳥もの効果があります。親以外の大人から指導をうけると同時に消費税はどうなっているのかなど、親との会話も増えます。すばらしい影響をあたえるとの報告書があがってきています。


前のページに戻る チェーンプロジェクト概要GPニューストップページ │ このページのトップへ
明治大学トップへ 商学部トップへ 生涯学習・学校教育 文部科学省
Copyright (C) 2005 Meiji University, All rights reserved.