「明治大学広報」
 
第544号(2004年9月1日発行)
◆これまでの明治、これからの明治 −変わる大学院教育−
 明治大学大学院は1952年の創設以来、高度な専門教育を展開し、多くの研究者を養成してきた。本年4月には、学部をもたない3つの研究科を開設。さらには、2005年4月開設に向けて「会計専門職研究科」の設置認可を申請しており、専門教育機関として大きな発展を遂げている。

 明治大学に大学院が登場したのは、1952年4月のことである。当初は修士課程だけの細々とした出発であった。それから50有余年、明治大学大学院は以後、大きな発展を遂げてきている。現在では、学部に基礎をおく7つの研究科と、学部をもたない3つの独立研究科を擁する日本を代表する本格的な専門教育の場に発展してきた。

 学部に基礎をおく研究科は、法学研究科、商学研究科、政治経済学研究科、文学研究科、経営学研究科、理工学研究科、農学研究科の7つである。それらの研究科には、修士課程(マスター・コース)と通称される「博士前期課程」と、博士課程(ドクター・コース)と一般に呼ばれる「博士後期課程」がおかれている。例年、多数の志願者が、それらの研究科への入学を目指して全国から集まる。とりわけ理工学研究科では、学部の4年に博士前期課程の2年をくわえた6年間の一貫教育を実施している。そのため、毎年、450名を越える志願者が集まる。

 近年、大学院のほとんどの研究科で志願者が増加している。これは学部での授業が就職試験などの関係で年々、短縮化を余儀なくされていることに無縁ではない。大学院の前期課程に進学し、その2年間、みっちりと専門知識を身につけ、それから仕事を探すという学生が増えている。学部で身につけた知識では、現在の複雑さを増す社会では十分といえず、より高度で、より専門的な知識を大量に吸収しなければならない。そう感じる学生が大学院の門をたたくケースが多い。なかには農学研究科のように、定員の倍を越える志願者が集まる研究科も出ている。

 それら既存の7研究科は、研究者の養成を主たる使命としてきた。明治大学大学院は、ドクター・コースと通称される博士後期課程に進んで母校の教員になった人びとや、他大学で教鞭をとる人材を今でも多数輩出している。

 ちなみに、2004年4月現在、駿河台地区の5研究科で博士後期課程に属する学生数は、法学研究科(24名)、商学研究科(43名)、政治経済学研究科(39名)、経営学研究科(29名)、文学研究科(109名)であり、生田地区における2研究科の博士後期課程に属する学生数は、理工学研究科(50名)と農学研究科(27名)になる。

 研究科のなかには、従来の大学院と目的を異にする、修業年限2年の専修科を設置するところもある。法学研究科、政治経済学研究科が、その例にあたる。これらのコースは、研究者を生み出すことが目的ではない。有職者を含めていろいろな経歴をもつ学生に、学部とは異なる高度な専門教育を行うことが、それら専修コースの狙いとするところである。

 一方、商学研究科や経営学研究科では、主に社会人を対象にした授業を夜間と土曜日に実施している。経営学研究科では、それをマネジメント・コースと呼んでいる。2004年度の例でいうと、このコースに合わせて23名の社会人が入試を受けた。そのうち10名が合格し、現在、それぞれが専門的な知識の習得を目指して勉学をつづける途次にある。

 なお、文学研究科では2005年4月から、募集定員14名の「臨床人間学」と題する専攻科を、修士課程としてあたらしく設置する予定である。これは、ストレスの多い現代社会で心の病に悩む人びとが増えていることに対応する試みである。臨床心理を専門にする人材の育成が急務になっている。修士課程をおえると、臨床心理の専門家へのキャリア・パスが開ける。

 2004年4月、明治大学大学院は1952年の創設以来、はじめてと思われるきわめて大きな変革を遂げた。これまでとは目的や中身が異なる3つの独立研究科があたらしく登場することになった。法科大学院と通称される法務研究科、それに公共政策大学院「ガバナンス研究科」とビジネススクール「グローバル・ビジネス研究科」が、学部に基礎をおかないあたらしいタイプの大学院研究科として創設された。さらに、2005年4月には会計専門職大学院が開設される。その結果、明治大学大学院は、文字通り日本を代表する規模の大きな専門教育機関に発展する。

(1)法務研究科
 法科大学院やロー・スクールと呼ばれる法務研究科は、200名を募集定員にしている。普通、修了年限は3年であるが、法学の基礎的な知識をもつと認められたもの(法学既修者)は、2年以上の在学で法務研究科を修了することができる。

 あたらしい司法試験制度に対応するため、明治大学の法務研究科は、独自の方法と周到な対策を準備してきた。たとえば、企業関係法規のほか、知的財産関係法務や環境関係法務など、目下、社会的に大きな関心を呼んでいる課題について、内容の豊富な講義や演習を配置している。また、明治法律学校からの伝統と特色を生かして、法務研究科では医事・生命倫理関係法務やジェンダー関係法務なども設けている。

 明治大学のロー・スクールでは、高度な知識をもつ法曹人を生み出すこともさることながら、人権を重視し、倫理意識の高い法律実務家を創ることに大きなウエイトをおいている。これからの法曹人は、法律に明るいことは当然のことであるが、批判的な精神を備えることや、鋭利な角度から社会秩序の考察ができる能力を備えることも必要とされる。創造力が豊かであること、国際性をもつこと、それに正義感あふれる人材であることも、法曹人として不可欠の要件である。そうした人材を育成するため、明治大学ロー・スクールはこれからも不断の努力を重ねる。

(2)ガバナンス研究科
 公共政策大学院「ガバナンス研究科」は、政治に携わる人びと、行政に関わる公務員、それにビジネス界に身をおく企業人や公務員試験を目指す新卒学生が、それぞれ特定のテーマに関して、いろいろな角度から意見を交換するフォーラムとして創設された。NPOやNGOで活躍する人びとの参加も想定した窓口の広い討論と創造の場、それがガバナンス研究科である。この点で、他大学に創られた公共政策大学院とは趣旨が異なる。ほかの大学に出てきた政策関連大学院は、国家公務員試験の受験対策を主たる目的としたものが多い。

 ガバナンス研究科の募集定員は50名であるが、目下、74名の学生が学んでいる。その内訳は、20数名が現役の地方議員、25名前後の公務員、それに20名程度の企業人と、残りは公務員志望者である。

 ガバナンス研究科では、コース制がとられている。1つは、現職議員やNPOの職員、それに企業勤務者などを対象にした政治コースである。2つ目は、行政コースである。これは現職公務員やNPO職員のスキル・アップを目的にしている。3つ目は、公務員養成コースである。将来、公務員を目指す人びとを対象にしたこのコースでは、正規の授業とは別に特別の授業が組まれている。

 明治大学に登場したガバナンス研究科は、様々なバックグランドをもつ人びとが同じ場所に会して、あたらしい政策創造を検討しながら、これからの社会運営の方法を模索しようとするアゴラである。

(3)グローバル・ビジネス研究科
 世界のビジネス環境が、知識を基礎とした経済社会に変わってきている。経営者は、急速に進展する社会と技術の変化に対応する必要に迫られている。激変する環境のなかで、企業経営に携わる人びとの多くは、絶えず学習することが求められる。あたらしい知識や手法を吸収することが、当然視される時代になった。

 明治大学に2004年4月に開設されたビジネススクール「グローバル・ビジネス研究科」は、企業の人材育成と個々人のスキル・アップを後方から支援することを目的に登場した。グローバル・ビジネス研究科には、大きく4つの研究分野がある。1つは、応用金融工学・ファイナンス分野である。投資分析をはじめコーポレート・ファイナンスやリスク管理、それに金融商品開発や不動産分析を専門に研究する。2つ目は、アカウンティング分野である。国際会計、国際税務、企業分析、経営戦略分析、学校会計などが、この部門の主たる研究テーマになる。3つ目のマーケティング分野は、戦略マーケティング、サービスマーケティング、ヘルスケアマーケティング、グローバルマーケティングなどを研究領域としている。最後はマネジメント分野であるが、対象とするのは経営戦略論、ナレッジマネジメント、経営組織、事業リスク管理などの課題である。

 グローバル・ビジネス研究科を修了すると、MBAが取得できる。

(4)会計専門職研究科
 2005年4月、明治大学大学院に募集定員80名、修業年限2年の会計専門職研究科があたらしく登場する。現在、企業会計は大きな転機に差しかかっている。いくつかの国で不正経理事件が発生したことを受け、会計に対する不信感が世界に広がっている。一方、経済のグローバル化が進むなか、企業会計の世界標準化が必要とされる時代にもなった。そうした時代の変化を背景に登場するのが、会計専門職研究科である。

 公認会計士や税理士などの国家資格は、簿記や経理に関する知識の多寡や技術の有無に対して付与されるものではない。それらは、専門職業人としての高い知性と倫理規範や論理的な思考能力などを身につけた証である。それらはまた、専門家として負うべき責任の表象でもある。明治大学に創設される会計専門職研究科は、幅広い専門的な知識と、専門家としての自覚、それに社会的な役割と責任を熟知した高度な職業人を養成することを最大の目的にしている。

(中邨章・大学院長)
 
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