さる10月7日、法務省は新司法試験合格者数を800人(全体で1600人)とする素案を司法試験委員会に提示し、各方面で大きな反響を呼んでいる。これによると、法科大学院一期生の合格率は34%となり、2010年には合格者数が3000人まで増加するものの、合格率は20%程度に低下する見通しである。この数字は、法科大学院の創設を提言した司法制度改革審議会の7〜8割という意見と大きく乖離し、職を投げ打って入学した社会人や多くの大学人に失望を与えている。次年度の受験出願者がほとんどの法科大学院で激減したのも、この失望の表れと思われる。
これに対し、各界著名人が名を連ねる司法改革国民会議が10月21日発表した緊急声明は、「法曹の数は市場原理の中で決まるべきものであり、」2〜3割の低合格率では法科大学院の教育は受験教育へと変質し、「生まれたばかりの法科大学院を枯死させかねない」と訴えて合格率を7〜8割に高めることを求め、日弁連や法科大学院協会も合格者増を求めている。しかし、法曹の数は、わが国司法制度の在り方に係わり、社会秩序や基本的人権を制度として守るためにはどの程度の質と量の法曹が必要かという観点から論じられるべきで、自由主義経済の原理をもって論ずべきものではなく、また、法科大学院のために論じられるべきものでもない。諸般の状況を考えると、新司法試験の合格者数が2010年以降も飛躍的に伸び続けることは期待できず、このため、法科大学院間の競争が激化し、その格差が顕在化することは想像に難くない。
この状況の中で、本学法科大学院では、伊藤進院長はじめ教員の寝食を忘れた努力による意欲的、創造的な授業が実践された結果、教育の質の向上と均一化が図られ、着実にその成果を上げている。この成果は、本学法科大学院の教育プロジェクト「『プロセス』学業評価システム」が文科省の平成16年度「法科大学等専門職大学院の形成支援」に採択され、また、有力法科大学院の次年度志願者数が前年比5〜6割と激減したにもかかわらず、本学法科大学院では81・2%に留まったことにも表れている。
ただ、司法改革国民会議の緊急声明が指摘するとおり、これまでさほど「真剣な授業」を行なってこなかった大学教育の過去を振り返る時、本学法科大学院の発展を手放しで喜ぶわけにはいかない。今年の本学司法試験合格者は46人(上位7番目)で昨年比1・39倍(平均1・27倍、増加率上位5番目)と躍進したが、論文式試験合格者の増加率は1・05倍(平均1・28倍)で、上位14番目という状態だ。慶應義塾、一橋、大阪、名古屋、立命館、関西、立教など司法試験後発校の躍進ぶりは凄まじく、このままでは、2006年から始まる新司法試験でも本学をさらに脅かすことになる。
本学法科大学院の発展を確実なものにするため、その責任と負担を教員のみに委ねることなく、理事・教職員・校友が一体となって聖域なき改善の努力を続けなければならない。短期的には教育内容のさらなる向上と均一化、合格目標数の設定、校友法曹の協力促進などがあり、中期的には教員の任期制、成果主義の採用、人事や成果判定に関する第三者機関の設置などが考えられ、長期的には法科大学院の独立も検討対象になるだろう。全学を挙げてさらなる創意工夫と努力を重ね、本学を名実ともに一流校の仲間入りさせたいと決意している。 |