アーカイブ あさぎり夕 BLの始まり 展

《1期》




ごあいさつ


 あさぎり夕。1980年代を通して少女マンガ誌の老舗『なかよし』のトップマンガ家であった彼女は、1994年以降、突如としてBL(ボーイズラブ)作品を、泉がわき出るがごとく次々と発表し読者を驚かせました。実は、デビュー前の作品には、今でいうBL 世界を描こうと模索していた足跡がはっきりと残っています。
 あさぎり夕は後年BLに傾倒したのではなく原点回帰したといえます。
 本展では、デビュー以前の貴重な作品や、BLに移行してからの美しいカラー原画を紹介しつつその道のりをたどります。もちろん少女誌時代のカラーイラストもお届けします。

明治大学 米沢嘉博記念図書館



◆あさぎり夕(ゆう) プロフィール


《プロフィール画像》午後の異邦人 単行本カバー ビブロス 1999 年3 月10 日

1956年7月21日- 2018年10月27 日、東京都出身。本名は高野夕里子。マンガ家、小説家、原作者。中学1 年生のころより投稿を開始し、『別冊マーガレット』を中心に30 回以上の投稿や持ち込みを行う。同時期の習作には男性同士の恋愛関係を描いたものも多い。1976 年「第12 回なかよし・少女フレンド新人漫画賞」で入選した「光めざして飛んでいけ」が、同年『なかよし』11月増刊号に掲載されデビュー。少女マンガの代表作に「こっちむいてラブ!」(1982-83 年)、「なな色マジック」(1986-88年/1987年第11 回講談社漫画賞少女部門受賞)、「ミンミン!」(1989-92 年) など。BL 小説の代表作に「僕達シリーズ」(1994-2002 年)、「親猫子猫シリーズ」(1999-2008 年)、BL 原作の代表作に「Mr. シークレットフロア・シリーズ」(マンガ:剣解、2010-18年) など。他、朝霧夕名義の少年マンガに「ミッドナイト・パンサー」(1994-97年) がある。



◆監修者・なかじま音胡(ねこ) プロフィール

学生時代の1979 年、以前からの知人であったあさぎり夕のアシスタントを始める。萩尾望都、赤石路代、サイキ敬子などとかけ持ちをした後、1988 年頃ごろから専属となり、マネージャーを兼任。現在、あさぎり作品の版権管理を行うユウプロダクション代表。



本展示の解説は、基本的にあさぎり夕全作品の単行本や文庫の「あとがき」および、監修者による証言によって構成されています。



◆会期情報


1期:6月23日(金)-7月17日(月祝)
2期:7月28日(金)-8月28日(月)
3期:9月1日(金)-10月2日(月)広報パネル(入口柱)

※全展示期間を通して原画58点を展示。カラー原画を各期14点入れ替え。



謝辞


ユウプロダクション

京都国際マンガミュージアム/
京都精華大学国際マンガ研究センター

角川武蔵野ミュージアム

※本展展示のあさぎり夕原画は、すべて京都国際マンガミュージアム/京都精華大学国際マンガ研究センターの所蔵です。



◆カラーイラストギャラリー

BL作品への進出

 1993年に講談社の専属契約よりフリーになったあさぎりは、様々な媒体で作品を発表するようになる。『なかよし』以外の少女誌や少年マンガ誌にも描く一方で、マンガではなく小説にも進出した。
 きっかけは、編集者の薦めもあったが、意外にもワープロの普及にもよると本人は言及している。文字を書くことが苦手で、手書きではマンガのネームくらいが限界だったのだが、ワープロで文字の手書きから解放されたことによって長い文章を書くことができるようになったとのこと。思いついたことをワープロ上で組み立ててストーリーを完成させればほぼゴールとなる小説は、

“毎月1作書き下ろすのもそんなに大変じゃないんだ。”

(『第三の魔鏡』小学館1997年あとがきより)

と言ってしまえるほどに、あさぎりの得意ジャンルとなった。
 結果的にその生涯において、BL作品を、小説・マンガあわせて160冊以上刊行するにいたった。
 あさぎり夕は、小説作品の大半において、カバーから挿絵まですべてを自分で描いている。実力派少女マンガ家としての長い経験から、物語を感じさせる美しいBLイラスト群が生まれた。

*このコーナーは3回の会期すべてで展示替えをする

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僕達シリーズ

《展示品》僕達の始まり 文庫カバー 原画
《展示品初出》小学館パレット文庫 1994年6月20日 ※「僕達シリーズ(泉&由鷹シリーズ)」1作目

《解説》
 商業誌掲載のあさぎり初のBL作品「僕達の始まり」は、小学館『Palette』1994年冬の号に短編として掲載後、文庫本にて大幅に加筆。その後タイトルに「僕達」がつく「僕達シリーズ」として10年続き、あさぎりBLの代表作となった。
「僕達シリーズ」は「泉&由鷹シリーズ」「泉君シリーズ」「僕達シリーズ番外編」とシリーズ内でもいくつかに分かれて構成され、小学館パレット文庫から36作出版された大ヒット作である。

*1期にBL作品最初の単行本「僕達のはじまり」とシリーズ2作目「僕達の熱い夏」、2期に3作目「僕達の恋愛論」、3期に4作目「僕達の長い夜」、5作目「僕達の仮面劇」のカバー用イラストをそれぞれ展示



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《展示品》僕達の熱い夏 文庫カバー 原画
《展示品初出》小学館パレット文庫1994年9月20日
※「僕達シリーズ(泉&由鷹シリーズ)」2作目



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ノックを3回

《展示品》ノックを3回 単行本カバー 原画
《展示品初出》芳文社花音コミックス1996年7月25日

《あらすじ》
 気ままな一人暮らしを楽しむ社長令息の高校生・結城真南斗(ゆうきまなと)は、飼い猫が亡くなった寂しさを埋めようとルームメイトを募集する。そこに現れたのは、妖しい魅力をまとった少年・妹尾直樹(せのおなおき)だった。「飼ってごらんよ」という挑発に乗り、真南斗は直樹をペットとして迎え入れ、ふたりの同居生活が始まる。
 主人とペットという関係性のもと、仲を深めていくふたりだったが、真南斗は過去に負った心の傷のせいで他人を深く信用することができなかった。真南斗を敵視しながらも惹かれていく高校生・間宮享児(まみやきょうじ)、「最初の男」であり愛憎入り混じった関係を持ち続ける相沢秀一(あいざわしゅういち)、ろくでなしだが真南斗の心を掴んで話さない御厨仁(みくりやじん)……。男たちは愛と欲望と裏切りの香りを連れ、真南斗の部屋を訪れる。

《解説》
 あさぎり夕初の商業BLマンガ作品。BL小説を10冊以上出してからやっとマンガが登場した。本作発表の前年、1995年の夏に急性すい臓炎で倒れたことで

“「好きなものやっとかないと、ホントに人間いつ死ぬかわからないぞ!」と身に染みて描き始めた”

(『ノックが3回』芳文社1996年あとがきより)

作品だった。
 あさぎり本人が描いたBLマンガの単行本は芳文社より4冊、ビブロス(現・リブレ)より6冊、総集編的なものがリブレと集英社から各1冊ずつの計12冊出版されている。

*1期に花音コミックス版カバー用イラスト、2期に本編第1回1ページ目のカラー原画を展示



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親猫子猫シリーズ

《展示品》ブルーな子猫 文庫カバー 原画
《展示品初出》集英社コバルト文庫2000年9月10日

《解説》
 「親猫シリーズ」とは、久住弘樹(くずみひろき)と南部芳(なんぶかおる)カップルのシリーズ。「子猫シリーズ」とは弘樹の息子、久住公平(こうへい)と瀬名雅志(せなまさし)カップルのシリーズ。元々、芳の弟・南部昭(あきら)と深見大地(ふかみだいち)が御園高校で出会う小説「卒業までの二人」に少しだけ出てきた、芳をあさぎりが気に入り、マンガ「魅せられて」で南部芳&久住弘樹カップルのシリーズが始まった。それが「猫かぶりの君」、「親猫子猫シリーズ」へと続いた。御園高校を舞台にした別の作品とあわせ周辺の作品が、20冊以上刊行されている。
 「親猫子猫シリーズ」はドラマCDが多く発売されている。脚本をあさぎり自身が手掛け、声優も候補者の中より選出、収録にも立ち会うなど制作に全面的にかかわっていた。あさぎりが得意とする交錯した人間同士の会話劇が、声が当たることで見事に表現されており、あさぎりの才能の別の面を知ることができる。

*1期に「子猫シリーズ」の文庫カバーより2点と「魅せられて」より1点、2期に「親猫シリーズ」より2点、3期に「魅せられて」のカラーイラストを1点展示



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《展示品》ライトな子猫 文庫カバー 原画
《展示品初出》集英社コバルト文庫2001年2月10日
※「ライトな子猫」は「子猫のトラブル・サマー」(集英社Cobalt 2000年10月号)に加筆した作品



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《展示品》魅せられて 文庫カバー 原画
《展示品初出》集英社コバルト文庫2006年9月10日
※晶&大地、芳&久住の2組のカップルを描いたマンガの総集編カバー用イラスト。




◆ケース展示

少女マンガ時代

 ケースのNo.1~8には、あさぎり少女マンガの代表作の中から、男性キャラクター(以下キャラ)が登場するカラーイラストを少し多めに選んだ。あさぎり作品は、少女が「かっこいい」と感じる少年キャラクターが大勢登場する、当時の少女マンガらしい作風である。だが、当時主流であった男女のラブコメディー(以下ラブコメ)を描くことより、時に主人公を取り巻く少年や男性同士の関係性のほうが色濃く描かれる場合があり、それがあさぎり夕作品の味となっている。

*このコーナーは3回の会期すべてで展示替えをする

No.01
あいつがHERO!


《連載期間》なかよし1981年5月号~1982年3月号
《展示品》あいつがHERO! 原画

《あらすじ》
 主人公の若菜は高校に入学したてのお嬢様。幼いころに読んだ童話『ライラックの王子様』に出てくる理想の王子様との恋を夢見ているが、若菜の父親は勝手に婚約者を決めてしまう。
 婚約者の竜はバンカラで乱暴な剣道部の番長。自分の理想とは正反対の婚約者の姿にショックを隠せない若菜だったが、学校で偶然再会したいとこ・一人(かずと)が理想の王子様そっくりでさらにビックリ!
 一人にあこがれつつも、イジワルで鈍感なはずの竜に惹かれていき……?


《解説》
 後にあさぎりが「一番好きな作品」と記す、初のオリジナル連載(原作付きではない連載)。本作に登場する竜と一人は、その後のあさぎり作品の “短気なお元気少年と、クールな黒髪優等生”(『僕達の夢伝説』小学館パレット文庫1996年2月1日あとがきより) のルーツであり、あさぎり初の商業BL作品「僕達シリーズ」の由鷹と泉もこの流れから生まれた。主要な男性二人のみならず登場人物とその関係性が、みな、後のあさぎり作品に受け継がれている。

*展示品は講談社KCなかよし1巻カバーに使用したイラスト


No.02
こっちむいてラブ!


《連載期間》なかよし1982年5月号~1983年12月号
《展示品》こっちむいてラブ! 原画

《あらすじ》
 14歳の野々村愛里(通称・ラブ)は、高校生カメラマン・浜口草に見いだされ、正体不明の美少女モデル「アリサ」として人気を集める。
ある日、17歳のスタントマン・剣崎暁と出会い、相思相愛の間柄に。しかし、冷徹な美容師・小早川京介がふたりの仲の邪魔をする。
 実は、京介の妨害には深い理由があった。自分にとって大切な幼馴染の草とラブを結びつけたかったのだ。引き裂かれても想いあう、ラブと暁の恋の結末は⁉


《解説》
 脇役である小早川京介の浜口草への思いからくる行動が、ヒロインの恋愛というメインストーリーを引き立てるという以上に目立つ作品。京介は後のBL作品「ラヴァーズ キス」「めぐり逢い」にも登場し、あさぎり自身

“この先も思い出したように小早川京介シリーズは書くと思う”

(『ラヴァーズ キス』芳文社1999年より)

と記していたお気に入りのキャラであったが、続きは発表されなかった。

*2期と3期の正面壁に「ラヴァーズ キス」のカラー原画を展示。「こっちむいてラブ!」の原画は、1期にKCなかよし4巻カバーに使用したもの、3期に『なかよし』1982年6月号トビラ用のカラーイラストを展示


No.03
なな色マジック


《連載期間》なかよし1986年5月号~1988年8月号
《展示品》なな色マジック 原画

《あらすじ》
 7月7日生まれの斉藤奈々子は「ラッキーセブン」を信じる中学2年生。アイドル活動をしている双子の姉・相本友理と幼いころから比べられ、コンプレックスで可愛げのない性格に育ってしまった。
 クラス替えによって、目立ちたがり屋で単細胞な小林一樹と隣の席になったことから、奈々子の学校生活は大きく動き始める。演劇、ダンス、恋、友情……さまざまな出来事を通して、奈々子が本当の自分と向き合っていく群像劇。


《解説》
 あさぎり少女マンガの魅力がギュッとつまった、第11回講談社漫画賞受賞の代表作。
 通常なら主人公を取り合うライバルとなるはずの、ダンサーでロック歌手のBに対する一樹の親愛の情が、時に奈々子へのそれより熱く描かれる。しかし、それがむしろ作品全体の魅力となっている。

*1期にKCなかよし1巻、2期に2巻、3期に3巻のカバーに使用したカラーイラストを展示
 各期に奈々子と一緒に描かれている男の子は、1期は一樹、2期はB、3期は演劇部部長の藤村良


No.04
アイ♡BOY


《連載期間》なかよし1988年9月号~1990年9月号
《展示品》アイ♡BOY 原画

《あらすじ》
 運動神経抜群で元気いっぱいの女の子・羽鳥愛子は、父親の転勤による引越しを繰り返した末に、7年ぶりに幼いころの思い出の地に帰ってきた。探していた初恋の男の子と同姓同名の高見翔と仲良くなったものの、彼は昔のことをまったく覚えておらず、愛子は困惑する。
 一方、文武両道で容姿端麗なクラスメイト・美杉カイの存在にも惹かれてしまう愛子。翔とカイの間で揺れ動く恋心を軸に、自分らしく生きていこうとする少年少女の姿を描く青春ストーリー。


《解説》
 本作の翔で、あさぎりの短気で単純かつ元気な少年キャラは確立されたという。クールな黒髪少年カイへの翔のこだわりが、やはり通常の少女マンガでの少年少女の恋愛模様より濃く描かれる本作。また、本作登場の中津川那智(通称・ボウイ)のような、女性的艶やかさをもつユニセックスで大人な男性キャラも、デビューのころからBL作品にいたるまで、あさぎりの定番キャラだといえる。

* 1期にKCなかよし1~3巻カバー使用の3点、2期にふろく用1点、3期に、『なかよし』1988年2月号、10月号、11月号のトビラ用3点のカラーイラストを展示。1期には翔とカイ、2期と3期に翔・カイ・ボウイが描かれるイラストを展示


No.05
アイ♡BOY


《連載期間》なかよし1988年9月号~1990年9月号
《展示品》アイ♡BOY 原画


No.06
アイ♡BOY


《連載期間》なかよし1988年9月号~1990年9月号
《展示品》アイ♡BOY 原画


No.07
ミンミン!


《連載期間》なかよし1989年10月号ふろく~1992年9月号ふろく
※ふろくの他、なかよし、なかよしDXなどで断続的に連載
《展示品》ミンミン! 原画

《あらすじ》
 貧乏高校生・村上一矢(むらかみいちや)は、道端で拾った人形に何気なくキスをする。すると、その人形は魔法使い・ミンミンに姿を変えた……。一矢は、ミンミンに「お金持ちにしてほしい」とお願いするが、その願いは全く叶う気配がない。なんとミンミンは、修行のために人間界へ落とされた落ちこぼれ魔法使いだったのだ。
 ふたりの前に次から次へと現れる、変テコで癖の強い魔法使いたち。彼らが起こす摩訶不思議な事件に巻き込まれ、てんやわんやな日常を送りながらも、一矢とミンミンは互いへの想いを強めていく。


《解説》
 『なかよし』掲載のあさぎり少女マンガ後期に描かれた「ミンミン!」と「コンなパニック」は、比較的恋愛要素の薄いファンタジー作品。年齢性別を問わず親しむことのできる普遍的魅力を放っている。あさぎりは度々ファンタジー好きであることを公言しているが、それもうなずける。

*1期にKCなかよし2巻、2期に5巻カバー使用のカラーイラストを展示


No.08
コンなパニック


《連載期間》なかよし1991年1月号~1992年11月号
《展示品》コンなパニック 原画

《あらすじ》
 如月(きさらぎ)まいは運動音痴な中学2年生。バスケットボール部のエース・河合卓巳(かあいたくみ)に密かな恋心を抱き、勇気を出してアプローチしようとするが、ひょんな事からキツネ族の血が目覚めてしまう。
大好きな卓巳にもっと近づきたい、でも自分がキツネ人間だという秘密を隠し通したい―――。
葛藤を抱えながら、あわただしく過ぎていくまいの日常を描いたファンタジックラブコメ。


*1期に1巻、3期に4巻カバーに使用のカラーイラストを展示




◆デビュー前コーナー1

No.09
◆未発表原稿群について


《展示品》
【未発表】リシャール=ベルモン記 バラの幻想 「危険な遊び」編 トビラ 原画
《制作年月日》
1973年3月31日(原稿のラストページに記載あり)

《解説》
 あさぎりは小学4年生のころ、西谷祥子(にしたに よしこ)に影響を受けマンガを描き始めたという。そして1970年に竹宮惠子(たけみや けいこ)の「サンルームにて」、71年に萩尾望都(はぎお もと)の「11月のギムナジウム」が発表された70年代初頭、多くの少女たちが男性同士の恋愛ファンタジーの世界を発見し夢中になっていった。あさぎり夕もその一人である。
 同人誌での展開もまだそれほど盛んではなく(第1回コミックマーケット開催は1975年)、「風と木の詩(うた)」(1976年連載開始)も、この世界を醸成する商業誌『June』(1978年創刊)もまだ無かったころに描き残された900枚以上の未発表原稿(投稿作のぞく)の内、500枚以上が男性同士の世界を描いたものであった。
 展示のリシャール・シリーズ(詳細は中央のぞき込みケース参照)「バラの幻想「危険な遊び」編」は、高校2年生、16歳の時に描かれた71ページの未完の作品。少年と少年のベッドシーンも登場する。絵柄的には竹宮惠子、キャラの体格的には当時大人気であった西谷祥子の影響がみえる。本人も後に記すように、当時主流になっていく「耽美(たんび)」とは別方向の嗜好がみてとれる。


No.10
◆青年同士を描いた未発表作


《展示品》【未発表】 アウトロー(リード、ジャック、コール) トビラ 原画
《制作年》1973年ごろ

《解説》

 “〈闘う男〉の話が好きだったんですよ。敵同士の男が闘いの中で徐々に信頼を築き、魅かれあっていくと──…、そういうのが最高ですね。”

(『ノックを3回』芳文社1996年あとがきより)

と後年記しているように、1973年の後半には、少年同士というよりは男性同士といえる、青年3人の性愛を含む関係を描くようになっている。制作年は、他のリード・ジャック・コールのシリーズに記載の年と絵柄から推測。18ページ未完。おそらく高校2年生17歳のころの作品である。このシリーズには他に「ある日のエミリオ・ルナール」と題された3部作がある。
 リードとジャックはプロデビュー作「光めざして飛んでいけ」(1976年)と、初期コメディの代表作「ちょっぴり危険なラブ講座」シリーズ2作(1978、79年)にも登場する。後者ではジャックはエースという名になっている。


No.11
◆投稿時代について


《展示品》「サラマンダー」投稿時の批評用紙
《評価発表号》なし(1973年制作)※批評用紙ではASクラスだが、この時期は誌面にはASクラスのカテゴリはない

《解説》
 あさぎりは、マンガ家になっていなかったら何になっていたかと問われると、いつも「マンガ家を目指していました」と答えていたそうだ。マネージャーによる証言である。
 男性同士の性愛を含む関係を大量に描く一方で、30作以上の投稿と持込みを繰り返したあさぎりだが、投稿先は、その大半が当時少女マンガ家の登竜門であった「別マまんがスクール」であった。投稿作は原画が現存するものと、批評用紙のみあるものから枚数を割り出したものをあわせると、おそらく450ページ以上は描いている。

“高校1年の時に、初めて男の子同士の恋愛マンガを某マンガスクールに投稿したんだけど……、その時の批評が「こういうものは理解されません」でねー。それまでただ好きで描いてたマンガに「受け入れてもらえないジャンルがある」という壁にぶつかっちゃって”

(『ノックを3回』芳文社1996年あとがきより)


この時の投稿作のタイトルは「サラマンダー」。批評用紙(「少女まんがスクール応募原稿への批評」)が今も残る。投稿先の『別冊マーガレット』は、現在も、少女マンガ誌の中でもっとも「王道少女マンガ」を掲載する雑誌である。当時、男性同士の恋愛を描くことは一部のマンガ家の特権的な扱いで、新人はまず誰もが親しめる作品を、という方針が批評から伝わってくる。批評全体を通して読むと、講評者があさぎりに大きく期待していることがわかる。

*本ケース下、ケースNo.17~29にて「サラマンダー」全16ページを読むことが出来る

批評用紙①裏面

批評用紙②裏面


批評用紙①表面(コピー)

批評用紙②表面(コピー)


No.12


《展示品》【投稿作】サン トビラ 原画
《評価発表号》なし(1973年制作)

《解説》
 本作は、批評用紙がAクラスで戻ってきているため投稿したのはまちがいない。だが誌面にそのタイトルはみられない。おそらく、評価の発送日が同じである「タムタムの笛」と2作同時の投稿だったのではないかと推測できる。「タムタムの笛」は『別冊マーガレット』1973年6月号、第59回のスクール結果発表誌面にタイトルが掲載されている。
 当時は、投稿原稿1枚目の裏がわに「応募券」を貼って投稿した。あさぎりの「応募券」にある「あなたのすきなまんが家」欄には、いつも「竹宮恵子、萩尾望都」の名が記されていた。
 スクールへの12回目の投稿作である本作は、久々に萩尾望都の影響を色濃く感じさせるギムナジウムもの。
 左隣のケース(No.13)の批評に見られるように、「とにかく作家意識が低すぎます」「ただ趣味でかいているならどんなかき方でもかまいませんが」と、かなり酷評である。一方で大きく期待しているのにじれったい、とも記されている。


No.13


《展示品》【投稿作】サン 批評用紙
《評価発送日》1973年4月25日

批評用紙①表面

批評用紙②裏面


批評用紙①表面(コピー)


No.14


《展示品》【投稿作】花のころに トビラ 原画
《評価発表号》1974年『別冊マーガレット』10月号/第76回
      「別マ少女まんがスクール」佳作

《解説》

 “もう17年ほど、小中学生向けの学園恋愛物を中心に描いてきました、が、実はこれが一番苦手なジャンル” “少女マンガを描くには、かなり自分の趣味を押さえないといけなかったんです”

(「僕達の始まり」小学館1994年あとがきより)


 『なかよし』でのあさぎりの成功を知る者には謙遜とも取れる言葉である。しかし投稿作や未発表作をみていくと、求められる作品と描きたい作品との調整に長い模索があっただろうことが読みとれる。あさぎりは “苦手は克服したい性格だった” とも上掲のあとがきで記している。
 展示品は、投稿時代の「少女マンガらしい」作品のひとつ。左隣のケース(No.15)の批評から、評者の鈴木光明は銀賞に押したが佳作となったこと、また、この月の「別マまんがスクール」の投稿数が450作を超え、入賞の競争率がかなり高かったことがわかる。その中にあってあさぎりは、“どんなものをかいても努力賞以上に入るのは確定したようなもの”と太鼓判を押されるほど入賞の常連だった。
 結局、15歳から20歳まで5年間の集英社『別冊マーガレット』への投稿時代を経て、講談社『なかよし』にアプローチ先を変更し、1年経つか経たないかの1976年にデビュー。学園ラブコメに手ごたえを感じるようになったのは、デビューからさらに3年目の1979年であった。


No.15


《展示品》【投稿作】花のころに 批評用紙、賞状
《評価発送日》1974年9月10日

賞状

批評用紙裏面


批評用紙表面(コピー)


No.16


《展示品》花と美少年 原画
《展示品初出》なかよしデラックス 1979年9月号

《解説》
 あさぎりは1979 年に発表した「花詩集 こでまりによせて」で少女マンガ家としての手ごたえを感じたと後年述べている。その発表の少し後に出た『なかよしデラックス』1979年9月号は、表紙、折込ピンナップの両面、巻頭カラー4ページ含む読み切り62ページをあさぎりが担当。さながら「あさぎり夕特集号」である。おそらく編集部もあさぎりを推すことを意識した、後の快進撃につながる号だったのではないだろうか。
 ピンナップ裏面用のこのイラスト「花と美少年」は、そばにあさぎりによる「美について」というコラムが添えられている。デビュー3年目。後のBL進出を知っていると、当時流行っていた耽美の香り漂う気になるイラストである。結局あさぎりは、美少年・耽美というより、もう少し荒々しくマッチョな美しさのほうに向かっていったが、美少年・耽美の方向も模索していたことがわかる。

*2階関連書籍コーナーにて手に取ることが出来る












デビュー前コーナー2

No.17-29


◆サラマンダー

《展示品》【投稿作】「サラマンダー」コピー
《評価発表号》
『別冊マーガレット』1972年11月号/第53回「別マまんがスクール」Aクラス
※批評用紙ではASクラスだが、この時期は誌面にはASクラスのカテゴリはない

《あらすじ》
 美しい少年レオンハルト・ローレンツは、行方不明になった姉・テレジアを探し、霧が立ち込めるグラープ家の館にたどり着く。そこで館の主人、シェーン・グラープと出会い、互いに惹かれ合っていくものの、シェーンが抱える重大な秘密がふたりを引き裂いてしまう。
 周りに馴染めず孤独を抱えた少年たちの恋を描いた、ファンタジー色の強い短編ラブストーリー。

No.17

《解説》

“この作品を描いたのは高校一年生の夏、7月21日、私の16歳の誕生日に完成した・・・・・と言うより、わざとさせたのですが、記念すべき作品なのであります。”

(手作り冊子『闇に生きる者たちへ・・・・・』1987年より)

投稿時代に少年同士の恋愛を描き、その後二度リメイクするほどお気にいりの作品。あさぎりは本作を描きあげたことで、プロになる決心をした。
 男性同士もそうだが、本編のもつ異端、マイノリティであることによる孤独、孤立という題材は、当初からあさぎり作品の根底にある重要なテーマである。

“小学校5年生だったかな、突然、自分と周囲との間に見えない壁があるのに気づいたんです” “『孤独』は、あさぎりにとって、作品を描く上での原動力となった最も重要なテーマで、またそれがなければ、書き続ける必要もなかったのかもしれません。”

(『秘密の花園』集英社1998年あとがきより)


 男性同士は、当時、今よりずっと異端・孤独に通ずるところがあった。それゆえに惹かれたテーマだったのかもしれない。


No.18

No.19

No.20

No.21

No.22

No.23

No.24

No.25

No.26

No.27

No.28

No.29


No.30


《展示品》【未発表】サラマンダー原案イラスト 原画
《制作時期》中学時代 1969~71年ごろ

《解説》
 中学生のころ、投稿作「サラマンダー」以前に描いた作品のもととなったイラスト。
 サラマンダーの化身の女性と王子様のラブロマンス用の表紙として描かれたものらしい。


No.31
◆サラマンダー2作目「飛べない天使」と3作目の「サラマンダー」


《展示品①》未発表「飛べない天使」トビラ 原画
《制作年》1974か75年
《展示品②》3作目の「サラマンダー」掲載誌
《掲載号》なかよし 1977年4月増刊号

《解説》

“男同士は受け入れてもらえないという思いがそうさせたのですが、はっきり言って、これは失敗でした。”

(手作り冊子『闇に生きる者たちへ・・・・・』1987年「うちあけ話」より)


 高校3年生の冬、設定を変えて描かれた「サラマンダー」2作目の「飛べない天使」は男女の恋愛ものだった。

“この作品は高校1年の時に描いた16ページの短編のリメイクでして、その時には主人公は男の子でした。つまり、今でいうところのボーイズラブ物だったのですが、さすがにそれはできん、と言うことで、男装の美少女に変えたわけです。今はボーイズラブ真っ盛り。いい時代になったもんです。”

(『青い宇宙のルナ』文庫版 講談社 1999年あとがきより)


 タイトルもそのまま商業誌でついに発表した「サラマンダー」3作目に、上記解説の10年以上後にそえた解説にはこのようにある。
 描きたいものをあきらめず模索しつづけるあさぎりの姿勢が、「サラマンダー」の創作経緯を通して伝わってくる。


No.32
◆手作り冊子『闇に生きる者たちへ・・・・・』


《展示品》『闇に生きる者たちへ・・・・・』完成品と試作品各1部
《制作年》1987年1月
《発行》YOU SECOND あさぎり夕

《解説》
1987年に10部程度作った30ページの手作り冊子には、投稿時代の「サラマンダー」(1972年)全16ページと、同作とそのリメイク作などについての詳細な裏話が記されている。
「闇に生きる者」とは、「サラマンダー」のシェーンやレオンハルトをはじめ、当時のメジャー少女誌では発表しにくかった悲劇的ファンタジーに登場するキャラたちのことである。

“もしもいつか私が読者のためでなく自分自身のために作品を描くことができるようになった時 もう一度シェーンとレオンハルトをよみがえらせるかもしれません。”


自作解説の最終部分にはこのように記される。この冊子から7年後の1994年。本来苦手だった少女マンガの一線から引き自然体でやっていこうと思い始めたころ、あさぎりは、初のオリジナル小説で、もうひとつ封印していた男性同士の物語=BLを書いた。そうして生まれたのが「僕達シリーズ」の泉と由鷹だった。悲劇的ファンタジーではなく造形もずいぶんちがうが、彼らが後のあさぎりにとってのシェーンやレオンハルトだったのかもしれない。 この冊子は、あさぎり自身が作ったある意味同人誌的なものだが、大部数刷られたわけではなく、ごく身内に配ったのみの私家版の冊子であった。ちなみにあさぎりの同人誌活動としては、デビュー前や80年代ごろ、学校や友人の同人誌に参加しアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」「宇宙戦艦ヤマト」「コンバトラーV」「聖闘士星矢」などのイラストやマンガを残している。

*2階関連書籍コーナーで本展示用に刷った『闇に生きる者たちへ・・・・・』のコピー冊子を手に取ることが出来る




◆中央・覗き込みケース展示

リシャール・シリーズについて

《解説》
 リシャールはあさぎり夕が若いころから描いていたキャラクターであり、彼女の未投稿未発表の原稿の中で、もっとも多く存在現存する男性同士の関係性を描いたシリーズものである。原稿にして270枚以上ある。
 彼は弟のアンリとも母とも死別するさびしい境遇の少年で、全体に、喪失感とそれによる歪みがテーマとなっている。愛憎や確執が描かれ、人間関係が入り乱れている。その時々でカップルの相手も変わるが、いつも見守り役、ふりまわされる役のキャラがいる。相手は少年から青年へと変わっていったようだ。それぞれの話は必ずしもつながっているわけではない。習作ならではの試行錯誤というだけでなく、後の商業BLでの様々なシリーズものの人間関係の交錯ぶりは、当初からだったことがわかる。
また、当時もプロになってからも、設定の整合性などにはあまりこだわりが無いが、人物たちの気持ちの整合性は大切にしていたことがみてとれる。リシャール・シリーズ以外にも、バリエーション的なフランソワという少年を主人公にしたシリーズがある。
 あさぎりは、自身の書きたいものについて次にように記している。

“ジャンルや表現方法は違っても、あさぎりにとってはどれも根っこは一緒。書きたいものはただ一つ。(略)「人間関係なんて、すべて、恋愛みたいなもんかもしれない。」と――…。この言葉につきるわけです。”

(『僕達の恋愛論』小学館1994年あとがきより)


 それが、初期のころからだったことも、リシャール・シリーズをはじめとする男性同士を描いた作品群をみると理解できる。

《展示品①》
封筒(「リシャール 高一 中学」の記載有) /1969~72年ごろ

《展示品②》
【未発表】無題(リシャール・シリーズ) 原画/1969~72年ごろ
《解説》
リシャール・シリーズの最も初期のもの。あさぎり夕の手によってリシャール関係のイラストや原稿が21枚分まとめて入っていた。その封筒の中の一番上にあった原画が展示品。無題で未完の10ページの作品中の1ページ目である。母と双子のアンリが登場している。

《展示品③》
【未発表】リシャール=ベルモン記 バラの幻想「新なる愛の世界」編
トビラ 原画/1973年ごろ
《解説》
 制作年は絵柄より推測した。おそらく16歳ごろの作品。トビラに霧の様な点描で描かれるキスシーンが印象的である。ここでのお相手は少年ラトマンド。40ページの作品である。

《展示品④》
【未発表】無題(リシャール・シリーズ)  原画/1973年ごろ
《解説》
 制作年は絵柄より推測。お相手は青年ジュリアン。17ページ、未完。

《展示品⑤》
【未発表】少年たちの神話 トビラ 原画/1974年ごろ
《解説》
 ラストページの裏に住所氏名などとともに「17才」の記入あり。投稿用の書き込みだろうが、実際投稿したかどうかは不明。リシャールの双子のアンリが別の名前で登場し、後に実はアンリだとわかる。16ページ。



◆Sケース

他作家がイラストやマンガを担当している あさぎり夕作品

《展示品》Mr.シークレットフロア・シリーズ
     他作家がイラストを担当している作品例
《解説》
 あさぎり夕の小説群は、その大半をあさぎり自身がイラストを担当している。あさぎりがイラストを得意とするマンガ家であったからできたことである。
 多忙のためもあり、00年代中ごろよりイラストやマンガを他作家が担当することも増えた。担当するのは名だたる顔ぶれたちである。
 イラストやマンガの担当が自身でないときは、その人の作風を思い浮かべながら書く。すると普段の自分には書けない新たなキャラクターやシーンが書ける、といつも喜んでいた。
 Mr.シークレットフロア・シリーズは、イラストとマンガをともに剣解が描いた。小説とマンガが並行して展開し、小説版単行本が10冊、マンガ版単行本が6冊出版される大人気シリーズとなった。このシリーズ「Mr.シークレットフロア ~つがいの法則~」1話目(『BE・BOYGOLD』2018年12月号)が、あさぎりの遺作であり、2話目の執筆に取り組んでいる途中での逝去となった。



◆台付きケース

◆あさぎり夕の最初の商業BL作品「俺達の始まり」他、文庫5冊

《展示品》「僕達シリーズ(泉&由鷹シリーズ)」1~5 文庫
《解説》
 「僕達シリーズ」は、あさぎり夕がプロ作家としてBL小説を書き始めた最初の作品にして長期シリーズ化した、あさぎりBLの代表作。「泉&由鷹シリーズ」「泉君シリーズ」「僕達シリーズ番外編」等から構成される。

*僕達シリーズ1~5 文庫本
  1僕達の始まり 小学館パレット文庫 1994年6月20日
  2僕達の熱い夏 小学館パレット文庫 1994年9月20日

以上2点の原画を1期に展示



  3僕達の恋愛論 小学館パレット文庫 1994年12月1日

以上1点の原画を2期に展示



  4僕達の長い夜 小学館パレット文庫 1995年3月31日
  5僕達の仮面劇 小学館パレット文庫 1995年4月1日

以上2点の原画を3期に展示