■前期

ごあいさつ

 おしぐちたかし氏は、戦後日本において海外マンガの存在感が希薄化した時代、書店員、編集者、マンガ評論家といった多角的な立場でマンガとかかわり、すべての立場から海外マンガを紹介し続けてきました。
 本展示では、おしぐち氏が90年代に収集したアメリカ、フランス、台湾、香港などの貴重なマンガ・資料・グッズ・原画などのコレクションを通して、当時日本において海外マンガがいかに紹介されてきたのか、いかに受容されてきたかについて振り返ることを目指すものです。また、これまであまり注目されることのなかった氏の活動に注目し、日本における海外マンガ理解において氏の果たしてきた役割の重要性にも焦点をあてます。
 海外マンガを読む人だけでなく海外マンガに馴染みのない人のどちらにとっても、その新たな魅力を知る機会になると同時に、海外マンガと日本マンガの関係性について、あらためてとらえなおす機会となればさいわいです。

明治大学 米沢嘉博記念図書館

前期:ペイント系アーティスト

 当展示ではおしぐちたかし氏の膨大なコレクションの中から、主に2つのテーマに沿って海外マンガの原画その他を選び、前期と後期の2期に分けて紹介する。前期においては主にアメリカのアーティスト、特におしぐち氏が「ペイント系」と名づけたアーティストの原画を紹介し、後期はマイク・ミニョーラ(Mike Mignola)の『ヘルボーイ』を中心に「ペイント系」ではない90年代コミックスブームさなかの人気作家たちをとりあげる。
 主に前期で紹介するアーティストたちに対する呼称「ペイント系」なる言葉は、実のところアメリカに存在するわけではない。コミックスのアートスタイルを「Paint Art(ペイント・アート)」ということはあるが、これは水彩や油彩、デジタル彩色などまで含めたかなり広い範囲の技法を指す言葉である。90年代におしぐち氏が書店「まんがの森」や雑誌で紹介してきたアーティストたちはそのような技法を使ったある種の絵柄を共有していた。その流れを先導したと言えるビル・シンケビッチ(Bill Sienkiewicz) を含め、画風は印象主義以降のファインアートや商業イラストレーションのテクニックを取り入れたきわめて先鋭的なものである。90年代のまだ情報が少ない時期にこうした前衛的な表現者たちと、後期に紹介することになる「ペンとインク」による90 年代コミックスブームの人気作家たちを、同時に日本に紹介し続けたおしぐち氏は一級の目利きだったといえるだろう。

アメリカのコミックス用語解説

「コミックブック」
30数ページの中綴じの小冊子状の刊行物。基本的には月刊で、1冊につき物語の1エピソードが掲載される。1930年代に、新聞掲載のコミックストリップを再掲し無料配布するオマケとして始まったが、人気が出て新作が載る販売物となった。現在でもアメリカではコミックスの主要な出版形態のひとつである。日本では「リーフ」と呼ばれることもあるが、これは和製英語。

「スーパーヒーロー」
現在の形でのスーパーヒーロー・ジャンルは、1930年代、特に1938年に出たDCコミックスの「Action Comics(アクション・コミックス)」1号に掲載された「スーパーマン」を嚆矢とする見方が強い。アメリカで特に「メインストリーム」のスーパーヒーロー作品と言えば、主にマーベルコミックスとDCコミックスという大手コミックス出版社2社から出たスーパーヒーロー作品群を指す。

「ユニバース」
基本的には一群のキャラクターの存在する世界を意味する。例えば、大手2社(マーベルコミックスとDCコミックス)には社毎にそれぞれユニバースがあり、違うシリーズを持つスーパーヒーローたちは同じユニバースを共有すると設定されている。ただし、ユニバースはパラレルワールドである複数のユニバース(マルチバース)から成立している。

「クロスオーバー」
ユニバースを共有するキャラクターたちが、それぞれ別のシリーズを持ちながらシリーズを超えて交流する物語を描く手法。コミックブックでは、通常のシリーズとは別に、違うシリーズのキャラクターたちが一同に会して新しいシリーズが始まる場合もあれば、複数のシリーズで同時にキャラクターたちがお互い他のシリーズに登場しあって物語が進む場合など、クロスオーバーの形態は様々である。




No.00
■安彦良和(Yoshikazu Yasuhiko)
日本のアニメーター、アニメ監督、マンガ家、イラストレーター。1947年生まれ、北海道出身。1970年、虫プロ養成所に入所。同社倒産後はフリーアニメーターとして活動。『さらば宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』など80年代アニメブームの中核となった作品にメインスタッフとして関わる。1979年『リュウ』(徳間書店)にてのちに自ら映画化する「アリオン」の連載でマンガ家として活動開始。

《おしぐちたかしコメント》
■安彦良和のこと
安彦さんと知り合ったのは、香港のマンガ家で安彦さんから影響を受けた司徒剣僑の作品を出版社の人といっしょに見てもらいにいったときです。その後、『Animerica』に頼まれて安彦さんのインタビューをとったんですが、その内容を安彦さんが気に入ってくれて、親しくさせてもらうようになったのはそれ以降ですね。その縁で『まんがの森』でのインタビューや『漫画魂』のカバーもお願いできた。


安彦良和
Yoshikazu Yasuhiko
『漫画魂』(白夜書房、2003)
カバー表1(原画)




■壁ケース

No.01
■おしぐちたかしプロフィール
マンガ評論家、編集者。1955年生まれ。福岡県出身。地元福岡の大学を卒業後、神戸の会社に就職。神戸で書店主催のマンガサークルに出会い、マンガ・アニメファンとの交流を深め、人脈を拡げる。のちにその書店に転職。書店の東京支店開店のため上京。神戸時代の人脈を活用したマンガ家のサイン会や原画展などの販促イベントを続々と企画した店舗運営が、マンガファンの間で話題となる。その後、白夜書房が 都内を中心に展開していたマンガ専門書店「まんがの森」設立(1984年)にかかわり、以降各店舗の店長を歴任。「まんがの森」では90年代初頭からアメリカンコミックスをはじめとする海外マンガの輸入販売を積極的におこない、現在につながる海外マンガ紹介の流れのひとつを築いた。2007年に同店を離れ、以降は徳間書店、復刊ドットコムなどで営業、編集者としてマンガ出版に携わる。個人名義で評論家、ライターとしての活動もおこない、マンガ家のインタビュー、海外マンガの紹介などの記事を多数執筆している。


No.02

■海外マンガとの出会い
 1955年生まれのおしぐちたかし氏は、テレビアニメ『鉄腕アトム』を放送開始時に見ていたアニメ第一世代。幼少期から『鉄人28号』『すすめロボケット』『キングロボ』『サイボーグ009』等々に心酔した熱心なマンガ読者だったが、当時の子供たちの大半がそうであったように、読みたいマンガ雑誌を好きなだけ買える環境ではなかった。中学生だった1967年に創刊された「COM」が、生まれて初めて自分の小遣いで定期購入したマンガ雑誌だった。手塚治虫『火の鳥』や石ノ森章太郎(当時の表記は「石森」)『ジュン』、当時の長谷川法世や青柳裕介などの新人作家たちなどのマンガ作品からコラム記事まで1ページも見落とすことなく読みふけっていた。
 「COM」の1968年4月号から小野耕世による海外マンガ紹介の連載コラムが始まる。手塚治虫本人から直接小野に電話で依頼がきて始まった連載で、小野が第1回でとりあげたのが『スパイダーマン』。当時中学3年生だったおしぐち氏は、その記事で引用されたジョン・ロミータによるスパイダーマンに惹きつけられる。これが、氏にとっての海外マンガ初体験であり、この連載はその後、氏がアメリカのコミックスを探求していく糸口となった。
 「COM」には、小野と安孫子素雄(藤子不二雄○A)がニューヨークのマーベル編集部に訪問した記事(1967年7月号)が掲載されたこともあり、それを憶えていた氏は後にマーベルを訪れた時、感慨もひとしおだったという。


『COM』1968年4月号
(虫プロ商事、1968)

The Amazing Spider-man Volume.1 #84
(Writer: Stan Lee, Art: John Romita, John Buscema, Jim Moony, Marvel Comics, 1970)

No.03

■アメリカのコミックスに魅了される
 「COM」の小野耕世の連載で海外マンガとスパイダーマンに出会ったおしぐち氏は、書店の雑誌売り場でアメリカのコミックブックを探すようになった。氏が生まれ育ったのは福岡県北九州市の門司港で、地元の書店には当時、日本洋書販売(洋販)が輸入したアメリカのコミックブックが売られていたのだ。しかし、売り場にコミックブックがあると言っても網羅的に仕入れが行われていたわけではなかったため、目当てのスパイダーマンの掲載された号を探すのには苦労する。ようやく見つけたスパイダーマンは再録アンソロジー「Marvel Tales」21号。「COM」で見たジョン・ロミータによって描かれたものではなかったものの、同号に掲載されていたジャック・カービーの手によるマイティ・ソーに魅了された。このカービーで、キャラクターのみならずアメリカのコミックス全体の魅力に憑りつかれた。特に好きになったのは、ロミータ、カービーにはじまり、ジーン・コーラン、ジョン・ビュッセマといった写実的なアートスタイルを持つアーティストだった。


The Avengers Volume.1 #77
(Writer: Roy Thomas, Art: John Buscema, Marvel Comics, 1970)

Marvel Tales Volume.2 #21
(Various Creators, Marvel Comics, 1969)

The Amazing Spider-man Volume.1 #100
(Writer: Stan Lee, Art: Gil Kane, John Buscema, Jim Moony, Marvel Comics, 1971)

Fantastic Four Volume.1 #101
(Writer: Stan Lee, Art: Jack Kirby, Marvel Comics, 1970)

X-Men Volume.1 #64
(Writer: Roy Thomas, Art: Don Heck, Marvel Comics, 1970)

Detective Comics Volume.1 #395
(Writer: Denny O’Neil, Art: Neal Adams & Dick Giordano, DC Comics, 1970)

Marvel’s Greatest Comics Volume.1 #26
(Various Creators, Marvel Comics, 1970)

No.04

■SFと少女マンガ
 おしぐち氏は中学時代にアメリカのコミックスに目覚めるが、同好の士は中学、高校を通して周囲にはほとんどいなかった。高校に入ると生徒会と美術部で忙しい毎日を過ごすようになり、マンガは以前ほど読まなくなる一方、小説などの活字を読み漁るようになっていた。アメリカのコミックスと出会う前に『レンズマン』などのスペースオペラも読んでいたが、その後も早川書房の「世界SF全集」などを皮切りに、SFにはかなり傾倒している。少年誌のグラビア含め、大伴昌司、福島正美、野田昌宏が紹介していた海外のSF雑誌や単行本のカバーアートなどへの興味も持ち続けていた。
 高校時代には、萩尾望都『ポーの一族』でカルチャーショックを受け、少女マンガに開眼した。それ以前から岡田史子、樹村みのり、矢代まさこなど、「COM」を通じて、当時の一般的な少女マンガとは一線を画す女流作家のマンガ作品にひかれていた。後に氏は「復刊ドットコム」に入社し、かつて敬愛した岡田史子の作品集の復刊を担当している。


『ポーの一族』1巻
萩尾望都(小学館、1974)

『ピクニック』
樹村みのり(朝日ソノラマ、1979)

『ODESSEY1966~2005』1巻
岡田史子(復刊ドットコム、2017)

『ODESSEY1966~2005』2巻
岡田史子(復刊ドットコム、2017)

『復刻『少年マガジン」カラー大図鑑』
(講談社、1989)

『SF入門』
福島正実(早川書房、1969)

『SFマガジン』1963年9月号
(早川書房、1963)

『さすらいのスターウルフ』
エドモンド・ハミルトン、野田昌宏訳
(早川書房、1970)

No.05

■書店就職と人脈の形成
 建築系の大学を卒業後、おしぐち氏はいったん建設会社に就職するが2年で退職し、神戸の「漢口堂書店」で働き始める。書店という職場は氏にとって、「自分の好きなものや色々な情報がドンドン集まってくる場所」であり、「自分の選んだものをお客さまが喜ぶ醍醐味を味わえる場所」。70年代末当時は、ミニコミ、SF、小劇場といった様々な若者文化が盛んになり始めた時代で、氏は仕事をしながら、マンガの同人誌も作成し、サブカルチャー界隈の様々な人脈を広げていった。
 神戸に住んでいた氏は、いしいひさいちが所属し、村上知彦が出入りしていた「チャンネル・ゼロ工房」の面々と知り合うほか、勤務先の書店が主催していたマンガのファンクラブを通して、マンガだけでなく、アニメ、特撮、SF小説など趣味の話のできる仲間を増やしていた。1981年には漢口堂書店の阿佐ヶ谷出店のため東京に引っ越し、関東でもいしかわじゅん、夏目房之介、高取英、大友克洋など錚々たるメンバーと付き合いが始まる。
 ちなみに、社会人になった1年目に「月刊スーパーマン」と光文社のマーベルコミックスが相次いで創刊。「月刊スーパーマン」2号には、氏が投稿したコメントが掲載されている。


『ザッツパロディ』
夏目房之介(K・Kサン出版、1981)

『マンガ伝』
村上知彦、高取英、米沢嘉博(平凡社、1988)

『チャンネルゼロ』創刊号
(チャンネルゼロ、1975)

『アクションデラックス』1号
(双葉社、1979)

No.06

■海外マンガ輸入販売
 1984年、おしぐち氏はマンガ評論家・原作者である大塚英志の推薦で、白夜書房が始めようとしていたマンガ専門店「まんがの森」の立ち上げに携わる。まんがの森は、当時あまりなかった書店での原画展スペースが常設されており、士郎正宗の「アップルシード」第1巻の原画展をはじめ、“目利き”としての氏による品揃えとイベントで常連客を増やした。海外マンガの原本の輸入販売も、氏による提案で始まったものである。
 マーベルコミックスのビジネスマネージャーや、アメリカで日本マンガ出版に携わっていた「VIZ」の社長からアドバイスを受け、かねてから興味のあった海外マンガ販売を社長に提案。了承を得て1990年コンベンションの開かれているサンディエゴで現地のディストリビューターと契約し、アメリカのコミックスの販売を始める。アメリカのコミックスを洋販から仕入れていた書店は当時からあったが、まんがの森のようにアメリカからダイレクトに主要タイトルを毎号欠かさず揃えていたところは珍しかった。
 1990年に初参加して以来、氏は度々アメリカのコンベンションに行き、アメコミ販売の販促の一環として自費で原画を購入し、まんがの森各店舗で原画展示を行った。
アメリカやイギリス、ヨーロッパでは、マンガの原稿は絵画同様、売買されている。アーティストにとって重要な収入源のひとつとなっているためで、作家自ら、もしくは専属のエージェントによって、コンベンション会場で販売されているのである。今回展示される原画のほとんどが90年代、アメリカのコンベンションで購入されたもの。


International Correspondence Extra! #1
(Capital City, 1991)

『リュウ』1981年7月号
(徳間書店、1981)

写真
(初渡米時マーベルコミックス訪問)
(同サンディエゴコミコン)

No.07

■原画展開催とミニコミ誌発行
 おしぐち氏が初めて原画展を行ったのは、80年代初頭の阿佐ヶ谷「漢口堂書店」勤務時代。同書店の場所が見つけにくいところにあったせいか客の入りが少なく、それを知った友人の大友克洋からの申し出で大友の原画展を行ったのが最初である。「まんがの森」でも、当時珍しかった書店での原画展を積極的に行い、時には毎週開催することもあった。阿佐ヶ谷時代の原画展には、氏の広い人脈で多くのマンガ家が協力し、原画展用に新たなイラストを描きおろすことも稀ではなかった。宣伝用のイラストは「プリントゴッコ」で葉書に印刷され配布されている。日本のマンガ家以外にも、個人で購入したアメリカのコミックスの原画を店頭に飾ることもあり、時には海外のアーティストに頼まれて原画を販売することもあった、という。
 同人誌制作に慣れていた氏自身が編集長を務め、まんがの森のミニコミ誌も毎月発行していた。毎号必ず掲載されていたマンガ家のインタビューは今見ても豪華なラインアップである。インタビューの一部は後に「漫画魂」として1冊の本にまとめられた。小冊子は全部で106号発行されている。


原画展告知ポストカード
(1982~1983)

『月刊まんがの森』より抜粋
(まんがの森、1998~2006)

No.08

■執筆活動
 「名物店長」「カリスマ店長」として、書店という場を中心に活動してきたおしぐち氏の執筆活動は、意外に知られていないかもしれない。テーマには日本と海外のマンガという一貫性があるものの、マンガ誌(「漫画ブリッコ」「漫画ホットミルク」他)、アメリカの邦訳コミックス(「スポーン」など)の解説、雑誌(「エス」など)のマンガ家インタビューほか、多数のマンガレビューに加え、「経済往来」などの経済誌にまで、その執筆の幅は広い。氏の文章は特に当時、書店という販売の最前線からの視点でマンガをとりあげていたところが新鮮であった。
 さらに日本では小野耕世に並んで海外アーティストにインタビューできる数少ない書き手として、海外アーティストの紹介も多く行い、記事にしている。マンガ家へのインタビューに関しては氏曰く、高校時代に美術部でデッサンや絵画をしっかり勉強させられて、ものを描くことの体感を得ていることが役に立った、ということである。


『漫画ブリッコ』1983年8月号
(白夜書房)

『漫画ホットミルク』1998年11月号
(白夜書房)

『スポーン』10巻
(メディアワークス、1997)

Animerica, Volume.1, #0
(Viz Comics, 1992)

『アメイジング・キャラクターズ』
(白夜書房、1996)

『コミッカーズ』2000年8月号
(美術出版社)

『S.M.H.』Vol.15
(ホビージャパン、1999)

No.09

■クリストファー・モレロ(Christopher Moeller)
 アメリカのイラストレーター、コミックス作家。1963年生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。主にアクリル画で本やゲームのイラスト、コミックスのアートを手掛ける。コミックスにおける代表作『Iron Empires』シリーズでは自身で脚本も手掛けた。日本ではトレーディングカードゲーム「Magic: the Gathering」のカードイラストの作画で知られる。他のコミックス作品としては「JLA: A League of One」(DC Comics, 2000)など。本展示で紹介している「Rocketman: King of the Rocketmen」(Innovation, 1991)はデビュー作に当たる。


《おしぐちたかしコメント》
■クリストファー・モレロのこと
コンベンションで彼のデビュー作の『Rocketman: King of the Rocketmen』(Innovation, 1991)の話をしたことから仲良くなって、その後彼が『Magic: the Gathering』のイベントで来日したときに『Animerica』編集部経由で連絡をもらって会ったんだよね。そのときに『コミッカーズ』(2002年5月号、美術出版社)に掲載されたインタビューも取りました。


クリストファー・モレロ
Christopher Moeller / Paint
“Mimic”
Fleer Ultra X-Men '94 (Fleer, 1994)
Trading Card原画

クリストファー・モレロ
Christopher Moeller / Paint
“X-Cutioner”
Fleer Ultra X-Men '94 (Fleer, 1994)
Trading Card原画

No.10

■マジック:ザ・ギャザリング(Magic: The Gathering)
 アメリカのゲームメーカー、Wizards of the Coastが開発、販売する「トレーディングカードゲーム(TCG)」。TCGとはプレイヤーがトレーディングカードとして販売されるカードを収集し、互いにその中から選択した手札セットを持ち寄って対戦するタイプのゲームをいい、マジックはこの種のゲームの始祖にあたる。モレロ以外にも本展示前期で取り上げているアーティストの多くがこのゲームのイラストを手掛けている。


クリストファー・モレロ
Christopher Moeller / Paint
“Planeswalker's Fury”
Magic: The Gathering (Wizard of the Coast, 2001)
Trading Card Game原画

クリストファー・モレロ
Christopher Moeller / Paint
“Moment of Silence”
Magic: The Gathering (Wizard of the Coast, 1999)
Trading Card Game原画

No.11

■スコット・ハンプトン(Scott Hampton)
 アメリカのコミックスアーティスト、イラストレーター。1959年生まれ、アメリカ合衆国ノースカロライナ州出身。兄、ボー・ハンプトン(Bo Hampton)とともにウィル・アイズナー(Will Eisner)のもとでコミックアートを学び、1981年「Vampirella」#101(Warren Publishing)でコミックスアーティストとしてデビュー。1983年に発表された「Silverheels」(Writer: April Campbell,Bruce Jones,Pacific Comics)はアメリカのコミックブックではじめてフルペイントの手法で描かれたものとされる。代表作は「Batman: Night Cries」(DC Comics,1992)、「Lucifer」(DC Comics,1999)など多数。


スコット・ハンプトン
Scott Hampton / Paint
“Officer Renee Montoya”
Batman Master Series '95 (Skybox, 1995)
Trading Card原画

スコット・ハンプトン
Scott Hampton / Paint
“Siryn”
Fleer Ultra X-Men '94 (Fleer, 1994)
Trading Card原画

No.12

■トレーディングカードとコミックス
 収集品(collectible)としての「トレーディングカード」の歴史はきわめて長いが、映画やテレビドラマ、コミックスなどを素材にしたキャラクターグッズとしてのそれが登場したのは60年代。コミックスカードが爆発的な発展を遂げたのは90年代のコミックスブームの時期である。中でも水彩や油彩による美麗な「ペイントアート」による描き下ろしキャラクターイラストをフィーチャーしたシリーズは注目を集め、90年代半ばに多数発売された。


《おしぐちたかしコメント》
■スコット・ハンプトンのこと
彼はアートスクール出身というわけではなくお兄さん(ボー・ハンプトン)がアーティストで、彼も「絵が描ける」ということからコミックスの仕事をはじめ、ペンシラーもやる職人肌の作家。割りと初期の『Batman:Night Cries』の絵がすごくよかったんで、コンベンションで話しかけて仲良くなった。


スコット・ハンプトン
Scott Hampton / Paint
“Female Furies”
DC Villains: Dark Judgement (Skybox, 1995)
Trading Card原画

スコット・ハンプトン
Scott Hampton / Paint
“Black Fire”
DC Villains: Dark Judgement (Skybox, 1995)
Trading Card原画

No.13

■ケント・ウィリアムス(Kent Williams)
 アメリカの画家、コミックスアーティスト、イラストレーター。1962年生まれ、アメリカ合衆国ノースカロライナ州出身。アートスクール在学中の1983年「Epic Illustrated」#19(Epic Comics)掲載の短編『Marghinee』(Writer: Jo Duffy)でアーティストデビュー。1987年発表のミニシリーズ「Blood: A Tale」(Writer: J.M.DeMatteis, Epic Comics)のアートで注目される。1995年からはファインアート方面での活動が主になるが、コミックスから完全に遠ざかったわけではなく、その後も映画監督のダーレン・アロノフスキー(Darren Aronofsky)と組んで2006年グラフィックノベル「The Fountain」を発表している。

■シェリル・ヴォルケンバーグ(Sherilyn van Valkenburgh)
 アメリカのコミックスカラーリスト。1986年発表のジョン・J・ミュース(John J. Muth)の「Moonshadow」(Writer: J. M. DeMatteis, Epic Comics)にケント・ウィリアムス(Kent Williams)とともにゲストアーティストとしてクレジットされたのがコミックス業界への初登場になる。カラーリストとしてのデビューは1991年刊行の「Batman vs Predator」(Writer: Dave Gibbons, Art)。以降マーベル、DC、ダークホースといった主要コミックス出版社で多数のタイトルのカラーリングを担当している。


ケント・ウィリアムス
Kent Williams / Pencil & Ink
シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh / Color
“Wolverine: Killing”
Wolverine: Killing (Writer: John Ney Rieber, Marvel Comics, 1993)
奥:原画
前:カラーリング原画
右:書籍

No.14

《おしぐちたかしコメント》
■ケント・ウィリアムスのこと
ケントはジョン・J・ミュースとの共作『Havok & Wolverine: Meltdown』(Epic Comics, 1988)ですな。あのぶっちぎれたウルヴァリンがすごい。彼とミュース、ジョージ・プラット、カラーリストのシェリル・ヴォルケンバーグたちは、同じ創作グループなんだよね。ケントはもともと『Playboy』のイラストなんかを描いてたひとで、90年代からずっと「Allen Spiegel Fine Arts」というアートエージェントが彼らの作品をまとめて扱っている。


ケント・ウィリアムス
Kent Williams / Pencil & Color
スケッチ(未発表)

ケント・ウィリアムス
Kent Williams / Paint
“Falcon”
Marvel Master Series '93 (Skybox, 1993)
Trading Card原画

No.15

■ジョージ・プラット(George Pratt)
 アメリカの画家、コミックス作家、イラストレーター、映像作家。1960年生まれ、アメリカ合衆国テキサス州出身。1983年「Epic Illustrated」#20(Epic Comics)にケント・ウィリアムス(Kent Williams)がアートを担当した短編『Primevil』へ脚本を提供したことでコミックス業界に参入し、以降「Heavy Metal」などに短編を発表するようになる。本格的な長編コミックス作品としては1990年に刊行されEisner、Harvey両賞にノミネートされた「Enemy Ace: War Idyll」(DC Comics)が初であり、以降もまとまったコミックス作品は2003年の「Wolverine: Netsuke」(Marvel Comics)くらいだが、カバーアートは多数担当している。


ジョージ・プラット
George Pratt
"First Sign, Part III: Burn Out"
Ironman Volume.1 #326 (Writer: Terry Kavanagh, Marvel Comics, 1996)
左:ラフ
中:Cover Art原画
右:書籍

No.16

《おしぐちたかしコメント》
■ジョージ・プラットのこと
彼はまとまった作品としては『Enemy Ace: War Idyll』(DC Comics, 1990)くらいしか知らないんだけど(2003年にミニシリーズ『Wolverine: Netsuke』(Marvel Comics)を発表)、僕が90年にはじめてアメリカに行ったときに『Enemy Ace: War Idyll』に書いてもらったイラスト入りのサインがすごくかっこかったのが、今でも印象に残っている。アイアンマンのカバーアートは彼が赤の万年筆で描いたスケッチもついていて絵の描き方もわかるし、いいなと思ったんだ。


ジョージ・プラット
George Pratt
“Warblade”
Wild C.A.T.S '94 (Wildstorm, 1994)
左:ラフ
右:Oversized Trading Card原画

No.17

■ビル・シンケビッチ(Bill Sienkiewicz)
 アメリカのコミックスアーティスト、イラストレーター。1958年生まれ、アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州出身。1979年、ニール・アダムス(Neal Adams)の紹介でマーベルコミックスが刊行していたコミックマガジン「The Hulk!」(Marvel Comics)掲載の『Moon Knight』のアーティストとしてデビュー。初期はアダムスの影響が濃いオーソドックスな画風だったが、80年代中盤までに油彩や水彩、コラージュ、抽象表現などを画面に取り入れた実験的なコミックス表現を確立し、以降のコミックスアーティストに大きな影響を与えた。


ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh / Color
“Wolverine: Inner Fury”より2点
Wolverine: Inner Fury (Writer: D.G. Chichester, Marvel Comics, 1992)
左:原画
右:カラーリング原画

No.18

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh / Color
“Wolverine: Inner Fury”
Wolverine: Inner Fury (Writer: D.G. Chichester, Marvel Comics, 1992)
奥:原画
前:カラーリング原画
右:書籍

No.19

《おしぐちたかしコメント》
■ビル・シンケビッチのこと
とにかく「世の中にこんなにすごい作家がいるのか」と思わされたアーティストです。『Stray Toasters』(Epic Comics, 1989)、『Elektra: Assassin』(Marvel Comics, 1986)、『Daredevil: Love and War』(Marvel Comics, 1986)と当時出会った作品がすべてすごい。『コミッカーズ』(2000年8月号)に掲載されたインタビューも今回読み返したらすごく調べて資料をそろえてやってる(笑)。なにしろ10年越しの念願のインタビューだったから。インタビューをとれたこと自体、すごくラッキーだったと思います。


ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
“Wolverine: Inner Fury”
Wolverine: Inner Fury (Writer: D.G. Chichester, Marvel Comics, 1992)
原画

No.20

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
"The Cream of the Jest"
Moon Knight Volume.1 #13 (Writer: Doug Moench, Marvel Comics, 1981)
原画

No.21

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil &Ink
"Slumber Party!"
New Mutants Volume.1 #21 (Writer: Chris Claremont, Marvel Comics, 1984)
原画

No.22

■サル・ビュッセマ(Sal Buscema)
アメリカのコミックスアーティスト、インカー。1936年生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。兄は同じくコミックスアーティストであるジョン・ビュッセマ。1950年代にデルコミックス(Dell Comics)で兄ジョンのインカーとしてキャリアをスタート。1968年にこれも兄のあとを追うかたちでマーベルコミックス(Marvel Comics)に移籍。1970年代以降はペンシルも担当し、90年代後半からはDCでも仕事をしている。


サル・ビュッセマ
Sal Buscema / Pencil
ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Ink
"The Return of the Green Goblin"
The Spectacular Spider-Man Volume. 1 #225 (Writer: Tom DeFalco, Marvel Comics, 1995)
原画

No.23

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
“エレクトラ”スケッチ(未発表)

No.24

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
"Bent Twigs"
Batman: Black and White Volume.1 #3 (DC Comics, 1996)
原画

No.25

■コミックブックの制作プロセス
 アメリカのコミックブックの多くは分業によってつくられている。基本的には脚本家(Writer)と作画担当者(Artist)の区分になるが、作画担当者は「どのような画稿を原版にするか」によってさらに細かく分けられる場合がある。
 この前期展示のメインである「ペイント系」作家の原稿のような水彩、油彩、アクリル絵の具などで描かれた画稿をもとに製版する場合は基本的に作画担当者はひとりだが、日本のマンガと同じようなペンとインクで描かれた原稿の場合はこれがさらに細分化される。
 まず下描きにあたるペンシル(Pencil)、ペン入れにあたるインク(Ink)を別の人間が担当する場合があり(無論ひとりでやっている場合もある)、フルカラーでの出版が中心のアメリカのコミックブックにおいてはこのあとさらにカラーリストによる彩色(Color)の工程が発生する。
 本展示で紹介している「カラーリング原稿」とは、この彩色の際に作成される「原稿」であり、彩色用の用紙に薄いブルーラインで「ペン入れまで終了した画稿」を印刷したものにカラーリストが絵の具で彩色した「原稿」に別途フィルム出力した「ペン入れされセリフまで入った画稿」を組み合わせたものだ。直接的にはこの状態のワンセットがコミックブックの印刷用版下になる。
 無論現在ではコンピュータ彩色も普及しており、その場合には当然異なった作業工程になるが、90年代まではまだこうした手彩色によるカラーリングも多かった。

■サム・パーソンズ(Sam Parsons)
 アメリカのコミックスインカー、カラーリスト。80年代半ば、エクリプスコミックス(Eclipse Comics)でインカー兼カラーリストとしての活動をはじめる。90年代以降はDC、マーベルでも多くの作品にかかわる。


サム・パーソンズ
Sam Parsons / Color
ジョン・ロミータJr.
John Romita Jr. / Pencil
アル・ウィリアムソン
Al Williamson / Ink
“Daredevil: Man Without Fear”
Daredevil: Man Without Fear #1 (Writer: Frank Miller, Marvel Comics, 1993)
カラーリング原画

『デアデビル:マン・ウィズアウト・フィアー』(ヴィレッジブックス、2015)

No.26

■ジョン・ロミータSr.(John Romita Sr.)
 アメリカのコミックスアーティスト、編集者。1930年生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。1949年最初の定期刊行されたコミックブックとみなされる『Famous Funnies』(Eastern Color)でデビュー。1950年代はDCコミックスでロマンスコミックスを多数担当、60年代半ば以降はその清潔感のあるアートで『Amazing Spider-Man』をはじめとするマーベル初期の人気作を支えた。1973年にはマーベルコミックスのアートディレクターに就任。2002年、そのコミックス界への長年の貢献からEisner AwardでHall of Fameに選出された。


ジョン・ロミータSr.
John Romita Sr.
“Daredevil”
(詳細不明)
レイアウト

No.27

■ラフ、レイアウト
 このジョン・ロミータSr.の画稿のようなページラフやレイアウトと呼ばれるような画稿は、日本では「ネーム」と呼ばれ、通常は作画担当のマンガ家が自分で起こすものだが、アメリカの場合、脚本担当のライターがこの状態で描いていたり、シナリオからこの状態まで別なアーティストが構成したものを、アーティストが仕上げたりする場合がある。


《おしぐちたかしコメント》
■ジョン・ロミータSr.について
僕が最初にスパイダーマンをかっこいいと思ったアーティスト。「光文社のマーベルコミックス」なんかも読んではいたけど、当時刊行されたスパイダーマンはギル・ケイン(Gil Kane)がアート担当のものが多くて、ロミータの一番いい時期のものはそれほど読んでいないよね。これはスパイダーマンじゃなくてデアデビルだけど、手に入れたときはすごくうれしかった。


ジョン・ロミータSr.
John Romita Sr.
“Daredevil”
Daredevil cartoon series Presentation Illustration (1974)
ラフ

No.28

■ジョン・ロミータJr. (John Romita Jr.)
 アメリカのコミックスアーティスト。1956年生まれ、アメリカ合衆国ニューヨーク州出身。ジョン・ロミータSr.の息子であり、母ヴァージニアもマーベルコミックスの編集者だった。両親のあとを追うように70年代半ばにマーベルコミックスでコミックアーティストとしてデビュー。80年代以降は人気タイトルのペンシラーを歴任し、2010年にフリーになるまでマーベルの専属アーティストとして一線で活躍した。2019年現在はDCコミックスで『Batman』を担当している。


ジョン・ロミータJr.
John Romita Jr. / Pencil
アル・ウィリアムソン
Al Williamson / Ink
"Blackheart!"
Daredevil Volume.1 #270 (Writer: Ann Nocenti, Marvel Comics, 1989)
原画

No.29

《おしぐちたかしコメント》
■ジョン・ロミータJr. のこと
ロミータJr.は、ハッチングの効いたタッチが好きで、デアデビルやパニッシャー、ゴーストライダーなんかの僕の好きな辺りのキャラクターが描かれてる原画を集めた感じですね。むしろ今みたいに有名になるとはあんまり思ってなかったんじゃないかな。彼は意外と苦労人で、お父さんが人気アーティストだからといって仕事面で優遇されていたわけじゃないしね。


ジョン・ロミータJr.
John Romita Jr. / Pencil
アル・ウィリアムソン
Al Williamson / Ink
"We Again Beheld the Stars"
Daredevil Volume.1 #265 (Writer: Ann Nocenti, Marvel Comics, 1989)
原画

No.30

ジョン・ロミータJr.
John Romita Jr. / Pencil
クラウス・ジャンソン
Klaus Janson / Ink
"Hearts of Darkness"
Ghost Rider, Wolverine, Punisher: Hearts of Darkness (Writer: Howard Mackie, Marvel Comics, 1991)
原画

No.31

■アンディ・キューバート(Andy Kubert)、アダム・キューバート(Adam Kubert)
 アメリカのコミックスアーティスト。兄アダムが1959年、弟アンディが1962年生まれ、アメリカ合衆国ニュージャージー州出身。ともに同じくコミックアーティストである父、ジョー・キューバート(Joe Kubert)が設立した「Joe Kubert School of Cartoon and Graphic Art」でコミックス制作を学ぶ。兄弟ともにレタラー(原稿に文字を書き入れる職種)やインカーからコミックス業界での仕事をはじめ、90年代に人気アーティストになった。


シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh / Color
アンディ・キューバート
Andy Kubert / Pencil
アダム・キューバート
Adam Kubert / Ink
“Batman VS Predator”
Batman VS Predator #1 (Writer: Dave Gibbons, DC Comics/Dark Horse Comics, 1991)
奥:カラーリング原画
前:フィルム

No.32

《おしぐちたかしコメント》
■アンディ・キューバート、アダム・キューバートのこと
彼らは由緒正しいマンガ家一家の子供たちで、その中ではアンディの絵が一番親しみやすいんじゃないのかな。お父さんはやっぱりちょっと古いし、アダムは少しクセがある。


シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh / Color
アンディ・キューバート
Andy Kubert /Pencil
アダム・キューバート
Adam Kubert /Ink

右:
“Batman VS Predator”
Batman VS Predator #1 (Writer: Dave Gibbons, DC Comics/Dark Horse Comics, 1991)
カラーリング原画

左:
“Batman VS Predator”
Batman VS Predator #2 (Writer: Dave Gibbons, DC Comics/Dark Horse Comics, 1991)
カラーリング原画




■正面壁

シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh /Color
ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Pencil & Ink
“Wolverine: Inner Fury”より3点
Wolverine: Inner Fury (Writer: D.G. Chichester, Marvel Comics, 1992)
カラーリング原画



ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Paint
Unpublished Work (1990)
原画
※「コミッカーズ」2000年8月号に掲載

ビル・シンケビッチ
Bill Sienkiewicz / Write & Paint
“4 Sixs and Sevens”
Stray Toasters #4 (Epic Comics, 1988)
原画



■ジョン・J・ミュース(John J. Muth)
 アメリカのコミックスアーティスト、絵本作家、イラストレーター。1960年生まれ、アメリカ合衆国オハイオ州出身。美術教師の母親のもとに生まれ、幼少期から美術に親しみ、ヨーロッパで絵画を、日本で彫刻と書道を学んだ。1982年『Epic Illustrated』#12に「Small Gift」、「Pursuit」を発表してデビュー。1985年から刊行された『Moonshadow』(Writer: J. M. DeMatteis, Epic Comics)はグラフィックノベルの先駆と考えられているもののひとつ。1996年には講談社から日本オリジナル作品『空想の大きさ』(ジョン・クラモト脚本)が出ている他、絵本の翻訳も多い。


《おしぐちたかしコメント》
■ジョン・J・ミュースのこと
ミュースももともとは『Havok & Wolverine: Meltdown』(Epic Comics, 1988)のアーティストという印象なんだけど、その後『Moonshadow』(Epic Comics, 1985)を知って、彼といろいろ話していたらフリッツ・ラングの映画をもとにした『M』(Eclipse Comics, 1990)を描いているという話を聞いた。いまはもう絵本作家になっちゃいましたが。美人画の巨匠、ジェフリー・ジョーンズ(Jeffrey Jones)に師事し、確か娘婿だったはず。


ジョン・J・ミュース
John J. Muth / Paint
“The Mystery Play”
The Mystery Play (Writer: Grant Morrison, DC Comics(Vertigo), 1994)
原画



クリストファー・モレロ
Christopher Moeller / Adaptation & Paint
“Rocket Man: King of the Rocket Men”
Rocket Man: King of the Rocket Men #1 (Original Screenplay “King of the Rocket Men”director:
Fred C. Brannon, Innovation, 1991)
原画



■ジョン・ヴァン・フリート(John Van Fleet)
 アメリカのコミックスアーティスト、イラストレーター。生年、出身不詳。公式サイトのプロフィールによればウェイターを経て同窓の友人のつてでコミックス業界に入った。書誌データ上の初クレジットはケント・ウィリアムス(Kent Williams)『Blood: A Tale』#4(Writer: J. M. DeMatteis, Epic Comics, 1987)での技術協力だが、実質的なデビューはアンソロジー『Clive Barker's Hellraiser』#4(Epic Comics)掲載「Cenobite!」(Writer: Nicholas Vince)のアートになる。アートスタイル的には写真を使ったコラージュやデジタル処理、3DCGなどを使用した複合素材での創作が特徴。


ジョン・ヴァン・フリート
John Van Fleet /Paint
“Batman: The Chalice”
Batman: The Chalice (Writer: Chuck Dixon, DC Comics, 1999)
未使用原画(部分)

《おしぐちたかしコメント》
■ジョン・ヴァン・フリートのこと
彼はあまりコミックスの仕事はしていない作家で、この『Batman: the Chalice』(DC Comics, 1999)の原稿も、僕はたまたま『X-Files』を描いてたのを知ってたから、コミコンで知り合ったマンガ家の内藤泰弘さんにまだ知られていない作家の原画として「コレ初物!」と勧めた記憶がある。たしか内藤さんはこの本のカバーの原画を買ったんじゃなかったかな。


ジョン・ヴァン・フリート
John Van Fleet / Paint
“Batman: The Chalice”
Batman: The Chalice (Writer: Chuck Dixon, DC Comics, 1999)
原画

ジョン・ヴァン・フリート
John Van Fleet /Paint
“Pilot Episode”
X-Files Volume. 1 #0 (Original TV Writer: Chris Carter, Adaptation: Roy Thomas, Topps Comics, 1996)
原画



シェリル・ヴォルケンバーグ
Sherilyn van Valkenburgh /Color
ケント・ウィリアムス
Kent Williams /Pencil & Ink
“Wolverine: Killing”より4点
Wolverine: Killing (Writer: John Ney Rieber, Marvel Comics, 1993)
カラーリング原画



■90年代のアメリカンコミックスシーン
 おしぐち氏がまんがの森においてアメリカンコミックスの輸入販売をはじめた90年代はじめの時期は、アメリカのコミックス業界は「コミックスブーム」と呼ばれる好況に沸いていた。
 ここでいう「コミックスブーム」は、80年代にはじまったコミックショップ専門流通である「ダイレクトマーケット」市場の成長により、収集品としてのコミックブックやスーパーヒーローのキャラクターグッズが注目されたことから起こったものだ。そのため内実としてはひどく投機的なもので90年代末にはバブル崩壊的な状況になるのだが、作品的には物語よりもアート面が注目された視覚的に華やかなものだった。
 本展示前期で紹介している「ペイント系」のアーティストたちは、90年代初頭、このアート面、視覚表現面でのオルタナティブ、前衛を象徴する存在だったのだが、90年代後半になるとトレーディングカードやポスター、ヴァリアントカバーの制作など、ブームを反映したキャラクターグッズ的な仕事も残すことになった。
 いっぽう当時は、後期に紹介するジム・リー(Jim Lee)らをはじめ、メインストリームのスターアーティストたちがコミックスファンのあいだでアイドル的な人気を集めるようになった時期でもある。
 前期でいえばジョン・ロミータJr.(John Romita Jr.)やキューバート兄弟(Kubert Brothers)らによる、日々洗練されていくコミックスアートはコンピュータカラーリングの導入も相まってそれ自体が革新的なものだった。

スコット・ハンプトン
Scott Hampton / Paint
“Batman: Night Cries”
Batman: Night Cries (Writer: Archie Goodwin, DC Comics, 1992)
原画



■ポール・マウンツ(Paul Mounts)
 アメリカのコミックスインカー、カラーリスト。90年代初めにインカーとしてキャリアを始めるが、カラーリストとしての実績がメイン。いち早くデジタルカラーリングを導入したカラーリストとして多くの出版社で多くのタイトルを担当。

■ロン・ガーニー(Ron Garney)
 アメリカのコミックアーティスト。生年、出身不詳。90年代はじめにコミックアーティストとしてのキャリアをはじめ、1995年ライターのマーク・ウェイドと組んだ『Captain America』でのアートワークで注目される。


ポール・マウンツ
Paul Mounts / Color
ロン・ガーニー
Ron Garney / Pencil
アル・ミルグロム
Al Milgrom / Ink
“Ghost Rider, Wolverine, Punisher: The Dark Design”
Ghost Rider, Wolverine, Punisher: The Dark Design (Writer: Howard Mackie, Marvel Comics, 1994)
カラーリング原画




■覗き込みケース

■メビウス(Moebius)
 フランスのコミックス作家、アーティスト。ジャン・ジロー(Jean Giraud)名義でも作品を発表している。1938年生まれ、2012年没。フランス出身。コミックスアーティストとして注目されたのはジャン・ジロー名義での1963年にはじまる西部劇連作『Blueberry』(Writer: Jean Michel Charlier, Dargaud )からだが、「メビウス」としての活動にスポットが当たるのは1974年大人向けのSF、ファンタジーコミックス誌『Métal Hurlant』(Les Humanoïdes Associés、同誌のアメリカ版が『Heavy Metal』)創刊参加以降になる。メビウスは1985年から89年までアメリカにスタジオを開き、活動していた。


《おしぐちたかしコメント》
■メビウスのこと
小さなラフスケッチは、メビウスが80年代にアメリカで関わっていた映画関連のもの。一時期、まんがの森でフランスのSTARDOMと提携して、日本でメビウスのアートビジネスを展開する話があったんだけど、うまくいかなかった。アメリカやヨーロッパではエージェントがついてギャラリーで原画を売買するのが普通のことになってるけど、けっきょく日本では今でも(コミックスの)原画を、絵画として売買する土壌が根付いてないでしょう。


■ジェフ・ダロウ(Geof Darrow)
 アメリカのコミックス作家。1955年生まれ。代表作はフランク・ミラー(Frank Miller)脚本の『Hard Boiled』(Dark Horse Comics, 1990)、『The Big Guy and Rusty the Boy Robot,』(Dark Horse Comics, 1996)、自身が脚本を書いた『Shaolin Cowboy』シリーズ(2004~)など。これらは日本語版も翻訳刊行されており、『Big Guy』と『Shaolin Cowboy』に関しては本展示企画者、椎名ゆかり氏による訳書が誠文堂新光社より刊行されている。『City of Fire』はダロウがメビウスと共作し、1985年にヨーロッパ版限定900部、USA版限定100部で販売されたポートフォリオ※を、DARK HORSE社が1993年に普及版として出版しなおしたもの。


※ポートフォリオ
…薄い大判の紙挟みに複製原画を入れた作品集のこと。本展示においては、ジェフ・ダロウとメビウスが共作した『City of Fire』などがそれにあたる。


《おしぐちたかしコメント》
■ジェフ・ダロウのこと
この『City of Fire』はダロウさんが下絵を描いて、それをメビウスがインクを入れてカラーリングをした、という複雑なつくりかたをしていて、だから全体はダロウさんのゴチャっとした感じなんだけど、ディティールを見ていくとやっぱりメビウスなんだよね。

メビウス
Moebius / Art
ジェフ・ダロウ
Geof Darrow / Art
“City of Fire”
(Dark Horse Comics, 1993)
ポートフォリオ

【写真上・3点】
メビウス
Moebius / Art
Unpublished Work 3点 (年代不詳)
原画

【写真下・1点】
メビウス
Moebius / Art
“eaps”
Art of Moebius (Epic Comics, 1989)
原画

メビウス
Moebius / Art
“Little Nemo: Adventures in Slumberland”より3点
Little Nemo: Adventures in Slumberland(Director: Masami Hata, 1989)
Storyboard原画(未確認)

メビウス
Moebius / Art
“Croqus-1987”
Unpublished Work (年代不詳)
原画

メビウス
Moebius /Art
“Une junesse heureuse”
(Stardom, 1999)
画集

メビウス
Moebius / Art
“Rumbas”
(Stardom, 1994)
ポートフォリオ




■その他

■おしぐちたかしコレクション展限定 フー・スウィ・チン(FSc)同人誌 特別無料配布

 muZz(ミューズ)#1、#3、#4、#14
 ニコネコ毎日#1、#2


■フー・スウィ・チン(FSc)(Foo Swee Chin)
 本展示では会期中、おしぐちたかし氏のご厚意により、氏が編集に携わっているシンガポールのマンガ家、フー・スウィ・チン(Foo Swee Chin、符瑞君、略称表記として「FSc」を使用することが多い)作品の日本語版同人誌を無料配布する。FScは2000年代はじめにアメリカのオルタナティブコミックスシーンで活動をはじめた作家だが、2004年から開始したウェブコミックス「muZz(ミューズ)」の日本語版同人誌がおしぐち氏のプロデュースで刊行されたことをきっかけに「クレアボヤンス」(太田出版、2011)、「シンガポールのオタク漫画家、日本をめざす」など日本語オリジナルでの作品発表もおこなっている。