「明治大学広報」
 
第568号(2006年2月1日発行)
◆論壇 
    香港で大学院の将来を考える
大学院長 中邨 章
 2006年1月中旬、香港大学に出かけた。アジア・フォーラムと呼ばれる会合に出席するためであった。この会議で、日本の大学や大学院の将来を考えさせられる出来事に出くわした。意義ある国際会議になった。香港大学が主催校になったこの会合には、アメリカやイギリスからの特別参加者を含め、あわせて30名近い人びとが集まった。それに、主催者である香港大学の先生をお手伝いするため、4名の行政学を専攻するドクター・コースの学生が参加した。

 おどろいたのは、それら4名の博士課程に籍をおく女子学生であった。最初の発表者が報告をおわると、異例のことであったが王という女子学生が最初に手を挙げた。この彼女は行政学の最新の情報に通じた実に要領を得た質問を出した。英語もほぼ完璧であった。これをきっかけに、その後、発表がおわると女子学生がまず手を挙げ、質問をはじめるというパターンで会議は進行した。それぞれの学生からの質問は、きわめて明解であった。内容にも富んでいた。いずれの学生も英語の表現は見事という以外になかった。

 やがて、4名の女子学生は中国本土で修士課程をおえ、博士号を取得するため香港大学に「留学」していることが分かった。1人は西安、もう1人は北京、ほかの2人は、それぞれ長春と上海の大学を卒業していた。彼女達が、英語をどこで学んだかは知らない。行政学や政治学については、重要な研究書や理論に通じていることは彼女達の質問から十分読みとれた。出席者のなかに、行政学では世界的に知られるガイ・ピーターズ(ピッツバーグ大学)がいた。彼もわたくしと同様、中国の女子大学院生の能力と勉強量にはおどろいていた。

 日本の大学のなかには、今でも中国からの留学生をあてに大学運営を図ろうとしているところがある。しかし、香港大学で出会った大学院生を念頭にすると、中国の大学や大学院が日本の大学レベルに追いつくのは時間の問題である。日本に中国からの留学生が集まる時代はもうすぐおわる。まもなく、日本の学生や大学院生が大挙して中国の大学に留学する時代がはじまる。中国の大学に行くと英語と中国語が学べる。専門知識も豊富になる。「一挙三得」だからである。

 明治大学内部の各所から出される報告書や意見書は、「大学をめぐる環境はきわめてきびしい」という表現を枕詞にしている。この枕詞を本当に身体で感じている人びとがどれほどいるか、心許ないという印象を受ける。これからの大学の品格と序列は、大学院教育の中身にかかっている。明治大学の大学院を改革する必要があるのは、そのためである。大学院長として4年の任期をつとめおえるが、改革はまだ緒についたばかりである。時間は切迫しているが、道のりはまだまだ遠い。じくじたる思いが残る。
(政治経済学部教授)
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