「明治大学広報」
 
第565号(2005年11月15日発行)
論 壇: 心理相談と電話受付
心理臨床センター長 弘中 正美
 明治大学心理臨床センターは、地域に開かれた心理相談機関として昨年開設され、現在順調な活動を展開している。この心理相談のプロセスは、相談希望者がセンターに相談申込の電話をしたそのときの受付からはじまる。電話の受付をしているのは、センターの嘱託事務員である。事務員の仕事は多岐にわたるが、この電話受付がもっとも重要でかつ難しい仕事といってもよい。

 一般に会社や大学その他の機関の代表電話にコールするとき、どのような応対を返してもらえるかによって、その機関の第一印象が形作られると言っても過言ではない。相談希望者にとって、電話受付はセンターとの最初の接触である。電話受付における事務員の口調・態度は、来談者に大きな影響を及ぼす。心の問題を抱えて相談を申し込む人は、不安と期待の入り混じった状態にある。センターの電話受付は、何よりも来談者がほっとして、来談に動機づけられるものでなければならない。

 来談者はまた、かなり複雑な状況を抱えていることが少なくないので、電話のやりとりも相当に繊細な配慮を必要とする。たとえば事務員は、「こちらからご連絡するときには、心理臨床センターの名前を出してもよろしいでしょうか?」と確かめる。家族には内緒で来談したい人があったりするからである。また、何度も何度も電話してきて、センターの相談時間を確認する人もある。おそらく来談そのものに不安を持っている人である。事務員が温かくて丁寧な、一貫した態度で接するとき、その人は不安を少し和らげ、来談を決意するだろう。どこかの精神医療機関に通っている人に対しては、医療機関から紹介状をもらってきていただきたいとお願いをする。また、電話受付は相手の問題の詳細を聞く場ではない。センターを最初に訪れるときの面接に役立てるための最小限の情報を得る場である。聞きすぎることがあってはならないのである。

 かくも電話受付は、細心の注意を必要とする難しい仕事である。そのため、明治大学心理臨床センターで働いている2名の嘱託事務員は、いずれも大学院で臨床心理学を専門的に学んだ人たちである。うち1人は、別の心理相談現場で活躍している臨床心理士である。事務員ではあるが、単なる事務仕事では済まないのがセンターの電話受付なのである。実は彼らとても、最初は試行錯誤の連続であった。来談者の内なる要望はきわめて多様であり、マニュアル的な電話受付などはとうてい不可能だったからである。

 このように、心理相談の現場では、一見何でもない役割に見える電話受付の業務が、実は相当な専門性を要求するものであることを認識しなければならないのである。(文学部教授)
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