「明治大学広報」
 
第549号(2004年12月1日発行)
論 壇: 専門職大学院教育の位置づけを考える 
 法科大学院長  伊藤 進

 法科大学院は、本年4月に設立発足した。現在、法曹という高度職業人養成教育に邁進中である。これまでの大学教育では行われてこなかった教育を模索展開している。これを契機に、このような高度職業人養成教育を、わが大学の教育体系にどのように位置づけるべきかを考えてみたい。

 文部科学省は、わが国における高度職業人養成教育のために専門職大学院の設置に踏み切った。文科省の構想する専門職大学院は、学部教育と大学院教育との棲み分けを前提としている。ゼネラリスト教育とプロフェッショナル教育の分化ともいえる。学部では教養教育(リベラルアーツ教育)と専門基礎を中心に教育し、大学院を目指す優秀な学生は学部3年次修了から進学できるよう大幅に促進する。大学院は、「学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめて、文化の進展に寄与すること」を目的とする研究大学院と、「高度で専門的な職業能力を有する人材の育成」を目的とする専門職大学院との2本立とした。

 わが大学も、専門職大学院の典型とされている法科大学院を設置するとともに、ビジネススクール、公共政策大学院、会計大学院の設置に踏み切った。しかし、この半年を振り返ってみるとき、文科省構想の是非はともかく、専門職大学院の教育理念を念頭に置いた教育条件整備が自覚的に行われつつあるか疑問である。

 設置形態をみても、いずれの専門職大学院も従来の大学院学則の傘の下に置かれている。そのなかで法科大学院は、やや出っ張った形での独立した学則の下で設置されているが、他の専門職大学院は内包されたままである。もっとも、従来の大学院教育の理念をどこに求めるかの議論なしには、その当否は語れないが、従来の大学院が研究大学院としての教育理念を主として担うものであるとすれば、異質な教育理念をもった大学院が混在することになる。それを是正するには、専門職大学院を学部および従来の大学院と並ぶ独立した教育機関として大学に設置することである。もっとも、財政的にも学部に依存しないことが肝要である。

 その教育運用をみても、わが大学の教育を全学的に設計調整する学部長会に専門職大学院から参加していない実情にある。このためゼネラリスト教育の設計調整は行われても、高度職業人養成教育を設計調整する全学的場がない。ときにはゼネラリスト教育の設計調整が横並び的に当てはめられるという結果を招来する。これでは専門職大学院の教育理念に対応した教育組織運営はできない。また、各専門職大学院は高度職業人を養成する点では共通するが、国家資格を得ることを前提とするものであるか否かによってその教育は異なる。現行の教育運用に置いて、かかる自覚があるか疑問である。

 わが大学が専門職大学院教育を導入し、21世紀を担う教育機関として活性化するには、以上のような諸点の検討と改革は急務であ
 
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