「BEASTARS」では、違う種族が交わることで物語が動き出す。しかし分かれているのは種族だけではない。同じ種族でも性別が違えば特徴も変わり、両者がかかわることで、また新たな物語が始まる。作者が女性であること、掲載誌が少年誌であることも要素としてまじりあい、獣たちのみずみずしく苛烈な恋愛が展開されてゆく。
《壁ケース展示》
No.01
※第2期・ケースNo.01と同じ
No.02
※第2期・ケースNo.02と同じ
No.03
※第2期・ケースNo.03と同じ
No.04
ジュノ
種族:ハイイロオオカミ
16歳メス。レゴシと同じハイイロオオカミ種の少女。性格は社交的な努力家。演劇部の役者チーム所属。入部当初はその美貌のため嫉妬から距離を置かれていたが、持ち前のエネルギッシュな社交性で信頼を勝ち取っていった。実は野心的な性格で、肉食獣の地位向上のためビースターの座を狙っている。ルイ曰く「なんでも手に入れられると思っている傲慢な女」。
《板垣巴留コメント》
外も中も複雑なハルちゃんの他に、正統派美少女を取り入れるという意味で登場したジュノちゃんです。美人な子は色々なものに恵まれてきたから、ひねった所もなく、性格も良いんじゃないかな? と思いながら描き進めてたら、なんだかジュノのことを楽しく描けなくなってきたので、31話で思い切って動かしたら俄然好きになっちゃいました。
(『BEASTARS』4巻より)
『BEASTARS』6巻カバー
2017年12月15日、秋田書店
No.05
※第1期・ケースNo.05と同じ
No.06
エルス
種族:アンゴラヤギ
17歳メス。演劇部のダンスチーム所属。ほがらかな性格で、周囲の様子によく気が付く。肉食獣とも分け隔てなく接しており、第1話でレゴシの心優しい性格を知ってからはレゴシとも打ち解ける。特にトラのビルとは仲が良く、新歓公演を前にしたビルの緊張を見抜くなど気にかけている様子が見られた。アルパカのテムの片思いの相手であること、ビルの「エルスがメストラだったら俺マジ抱けるわー」発言など、ひそかにモテる女性である。
動物を描く理由
《板垣巴留コメント》
もともと動物だけの世界を描いていました。人間と動物の世界は遊びで描いていたりもしたんですけど、みんなやってるしなぁという気持ちもあり、「BEASTARS」では完全に動物だけの世界にしました。
その動物固有の造形の良さは反映したいと思っています。オオカミの猫背や鼻の長さとか、ライオンは顔が角ばってて鼻が横長なところとかがいいなぁとか。そういうキャラとして良いぞ、という部分は取り入れています。動物の体の良さは後ろ足が逆関節なところだと思ってたんですけど、あれを取り入れて描いてみたらどうしても気持ち悪くなってしまって。なので骨格は人間ですね。後ろ足かっこいいんですけどね。
第78話「無農薬の果樹園」より
『週刊少年チャンピオン』2018年20号
No.07
アオバ
種族:ハクトウワシ
17歳オス。演劇部の役者チーム所属。穏やかな性格で、調和を重んじる。おなじ大型肉食獣としてレゴシやトラのビルと仲が良い。長く付き合っている彼女がいるおかげで恋愛相談はお手のものである。アオバは、裏市は大人になれば必ず利用する場所であるとし、ビルとともに肉を食べようとするが、草食の友人を思い出してためらう様子が見られた。彼もまた共存と食欲の狭間に思い悩んでいる。一人暮らしを始めたレゴシのもとを訪れるなど交流は続いている。
第59話「信徒の生き甲斐」より
『週刊少年チャンピオン』2017年51号
No.08
カラーについて
《板垣巴留コメント》
カラーは、基本は水彩ですね。固形で、パレットとセットになっている奴です。大学の頃からいまだに使い続けてて、減ったら買い替えられるのに「減らないなぁ」と思いながら使ってます。なんとなく使ってる絵具なんですけど、付き合いが長くなると特徴とか良さが分かってきますね。コピックも併用したりしてます。色のノリが全然違うのでこれもいいですね。最近はアクリル絵具もよく使ってます。水彩みたいにぼかしでごまかしが効かないし意外と技術が必要です。その分、かすれや塗り残しが映えるので、みんなが「お」って見てくれるような絵になるんですよね。アクリルは絵具の重なって盛り上がってるのが分かるのでより原画感があります。やっぱり原画はいいですね。
色は青をめっちゃ使いますね。透明色の青が、やっぱり汎用性が高いです。カラーの紙はマルマンのスケッチブックを使ってます。特別な紙だと気負い過ぎてしまうので。手に入りやすいからというのもあります。
『anan』描き下しイラスト
『anan』2018年15・22日合併号
No.09
ハルとレゴシ
両者ともまだお互いの名前も知らない頃。ハルは、庭園の世話を手伝ってくれたお礼としてレゴシに身体をゆだねようとするが、レゴシはパニックになりながらハルの背にシーツを掛けて立ち去る。ハルが男女関係に手慣れた雰囲気であるなど、一般的なヒロイン像とはかけ離れたキャラクターであることが示されるシーン。
レゴシが惹かれた理由
《板垣巴留コメント》
13巻にあるように、レゴシの特殊な性癖が、ハルに惹かれた理由ですね。ちっちゃい草食獣を性的な目で見てしまう生まれ持った性癖です。性癖っていうのは、自分ではどうにも変えられない厄介なものだと私は思っていて、それがハルによって目覚めさせられた、という感じです。目覚めさせてくれた相手がハルで良かったと思います。もしハルが真摯に向き合ってくれる子でなければ、もっと凄惨な事件に発展していたかもしれないので。
第9話「風立ちぬ(ただし見えない所で)」より
『週刊少年チャンピオン』2016年49号
No.10
ハルとルイ
レゴシとハルの再会の後日、同じ部屋で会うルイとハル。ルイとハルの出会いは2年前にさかのぼり、その頃から関係がある。ハルはルイを肉体だけの関係ではなく、恋愛対象として考えていた。しかしどうやら両者の関係は表向きには秘されているようだ。「BEASTARS」の世界では、異種族間の恋愛は学生のうちのお遊び程度とするのが常識とされている。ルイはすでに決められた婚約者がおり、ハルともいずれ終わる関係と考えている様子が見られた。
第17話「遠吠えのイヤイヤ症候群」より
『週刊少年チャンピオン』2017年7号
No.11
ジュノとレゴシ
演劇部でレゴシがジュノのダンスを指導するシーン。「BEASTARS」の世界では同種族による恋愛・結婚が良いものと考えられている。ジュノは、レゴシに助けられたことをきっかけに同種族のレゴシを強く意識している。誰が見ても美形と言われるジュノと触れ合っても、レゴシはあくまでただの後輩として見ているようだ。レゴシはこののちも、ジュノと自分ごときには縁がないと思い込み、ジュノの好意に気付いていなかった。レゴシの容姿は、演劇部仲間から素材は悪くないという評価を受けたり、ジュノからは大変なイケメンに見えているなど、好みはあれど整った容姿であるようだ。
第27話「ジャストフィットを見てよ」より
『週刊少年チャンピオン』2017年17号
No.12
ハルとジュノ
ハルとジュノが出会うシーン。シシ組による誘拐ののち、レゴシとハルは親密になってゆくが、それに感づいたジュノが牽制する場面である。レゴシへの好意を隠そうとしないジュノに対し、レゴシとの関係をつかみかねるハルははぐらかすような答えを返すのだった。
ジュノはハルを見て「ちんちくりん」という感想をもち、ハルはジュノに対し肉食獣の強さ、美しさを感じとる。お互いに自分と真逆の存在と認識しているようだ。
第45話「睫毛の奥のブラックホール」より
『週刊少年チャンピオン』2017年36・37合併号
No.13
恋の障害(被食者の本能)
屋上庭園での情事(未遂)ののち、レゴシがハルの名前を聞こうとして一緒に昼食をとるシーン。
レゴシの牙がのぞくたびに反射的に逃げ出そうとしてしまうハルだが、にこやかな表情のままそれを押し殺している様子が見られる。
レゴシが惹かれた理由
《板垣巴留コメント》
こういうシーンは、この世界で肉食と草食が向き合って食事するときによくあることなんです。なので本当はあまり向き合って食事はしないんですね。ここで不快感をあらわにしなかったのは、ハルだからこその優しさですね。後ろに描いた本能の影は、見開きにするなら見ごたえのあるように描こうと思いました。イメージとして、大勢の声が聞こえているという感覚を想像したんですが、草食獣はグループで過ごすことが多いのが表れているのかもしれません。
第19話「ガウガウ君の名は」より
『週刊少年チャンピオン』2017年9号
No.14
恋の障害(捕食者の本能)
ゴウヒンのカウンセリングのシーン。ハルと仲良くなりたい、ハルのことをもっと知りたいというレゴシの感情は、無意識下の狩猟本能がカモフラージュした姿だと指摘している。これまで診察した肉食獣の中には類似のケースがあったとゴウヒンは語る。ハルに対する感情が捕食対象への興味なのか、ただちっちゃくて可愛いものが好きなのか、この時点ではレゴシ自身にもわからなかった。シシ組からハルを救い出したあと、レゴシは「自分の獲物を奪われた気持ちになった」と語っているが、そのあとには、ハルのことが好きだから食べたりしない、とも発言している。
第25話「視界は滲むし全部嫌だ」より
『週刊少年チャンピオン』2017年15号
No.15
恋するオオカミ
ゴウヒンのカウンセリングを受けて、ハルから距離を置こうと決心するレゴシ。しかしハルの笑顔がルイに向けられていることに気付いた瞬間、レゴシは自身の恋心を自覚する。この前ページでは、心の中で「ハル」と呼び捨てにしている様子が印象的である。彼の一人称が常に「俺」であるなど、本質的に獰猛さを秘めていることがうかがえる。
《板垣巴留コメント》
イヌ科の嫉妬深い部分が描きたいなと思ったところです。
「BEASTARS」の世界では、イヌ科がとても嫉妬深い、独占欲が強い種族として描かれていて、レゴシがハルを好きだと自覚するのは、やきもちを妬いたときにしよう、と決めていました。嫉妬というのは、私にとってとても苦しい負の感情で、激しいものだと思います。なので、嫉妬にかられたレゴシはこんなだれか殺したみたいな表情になってます。苦しさ怒り悲しみが全部高まって、絵具を握りつぶしてしまって。8巻のカバー裏にあるみたいに、イヌってそういう嫉妬深いイメージがありますね。なでるのをやめるとすごい怒るとか。そういうのもイヌの可愛いところだと思います。
第28話「その感情、極彩色」より
『週刊少年チャンピオン』2017年18号
No.16
抱くか、食べるか
ハルをシシ組から救出した直後、ラブホテルでのシーン。かつての出会いの瞬間と同じ体勢になりながら、ハルを傷つけた獣が自分であることをレゴシは告白する。ハルはそれに気づいていたと答え、どのような関係になるか、レゴシの選択に身をゆだねようとする。続くページでは、「遺伝子からの叱責」と表現された、あらたな障壁が両者の間にあることが示される。
第44話「温い汗に固められ」より
『週刊少年チャンピオン』2017年35号
No.17
ねぇ
隕石祭での告白ののち、学園内の目につきにくい場所で待ち合わせるレゴシとハル。ウサギとオオカミが無断外泊で朝帰りした、という事実はスキャンダルとして学園に広まっており、好奇の目を避けるための密会である。告白をして両者の距離は近づいたものの、その関係はまだ「ねぇ」である。恋愛をしているものの一線を越えたわけでもなく、一般的ではない組み合わせである彼らの関係は言葉で言いあらわせないようだ。
レゴシの頬をびろーんと伸ばすハルと、されるがままのレゴシの姿は、非常にかわいらしい。
第50話「炎のオセロ」より
『週刊少年チャンピオン』2017年42号
No.18
レゴシの原動力
学園から姿を消したルイを心配するハルに対し、力強く答えるレゴシ。ハルに対する恋心が大きくなるのに比例するかのように、レゴシは守る対象を大きくしてきた。たとえば、このシーンの以前から、ハルの安全のために学園を平和にしようと考え、学園の警備員・ロクメからの依頼もあり、レゴシはアルパカ食殺事件の犯人を捜すようになっていた。レゴシの原動力は草食獣を守らなければならないという感情で、必要となった場面では大きな力を発揮する。
ハルにとっては、このシーンのように、それに助けられる場面もあるが、さみしく感じることもあるようだ。
右下のコマ、蛾が飛び立っているのは、成長したレゴシが自身の決意を行動に移し始めたことを暗示しているのかもしれない。
第83話「ただの抱擁は布団にでも託します」より
『週刊少年チャンピオン』2018年26号
No.19
ハルの恋愛観
ウサギのミズチからのいじめに抗うハル。いじめの原因はミズチの恋人がハルを相手に浮気したことだった。いじめに対しては、状況を悪化させないために無抵抗でいることもあるハルだが、大型動物相手にも物怖じしないことを考えると本来は、この場面のようにはっきり主張する性格である。
ここはハルの恋愛観が表れているシーンでもある。幼い見た目に反して大人びた、恋愛慣れした女性であることがわかる。
第18話「獣の盆、彼らが夏」より
『週刊少年チャンピオン』2017年8号
No.20
対等な関係
ハルが死の危機を前に回想するシーン。彼女が多くの男性と関係をもってきた理由が明かされる。大人になりつつあった感性と、自身の幼い見た目のギャップ。それを埋めようと模索した結果である。弱者と扱われたくないが、身体的に劣ってしまう。精神と肉体のギャップに苦しんだ末に、それでも対等でいようとする姿には、ハルの誇り高さが垣間見える。
第38話「罫線に白い毛這わせて」より
『週刊少年チャンピオン』2017年29号
No.21
ジュノの宣言
演劇部の中で存在感を示し始めたジュノが、ルイに対し宣言するシーン。床ドンである。ちなみにジュノは、ハルに対して壁ドンをしたことがある。ジュノは空気を読める気配り上手だが、ふとした拍子に強引さを見せることがある。このシーンでは普段は口にしない、ビースターになることとレゴシを手に入れること、という野望をルイに明かしている。これ以降ルイとジュノは秘密を共有する関係になる。
《板垣巴留コメント》
外も中も複雑なハルちゃんの他に、正統派美少女を取り入れるという意味で登場したジュノちゃんです。美人な子は色々なものに恵まれてきたから、ひねった所もなく、性格も良いんじゃないかな? と思いながら描き進めてたら、なんだかジュノのことを楽しく描けなくなってきたので、31話で思い切って動かしたら俄然好きになっちゃいました。
(『BEASTARS』4巻より)
第31話「野望はショッキングピンク」より
『週刊少年チャンピオン』2017年8号
No.22
お互いさらけ出し合う仲
ジュノに対し、ルイが心の内を見せるシーン。誘拐されたハルを救出しようと、危険に飛び込もうとするレゴシをルイは止めきれず、無力感に襲われる。ルイは尊大な態度や皮肉を言うシーンが多く、このように弱みを自らさらけ出す姿は珍しい。ジュノはその姿が印象に残ったようだ。のちの彼らのキスシーンにおける、他の誰にも見せないような面をお互いさらけ出し合ってきた仲、という言葉につながる。
《板垣巴留コメント》
この頃は、まだ恋愛関係になるとは考えていませんでした。ただ、ジュノとルイの関係が面白いとジュノが押し倒したシーンの時から思っていました。ジュノが肉食獣的に攻め攻めで来るので、ルイはつい戸惑って素の表情が出ちゃうんですよね。肉食草食の男女の組み合わせはいろいろあるんですけど、肉食獣の女性と草食獣の男性のパターンも面白いなと。
第37話「雨雲の誘導」より
『週刊少年チャンピオン』2017年28号
No.23
ダンス
学園を去ったルイをジュノが探し出したシーン。学園を去り、裏社会に生きることを決めたルイ。ビースターという象徴になるのではなく、裏社会の中で肉食獣と対等に向き合うことをルイは求めたのである。その境遇を思い涙するジュノ。ルイのために涙を流す姿には、彼女の誠実さがみてとれる。
ダンスについて
光源について
《板垣巴留コメント》
洋画だと、男女が仲直りしたり相手の機嫌を取る時に突然ダンスしたりするんですよね。日本には無い文化だと思うんですけど、私は好きですね。音楽をかけてダンスしていい雰囲気になるっていうのはたしかにあるだろうな、と思うんですけど、日本人だと絶対無理だなとも思ってしまって。そういう手法を描いてみました。「BEASTARS」はキャラが動物だし、無国籍な分多少バタ臭い演出も映えるのが強みです。ルイはこういうシーンが似合う男ですよね。
どのシーンでも、必ず光源を決めて演出効果に取り入れています。この場面だと前のページで上からあててしまうと次のページが引き立たなくなってしまう、など見開き単位で光の当て方も考えています。(左の原画の)キャラクターがシルエットになってるところは、つげ義春さんのマンガの影響ですね。カッコよくて好きです。「BEASTARS」でもシルエットで見せるのはよくやりますね。
第57話「ただ心臓が寄り添った」より
『週刊少年チャンピオン』2017年49号
No.24
キス
アルパカ食殺事件解決のあと、卒業式のシーン。ルイとジュノはお互いに、いつしか意識し合う関係になっていた。またもやジュノの大胆な行動が表れたシーンである。しかし、この直後ルイはあえて突き放すような言葉を投げかける。その真意は、肉食獣と草食獣という異種族が心を交わすことの困難さをルイは身に染みて感じていたがゆえ、もしくは突然のキスに動揺したからかもしれない。
《板垣巴留コメント》
このキスシーンは、前の担当さんは笑ってました(笑)。「こんな長いキスシーンある?」みたいな感じで。私としては重要なシーンで気合い入れて描いたんですけど笑われちゃいました。ロマンチックでいいじゃないですか!
第105話「たべられる運命の男」より
『週刊少年チャンピオン』2018年50号
No.25
映画について
《板垣巴留コメント》
「ターザン」も実は人間関係の話と捉えています。一人の少年を中心に様々な相関関係が出来上がってて「めっちゃ見事な作品だ!」って思います。音楽もここぞという時にバーンと入ってくるし、作品そのものの気持ちよさも含めて好きですね。
「ボーダーライン」はベニチオ・デル・トロ主演の映画で、すごい好きな俳優さんなんです。内容はメキシコの麻薬カルテルとアメリカの司法機関との戦いを描いたクライムサスペンスです。ベニチオ演じる主人公がヒロインの涙を乱暴にぬぐうシーンがあるんですけど、そのときの事情も相まってとても魅力的です。私自身そういう仕草が記憶に残っていて、映画ってそういうものだと思うので。マンガでも同じように仕草で記憶に残ってほしいと思って描いているシーンがあります。
《板垣巴留コメント》
メディアを問わず、観た後に脳が覚醒するような感覚があるのがヒューマンドラマですね。「ブラックスワン」(映画)や「白い巨塔」(テレビドラマ)は、しがらみとか思考の向こう側、人間の果ての姿が観られる作品だと思います。私は人間の本当のことを知りたいっていう欲求を作品に求めるので、こういうチョイスになりますね。
影響を受けた作品はいろいろあります。黒澤明の「生きる」(映画)や、ディズニーの「ターザン」(映画)、洋画の「ボーダーライン」(映画)ですね。あらためて考えてみるとジャンルはまちまちですね。
映画(DVD):
「生きる」(黒澤明、1952年)
「ターザン」(ケヴィン・リマ、クリス・バック、1999年)
「ボーダーライン」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ、2016年日本公開)
マンガ(書籍):
「セキララ結婚生活」(けらえいこ、1991年)
「あたしンち」(けらえいこ、1995年)
「だれも寝てはならぬ」(サラ・イネス、2003年)
バンド・デシネ(書籍):
「塩素の味」(バスティアン・ヴィヴェス、2013年邦訳)
「ブラックサッド 黒猫探偵」(フアンホ・ガルニド[画]、フアン・ディアス・カナレス[作]、2014年邦訳)
No.26
幕間(まくあい)
「BEASTARS」では時折、本編と直接関係のない短編が差し挟まれる。「BEASTARS」の中でも、レゴシ以外のキャラクターがメインになる。幕間の日常的なエピソードだが、個々が抱える種族にまつわる悩みが描かれており、「BEASTARS」の世界をより一層広げている。
《板垣巴留コメント》
ストリッパーを描いたのは、ルイがシシ組のボスとして裏市の住人にとってある種の英雄になっているということを描きたかったからです。ルイの存在をありがたく思うのは、とくに裏市にいる草食獣だろうということでストリッパーを描きました。
オカピを選んだのは、オカピが脱いだら楽しいだろうなと。三大珍獣の一つに数えられてて、脚だけ縞模様が入ってて不思議な感じなんですよね。この種族がストリップして模様を見せてたら、絵的にも良さそうだなと考えました。
第64話「踊り子にトウシューズはない」より
『週刊少年チャンピオン』2018年6号
No.27
「踊り子にトウシューズはない」
裏市のストリッパー・コスモ(種族:オカピ)のエピソード。彼女は弱い草食獣だがショーの間は肉食獣の上に君臨する、自分の強みを生かした誇り高い女性である。裏市で遭遇したルイを、若い草食獣の物見遊山と誤解して語気を荒くした。
《板垣巴留コメント》
ストリッパーを描くと決めてから、実際に劇場に観に行ったんですよ。当時の担当さんにネームを伝えたら、その場で「今から観に行こう」って言われて。結構たくさんお客さんが入っていましたけど、踊り子さんも近くで見られました。ダンスやショーなど、すごい楽しかったです。同時に「この踊り子さんはなぜこの仕事を選んだんだろう」と個人の経緯が気になってしまって。性を扱うお仕事の女性には、虐げられながらやっていてほしくないという気持ちがあって。完全に第三者的なエゴですけど椎名林檎さんの「歌舞伎町の女王」の歌詞みたいなイメージで描いた回です。
第64話「踊り子にトウシューズはない」より
『週刊少年チャンピオン』2018年6号
No.28
「文明のゆりかご」
チーターのシイラの学園生活のエピソード。シイラは演劇部でダンスチームのリーダーとして活躍している。彼女がぎこちない笑顔を浮かべる理由は、SNSにあった。SNSにアップするために、うわべだけ仲が良さそうな写真を撮って、すぐに離れてしまう関係に辟易していたのだ。
《板垣巴留コメント》
このお話を描いたときは、たしか「インスタ映え」という言葉が広まって、流行語大賞になったりした頃だったと思います。その頃はとくにSNSに対して怒り狂っていて、アシスタントさんに何度も愚痴っていて(笑)。こんなふうなのは良くないって気持ちを描きました。出来上がったら思ったより、女の子同士が仲良くするいい話になってました。不思議ですね。
第70話「文明のゆりかご」より
『週刊少年チャンピオン』2018年12号
No.29
第70話「文明のゆりかご」より
『週刊少年チャンピオン』2018年12号
No.30
個性を知ること
動物という設定が描かれたシーンである。シイラは体毛に模様があるので、柄物の服が似合わない。ヒツジのピーチは体毛のせいで静電気が起きやすい服は着られない。それぞれのオシャレ事情が垣間見える。
ピーチがシイラの裾をつかむ様子は、草食獣がなにかと身を寄せ合おうとする習性の表れともとれる。なんにせよピーチが心を寄せている証だろう。直後のシーンで、シイラが記念に写真とろうよ、と体を寄せていく仕草もネコ科らしさが表れていて可愛らしい。肉食獣と草食獣という間柄からお互いの個性を知って、シイラとピーチという個と個の仲になっていく様子が描かれている。
シイラの、見開きページの笑顔と1ページ目の笑顔の印象が全く違うのが面白い。
第70話「文明のゆりかご」より
『週刊少年チャンピオン』2018年12号
No.31
第70話「文明のゆりかご」より
『週刊少年チャンピオン』2018年12号
No.32
※第1期・ケースNo.32と同じ
動物のみが存在する世界で、主人公のハイイロオオカミ・レゴシの青春と葛藤を描いた“動物版ヒューマンドラマ”。発表から間もなく支持を集め、2017年に『このマンガがすごい!2018』(宝島社)オトコ編 第2位を獲得。2018年に第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、 第11回マンガ大賞大賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞。『週刊少年チャンピオン』誌上にてアニメ化が発表された。
肉食獣と草食獣が共存する現代社会を舞台に、主人公のレゴシの成長を描く作品。捕食者であるレゴシと被食者であるウサギのハルの、あまりにも障害の大きい恋愛を軸に、演劇公演、裏社会との邂逅、学園に潜む闇、出生の秘密、学園外の社会への旅立ちなど様々な経験から、レゴシは自分の生き方や他種族とのかかわり方を見出していく。
《壁面展示》
マンガ家になるまで
《板垣巴留コメント》
美大の映像学科に進んだのは、画家は無いなぁ、と思って(笑)。イラストレーターはトレンドを掴む感覚が必要に思えて、そんなアンテナは無いし……。お話を作ることが好きだったのでそれなら映像学科がいいかなと。映像学科は入試に絵の実技はなくて、一つの言葉を与えられてお話を作るというのが試験でした。だから美大生だから全員絵が描けるというわけではないんですね。
私の場合は、高校は美術学科に通っていて、絵はその頃に学びました。そこでは絵が上手い子が一番偉い、絵の上手さがそのままヒエラルキーになっていたので、必死で画力を培いました。生き残るために。
壁01
《板垣巴留コメント》
影が体にかかって立体的になっているのが好きで、映画でもそういう演出のシーンが好きなので描いてみました。人目を盗んで一緒にどこかに隠れてるっていうイメージですね。このイラストは中盤までかなり苦戦した覚えがあります。描いていても「影に見えなくないか?」と思ったり、やっぱり写真ぽい表現は絵だと難しいのですね。二刀流みたいな感じでドライヤーをあてながら塗りながら、あくせくして描いていました。
第59話「信徒の生き甲斐」より
『週刊少年チャンピオン』2017年51号
壁02
第47話「潮風だけが知っている」より
『週刊少年チャンピオン』2017年39号
壁03
《板垣巴留コメント》
この場面はレゴシが外で働く男性、ハルが家事をする女性という感じになりますが、それぞれの立場があってやっぱりなかなか主張がかみ合わないものだと思います。お互いのためを思っていてもどうしても。私は女性側なので「構って構って」と言うタイプですね。「お前のためだから」とか言ってそばにいてくれないのは、言い訳に聞こえてしまいます。直接的に自分に降りかかる喜びがないと女は納得しないよな、と思って描きました。ハルがめんどくさいと読者に思われても、これがハルの女っぽさというか、社会はこうなってるんじゃないかなと。
週刊誌のマンガ連載は、ほかの仕事と比べても割と忙しいほうだと思うのですが、私は脳のキャパシティが多いのか、どんなに忙しくてもさみしいときはさみしいと感じてしまいます。男性は忙しいときに仕事に集中できるように思えて、うらやましいです。忙しいさなかにさみしさを感じると、「私も女だな……」という敗北感がありますね。
このページはコピーじゃなくて、両方ともちゃんと描いているというのが実はすごいところですね。アシスタントさんにトレス台を使って描いてもらったんです。コピーするのが嫌いなのでアシスタントさんに「お願いします」と頼み込みました。
第69話「糸電話の回線 乱れております」より
『週刊少年チャンピオン』2018年11号
壁04
可愛い
ジュノとハルが屋上庭園で会話するシーン。実は友人の少ないハルとしては同性とのやりとりはとても楽しいものだったようだ。ほほえましいスキンシップの場面であると同時に、“可愛さ”のパラメータによって肉食獣は草食獣に勝てないという、種族の差が描かれたシーンでもある。
このシーンは、少女マンガ流の複層的な変形コマ、および雰囲気を表現したスクリーントーンが使われている。ほかのシーンでも時折みられるが、少年マンガを意識しつつ少女マンガ的な表現が自然に取り入れられている点は「BEASTARS」の特徴のひとつといえる。
《板垣巴留コメント》
男性同士、女性同士の恋愛を描こうと思ったことはありませんが、濃密な関係を描こうとすると、同性でも異性でも、どうしても感情が恋愛に近くなる気がします。今のところはそうと意識しては描いていないですが、いろいろなジャンルに挑戦したい気持ちもあるので、意識して同性愛ものを描くのも面白いかもしれないですね。
第79話「ランジェリーの密会」より
『週刊少年チャンピオン』2018年21号
《覗き込みケース展示》
※展示品情報・解説・コメントは第1期・《覗き込みケース展示》と同じ
《その他》
台、映像展示
※第1期・台、映像展示と同じ