
融合教育学生座談会01
自分の研究の存在意義を知り、研究へのモチベーションがアップ
「現象数理・ライフサイエンス融合教育プログラム」の魅力とは
様々な思いをもって明治大学に入学、さらなる探求心を満たすため大学院に進学し、2020年度「現象数理・ライフサイエンス融合教育プログラム」に参加した5名の受講者に、プログラムの魅力や研究への影響などを伺いました。

※学年は、受講当時(2020年度)のものです
大学で出会った学問を「やり切りたい」という思いで大学院へ
藤田現象数理学が幅広い分野を対象としていることに興味を持ち、総合数理学部に入学しました。学部時代は数学教員になりたいと考えていたのですが、大学に入って自身の関心も広がり、科学にも興味をもつように。学部時代の研究で、あと少しで新しい発見につながるという段階にきていたため、研究を継続するために大学院に進学しました。2021年3月に大学院を修了し、民間企業に就職が決まっています。教員になりたいという思いが消えたわけではないのですが、まずは自分が持っている技術や知識が最も生かせる環境で働いてみようと考えました。
市田実は私も数学の教員になりたいと考えていたため、大学進路を決める際は、総合数理学部と理工学部で非常に迷いました。大学では人に教えられるようになるだけの知識を身に付けたいと考えていましたが、実際に過ごしてみると学部の4年間では十分ではなく、もっと専門性を高めたい、できるときに限界まで学んでおきたいと考えて大学院へ進学しました。現在は、研究が楽しくなっているため、研究者への道も考えているところです。
加藤現在私が研究している光触媒については、テレビ番組で知り、興味を持つようになりました。小学校の先生が、「光合成を人工的に行う技術は無いんだよ」と言っていたのを覚えていたので、ついにその技術ができたのかと驚いたものです。その感動をきっかけに関心が広がり、私も光触媒について研究したいと理工学部へ進学。そのまま研究を継続したかったため、大学院へと進みました。
藤原私も少し、恩師の発言が進路に影響しています。高校のときの先生が、国語の教師なのにプログラミングにも通じた方で、数学と現象的なモデリングを組み合わせるものがこれからの時代は大切になるとおっしゃっていて、その言葉がずっと頭に残っていたんです。もともと応用的な数学が好きだったのですが、大学で純粋数学の勉強をはじめてからはそちらの分野に興味が移り、研究に没頭するようになりました。結局、その興味が向くまま、3年の後期に大学院への進学を決めました。
中村高校は文系コースで学んでいたのですが、将来のビジョンを描くなかで、生きていく、食べる、ということの大事さを考えるようになり、農学部への進学を決めました。もともとは野菜を育てることに興味があったのですが、地域計画などの分野に触れたことで、人と関わることのおもしろさを知り、興味がそちらへ。就職するつもりで就活をはじめていたのですが、卒論を書くうちに最後まで学び切りたいという思いが湧いたので大学院に進みました。
他分野の研究との関わりに期待して「融合教育プログラム」に参加
加藤いろいろな分野について知り、それらを組み合わせるというコンセプトにおもしろさを感じたのが理由です。ちょうど自分の考えが少し凝り固まっているように感じていた時だったので、他の人たちとの繋がりを考えるだけでも、メリットがあると思いました。
藤原私も、大学院で友達と議論をしたり、ゼミなどで他の人の研究分野を理解するのが楽しく感じ始めていた頃だったので、これはより多くの人と関わるいい機会だと思い、参加を決めました。ただ合宿が楽しみで参加した部分が大きかったので、オンラインになったのは残念でした。
中村私も他の人の研究について話せるいい機会だと思ったので参加しました。以前から、総合共通講座などで他の専門の話を聞くと、自分の研究がまた違った角度から見えることに気づいていたので、新たな視点を得るチャンスだと感じました。
市田私はプログラムのことをまったく知らなくて。先生から勧めていただき、おもしろそうなのでやってみようと思い、参加を決めました。
藤田私も先生から勧められたんです。私の研究テーマは、現象と数学の間にあるため、本プログラムに参加し、現象と数学との間の懸け橋になれればいいなと考えました。また、そういう研究をしている人がいるということを知って欲しいという思いもありました。
他の研究に触れたことで自分自身のテーマの意義がより鮮明に
加藤自分の研究の意義がどこにあるのか考えるきっかけになったように感じています。同時に、それを多くの人に伝えることの大切さも認識しました。みんな同じ考えだったと知ったのは大きな財産です。
藤田加藤さんのおっしゃる通り、自分の存在意義は私も認識しました。実験だけだと解決が難しかったり、時間を費やしてしまうところを、数理モデルがあれば、実験せずに結果の予測がたてられる、それが数理モデルの目的であると再認識できました。また、自分の研究に対する誇りが生まれ、モチベーションを保つことができました。さらに他の研究に触れ、負けてられないという熱い気持ちも生まれましたし、異分野同士を重ねることの可能性やおもしろさも感じました。受講して本当に良かったと思っています。研究は3月でいったん終了ですが、社会でも役立つ視点が多かったのでこれから活用していきたいです。
市田数学の理論の方にいる立場なので、他の分野の方と融合することで、研究の幅が広がったように感じています。実験がない数学が実験のある分野にどう絡んでいくかを考えるいいきっかけになりました。ただ私も藤田さんのように、負けていられないというか、焦りのようなものは感じました。普段の生活では異分野との交流があまりないので、こういうプログラムは非常に重要だと思います。
藤原私も、他の人がどんな研究をしているのかを知るいいきっかけになったなと思っています。とくに私が所属している先端数理科学研究科は中野キャンパスにあり、生田キャンパスで研究する人たちと触れ合う機会はありませんから、同じ班の人たちと、それぞれの研究について深く話すことができたのはとても価値のある経験でした。
中村私も皆さんの感想と同様、他の人の研究を知るきっかけになったという点が非常によかったです。またこれは私が博士前期課程1年だからかもしれませんが、2年生の方や博士後期課程の方も受講されていて、発表や説明の仕方がすごく参考になりました。スライドを見ていても、自分が見ただけでは分からない部分にきちんと補足説明があったり、発表に対する質問の角度が鋭かったり。同じ学年の人だけではないというのもこのプログラムの利点だと感じました。短い期間ではありましたが、成長の幅といいますか、視点の広がる速度のスピードを実感した4日間だったので、今後もいろいろな分野の人と積極的に関わっていこうと思っています。
研究テーマを持ち寄り融合研究の種をプレゼンテーション
藤田私たちの班は「再生医療」について発表しました。再生医療自体は知っていたのですが、どこが問題になっているのか、どこが進んでいないのかはまったく知らなかったので、どんどん質問して教えてもらいました。知らない人と突然グループになると緊張からつい遠慮してしまいがちですが、私としては「分からないことは聞こう」という環境を作りたいと思ったのです。私なりにできることはやっていこうと、数理モデルを立てる際に必要な事柄を現象から引き出せるようにメンバーにアドバイス。初めて自分のやってきたことが役に立って嬉しかったです。その他、数理モデルの立て方の柔軟性に、自分に欠けている部分を発見したり、他の人の研究に嫉妬したり(笑)。新しい発見はいろいろありました。
市田プレゼンテーションを終えてみて、数学を現象に応用する際、一番役立つのは、数学がもつ普遍性だと感じました。現象を数学の言葉で数理モデルにして、実験では観測できなかった現象を数学の立場から示唆することが大きな目標で、数学で本質を引き抜いてどこまで再現できるかで見ています。私はまだ修士課程なので、武器が少なかったのですが、自分に足りない部分を知ることもまた成果。自分の数学をもっと使えるものにしなくてはというモチベーションになりました。
加藤私たちの班は「生態リスクと大きな夢」というテーマで発表しました。私は自分の研究テーマから、光合成をする自動車を提案しました。実は二酸化炭素を吸って酸素を出す自動車があれば、というイメージは小学生の頃から思い浮かべていたもの。提案してみたところ、「できるはずない」ではなく、「おもしろそう」という反応がもらえてうれしかったです。学生間だけではなく、いろいろな学科の先生がアドバイスをくれましたし、あきらめるのではなくて、どうすれば良いかを考える場は非常に刺激的でした。
中村私は加藤さんと同じ班だったので、その時のことをよく覚えています。自動車はたしか運用部分で、地域計画に織り込んだんです。班の中でどういう研究にするのかが定まらなくてそこが苦労したのですが、「あまり考え過ぎずに、求められている研究テーマを探そう」ということで、探っていきました。加藤さんの自動車のテーマの落とし込みどころは難しかったのですが、「1番夢があっておもしろいよね」と議論はすごく盛り上がりました。
藤原私たちの班では、応用化学の人はがん治療に役立つ研究をしていて、材料工学の人は水素を金属として保存できる研究をしていたので、災害という大枠のテーマがいいのではないかということになりました。そのうえで私ともう1人の数学科の人が、水素吸蔵合金の効率化や、免疫治療における薬剤の体内での広がりなどを、数理モデルを用いて解決しながら進めていきました。数学がどう社会にアプローチできるのかを学べたことは純粋に楽しかったです。
他分野間での議論という初めての経験に戸惑いながらも成長
中村これは難しさでもあり、おもしろさでもあるのですが、それぞれの分野の先生が見てくださるので、「ここが問題なんじゃない?」という先生もいれば、「大きいことやりなよ」という先生もいらっしゃって、良い感じで振り回されました(笑)。最初はあれこれ意見が違うので戸惑ったのですが、だからこそ「納得できる落としどころを自分たちで見つけなくてはいけない」とメンバーが一致団結。「普段やらないような大きい分野の融合も入れよう!」と議論が盛り上がっていきました。
藤原私はその“議論を盛り上げる”ところで非常に苦労しました。リモート会議は対面とは違い、やはり活発な議論が難しいんです。転機となったのは3日目に許された、他の班を覗きにいくスパイ活動(笑)。他の班はしっかりと自分の気持ちをぶつけあっている印象を受け、そこで私もよりオープンに話しかけるようにしたところ、議論が盛り上がりはじめたので、「これだ」と。他の人の意見を尊重するのはもちろん大切ですが、その中でも自分の意見を押し通す気概を持つことも必要だなと学ぶことができました。
加藤難しかったのはやはり数学。さっぱりだったので最初は「え?」という感じで(笑)。かなり基本的なところから質問させてもらいました。ネットで調べることも可能だとは思いましたが、せっかく目の前でそれを専門で研究している人がいるのだから、その人に聞くのが一番だと遠慮せずに聞きました。
藤田1つの単語をとっても研究分野が異なれば捉え方が違って、差異が生まれるんです。そこが難しさでもあり、おもしろさでもありますから、うまく通訳ができるように工夫。お互い伝わりやすいように、分かりやすいように、と心がけながら話しました。
市田確かに言葉が通じないというのは私も実感した難しさです。とくに数学の言葉は他の人に伝わりづらいもの。他分野の人の研究をバックボーンにして、数学の問題に落とし込む際は、数学化するための質問をするのですが、それは相手からすると今まで見てこなかった部分なので、違う捉え方をされることも多くて。お互いに着地点が見つかりやすいよう、動画や画像を用いたり、数式ではなく図式を書いたり、感覚的に伝わるように工夫しました。
様々な分野とのコラボレーションは、卒業後にもきっと役立つ
藤田学科、専攻内だけに留まっていると、そのなかの環境のことしか見えないですし、知り得ないですが、別の分野まで視野を広げると、いろいろな現象や世界が見えてきます。そこにどうアプローチするかを考えるのが学問のおもしろさだと思うので、好奇心を大切にしてほしいと思います。
加藤他の分野の専門性から見た自分の研究の意義を知ることは、新しいアイデアにつながります。ぜひ融合教育プログラムの活用をお勧めします。
市田就職するにしても、教員になるにしても、いろいろな分野の人とコラボすることはその後に生きる、大切な経験。数学の人はもちろんですが、社会などの文系の人もためらわず参加してほしいと思います。
藤原融合教育プログラムは、他の人たちがどのような考えを持って研究しているのかを知るいい機会です。またせっかく参加するなら、自分の殻に閉じこもらず、積極的にコミュニケーションをとって欲しいと思います。その方がおもしろいですし、得られる学びも大きいはずです。
中村他の人の研究を知ることは、自分の研究を改めて知ることにつながります。融合教育プログラムのおもしろさが、文系理系を問わず、幅広い学科の人に広まればいいですね。今回は理系の人が多かったですが、今後、たとえば文系理系で同じくらいの人数が参加すると、今回とはまた違った、新しいおもしろさが生まれるのではないかと思います。