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館長よりごあいさつ

館長 村上 一博(むらかみ かずひろ)

 WHOは1948年「世界保健憲章」の前文で、健康を「単に疾患や虚弱がないということではなく、フィジカル・メンタル・ソーシャルな完全に良好な状態」と定義しました。また、1966年国連A規約12条1項はすべての者の「到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利」の保障を宣言しました。わが国憲法25条1項の「健康で文化的な生存に関する国民の権利」規定における「健康」概念もこのような現代的ホリスティク・ヘルス・モデル(全人的健康観)を前提にしたものと解されてきました。そして、20世紀後半の医療技術・医学の飛躍的な進展と高齢化・格差社会の進展のなかでの社会問題の深刻化を背景に、生命と健康及び医療に関する新たな諸難問が出現するに至っています。そこで、例えば、1999年第52回WHO総会で、その健康観をさらに押しすすめて、従来の健康定義に「スピリチュアルな」という文言を付加することが論議されるなど、21世紀の今日、医療・生命倫理・家族などのあり方自体が根底的に問い直されてきており、この状況を踏まえた法学研究の必要性がますます高まっています。

 明治大学法学部は、創立130周年の2011年に、「医療と法と倫理の資料館ELM」を立ち上げました。ELMとは、医療(Medicine)、法(Law)、倫理(Ethics)の頭文字を組み合わせた略称です。同資料館は、法学の一領域に独自の理念と対象をもつ体系的法学としての「医事法学」を確立された唄孝一先生が生涯をかけて収集され、本学に寄贈いただいた医事法学に関する書籍、公文書、音声・映像記録を基盤に、医事法に関する国内外の資料を収集管理して、わが国における医事法学研究の進展に寄与するための資料館たることを第一の使命としています。この使命を果たすべく今日までに収集・整理した膨大な資料は、他に類を見ないものと自負しております。

 さらに、今後、同資料館は、これらの資料を踏まえて、法学研究者のみならず、医学界・法曹実務界との連携を強めて、医療・生命倫理に関する領域の総合研究機関としてわが国の医事法学研究の拠点となることをめざし、加えて、この分野の研究教育の発展に貢献する活動を計画しています。