聖悠紀「超人ロック」生誕50周年展
第2期アーカイブ


No.00

 「超人ロック」は1967年、手描きの原稿をそのまま綴じ郵送でメンバーに送る同人誌「肉筆回覧誌」の世界から登場した。発表されたのは後に1000人ものメンバーを擁することになる伝説的同人サークル「作画グループ」である。
 当時のマンガ家は一般に、同人誌時代の作品は修業時代のものとして表に出さないことが多いのだが、聖の場合「超人ロック」があまりに評判を呼んだこともあり、その作品リストに同人誌時代の作品名があたりまえのように並ぶ。
 1971年に商業誌デビューした聖が仕事に忙殺され、自然に「超人ロック」から離れかけていたころ、「聖悠紀を弾圧して超人ロックを守ろう会」が突如発足、その応援(?)をもとに描かれたのが第4作「コズミック・ゲーム」(74年)である。
 「超人ロック」はその後50年描き続けられ、多くのマンガファン、また、SFファンが思い浮かべる大半の作品より長く続く、未曽有の超長期シリーズ連載となった。シリーズ単行本は、各エピソードを収録した最初のものを数えあげるだけでも軽く100冊を超える。
 ここに展示した「SFファンと そうでない人に」と入った青い紙は、「超人ロック」第1作に添えられた聖の手による表書きである。ロックファンなら一度は目にしたことのある言葉であり、これからロックを知る人にも心に留めてほしい言葉である。


聖悠紀コメント

「超人ロック」の第1作の表書きには、OP11と入っています。これはラテン語でオーパス11、つまり11作目という意味です。これまでの私の作品リストでは、所属していた同人サークル「作画グループ」(ケース26参照)に発表したものがまず4作並んでいて5作目が「超人ロック」になっていますが、それ以外に6作描いていたということです。3作分は高校時代に友人と作った同人誌(ケース28)に描いたもの。1作分は作画グループ初の女性会員・深沢みどりさんの同人誌に描いたもの。残りの2作は…ちょっと覚えてない。たぶん完成していないものを混ぜていたのじゃないかな(笑)。
赤い表紙の東考社の単行本は、ロックがはじめて印刷出版されたもの。タイトルが鏡文字で入ったイラストは、確かその単行本扉用に描いたイラストです。

No.01
カラーイラスト・ギャラリー

このイラストが表紙になった『超人ロックの世界 Part1』は、1979年に新書館から発売された『超人ロック』のムックである。Part3まで出版されている。当時すでに「ロマンアルバム」のようなアニメムックはあったが、マンガの、それも作家の特集ではなく特定作品タイトルをテーマにしたムックは非常に珍しかった。

No.02
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.03
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.04
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.05
カラーイラスト・ギャラリー
「猫の散歩引き受けます」

 探偵ハント&ロックシリーズ(ケース21にて紹介)のひとつ。
 「シティ」評議会議長クシノから誘拐事件の解決を依頼されたハントは、苦闘の末に人質の救出に成功する。だが、その誘拐事件は「シティ」の権力抗争を煽るために仕掛けられたものだった。

No.06
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.07
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.08
カラーイラスト・ギャラリー

 

No.09
「ジュナンの子」

 惑星ジュナンでエスパーばかり200人が死亡するという事件が起こった。連邦Σセクションからの依頼を受けたロックは調査に向かい、事件の陰に「反エスパー同盟」による陰謀が隠されていることを知る。
 ケースに展示した手前の3ページはタイトルページを挟んだ前後ページ。まず会話から始まり、タイトルページ、発表サークル名、作者名、と映画テロップのように登場するのが印象的。後ろのヤマトが「ヤマト」「ただのヤマトだ」と名乗りを上げるシーンは、のちにロックが名乗りを上げるシーンに引き継がれていく。


聖悠紀コメント

この作品は肉筆回覧誌には掲載されていないと思います。描いて送ったらそのまま単行本(東考社版)になった。
 テレパシーでの会話など、精神世界の描写に関しては僕の独創ではなく、当時すでに他のマンガ家さんがやっていた手法を取り入れたもので、石ノ森先生なんかはすでにこういう描写を使った作品があったと思います。
 この作品から「第三波動」という言葉が出てきますが、基本的には「プシ陰線」と同じものです。「プシ陰線」のままだと「分かりにくいかな」と思ったので、第一(波動)が普通の電磁波で、第二(波動)がエスパー波(超能力)で、電波でも超能力でもない第三の波動ということです。ネーミング自体の元ネタは『レンズマン』(E・E・スミス)なんですが、この辺りの設定は最近作の『風の抱擁』でも同じものとして出しています。
 リメイクでのヤマトをナガトのクローンにしたのは、「オメガ」を描いたときに「ジュナンの子」を見返していてこの作品でのヤマトを「(見た目が)ナガトに似てるな」と思ったのがキッカケです。「親戚かな?」みたいな(笑)

No.10

手前の原画は、「ジュナンの子」よりロックの意識が朦朧となっているシーンなど。点描や円が繰り返す効果、白抜きの効果など、当時は当たり前だがすべて手描きである。そこに、効果的にトーンが配されている。
 後ろは、同ラストシーン近くの原画である。その左のパネルは本作をリメイクした「久遠の瞳」(ケース22)のラストシーン。ふたりが並ぶよく似たシーンがみられる。大幅に描き換えられたこのリメイクにおいて、このように似ているシーンは珍しい。

No.11
「エネセスの仮面」

 もともとは1971年に刊行された東考社版『超人ロック』(SAKUGA GROUPシリーズ/「ジュナンの子」掲載)に描き下ろされた超能力とロックの世界観を解説するための短編(ロックは登場しない)。1978年刊行の『GROUP』創刊号でロックが登場するかたちにリメイクされた。ストーリー的には、どちらも海賊「エネセス」のもとに潜入させられたエスパー諜報部員の悲劇を描いている。


聖悠紀コメント

この作品はもともと「ジュナンの子」を単行本として出す際に、発行元の東考社の桜井社長に「超能力を説明するマンガを描いてくれ」と頼まれて描きはじめたものです。ただ「超能力を説明するマンガ」というのはそのまま描いてもおもしろくないんですよ(笑)。それで「超能力の説明も入っているお話」としてこの作品を描きました。この最初の「エネセスの仮面」はロックが登場しないんですが、『GUROUP』第1号でロックが登場するかたちに描きなおしています。

No.12

1977年「超人ロック」は、創刊まもない『月刊OUT』(みのり書房/12月号)で、一度も商業誌に発表されたことの無い状態で特集を組まれ大きな反響を呼んだ。『月刊OUT』は、のちにアニメのファンカルチャー誌として独自のスタンスをとることになるが、「宇宙戦艦ヤマト」特集やこの「超人ロック」特集の成功がその路線を決定づけたといえるだろう。
 この特集の反響から『月刊OUT増刊 ランデヴー』にて「超人ロック」初の商業誌掲載作「新世界戦隊」の連載が開始され、「ジュナンの子」「コズミック・ゲーム」が収録された2冊の新書判単行本(東考社版)が復刊。1978年、シリーズ1・2作のカラーページつきB6判単行本が、「超人ロック復刻会」(のちのSG企画)を発行元として発売された。
 また以前出た「超人ロック」文庫版同人誌の海賊版がでまわったりもした。これらを作画グループ代表のばばよしあきは、「OUT超人ロック騒動記」と呼び記している。

No.13
「スター・ゲイザー」

 「アウター・プラネット」で描かれた事件によって、銀河連邦とのつながりを断ったエスパーの惑星ラフノール。エスパーの少年ラグとともに旅するロックは、かつてラフノールの支配を目論んだ男の影を「幽霊海賊船」に感じ、その幻の星を再訪する。
 今もよく超人ロックの世界で使われる超能力「ラフノールの鏡」が、この話から登場する。


聖悠紀コメント

「星と少年」で「エネセス」の残党、「スター・ゲイザー」で今度は「ラフノール」が出てくるのは、最初からそういう設定の物語として描いていたわけじゃないんです。物語の流れで「この話はアレの後日談になるのかな」といったことを描きながら決めていく。描きたいことや作者の主張が最初から決まっているわけではないんですね。登場人物を設定して、舞台に置いたら、あとはその人物に好きに動き回らせる、みたいなやり方をしているので。
 この作品ではじめて「ラフノールの鏡」が登場するんですが、これがこんなに長持ちするアイディアだとは正直思っていませんでした。技術的なものではなく、超能力といってもちょっと特殊なもの、さらに「ラフノール」なのでレトロなもの、ということでいろいろ考えた末「鏡」にしたんです。

No.14
「星を支配するもの」

 機械装置を使用することであらゆる人間がESP能力を使用することができる技術、人工エスパー。その危険性を恐れた連邦軍は、ロックに開発者のテオドラキス博士の捕縛を依頼する。4日間の期日がくれば惑星自体の破壊も辞さないと連邦は恫喝する。人工エスパーが急増しているという惑星オプタに潜入したロックは、自身の超能力が変調をきたしていることを自覚する。


「マインド・バスター」

 鉱山労働者として働いていたロックは、秘密結社「インナークロス」のナガトというエスパーから接触を受ける。結社の首領ライガー教授から、現在の銀河系人類文明が飽和状態にあり、このままでは滅亡に向かうと説かれ、半信半疑で彼らの活動に参加するロック。やがて彼の想像を超えた教授の真意を知る。


「愚か者の船」

 ある企業の不正を調査していた女性記者クミは、乗り込んだ旅客宇宙船「ペネロープⅡ」でリサという記憶喪失の女と知り合う。企業が差し向けた殺し屋に襲われたクミはリサに救われるが、ペネロープⅡは彼女たちと殺し屋の思惑を超えたインナークロスのテロの脅威にさらされていた。


聖悠紀コメント

この時期の作品は、帝国が生まれる前、連邦が崩壊していく混乱期ということで、いろんなことがポコポコ起きていく、そのことを表現するのに短編でいくつか描いといたほうがいいかなという感じで発想したものです。まあ、そのために多少話があちこち飛んだりするけれど。
 ライガー教授はハリ・セルダン(アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡』の主人公)的な「未来を見通す能力」を持っているという設定ですね。で、地球人類を救おうとするところまでは同じなんですが、ライガーは、そこから先のやり方がかなり急進的というか、メチャクチャで。こういう自分が読んできたSFや観てきた映画の影響というのは、じつは描いているときはあまり考えていないことが多いです。
 連邦が崩壊するのは、要は銀河帝国を出したかったからなんです。やっぱり「銀河帝国」という響きはいいですよね(笑)。

No.15
「虚空の戦場」

 ライガー教授が解き放ったジオイド弾によって、銀河連邦は崩壊しつつあった。銀河系の各星域では星間戦争が次々と勃発し、人類社会はのちに「汎銀河戦争」と呼ばれる混沌の時代に入っていく。そんななかでラフノールの崩壊を生き延びたラグとレマ、無力感から辺境の農業惑星に隠棲していたナガト、そしてロックは、それぞれ意外な「遺産」と出会い、戦争終結のために動いていく。


聖悠紀コメント

ナガトはロックの敵役というか相手役的な人物で、それまでにいなかったタイプのキャラクターを、ということでああいうキャラクターにしたんです。帝国を出すことは決めていたんですが、誰を皇帝にするのかは決めないで話を描きはじめたので「ナガトが皇帝になるのかな」というのは「虚空の戦場」の途中で見えてきた。
 この話ではロックのクローンが登場しますが、ラグとレマが彼らを発見する前、実際にロックのクローンをつくったのが誰なのかはわからないんです。連邦が崩壊したあとの混乱期なので、とにかく「つくれるものならつくって利用したい」と考えた勢力がいた。それ以上はわからない。
 この話でもそれまで準レギュラーとして活躍してきた人物が退場しますが、それも最初から決めていたわけではなく、人物に自由にさせていると「このキャラはここまでだな」という感覚が突然くるんですよね。

No.16
「ムーン・ハンター」

 辺境惑星で領主のひとりエレンハフトの使用人として働いていたロックは、主人を殺害しようとした容疑で警察に逮捕される。事件の陰にエスパーを思いのままに操る装置の存在があるのではないかと疑うエレンハフトは、ロックを逃がし、彼に事件の真相を探るよう依頼する。蛮族の少年リューブとともに捜査を続けるロック。やがて「エスパーコントローラー」をめぐる陰謀は、銀河帝国を揺るがす事件に発展してしまう。


聖悠紀コメント

この話ではもう銀河帝国はできていて、その後継者争いの話です。(帝国成立までの事情は)連邦が崩壊すると各惑星で最初は絶対君主制のようなものが復活するんじゃないかと、それを統合するようなかたちで帝国が成立する、だいたいそういうつもりで描いていました。ただ、そこははっきり説明せずに背景にとどめています。あんまり説明的になるのは好きじゃないですし、政治劇にしすぎても面白くないかなと思って。
 「ムーン・ハンター」は「エスパーコントローラー」の発明を軸にした話ですが、この発明をするのは特に天才とはいえない、普通のひとです。現実にはそういうものじゃないかと思うんですよ。必ずしもすごい発明をすごいひとがするわけじゃない。

No.17
「流浪」

 銀河帝国皇帝ナガトの死後、彼の長女トレスは、銀河帝国皇帝に即位した弟アルマを必死に支えていた。陰謀渦巻く宮廷のなかで孤軍奮闘するトレスは、次弟セテと有力な星間国家マイノック公国の公女との政略結婚をすすめる。いっぽう「ムーン・ハンター」事件以来、エスパーコントローラーを追う帝国軍監査官ミズカは、エスパーのテオと知り合い、彼と協力してコントローラーの開発者を押さえる。だが、その開発技術を奪われてしまう。そして、そのことが再度帝室に悲劇をもたらすことになる。
 原画は、マイノック公女レティシアとエスパーのテオ(後にセテに変身にて彼女に寄り添うことになる)とのエピソードから2ページ(右、中央)と、ロックの家族観、自分のクローンに対する複雑な気持ちを口にし、ロックが珍しく感情をあらわにするところ(左)。


聖悠紀コメント

トレスは、とにかくナガトの三人の子供のなかでは一番できるひとで、弟ふたりがあまり有能じゃないのもあって、描いてるうちにだんだん物語の中心になっていきました。逆に弟ふたりは再起不能になったままおそらくこのあとも再起していないまま終わる。しかも、のちに帝国を継ぐのはこの話でクーデターを起こした男の子供ですから。
 前半は帝国の宮廷が舞台で、後半はテオ/ロックが化けたナガトの二男セテが婿入りしたマイノック公国という帝国内の有力な星間国家が舞台になります。帝国に関してはナガトとマイノックの帝国建国までの物語もあるはずですが、ロックではその辺の事情を説明するより、アクションと会話でエピソードを見せていく作劇になります。説明をしだすとキリがないというのもありますし、説明をやってるとだんだん自分で飽きてくるというのもあるので。

No.18
「クロノスの罠」

 「超人ロック」の命を狙う二人組の殺し屋たち。彼らのひとりは「夢使い」であり、夢の中でロックの過去に干渉し、彼自身に「超人ロック」を殺させることで無敵のエスパーを抹殺しようと企んでいた。執筆順的には「インフィニット計画」の前だが、ロックの回想として「インフィニット計画」の事件が先行して描かれる。他、「サイバー・ジェノサイド」についても本編で描かれなかった部分が語られるなど、凝った趣向の作品。


聖悠紀コメント

「クロノスの罠」は過去の話が再現されている、という設定なので、冒頭は「インフィニット計画」、それから「サイバー・ジェノサイド」なんかが出てきます。あれは僕が不条理劇みたいなものが好きで、それをなんとかロックでできないかな、と思って描いたんですよ。むかし『プリズナーNo.6』(1969年)というイギリスのドラマをNHKでやってましたけど、あれがけっこう好きだったんで、そういう話を描きたいなと思って。

No.19
「インフィニット計画」

 オーストラリア政府が発見した最強のスキャナー(超能力者)ロック・マクミランは、まだ学校に通う無邪気な少年だった。彼の能力を知った各国の情報部が、ロックの誘拐を企んだため、オーストラリア政府はマクミラン一家を、宇宙開発公団によってガニメデでおこなわれていた外宇宙探査船建造プロジェクト、「インフィニット計画」に出向させる。しかし、この決断が結果的にロックを、「インフィニット計画」をめぐる陰謀に巻き込むことになる。


聖悠紀コメント

じつはこの作品は「クロノスの罠」を描いたから、あの作品の冒頭のエピソードを膨らませてちゃんと描いてみようと思って描いたものです。だから、「クロノスの罠」で描かれたエピソードが別な意味を持ったものとして再話される、という構成になったのも、この作品を描くときに考えていったものですね。「冬の虹」を発表するまではこれが一番古い時代の作品になります。

No.20
「永遠の旅人」

 辺境の農業惑星オルソポスでは、帝国から送り込まれた総督と有力貴族、帝国からの独立を唱える革命勢力が三つ巴の対立関係にあった。そして、そのそれぞれの勢力に「超人ロックを名乗るもの」たちがあらわれて策動する。この奇妙な事態の背後には、帝国の第一大臣、ブリアン・ド・ラージュの政治的な意図があった。


聖悠紀コメント

ド・ラージュが初登場する作品ですね。この作品ではそれほど重要な役回りではないんですが、第一大臣として帝国の切り盛りをしているひとですから、この作品を描いたあと「もうちょっと描いてみようかな」と思ってはいました。ただ、その後長編で彼の生い立ちを作品化する(「エピタフ」)ことになるとは思っていませんでしたが。

No.21
探偵ハント&ロックシリーズ

 ロックの相棒として、探偵リュウ・ハントが登場するシリーズ。『少年KING』休刊後、おもにスコラ、ビブロスを版元とする媒体で断続的に発表された。メインの超人ロック世界に対して、パラレルワールドとして扱われているシリーズである。
 原画は同シリーズ「ブレイン・シュリンカー」より、冒頭2ページのカラーと(右、中央)、ハントとロックのバディ感あふれるモノクロページ(左)。


「ブレイン・シュリンカー」

探偵のリュウ・ハントは、遺伝子工学の権威、ソクラテス・フォン・ノイマン博士の捜索を彼の娘から依頼される。助手のロックとともにノイマンを発見したハントだったが、その失踪の背後には「不死」をめぐる恐るべき秘密があった。


聖悠紀コメント

このシリーズは『少年KING』の休刊からしばらく経ってから、別な雑誌(『コミックバーガー』スコラ)での読み切りとして依頼されたものだったので、それまでとは違う話をと思って描いたら、違いすぎて結果的にどこにも入らない話になってしまいました(笑)。物語の展開上、ハントが不死者になってしまったので、「ブレイン・シュリンカー」以降はロックといっしょに延々生きていることになってしまった。そうすると「そのときハントは何をしていたんだ」ということを必ず考えなければならなくなるので、扱いが難しい。一番の問題はロックが孤独じゃなくなっちゃうところなんです。
 だから、このシリーズの年表での扱いは永遠に保留です。

No.22
「久遠の瞳」

 ISC(独立星間コマンド)のエージェント、ヤマトは惑星ユーノでエスパーばかりが急死した事件の捜査への協力を求め、引退生活を送っていたロックとミラを訪ねる。ヤマトとロックはユーノ警察のアスキン警部補とともに事件の謎に迫っていくが、同じころロックを送り出したミラにもかつての部下からある事件の連絡が入っていた。第三作「ジュナンの子」のリメイク。
 カラーページにデジタル作画を取り入れはじめた時期の作品。同じページの中でデジタル作画の部分とアナログ作画の部分があり、原画(中央)は前後ページの手描き部分が一枚に収まっているなど興味深い。


聖悠紀コメント

自分で読み返していて「ジュナンの子」でのヤマトの扱いは「かわいそうかな」と思って、この作品ではジュナとヤマトの関係描写を変えています。また、「ジュナンの子」での「細菌兵器」が(現実世界で)割りとポピュラーなものになってしまったので、そのままではSFっぽくない。そこで「細菌」に代わるものとしてこの作品ではそれを「ナノマシン」ということにしてみました。(過去作品のリメイクでは)そういう残すところは残して、描いていて気になったところは思い切り変えちゃう。
 初期作品の要素はその後の作品のなかで描いているといえば描いているんですが、こういうストレートなリメイク作品では、オリジナルとあらすじはだいたい同じで、そこに新しいキャラクターを足したり、設定をちょっと変えたり、小道具を出してみたり、そういうことをしています。

No.23
「ニルヴァーナ」

 「時間庫」の情報を餌に罠にかけられたロックは、自分を観察するものがいることに気付く。彼と刺客との戦いを眺めるのは、裏Vキューブをつくる映像作家たち。彼らは謎のクライアント「カムジン」の依頼により、「ニルヴァーナ」と呼ばれるVキューブソフト制作のために働いていた。「ニルヴァーナ」を追いはじめたロックは、裏Vキューブビジネスに巻き込まれたらしい兄を探す少女シルフと出会う。


「風の抱擁」

 「第三波動」を操ることのできる唯一のエスパー、ミラの存在とその取扱いは連邦のなかでも注意を要する微妙なものになっていた。ほとんどの乗組員がエスパーで構成されたISCの実験艦ゴダードに航海長として配属されたミラは、そこで船医として勤務するロックと再会する。このゴダードでの航海こそミラとロックの数奇なロマンスの転機となるものだった。


聖悠紀コメント

「ニルヴァーナ」
「ニルヴァーナ」のラストは単行本と『ヤングキングアワーズ』(少年画報社)の連載版では違うんですよ。連載のラストがどうにも自分で納得がいかなかったので、単行本にするときに16ページ全部描き直したんです。もとのバージョンでは過去のキャラクターが登場する回想シーンはなかった。
 そうしたら「これができるなら、外伝も描けるだろう」って話になって……お仕事が増えました(笑)。


「風の抱擁」
「風の抱擁」は「ロックでこれまでやらなかったもの」を描いてみよう、と思って描いた作品です。最初は「5巻くらいになるかな」と思って描いていたら、結局7巻という最長のシリーズになりました。人間関係であるとか、恋愛であるとか、「それまでのロック」ではすっ飛ばしてきたものを丁寧に描いてみよう、というのが作品のコンセプトだったのでどうしても長くなってしまった。

No.24
「嗤う男」

 ある辺境惑星、過酷な、死と隣り合わせの環境でおこなわれているエアバイクレースに、レーサーとしてエスパーを供給するために、違法な人身売買と人体実験を繰り返すギボンズ研究所。そこに奴隷として売られてきたロックは、研究所とその背後の組織、レースのオーナー、レーサーたち、メカニック、メディアの人間たちなどの様々な思惑が錯綜するレースに出場することになる。


「ホリーサークル」

 宇宙船の事故から救命艇で脱出した乗客たちは辺境の惑星に漂着し、なぜかそこに孤立して存在する「ホリーサークル」という街にゲストとして迎え入れられる。生き延びたことに安堵したのも束の間、絶え間ない監視の目と生気のない住人たち、夜になると表を歩き回るゾンビのような怪アンドロイドの存在など、奇怪な街のありさまに不信感を抱き逃亡を図った彼らだが、ひとり、またひとりと姿を消していく。


聖悠紀コメント

「嗤う男」
この作品はレースものをやりたいと思って描いたものです。「最近レースもの描いてないな」と思って。あと、この前の作品(「エピタフ」)ではロックが全然出てこなかったので、今度はロックが出ずっぱりの作品を描こうというのもありました。


「ホリーサークル」
「ホラー系の話を描いてみよう」と思って描き始めた作品だったのですが、ホラーのままだと話が先に続かなかった(笑)。だから、後半は「若返り」をメインにしたSFになっていきます。この作品以前から「若返り」という技術自体は劇中に登場しているんですが、なぜそれが誰でも使えるものになっていないのか、誰もが若返るとどういう問題が起きるのか、という部分を描いてみたかったんです。

No.25
聖悠紀コメント

扉絵風のものは作画グループにロックの1作目を送る前、一番最初に思い浮かんで描いたロックのイメージイラストです。「超人ロック」はここから始まりました。タイトルは、ロック歌手ドノヴァンの「狂人ロック」からです。
 無地のレポート用紙に描かれたロックは、その後のロックらしい顔なので、高校時代のノートに大学時代に描いたのかもしれない。横のは「エネセスの仮面」のエネセスですね。テレパシィとかテレキネシスとか超能力用語も書きだしてますね。自分自身はエスパー用語はヴァン・ヴォクトの『スラン』やハインラインで知りました。

No.26

作画グループは1965年ごろ、ばばよしあき、うわだよしのり、関本おさむの3人のマンガ研究会が融合して生まれたようだ。当初の人数は6名。一時は1000人を超すメンバーが所属した伝説的同人サークルである。2016年会長ばばの死去にともない正式に解散した。
 聖悠紀は、66年に同サークルに参加し、肉筆回覧誌『SSM』(『ショートストーリーマガジン』)に「心臓」を掲載。「超人ロック」の1作目はやはり肉筆回覧誌『ストーリィ作品集』に掲載された。また『超人ロック』の最初の単行本は、作画グループシリーズ第2弾として東考社から出版。作画グループシリーズは他にも何冊も出版されている。SG企画として書店流通する会誌『GROUP』を78年に創刊。会員同士の合作を熱心に行い『週刊少年マガジン』に「アキラ・ミオ漂流記」(72年)、『週刊少女コミック』に「ダリウスの風」(77年)、『週刊少年キング』に「1000万人の2人」(78年)を発表した。
 現在作画グループの3羽ガラスである、ばば・みなもと太郎・聖が直接会ったのは、68年に行われた「ぐら・こん」関西支部の会合であった。「ぐら・こん」は新人育成を重視していた雑誌『COM』(虫プロ商事)からはじまった読者交流の場である。
 会誌として『GROUP』『なかま』『ユニオン』なども出していた。他の主な元会員に、あずみ椋、いくたまき、大塚英志、かぶと虫太郎、北原文野、清原なつの、神坂智子、沢田ユキオ、志水圭、中田雅喜、速水翼、belne、山本航暉、横山えいじなどがいる。


聖悠紀コメント

作画グループには高校2年(1966年)の時、『ボーイズライフ』に載った会員募集がきっかけで入会しました。たまたまはがきが2枚残っていたので、2つの会に送ったのだけど、1つは連絡が来なかった。
 作画グループからはガリ版刷りのわら半紙で4ページくらいの講評の載った発行物(『ニュース版』)が来ました。それで何か描かなきゃ、と思って送ったのが「心臓」という作品。『SSM』に載りました。「ロストコロニー」は『グループ』の100号の記念に描きました。

No.27
聖悠紀コメント

緑のスクラップブックは母親が僕の描いた細かなカットとかを集めて貼って作ってくれていたものです。セロテープが劣化してもう全部取れてしまっていますが。

No.28
聖悠紀コメント

『COMICSTRIPS MAGAZINE』は、自分と高校のなかま二人と作った同人誌です。この本で、聖悠紀の名前が初めて使われています。最初はなかまの一人との合作用のペンネームで、苗字は私が古典の授業の時に決め、下の名前はなかまの名前の「良則」を「由紀」と変え「ひじりゆき」と読むことにしました。その後一人で使うようになって「由」の字を「悠」に変え「聖悠紀」表記にしたんです。

No.29

聖悠紀の商業誌でのデビューは少女誌であった。マンガは網羅的に読んでいたが少年向けが主で、少女向けは読んでいなかったという。おそらく少女誌デビューの見通しが立ったころに描かれたのであろう、多くのかわいらしい少女マンガの習作が残っている(ケース27参照)。
 繊細な巻き毛とシャープなメカ、少女趣味と少年趣味がバランスよく同居しているところが、聖作品のもっとも大きな魅力のひとつである。


聖悠紀コメント

商業誌では少女マンガでデビューしました。「この宇宙に愛を」を読んでくださった小学館の編集者・大西亘さんが声をかけてくださったんです。少女マンガを描くことになってから、模写したりしてずいぶん練習しました。当時練習した少女マンガ家さんは、西谷祥子さん、大和和紀さん、水野英子さん、忠津陽子さんかな。他にもたくさんの方の練習をしましたよ。
 (ケースに展示されている)「レディキャット」は最初扉だけ描いて放置していたものを『少女コミック』(小学館)向けに仕上げた短編です。最初の構想とはかなり違う話になっていますけど。これは女の子の怪盗もので、じつは後年『少年ビッグコミック』(小学館)で連載した「スイート・ミカ」の原型になっています。

No.30
「黄金の戦士」

 1978年に創刊されたアニメ専門誌『アニメージュ』の創刊号から連載された異世界ファンタジー。謎の転校生によって連れ去られた妹なつみを追って、モンスターが徘徊し、剣と魔法が飛び交う異世界に迷い込んだ高校生、藤代春樹は宿命に導かれるように一本の剣と出会う。


聖悠紀コメント

(『週刊少年キング』で)ロックの連載開始前に『アニメージュ』(徳間書店)の創刊号から連載をはじめました。当時、徳間書店の『テレビランド』という雑誌に描いていましたので、そちらの編集者から「今度こういう雑誌が創刊されるのでマンガを描いてみないか」といわれたんですね。そのときに「こういう話を描いてくれ」という依頼のされかたではなかったので、当時は日本では珍しかったヒロイックファンタジー仕立てのSFを描きました。「現代の世界に暮らす主人公が異世界に召喚される」というプロットの直接的な元ネタはマイケル・ムアコックの「エレコーゼ」シリーズですね。具体的な絵としての異世界描写は、当時アシスタントにフランク・フラゼッタの好きな子がいて画集なんかを見ていたので、その影響が入っているかも。

No.31
「宇宙戦艦ヤマト」

 1974年にTVシリーズが放映され、1977年の劇場版公開によってアニメブームを巻き起こしたSFアニメ。その後劇場版第二作『さらば宇宙戦艦ヤマト』(1978年)をはじめとした続編がつくられ、シリーズ展開されていき、第一作は2013年『宇宙戦艦ヤマト2199』としてリメイクされている。その続編『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』が2017年2月より公開中。聖はブーム以前の1974年テレビ放映時に『テレビランド』(徳間書店)でコミカライズを連載している。


聖悠紀コメント

これは『テレビランド』のほうで『宇宙戦艦ヤマト』(の版権)がとれたのでマンガを描いてみないか、という依頼で描いたものです。オファーが来る前に、編集者の校條(めんじょう)さんが松本零士先生のところに行って「誰に描いて欲しいですか?」と聞いたら、先生が何人かあげてくださった中に私がいたそうです。校條さんのところで私が描いていたから私に決まったのではないでしょうか。松本先生は「宇宙空間の音を描ける人がいい」ともおっしゃっていたとのことです。

No.32
「闘将ダイモス」

 1978年にTV放映されたSFロボットアニメ。敵となる宇宙人が単なる侵略者ではなく故郷を失った流浪の民である、相手宇宙人との外交交渉の席上で起きた暗殺事件によって戦争状態に陥った、という設定や、主人公とヒロイン(じつは宇宙人側の指導者の娘)の恋愛をメインに据えた作劇など、70年代のいわゆる「スーパーロボットアニメ」としてはかなりの異色作。聖は『ボルテスV』に続きアニメのキャラクター原案を担当した他、『てれびくん』(小学館)でコミカライズ版を執筆している。


聖悠紀コメント

東映との仕事は石森プロ系の企画会社から依頼が来たんですが、そこの世話役のようなことをやっていたのが石森ファンクラブの会長さんだったんですね。彼と知り合いだったので、そこから話が来た。
 この作品の前の『ボルテスV』のときから、企画段階で僕の描いた何かの作品のキャラクターを指して、このキャラクターのような悪役の「美形キャラ」を描けませんか、というリクエストがあったような気がします。

壁面展示