※当アーカイブのテキストは展示開催当時(2019年)のものです。



前期:2019年6月21日(金)~ 7月22日(月)

◆台付ケース

No.00

はみだしっ子雑誌表紙
原画・掲載誌
『別冊花とゆめ』1977年夏の号
原画(北海道より)、
雑誌(東京より)




◆壁面ケース

東京の原画について
 三原順のマンガ原画は、モノクロの本編原画やカラーのイラストカット原画含め、現在ほとんどが東京にあります。2015年に開催した当館での展示「~没後20年展~ 三原順復活祭」をきっかけに、同年より著作権継承者の方からお預かりし、文化庁から助成を受け、当館にて原画整理を行いました。その作業を昨年度までに終え、近々、継承者の方のもとにお戻しする予定です。その間整理した原画は約6300点。大きめの押入れがいっぱいになるくらいの分量です。
 東京にあった原画の中からは、前回展示で紹介したもの、紹介できなかったもの、もっとも有名な「はみだしっ子」や、その他の作品などバランスよく織り混ぜて展示します。

No.01

「はみだしっ子」
『花とゆめ』1975年1月号-1981年16号

 グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人の少年が、各々の事情で肉親の保護を受けずに生活することとなる。ストーリーは、4人一緒の放浪生活を描く序盤(PartⅠ「われらはみだしっ子」~ PartⅨ「そして門の鍵」)、グレアムとアンジーがある大きな秘密を抱え、かつ4人離れ離れに生活せざるを得なくなる中盤(PartⅩ( 山の上に吹く風は」~ PartⅩⅡ「裏切者」)、再び4人一緒に生活することになり、さらに申し分のない保護者が見つかりもするが、かつて抱えた問題の大きさや、新しく発生した事件などに翻弄され立ち向かう終盤(PartⅩⅢ「窓のとおく」~ PartⅩⅨ「つれて行って」)に分けることができる。
 現在も人気のある少女マンガ誌『花とゆめ』(白泉社)初期をけん引した代表作のひとつであり、作者没後なお読者を獲得し続けるロングセラーである。


はみだしっ子
雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1978年夏の号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはグレアム

No.02

はみだしっ子
雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1977年秋の号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはアンジー

No.03

はみだしっ子
雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1978年春の号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはマックス

No.04

はみだしっ子
雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1978年冬の号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはサーニン

No.05

はみだしっ子part17
「クリスマスローズ咲く頃」
トビラ
『花とゆめ』1979年8号
原画(東京より)

No.06

はみだしっ子part17
「クリスマスローズ咲く頃」
本編
『花とゆめ』1979年8号
原画(東京より)

No.07

はみだしっ子
自選複製原画集
本編
『三原順 自選複製原画集』1
(白泉社)1979年4月20日発行
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはグレアム

No.08

はみだしっ子part12
「裏切者」後編 トビラ
『花とゆめ』1978年3号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはサーニン

No.09

はみだしっ子
ポスター用イラスト
『別冊花とゆめ』1977年秋の号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはアンジー

No.10

はみだしっ子part13
「窓のとおく」前編 トビラ
『花とゆめ』1978年8号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはマックス

No.11

ルーとソロモン
ハードカバー単行本表紙および箱
『ルーとソロモン』
(白泉社、1978年1月20日発行)
原画(東京より)

No.12

「ルーとソロモン」
『Lala』1976年9月創刊号-1981年8月号

 一家の末っ子ルー・ウォーカーとその飼い犬ソロモン、ルーの姉ピアとの関係性を中心に描いたギャグコメディ。ソロモンは特にピアによる虐待のため、いつか仕返しをしてやろうと考えており「喰ってやる」が口癖。といっても人語を解せるが話せないので心の中で思っているのみである。また、元来のやさしい性格があだ(?)となり、仕返しはつねに失敗に終わる。
 「はみだしっ子」の人気が爆発していた頃、『Lala』創刊号で連載開始された売れっ子時代の代表作のひとつ。


ルーとソロモン
「はばたけ光の中へ!」トビラ
『LaLa』1978年11月号
原画(東京より)

No.13

雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1979年夏の号
原画(東京より)

No.14

「X Day」
『Lala』1982年12月号
ジェッツコミックス(白泉社)1985年7月25日

 「X Day」は、小さな放射性物質が起こす大きな悲劇を扱った物語である。核の問題を描き話題を呼んだ「Die Energie 5.2☆11.8」に続き核を扱っていることに注目されがちだが、アメリカ社会の抱える問題をいくつも重ね合わせて描かれた274ページの力作。初出時は未完のまま31ページのみ雑誌に掲載された。2年半ののち、大幅な描きおろしページが加えられ完結した。


X Day トビラ
『LaLa』1982年12月号
原画(東京より)

No.15

雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1979年春の号
原画(東京より)

No.16

今は静かな トビラ
『LaLa』1980年10月号
原画(東京より)




2色ページ用原画について

 マンガ雑誌ではかつて頻繁に2色印刷が使用されていました。マンガのカラーページは4色のインクを使用するのが基本ですが、かつてはインクが高価で4色印刷はコストがかかったため、2色印刷が利用されました。コストを下げつつ誌面を少しでもはなやかにする工夫だったのでしょう。単行本化される際は、すべてがモノクロで印刷される場合が多く、雑誌掲載時の色を見る機会は少なくなります。4色原画はイラスト集などに収録されることもあり、目に触れる機会もありますが、2色の、しかもコマで区切られた本編原画は雑誌掲載時以外、ほとんど目にする機会がありません。
 本コーナーでは、そんな貴重な2色原画のうち、画風が完成しその美しさが冴える「ロング アゴー」から、前期はⅠの冒頭8ページ、後期はⅡの冒頭8ページを展示します。


No.17

「ロング アゴー」
『花とゆめ』1982年13号、18号
『別冊花とゆめ』秋の号

 「はみだしっ子」の主要キャラクターであるジャックとロナルドを主人公にしたスピンオフ作品。連載が終わったのちに描かれた3回シリーズであった。「ロングアゴー」の頃は、絵柄の変わり目である。少女マンガらしい華やかさと、後につながるクールな画風がバランスよく同居しており、「この作品が最も好き」というファンも多い。


ロング アゴー Ⅰ
トビラ用イラスト
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.18

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.19

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.20

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.21

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.22

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.23

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)

No.24

ロング アゴー Ⅰ
本編
『花とゆめ』1982年13号
原画(東京より)




展示原画掲載誌コーナー

 ケース最下段には、今回展示される原画が掲載された雑誌を並べています。No.25からNo.30の6冊は前期・後期のいずれかに展示される、北海道からの原画が発表された雑誌。
 No.31とNo.32の2冊は各期に展示される、東京にある原画が発表された雑誌を交換し展示します。
 原画と比べて鑑賞してみてください。色味を調整したり、題字の色や位置を考えたりして原画の魅力を伝える工夫をしているのがわかります。

No.25

『花とゆめ』1976年2号
雑誌(東京より)※前期壁に原画展示

No.26

『花とゆめ』1977年2号
雑誌(東京より)※後期壁に原画展示

No.27

『花とゆめ』1978年8号
雑誌(東京より)※前期壁に原画展示

No.28

『花とゆめ』1979年1号
雑誌(東京より)※後期壁に原画展示

No.29

『花とゆめ』1979年12号
雑誌(東京より)※前期壁に原画展示

No.30

『花とゆめ』1979年20号
雑誌(東京より)※前期壁に原画展示

No.31

『別冊花とゆめ』1979年夏の号
雑誌(東京より)
※前期ケースNo.13に原画展示

No.32

『別冊花とゆめ』1979年春の号
雑誌(東京より)
※前期ケースNo.15に原画展示




◆正面壁

北海道からの原画

 三原順原画を当館で整理していく過程で、見当たらない原画があることが分かってきました。調査を進めるうちに、一部の原画は、三原順が生涯のほぼすべてを過ごした北海道に住む、彼女のご友人の手元にあることが分かりました。
 東京にある原画の整理をある程度終えた2018年度、所在がわかっている原画の状態確認と所在不明の原画の手掛かりをつかむため、北海道へ調査に向かいました。結局4ヶ所5名への取材を行い、さまざまな知見をいただきました。確認ができた18点のカラー原画は、所蔵者のご厚意で公開がかないました。本展示開催のきっかけとなったその18点を、前・後期に分け、おもに壁面とテーブルケースにて紹介します。

※まだ見つかっていない三原順原画があります。もし所蔵者をご存知の方がいらっしゃいましたら、当館にご一報ください。お譲りいただきたいわけではなく、可能であれば場所や状態を確認させていただければと思います。


壁01
はみだしっ子part11
「奴らが消えた夜」第1回 トビラ
『花とゆめ』1977年16号
原画(北海道より)

壁02
雑誌表紙
『花とゆめ』1979年12号
原画(北海道より)

壁03
雑誌表紙
『花とゆめ』1979年20号
原画(北海道より)

壁04
はみだしっ子
「グレアム特集」本編
『別冊花とゆめ』1977年夏の号
原画(北海道より)

壁05
はみだしっ子
雑誌表紙
『花とゆめ』1976年2号
原画(北海道より)

壁06
はみだしっ子part10
「山の上に吹く風は」第4回トビラ
『花とゆめ』1977年8号
原画(北海道より)

壁07
雑誌表紙
『花とゆめ』1978年8号
原画(北海道より)

壁08
はみだしっ子
雑誌ふろく(等身大ポスター)
『花とゆめ』1979年19号
原画(北海道より)

壁09
はみだしっ子
雑誌ふろく(等身大ポスター)
『花とゆめ』1979年19号
ふろく(東京より)




◆別壁

01.
修復原画コーナー

 原画整理を進める中、単純に汚れているからといった理由からではなく、状態が悪く展示に向かない原画が出てきました。
 例えば、カラー原画にかけたトレーシングペーパーが画面に貼りつきはがれなくなってしまったもの(ケース.1)。カラー原画に貼付されたカラートーン(スクリーントーンの一種)がめくれて取れそうなもの(ケース.2)。制作当時、1枚の原画を切り分けてアシスタントに渡し並行で作画が進められた後、セロテープでつなぎ合わせられた原画。さらに同様の原画でセロテープが劣化しはがれてバラバラになってしまったものなどです。
 そこで、保存修復科のある東洋美術学校に、保存上問題のある原画の一部について相談をしました。マンガ原画の修復は初の試みとのことでしたが、意欲的に取り組んでいただけた結果、危険な状態だった原画が展示可能なまでに修復されました。その原画を展示するとともに、修復に関するレポートを添付いたします。


02.
僕がすわっている場所 その2
トビラ
『花とゆめEPO』1985年3号 原画(東京より)
03.
X Day 本編原画
単行本描き下ろし
『X Day』(白泉社、1985年5月2日発行) 原画(東京より)




◆覗き込みケース

01.
はみだしっ子
綴じこみふろく(新書判ブック
カバー)用イラスト
『花とゆめ』1979年8号
原画(北海道より)
02.
はみだしっ子
綴じこみふろく(新書判ブック
カバー)用イラスト
『花とゆめ』1979年8号
プリモアート、2019年2月制
作(東京より)
03.
はみだしっ子
綴じこみふろく(新書判ブック
カバー)
『花とゆめ』1979年8号
ふろく(東京より)

04.
印刷のバリエーション

 ここでは、印刷のバリエーションを比較できるよう展示しました。北海道からの原画の中から前・後期各1枚を展示し、その原画の初出媒体(原画が最初に印刷された媒体)、「プリモアート」(高精細複製原画)、その他を比較することができます。
 マンガのカラーページは一般に4色のオフセット印刷です。表紙などに蛍光ピンクを1色足してマンガ印刷独特の明るさを出している場合も多くあります。もっと高価な印刷方法もたくさんありますが、安価で大勢の手元に届くことを目的としているマンガ雑誌はこの印刷を選んできました。たとえ色数の多い印刷機を使っても、原画と同じ色を出すことは難しく、それが4色ならなおさらです。しかしだか らこそ、限られた中で、作者や編集者、デザイナーそして印刷の技術者などが、なるべく原画の印象にあわせ原画のよさを伝えようと工夫しています。たとえば、赤など画面で一番印象的な色味に寄せて印刷するなどもその工夫の一つです。
 「プリモアート」は大日本印刷株式会社によって制作されている高精細複製原画です。北海道に保管されている原画の色見本とするために印刷しました。北海道原画に関しては所蔵者の許可のもと、高精細のスキャンデータを著作権者の手元に残す ことにしました。ですがデータだけでは、紙にプリントアウトしたものが原画の色に近いかどうかを確認することができません。また、北海道の個人宅に戻ると印刷するたびに原画と比較することは困難なため、色見本となる複製を作成したのです。技術者による色調補正を加えたうえで10色印刷で丁寧に仕上げてあります。これは、マンガ雑誌ではなかなかできない方法です。「プリモアート」の他にも、さま ざまな企業や施設が、それぞれの目的に沿った方法で、マンガ原画の複製に取り組んでいます。



05.
上:『The King of Beasts & Other Creatures』 Penguin Books, London, 1980年
左:『Searle's Zoodiac』 Dobson Books, London, 1977年
右:『サールズ・キャット』 CBSソニー/エイプリル出版、1978年(原書1967年)
いずれも著:ロナルド・サール
絵本(三原順遺品、東京より)



06.
三原順によるコメント※展示原画がカレンダーに再録された際に添えられたもの

「ロナルド・サールというイギリスのイラストレーターの画風が好きで、1度あんな風にシャカシャカシャカと描きサッサと色を流したような描き方をしてみたいと思っているのですが、私がやると手抜きにしか見えないという淋しさ。」
(『はみだしっ子カレンダー』1982年版より)

ロナルド・サール (Ronald Searle) / 風刺画家、ジャーナリスト
 1920年イギリスに生まれる。15歳から新聞の挿絵画を描く。19歳で建築製図工として従軍、シンガポールで日本軍の捕虜となるも、収容所で絵を描き続けた。帰国後は代表作となる『聖トリニアンズ女学院』を初め、意欲的に活動。1960年、アメリカ漫画家協会より外国人として初めてリューベン賞を受賞。法廷画家など多方面に活躍。特異な画風と鋭い風刺精神は、後の美術活動に強い影響を与えた。2011年永眠。
 本展示関連トークイベントの話し手である芳崎せいむ氏のマンガ『金魚屋古書店』では、三原順の「はみだしっ子」が取り上げられているが、ロナルド・サールも3話にわたって取り上げられている。