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科学研究費補助金特定領域研究
「法使用行動の研究:行政・民間ADR機関による裁判外紛争処理サービスと法使用」
(領域代表:村山眞雄・領域名「法化社会における紛争処理と民事司法」)
1.研究組織
構成メンバー:B01グループ代表 樫村志郎(神戸大学)
神戸大学班
東京大学班
大阪市立大学班
「市民の法使用の実態と課題−司法型、行政型、民間型ADRの使用」
研究代表者 樫村志郎(神戸大学)
研究分担者 馬場健一(神戸大学)、高橋裕(神戸大学)、鹿又伸夫(慶應義塾大学)*
「市民の法使用と社会階層−階層間隔差の実態と課題」
研究代表者 佐藤岩夫(東京大学)
研究分担者 楜澤能生(早稲田大学)
「法使用に対する自治体の関与−地域住民の法的ニーズに対する自治体の対応の研究」
阿部昌樹(大阪市立大学)
*鹿又伸夫は、2003年度は研究協力者であり、2004年度より研究分担者となった。
2.主な研究活動
【2003年度】
2003年度においては、グループとしての共同研究体制を構築することと、全国調査の設計のために必要な知識、理論、ノウハウ等をメンバー間で共有することに力を入れた。
共同研究体制の構築という側面に関しては、メンバーが東京と関西とに分散し、頻繁に一同が会しての会合を開くことが困難であることや、メンバーのうちの数名が在外研究で日本を離れることも予想されることを踏まえて、まずはメーリングリストを立ち上げ、可能な限りメーリングリストを利用しての議論によって、一同に会しての研究会に代替する体制を整えた。なお、B02グループとの議論や情報交換を促進するために、このメーリングリストには、B02グループのメンバーのメール・アドレスも登録した。また、当初のメンバーはそのすべてが法学部出身者であり、社会調査の技法にさほど詳しくなく、調査の経験も豊富ではないことを踏まえて、社会学を専攻し、社会調査の経験が豊富な慶應義塾大学の鹿又伸夫を、研究協力者としてグループに迎え入れた。
全国調査の設計のために必要な知識、理論、ノウハウ等のメンバー間での共有という側面に関しては、「3.研究の概要」で詳述するが、メーリングリストを介して頻繁に議論や情報交換を行ったほか、以下のとおり研究会を開催した。
9月5日(金)
神戸大学
12月23日(火)
神戸大学
9月20日(日)
大阪コスモスクエア国際交流センター
1月4日(日)
神戸大学
10月18日(土)
神戸大学
1月24日(土)
神戸大学
11月30日(日)
京都ガーデンパレス
1月29日(木)
神戸大学
12月4日(木)
神戸大学
【2004年度】
前年度は研究協力者であった鹿又伸夫が研究分担者となった一方で、当初からの研究分担者のうち、高橋裕が2004年3月よりイギリスに、佐藤岩夫が2005年1月よりオランダにそれぞれ在外研究に赴き、2004年度中は、グループの構成メンバーのすべてが一同に会しての研究会を開催することは不可能であった。しかしながら、そうした事態は当初から予測されたことであり、それに備えて、前述のとおり、2003年度中にメーリングリストを立ち上げ、可能な限りメーリングリストを利用しての議論によって、一同に会しての研究会に代替する体制を整えておいた。したがって、研究会の開催頻度はそれほど高くはないが、メンバー相互間の議論は、在外研究中のメンバーをも含めて、研究会の開催頻度から推測される以上に頻繁かつ綿密に行われた。
研究会の開催状況は、以下の通りである。
4月10日(土)
神戸大学
10月16日(土)
神戸大学
7月19日(土)
東京大学
11月14日(日)
神戸大学
8月22日(日)
神戸大学
11月29日(月)
大阪市立大学文化交流センター
9月19日(日)
立教大学(A01グループ、A02グループ、
B02グループと合同)
1月24日(月)
大阪ヒルトンホテル(A01グループと合同)
9月25日(土)
神戸大学
以上の研究会に加えて、2月10日(木)に、中央調査社大阪支社において、調査実務担当者および調査員を交えての意見交換会を開催した。
3.研究の概要
【2003年度】
「2.主な研究活動」に記したとおり、全国調査の設計のために必要な知識、理論、ノウハウ等をメンバー間で共有することに力を入れた。国内外の先行研究をメンバー各人が精査し、必要な知識を吸収するとともに、共同作業として、(1)中央調査社が毎月実施しているオムニバス調査に紛争経験関連質問を組み込むことによる、紛争経験の出現率の調査、(2)一般市民7名に自らの紛争経験を語ってもらうグループインタビュー、および、(3)郵送法による小規模な全国調査(第一次予備調査)を実施した。
2003年度中に全国規模の調査を実施することは、当初の研究計画においては予定されていなかったものであるが、調査票調査によって一般市民の紛争経験や様々な紛争処理機関の利用経験がどの程度捕捉できるのかを確認すべく実施したものである。調査それ自体は、中央調査社に委託して2004年2月に実施したが、それに先立ち、2003年12月から2004年1月にかけて計5回の会合を持ち、それに加えてメーリングリストを利用して頻繁な議論を繰り返し、調査票を作成した。この調査票の作成作業をとおして、B01グループとしての全国調査に向けての基本姿勢が、かなり明確なかたちでメンバー間に共有されるに至った。それゆえに、この時に作成した調査票の構造が、翌2004年度に実施された面接法による第二次予備調査においても踏襲されることになった。
なお、この第一次予備調査の質問票の作成過程で、弁護士および司法書士の利用者のみを対象とした質問を調査票に組み込むか否かが、議論の焦点の1つとなった。法専門職の利用実態を解明することを主たる課題とするB02グループの問題関心に十分に応えるためには、弁護士および司法書士の利用者のみを対象とした、弁護士や司法書士を利用した者のみが経験するであろうような困難や、弁護士や司法書士を利用したことの結果として生じるかもしれない、法や法制度に対する態度の変化等に関する質問を、調査票に組み入れることが望ましい。しかしながら、そうした質問を調査票に組み入れることは、調査票の構成をいたずらに複雑なものとすることになり、回答者を混乱させかねない。そうした利害得失を総合的に勘案し、また、B02グループのメンバーの意見も聴取した結果、最終的には、弁護士や司法書士もその他の相談機関と同列に扱い、その他の相談機関の利用者に対する質問と同じ質問に、弁護士や司法書士を利用した者にも答えてもらうという調査票の構成に落ち着いた。そして、B02グループの問題関心のうちで、こうした構成を採る質問票による調査によっては充たされない部分については、B02グループ独自の補充的な調査によって補ってもらうこととした。この点もまた、第二次予備調査においても踏襲されることになった。
【2004年度】
2004年度の研究は、前年度末に実施した第一次予備調査の調査結果を分析することから始まった。前年度に、中央調査社が毎月実施しているオムニバス調査に紛争経験関連質問を組み込むことによって、紛争経験や様々な紛争処理機関の利用経験の出現率は、当初から半ば予想されていたとおり、けっして高いものではないことが一応は確認されていたが、第一次予備調査の結果はそれを追認するものであった。それとともに、前年度において、内外の先行研究の綿密な検討を踏まえて構築した質問票が、人々の紛争経験の重要な部分を捉え損なっていることが明らかとなった。また、調査結果の統計的な分析を通して、理論的な検討に基づいて、人々の紛争経験や様々な紛争処理機関の利用経験を規定する可能性のある独立変数として調査票に組み込んだ質問項目のうちのいくつかは、実際にはまったく説明能力を有していないことも明らかとなった。
こうした第一次予備調査の分析を踏まえたうえで、2004年度の後半は、第二次予備調査に向けての調査票の修正作業と、その修正された調査票を利用しての第二次予備調査の実施に充てられた。
本調査は面接法によって実施することを予定していたことから、第二次予備調査は、なるべく本調査に近いかたちで実施すべきであるという判断に基づいて、面接法によって実施することにした。それゆえ、まずは、郵送法による調査のために作成した第一次予備調査の調査票を、面接法による調査にふさわしいかたちに修正する作業が行われた。そのうえで、第一次予備調査の結果を踏まえて、質問項目の削除、追加、修正等を順次行っていった。
調査それ自体は、第一次予備調査と同様、社団法人中央調査社に委託して、2005年1月から2月にかけて実施した。ただし、今回は、面接調査に際して現場の調査員が遭遇した困難や、調査員の視点から見た質問票の問題点等を把握し、本調査の参考にすべく、調査終了後ただちに、調査実務担当者および調査員を交えての意見交換会を開催した。この意見交換会によって、調査票の修正すべきいくつかの点が明らかになるとともに、かなり複雑な構成の調査票であっても、事前のインストラクションをしっかりとしておけば調査員は対応可能であり、また、調査対象者もきちんと回答してくれることが判明した。なお、この第二次予備調査の調査結果の統計的な分析は、2005年度に持ち越された。
以上の研究活動は、法専門職の利用実態を解明することを主たる課題とするB02グループとの密接な連携の下に進められた。すなわち、「2.主な研究活動」に記したとおり、メーリングリストをとおして、B01グループの調査の進捗状況はB02グループのメンバーにも逐次報告され、また、B02グループの調査の進捗状況についても、逐次B01グループのメンバーに報告してもらった。それに加えて、「2.主な研究活動」に列挙したB01グループの研究会には、可能な限りB02グループのメンバーにも出席してもらった。
第一次と第二次の予備調査を通して明らかになったことの1つとして、ランダムに調査対象者を選定して実施する調査票による大規模調査では、弁護士や司法書士等の法専門職の利用経験者を、洗練された統計的分析に耐えうる程度に十分な数確保することが、きわめて困難であるという問題がある。B01グループとB02グループとは、この問題への適切な対応策を案出すべく協議を重ねてきたが、現時点では、未だ完璧な対応策は見出されていない。それゆえ、これまでの協議を踏まえ、さらに検討を重ねることを通して、本調査の設計を、B02グループの問題関心を最大限充たすようなものとしていくことが、2005年度の重要な研究課題のひとつとなっている。
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