私が本学に赴任してから、今年は12年目に入るが、この間の大学および社会の変化は目を見はるものがある。大学に関していえば、少子化時代を迎えて学生の獲得をめぐる大学間の競争は熾烈をきわめている。その中で本学が生き残るために試行されているさまざまな改革のために設置される各種委員会、入試形態の多様化などの校務に忙殺されることが多く、研究環境は確実に悪くなった。こうしたさなかに、この4月から私は人文科学研究所の所長を仰せつかることとなった。任期は2年。そのために所長として何ができるかは、正直いって、まだ暗中模索の段階であるが、少しずつ見えてきたものもある。
まず、第1に考えるべきことは、校務と教育に忙殺されているとはいえ、所員各位、とくに若い所員各位が蓄積しているエネルギーを吸収するために人文研の存在と活動をアピールし、所員の研究成果を国内外に発信することである。それによってはじめて本学の「学問」が重みを持って世間に、そして世界に認識されることになろう。幸い、林雅彦前所長時代に開始された「人文科学フォーラム」「国際熊野学研究所」などにみられるように、すでにその端緒は与えられている。私の任務は、これをさらに発展させるために、新たな構想をもって努力することであろう。
しかし、その実現のためには現在の人文研の制度やシステムは不十分である。いま話題になっている「研究・知財戦略機構」設立の進展をも配慮しながら、国際化、学際化、「社会との連携」など本研究所が直面している課題にふさわしい体制づくりに邁進したいと考えている。所員各位のご協力を切にお願いする次第である。(文学部教授) |