■後期

ごあいさつ

 おしぐちたかし氏は、戦後日本において海外マンガの存在感が希薄化した時代、書店員、編集者、マンガ評論家といった多角的な立場でマンガとかかわり、すべての立場から海外マンガを紹介し続けてきました。
 本展示では、おしぐち氏が90年代に収集したアメリカ、フランス、台湾、香港などの貴重なマンガ・資料・グッズ・原画などのコレクションを通して、当時日本において海外マンガがいかに紹介されてきたのか、いかに受容されてきたかについて振り返ることを目指すものです。また、これまであまり注目されることのなかった氏の活動に注目し、日本における海外マンガ理解において氏の果たしてきた役割の重要性にも焦点をあてます。
 海外マンガを読む人だけでなく海外マンガに馴染みのない人のどちらにとっても、その新たな魅力を知る機会になると同時に、海外マンガと日本マンガの関係性について、あらためてとらえなおす機会となればさいわいです。

明治大学 米沢嘉博記念図書館

後期:多彩なアーティスト

 当展示ではおしぐちたかし氏の膨大なコレクションの中から、主に2つのテーマに沿って海外マンガの原画その他を選び、前期と後期の2期に分けて紹介する。前期においては主にアメリカのアーティスト、特におしぐち氏が「ペイント系」と名づけたアーティストの原画を紹介し、後期は『ヘルボーイ』を中心にマイク・ミニョーラ(Mike Mignola)の原画他に加え、アメリカのコミックス業界で活躍する国際色豊かなアーティストたちをとりあげる。
 後期のメインとして展示するマイク・ミニョーラは、陰影のハッキリした画風で知られる日本でも人気の高いアーティストである。彼の作品の邦訳版が出るのは1999年からだが、おしぐち氏は90年代半ばからコラムでとりあげたり、当展示で紹介する『ヘルボーイ』映画に合わせたトリビュート原画展を開催するなど、積極的に日本へ紹介していた。
 ミニョーラ以外に後期展示でとりあげるのは、アメリカのコミックス業界で働く様々な国籍のアーティストたちである。ミニョーラのように、通常アメリカのコミックス業界で働くライターやアーティストはアメリカ人と考えられがちだが、実際にはアメリカ以外の国の出身作家は少なくない。その他、数は少ないながらも、おしぐち氏が個人的によく知るアジアの作家たちも展示した。アジアのマンガに関するおしぐち氏の造詣の深さは、氏が多様なマンガについて情報発信を続けてきた事実の一端を示している。

アメリカのコミックス用語解説

「コミックブック」
30数ページの中綴じの小冊子状の刊行物。基本的には月刊で、1冊につき物語の1エピソードが掲載される。1930年代に、新聞掲載のコミックストリップを再掲し無料配布するオマケとして始まったが、人気が出て新作が載る販売物となった。現在でもアメリカではコミックスの主要な出版形態のひとつである。日本では「リーフ」と呼ばれることもあるが、これは和製英語。

「スーパーヒーロー」
現在の形でのスーパーヒーロー・ジャンルは、1930年代、特に1938年に出たDCコミックスの「Action Comics(アクション・コミックス)」1号に掲載された「スーパーマン」を嚆矢とする見方が強い。アメリカで特に「メインストリーム」のスーパーヒーロー作品と言えば、主にマーベルコミックスとDCコミックスという大手コミックス出版社2社から出たスーパーヒーロー作品群を指す。

「ユニバース」
基本的には一群のキャラクターの存在する世界を意味する。例えば、大手2社(マーベルコミックスとDCコミックス)には社毎にそれぞれユニバースがあり、違うシリーズを持つスーパーヒーローたちは同じユニバースを共有すると設定されている。ただし、ユニバースはパラレルワールドである複数のユニバース(マルチバース)から成立している。

「クロスオーバー」
ユニバースを共有するキャラクターたちが、それぞれ別のシリーズを持ちながらシリーズを超えて交流する物語を描く手法。コミックブックでは、通常のシリーズとは別に、違うシリーズのキャラクターたちが一同に会して新しいシリーズが始まる場合もあれば、複数のシリーズで同時にキャラクターたちがお互い他のシリーズに登場しあって物語が進む場合など、クロスオーバーの形態は様々である。




No.00
■安彦良和(Yoshikazu Yasuhiko)
日本のアニメーター、アニメ監督、マンガ家、イラストレーター。1947年生まれ、北海道出身。1970年、虫プロ養成所に入所。同社倒産後はフリーアニメーターとして活動。『さらば宇宙戦艦ヤマト』、『機動戦士ガンダム』など80年代アニメブームの中核となった作品にメインスタッフとして関わる。1979年『リュウ』(徳間書店)にてのちに自ら映画化する「アリオン」の連載でマンガ家として活動開始。

《おしぐちたかしコメント》
■安彦良和のこと
安彦さんと知り合ったのは、香港のマンガ家で安彦さんから影響を受けた司徒剣僑の作品を出版社の人といっしょに見てもらいにいったときです。その後、『Animerica』に頼まれて安彦さんのインタビューをとったんですが、その内容を安彦さんが気に入ってくれて、親しくさせてもらうようになったのはそれ以降ですね。その縁で『まんがの森』でのインタビューや『漫画魂』のカバーもお願いできた。


安彦良和
Yoshikazu Yasuhiko
『漫画魂』(白夜書房、2003)
カバー表4(原画)




■壁ケース

No.01
■おしぐちたかしプロフィール
マンガ評論家、編集者。1955年生まれ。福岡県出身。地元福岡の大学を卒業後、神戸の会社に就職。神戸で書店主催のマンガサークルに出会い、マンガ・アニメファンとの交流を深め、人脈を拡げる。のちにその書店に転職。書店の東京支店開店のため上京。神戸時代の人脈を活用したマンガ家のサイン会や原画展などの販促イベントを続々と企画した店舗運営が、マンガファンの間で話題となる。その後、白夜書房が 都内を中心に展開していたマンガ専門書店「まんがの森」設立(1984年)にかかわり、以降各店舗の店長を歴任。「まんがの森」では90年代初頭からアメリカンコミックスをはじめとする海外マンガの輸入販売を積極的におこない、現在につながる海外マンガ紹介の流れのひとつを築いた。2007年に同店を離れ、以降は徳間書店、復刊ドットコムなどで営業、編集者としてマンガ出版に携わる。個人名義で評論家、ライターとしての活動もおこない、マンガ家のインタビュー、海外マンガの紹介などの記事を多数執筆している。


No.02

■海外マンガとの出会い
 1955年生まれのおしぐちたかし氏は、テレビアニメ『鉄腕アトム』を放送開始時に見ていたアニメ第一世代。幼少期から『鉄人28号』『すすめロボケット』『キングロボ』『サイボーグ009』等々に心酔した熱心なマンガ読者だったが、当時の子供たちの大半がそうであったように、読みたいマンガ雑誌を好きなだけ買える環境ではなかった。中学生だった1967年に創刊された「COM」が、生まれて初めて自分の小遣いで定期購入したマンガ雑誌だった。手塚治虫『火の鳥』や石ノ森章太郎(当時の表記は「石森」)『ジュン』、当時の長谷川法世や青柳裕介などの新人作家たちなどのマンガ作品からコラム記事まで1ページも見落とすことなく読みふけっていた。
 「COM」の1968年4月号から小野耕世による海外マンガ紹介の連載コラムが始まる。手塚治虫本人から直接小野に電話で依頼がきて始まった連載で、小野が第1回でとりあげたのが『スパイダーマン』。当時中学3年生だったおしぐち氏は、その記事で引用されたジョン・ロミータによるスパイダーマンに惹きつけられる。これが、氏にとっての海外マンガ初体験であり、この連載はその後、氏がアメリカのコミックスを探求していく糸口となった。
 「COM」には、小野と安孫子素雄(藤子不二雄○A)がニューヨークのマーベル編集部に訪問した記事(1967年7月号)が掲載されたこともあり、それを憶えていた氏は後にマーベルを訪れた時、感慨もひとしおだったという。


『COM』1968年4月号
(虫プロ商事、1968)

The Amazing Spider-man Volume.1 #84
(Writer: Stan Lee, Art: John Romita, John Buscema, Jim Moony, Marvel Comics, 1970)

No.03

■アメリカのコミックスに魅了される
 「COM」の小野耕世の連載で海外マンガとスパイダーマンに出会ったおしぐち氏は、書店の雑誌売り場でアメリカのコミックブックを探すようになった。氏が生まれ育ったのは福岡県北九州市の門司港で、地元の書店には当時、日本洋書販売(洋販)が輸入したアメリカのコミックブックが売られていたのだ。しかし、売り場にコミックブックがあると言っても網羅的に仕入れが行われていたわけではなかったため、目当てのスパイダーマンの掲載された号を探すのには苦労する。ようやく見つけたスパイダーマンは再録アンソロジー「Marvel Tales」21号。「COM」で見たジョン・ロミータによって描かれたものではなかったものの、同号に掲載されていたジャック・カービーの手によるマイティ・ソーに魅了された。このカービーで、キャラクターのみならずアメリカのコミックス全体の魅力に憑りつかれた。特に好きになったのは、ロミータ、カービーにはじまり、ジーン・コーラン、ジョン・ビュッセマといった写実的なアートスタイルを持つアーティストだった。


The Avengers Volume.1 #77
(Writer: Roy Thomas, Art: John Buscema, Marvel Comics, 1970)

Marvel Tales Volume.2 #21
(Various Creators, Marvel Comics, 1969)

The Amazing Spider-man Volume.1 #100
(Writer: Stan Lee, Art: Gil Kane, John Buscema, Jim Moony, Marvel Comics, 1971)

Fantastic Four Volume.1 #101
(Writer: Stan Lee, Art: Jack Kirby, Marvel Comics, 1970)

X-Men Volume.1 #64
(Writer: Roy Thomas, Art: Don Heck, Marvel Comics, 1970)

Detective Comics Volume.1 #395
(Writer: Denny O’Neil, Art: Neal Adams & Dick Giordano, DC Comics, 1970)

Marvel’s Greatest Comics Volume.1 #26
(Various Creators, Marvel Comics, 1970)

No.04

■SFと少女マンガ
 おしぐち氏は中学時代にアメリカのコミックスに目覚めるが、同好の士は中学、高校を通して周囲にはほとんどいなかった。高校に入ると生徒会と美術部で忙しい毎日を過ごすようになり、マンガは以前ほど読まなくなる一方、小説などの活字を読み漁るようになっていた。アメリカのコミックスと出会う前に『レンズマン』などのスペースオペラも読んでいたが、その後も早川書房の「世界SF全集」などを皮切りに、SFにはかなり傾倒している。少年誌のグラビア含め、大伴昌司、福島正美、野田昌宏が紹介していた海外のSF雑誌や単行本のカバーアートなどへの興味も持ち続けていた。
 高校時代には、萩尾望都『ポーの一族』でカルチャーショックを受け、少女マンガに開眼した。それ以前から岡田史子、樹村みのり、矢代まさこなど、「COM」を通じて、当時の一般的な少女マンガとは一線を画す女流作家のマンガ作品にひかれていた。後に氏は「復刊ドットコム」に入社し、かつて敬愛した岡田史子の作品集の復刊を担当している。


『ポーの一族』1巻
萩尾望都(小学館、1974)

『ピクニック』
樹村みのり(朝日ソノラマ、1979)

『ODESSEY1966~2005』1巻
岡田史子(復刊ドットコム、2017)

『ODESSEY1966~2005』2巻
岡田史子(復刊ドットコム、2017)

『復刻『少年マガジン」カラー大図鑑』
(講談社、1989)

『SF入門』
福島正実(早川書房、1969)

『SFマガジン』1963年9月号
(早川書房、1963)

『さすらいのスターウルフ』
エドモンド・ハミルトン、野田昌宏訳
(早川書房、1970)

No.05

■書店就職と人脈の形成
 建築系の大学を卒業後、おしぐち氏はいったん建設会社に就職するが2年で退職し、神戸の「漢口堂書店」で働き始める。書店という職場は氏にとって、「自分の好きなものや色々な情報がドンドン集まってくる場所」であり、「自分の選んだものをお客さまが喜ぶ醍醐味を味わえる場所」。70年代末当時は、ミニコミ、SF、小劇場といった様々な若者文化が盛んになり始めた時代で、氏は仕事をしながら、マンガの同人誌も作成し、サブカルチャー界隈の様々な人脈を広げていった。
 神戸に住んでいた氏は、いしいひさいちが所属し、村上知彦が出入りしていた「チャンネル・ゼロ工房」の面々と知り合うほか、勤務先の書店が主催していたマンガのファンクラブを通して、マンガだけでなく、アニメ、特撮、SF小説など趣味の話のできる仲間を増やしていた。1981年には漢口堂書店の阿佐ヶ谷出店のため東京に引っ越し、関東でもいしかわじゅん、夏目房之介、高取英、大友克洋など錚々たるメンバーと付き合いが始まる。
 ちなみに、社会人になった1年目に「月刊スーパーマン」と光文社のマーベルコミックスが相次いで創刊。「月刊スーパーマン」2号には、氏が投稿したコメントが掲載されている。


『ザッツパロディ』
夏目房之介(K・Kサン出版、1981)

『マンガ伝』
村上知彦、高取英、米沢嘉博(平凡社、1988)

『チャンネルゼロ』創刊号
(チャンネルゼロ、1975)

『アクションデラックス』1号
(双葉社、1979)

No.06

■海外マンガ輸入販売
 1984年、おしぐち氏はマンガ評論家・原作者である大塚英志の推薦で、白夜書房が始めようとしていたマンガ専門店「まんがの森」の立ち上げに携わる。まんがの森は、当時あまりなかった書店での原画展スペースが常設されており、士郎正宗の「アップルシード」第1巻の原画展をはじめ、“目利き”としての氏による品揃えとイベントで常連客を増やした。海外マンガの原本の輸入販売も、氏による提案で始まったものである。
 マーベルコミックスのビジネスマネージャーや、アメリカで日本マンガ出版に携わっていた「VIZ」の社長からアドバイスを受け、かねてから興味のあった海外マンガ販売を社長に提案。了承を得て1990年コンベンションの開かれているサンディエゴで現地のディストリビューターと契約し、アメリカのコミックスの販売を始める。アメリカのコミックスを洋販から仕入れていた書店は当時からあったが、まんがの森のようにアメリカからダイレクトに主要タイトルを毎号欠かさず揃えていたところは珍しかった。
 1990年に初参加して以来、氏は度々アメリカのコンベンションに行き、アメコミ販売の販促の一環として自費で原画を購入し、まんがの森各店舗で原画展示を行った。
アメリカやイギリス、ヨーロッパでは、マンガの原稿は絵画同様、売買されている。アーティストにとって重要な収入源のひとつとなっているためで、作家自ら、もしくは専属のエージェントによって、コンベンション会場で販売されているのである。今回展示される原画のほとんどが90年代、アメリカのコンベンションで購入されたもの。


International Correspondence Extra! #1
(Capital City, 1991)

『リュウ』1981年7月号
(徳間書店、1981)

写真
(初渡米時マーベルコミックス訪問)
(同サンディエゴコミコン)

No.07

■原画展開催とミニコミ誌発行
 おしぐち氏が初めて原画展を行ったのは、80年代初頭の阿佐ヶ谷「漢口堂書店」勤務時代。同書店の場所が見つけにくいところにあったせいか客の入りが少なく、それを知った友人の大友克洋からの申し出で大友の原画展を行ったのが最初である。「まんがの森」でも、当時珍しかった書店での原画展を積極的に行い、時には毎週開催することもあった。阿佐ヶ谷時代の原画展には、氏の広い人脈で多くのマンガ家が協力し、原画展用に新たなイラストを描きおろすことも稀ではなかった。宣伝用のイラストは「プリントゴッコ」で葉書に印刷され配布されている。日本のマンガ家以外にも、個人で購入したアメリカのコミックスの原画を店頭に飾ることもあり、時には海外のアーティストに頼まれて原画を販売することもあった、という。
 同人誌制作に慣れていた氏自身が編集長を務め、まんがの森のミニコミ誌も毎月発行していた。毎号必ず掲載されていたマンガ家のインタビューは今見ても豪華なラインアップである。インタビューの一部は後に「漫画魂」として1冊の本にまとめられた。小冊子は全部で106号発行されている。


原画展告知ポストカード
(1982~1983)

『月刊まんがの森』より抜粋
(まんがの森、1998~2006)

No.08

■執筆活動
 「名物店長」「カリスマ店長」として、書店という場を中心に活動してきたおしぐち氏の執筆活動は、意外に知られていないかもしれない。テーマには日本と海外のマンガという一貫性があるものの、マンガ誌(「漫画ブリッコ」「漫画ホットミルク」他)、アメリカの邦訳コミックス(「スポーン」など)の解説、雑誌(「エス」など)のマンガ家インタビューほか、多数のマンガレビューに加え、「経済往来」などの経済誌にまで、その執筆の幅は広い。氏の文章は特に当時、書店という販売の最前線からの視点でマンガをとりあげていたところが新鮮であった。
 さらに日本では小野耕世に並んで海外アーティストにインタビューできる数少ない書き手として、海外アーティストの紹介も多く行い、記事にしている。マンガ家へのインタビューに関しては氏曰く、高校時代に美術部でデッサンや絵画をしっかり勉強させられて、ものを描くことの体感を得ていることが役に立った、ということである。


『漫画ブリッコ』1983年8月号
(白夜書房)

『漫画ホットミルク』1998年11月号
(白夜書房)

『スポーン』10巻
(メディアワークス、1997)

Animerica, Volume.1, #0
(Viz Comics, 1992)

『アメイジング・キャラクターズ』
(白夜書房、1996)

『コミッカーズ』2000年8月号
(美術出版社)

『S.M.H.』Vol.15
(ホビージャパン、1999)

No.09

■アメリカのコミックス業界で働く、アメリカ出身でない作家たち
 アメリカのコミックス業界には多くのアメリカ以外の国の作家たちが働いている。80年代には、イギリスに代表される主にヨーロッパ、東南アジアの、90年代に入ると東アジアや南米のアーティストやライターが続々とアメリカで仕事を得るようになった。
 特に、90年代初頭、マーベルの人気アーティストたちが作品への権利を求めて同社を離れ、「イメージ・コミックス(Image Comics)」を設立したことは、多くのアメリカ以外の国の作家たちがアメリカで働く流れを後押しした。それは、独立された側のマーベルが海外のアーティストたちに目を向け、仕事を依頼するようになったためである。大手出版社からの人気作家の離反と、その直後の成功は、「キャラクターの人気で本の売り上げが決まる」というそれまでの認識を大きく変え、業界全体がアーティストやライターの人気にあらためて目を向ける契機となった。それにより、評価の高い作家たちを中心とした新たなレーベルがいくつか立ち上がるが、今回の展示ではそのようなレーベルのための作品原画がいくつも展示されている。

■エステバン・マロト(Esteban Maroto)
 スペインのコミックス作家、イラストレーター。1942年生まれ、スペイン・マドリッド出身。50年代半ばからスペインのコミックス業界で仕事をはじめ、70年代に入ると英語圏で作品を発表する機会が多くなる。特にWarren Publishingのアンソロジータイトルで発表されたホラー、ファンタジー系のアートは現在でも高く評価されている。1974年刊行の『Savage Tales』#3に掲載された女戦士レッドソニアのキャラクターイラストで日本でいう「ビキニアーマー(英語ではMetal Bikini)」を発明したアーティストとしても知られる。


エステバン・マロト
Esteban Maroto / Pencil & Ink
“Idi and Me”
1984 #4
(Writer: Bill DuBay, Warren Publishing, 1978)
原画

No.10

《おしぐちたかしコメント》
■エステバン・マロトのこと
彼はWarren Publishingの『Eerie』や『Creepy』といったアンソロジーに短編を描いていた作家で、すごく雰囲気のいいヒロイックファンタジーアートを描く作家。Warrenの本はコミックブックじゃなくて雑誌として流通していたから、普通に洋販(日本洋書販売)で買えたんだよね。Warrenはもともと『Famous Monsters』というユニバーサルのホラー映画の雑誌を出していた会社で、僕なんかはそこからロバート・E・ハワードのコナンなんかを知った。


エステバン・マロト
Esteban Maroto / Pencil & Ink
“The Final Days of Idi Amin!”
1984 #6
(Writer: Bill DuBay, Warren Publishing, 1979)
原画

No.11

エステバン・マロト
Esteban Maroto / Pencil & Ink
“Idi and Me”
1984 #4
(Writer: Bill DuBay, Warren Publishing, 1978)
原画

No.12

■ゲイリー・タラオック(Gerry Talaoc)
 フィリピンのコミックスアーティスト。フィリピンでの経歴ははっきりしないが、60年代後半からアメリカに移住しコミックス業界で活躍していた同郷のアーティスト、トニー・デズニガの紹介によって1972年からDC、マーベルでの仕事をはじめる。70年代は彼やアレックス・ニーニョのようにフィリピン人アーティストが数多くアメリカ進出を果たした時期だった。


《おしぐちたかしコメント》
■ゲイリー・タラオックのこと
この絵はアレックス・ニーニョの紹介で知り合った画商から買ったもので、作者のことは正直よく知らない(笑)。どちらかといえば僕はクローク&ダガーというキャラクターが好きでそれで買った感じだよね。(クローク&ダガーは)ちょっと変わった設定のキャラクターで、黒人と白人の男女コンビというのもいい。


ゲイリー・タラオック
Gerry Talaoc / Paint
“Cloak & Dagger”
詳細不明

No.13

■メビウス(Moebius)
 フランスのコミックス作家、アーティスト。ジャン・ジロー(Jean Giraud)名義でも作品を発表している。1938年生まれ、2012年没。フランス出身。コミックスアーティストとして注目されたのはジャン・ジロー名義での1963年にはじまる西部劇連作『Blueberry』(Writer: Jean Michel Charlier, Dargaud )からだが、「メビウス」としての活動にスポットが当たるのは1974年大人向けのSF、ファンタジーコミックス誌『MétalHurlant』(Les Humanoïdes Associés、同誌のアメリカ版が『Heavy Metal』)創刊参加以降になる。メビウスは1985年から89年までアメリカにスタジオを開き、活動していた。


《おしぐちたかしコメント》
■メビウスのこと
まず今回展示してませんけど、メビウスはもう少し大きな原画も持ってるんだよ。ただ、見つからなかったのと、あとはいま家で飾ってるものなので展示できなくて申し訳ありません(笑)。メビウスはシルバーサーファー以外は、あと数編『Heavy Metal』なんかで短編を描いているくらいで、アメリカでコミックスはほとんど描いてないから、珍しいものだよね。これはホントに偶然売っているのを見かけて買ったものですね。


メビウス
Moebius / Pencil & Ink
“Parable”
The Silver Surfer #1
(Writer: Stan Lee, Epic Comics, 1988)
原画

No.14

■ピカード・フランカード(Picard Francard)
 フランスのコミックスアーティスト。1966年生まれ、作品発表時にはフランク・ピカード(Franck Picard)、アイカー(Icar)などいくつかの筆名を使い分けている。生まれつき聴覚障害を持ちながらアートスクールで美術教育を受け、1992年『Jeepster』(Writer: Patrick Giordano, Dargaud)でコミックスアーティストとしてデビューした。


《おしぐちたかしコメント》
■ピカード・フランカードのこと
彼は一度だけ会ったことがあるんですけど、耳が不自由なひとで、もともとは建築家を目指していた。でも、進学した建築の学校でゲーム好きのライターと知り合って、ふたりでマンガを描くことにした、という話だった。今回原画を展示しているのは彼ひとりなんだけど、90年代にはけっこうフランスで当時の新人アーティストに会ってインタビューも取った。ただ、そこから自由に選書して本を売ることができなかったんですよ。自分のセンスで本を売れなかったのがBDに関しては残念でしたね。


ピカード・フランカード
Picard Francard / Pencil & Ink
“Rêves de fantôme”
Jeepster Book 1
(Writer: Patrick Giordano, Daegard, 1992)
原画

No.15

■パトリック・マクエアン(Patrick McEown)
 カナダのコミックスアーティスト、近年は映画のストーリーボードなども手掛けている。1968年生まれ、カナダ・オタワ出身。商業的には1993年、コミックスアーティスト/ライターのマット・ワグナー(Matt Wagner)の連作シリーズ「Grendel」の重要な転機となったシリーズ『Grendel: War Child』(Dark Horse Comics)のアーティストに抜擢されてデビュー。以降はオルタナティブ、メインストリームを問わない活動をしている。


《おしぐちたかしコメント》
■パトリック・マクエアンのこと
これもたしか作者が誰かの友達だったんだよね。当時ちょうどグレンデルがインディーの新しいコミックスとして話題になっていて、たぶんそれで買ったもの。ダークホースのあまたあるキャラクターの中で成功したキャラクターという点に興味があった。


パトリック・マクエアン
Patrick McEown / Pencil
マット・ワグナー
Matt Wagner / Writer & Ink
Grendel: War Child #6
(Dark Horse Comics, 1993)
原画

No.16

■アレックス・ニーニョ(Alex Nino)
 フィリピンのコミックスアーティスト。1940年生まれ、フィリピン・タルラック出身。ニーニョは60年代のフィリピンにおける先進的なコミックスアーティストグループの中でも中心的な存在であり、70年代のフィリピン人作家のアメリカ進出において最も高い知名度を獲得したひとりである。その仕事はホラー、SF、戦記物、ファンタジーからスーパーヒーローまで幅広いが、『白鯨』や『三銃士』など名作文学のコミカライズも手掛けている。

■サイモン・ビズレー(Simon Bizley)
 イギリスのコミックスアーティスト、イラストレーター。1962年生まれ、アートスクールを一年で退学し、ほぼ独学で絵を学んだ作家。80年代にロックバンドのジャケットイラストやTシャツのデザインなどをしながら、イギリスのコミックス雑誌『2000AD』でコミックスアーティストとしてのキャリアをスタート。英国でイーグルアワード、アメリカでアイズナーアワードを受賞している非常に評価の高いアーティストである。


《おしぐちたかしコメント》
■アレックス・ニーニョ、サイモン・ビズレーのこと
この絵は会ったときに本人がさらさらっと描いてくれたもので、たいしたものじゃないけど、うれしかったよね。ニーニョなんかもそれほどメジャーなキャラクターの作品を描いてたわけじゃないから、地方でも本を手に入れやすかったというのはあったかもしれない。
ビズレーは、はじめてロンドンにいったときにコミックス専門店にはいったらいきなり『Batman/Judge Dredd: Judgement of Gotham』(DC Comics, 1991)のカバーイラストの原画を売ってたんだよ。値段的に買えないこともない値段だったんだけど、(大きさが)デカかったんだよね(笑)。いま思うと買っとけばよかった。ビズレーの『Batman/Judge Dredd』は「まんがの森」でたぶん一番よく売れた本じゃないかと思う。


アレックス・ニーニョ
Alex Nino / Sketch
未発表
イラスト原画

サイモン・ビズレー
Simon Bizley / Sketch
未発表
スケッチ

No.17

■ミニョーラ トリビュート原画展
 ミニョーラ『ヘルボーイ』の映画化作品第一作の公開(2004年10月1日)を控え、おしぐち氏は「まんがの森」としても応援したいと考え、日本のマンガ家による『ヘルボーイ』トリビュートイラスト原画展の開催を企画した。氏の広い人脈を活かし、同年開催のコミックマーケット(8月13日~15日)後、打ち上げの食事会などで会った作家に『ヘルボーイ』登場キャラクターイラストの作画を依頼。中には『ヘルボーイ』を知らないマンガ家もいたため、氏がキャラクターや物語を説明し描いてもらった場合もあった。安彦良和氏など、事前に依頼を決めていた作家もいたが、その場で会った人に依頼する場合がほとんどで、後にうたたねひろゆき氏からは「参加したかった」と言われたという。

*このケースのマイク・ミニョーラによるイラスト原画2点(下段)は参考展示です。トリビュートイラスト原画展に展示されたものではありません。


左上:村田蓮爾
中上:陳淑芬
右上:平凡
Hellboy Tribute (2004)
まんがの森Hellboyフェア用イラスト原画

左下・右下:
マイク・ミニョーラ
Mike Mignola
HELLBOY (Dark Horse)
イラスト原画 2点

No.18

左上:山本貴嗣
中上:赤井孝美
右上:水玉螢之丞

左下:Dr.モロー
中下:SUEZEN
右下:やまむらはじめ

Hellboy Tribute (2004)
まんがの森Hellboyフェア用イラスト原画

No.19

左上:松本嵩春
中上:園田健一
右上:こいでたく

左下:高橋明
中下:松本レオ
右下:小川雅史

Hellboy Tribute (2004)
まんがの森Hellboyフェア用イラスト原画

No.20

左上:ウエダハジメ
中上:只野和子
右上:伊藤悠

左下:濱川修二郎
中下:三輪士郎
右下:安彦良和

Hellboy Tribute (2004)
まんがの森Hellboyフェア用イラスト原画

No.21

■フー・スウィ・チンFSc(Foo Swee Chin)
 シンガポールのコミックスアーティスト、ゲームのキャラクターデザインなども手掛けている。1977年生まれ、2000年代初頭からアメリカのスモールパブリッシャーで作品の発表をはじめ、2002年から刊行された『Nightmares & Fairy Tales』(Writer: Serena Valentino, Slave Labor Graphics)のアーティストとして注目される。2010年代に入ると日本の出版社からの作品発表が増加。おしぐち氏は2004年から彼女のウェブコミックスをもとにした日本語版同人誌のプロデュースを手掛けている。


フー・スウィ・チン(FSc)
Foo Swee Chin / Pencil
“Flush”
『Mandala』1号 (講談社、2006)
原画

No.22

《おしぐちたかしコメント》
■フー・スウィ・チン(FSc)のこと
『Nightmares and Fairy Tales』が「まんがの森」でよく売れてたんで来日したときに会いにいったんだよね。そしたら翌日にもう一度会おうということになって、店につれていったりした。そうしたら、帰国後フーさんからメールが来て「日本にはコミケというものがあるらしいが、そこで本を売ってみたい」と。それでお手伝いをいろいろするようになったんだけど。実際の本づくりはうえだはじめさんと冬目景さんの力がすごく大きかった。


フー・スウィ・チン(FSc)
Foo Swee Chin / Pencil
“Flush”
『Mandala』1号 (講談社、2006)
原画

No.23

■FSc同人誌
 シンガポール出身のアーティストであるFSc(フー・スウィ・チン)は、アメリカで2002年に『ナイトメアアンドフェアリーテイル』(邦訳、飛鳥新社、2006年)でアートを担当し、世界的にファンを獲得した。オリジナルの英語版が「まんがの森」で売れ行きが良好だったため、おしぐち氏は2004年、国際交流基金主催のシンポジウム「アジア女流マンガ家の世界」への参加のために来日したFScに、本の販促に使うサインをもらうために同イベントに参加。その翌日にも会ってインタビュー等を行い、知己を得る。その後FSc自身から協力を依頼され、同人誌制作などを手伝うようになった。


フー・スウィ・チン(FSc)
Foo Swee Chin / Pencil & Ink
muZz #2, #3 (同人誌(EPO本舗)/ウェブコミックス, 2005)
原画

No.24

■アジアのアーティスト
 おしぐち氏と言えば、「アメコミ」の紹介がよく知られるが、実際氏はアジアのマンガ紹介にも尽力している。1991年初めて行った香港で現地のすべてのマンガ出版社をまわり、香港のマンガを中心にアジアのマンガについて知識と人脈を得ている。その後、長期に渡って、いくつかの雑誌でアジアの作家を日本に紹介してきた。特にマンガ雑誌『漫画ホットミルク』においては、1994年12月号から雑誌が休刊となる2001年3月号まで数回の休載をはさんで33回にわたり、「香港/亜細亜漫画紹介」と題したコラムの連載を行っている。


《おしぐちたかしコメント》
■アジアのマンガのこと
本当はアジアのマンガは別枠で扱わなきゃいけないものなんだけど、91年にはじめて香港のコミックコンベンションにいって、そのつてからのちに台湾に行く。そこでほとんどの出版社と知り合った。ちょうど香港(中華人民共和国)が国際著作権条約に加盟して正式ライセンスを取ることになった際にはアドバイザー的な仕事をした。台湾に関してはまず平凡くんの本を知って、インタビューをしたときに写真を撮っていたのが陳淑芬だった。


【台湾】
平凡 / 陳淑芬
『戀愛雑貨鋪』(尖端出版, 2001)画集
陳淑芬 / 平凡
『P+F』(2010, 2011, 2012)同人誌

【香港】
利志達
『天安門之火』(次文化有限公司, 1989)

No.25

■クリス・バチャロ(Chris Bachalo)
 アメリカのコミックスアーティスト。1965年生まれ、カナダ出身。学生時代からアンダーグラウンドコミックスを発表し、卒業後すぐコミックス業界でアーティストとして仕事をするようになる。初期はVertigo(DCコミックスの大人向けレーベル)などイギリス系のオルタナティブコミックス色の強いタイトルのアートを中心に担当していたが、90年代半ば以降はXメンなどマーベルコミックスの人気タイトルを担当するようになりメインストリームの人気作家になった。


クリス・バチャロ
Chris Bachalo / Pencil
マーク・バッキンガム
Mark Buckingham / Ink
"Taste of Power"
Ghost Rider Volume.2 Annual #1
(Writer: Howard Mackie, Marvel Comics, 1993), 原画

No.26

《おしぐちたかしコメント》
■クリス・バチャロのこと
90年代にVertiigo(DCコミックスの大人向けコミックスレーベル)の『Shade: The Changing Man』で出てきたアーティストで、その後『X-Men』なんかをやったりすることになる作家だけど、さらさらっと描いたイラストがすごく魅力的だったんだよね。当時の若手のなかでは個人的に一押しの作家だった。


クリス・バチャロ
Chris Bachalo / Pencil
マーク・バッキンガム
Mark Buckingham / Ink
"Burning Chrome"
Ghost Rider 2099 Volume.1 #1
(Writer: Len Kaminski, Marvel Comics, 1994)
原画

No.27

クリス・バチャロ
Chris Bachalo / Pencil
ダン・パノシアン
Dan Panosian / Ink
"Follow the Leader"
X-Men Unlimited Volume.1 #1
(Writer: Scott Lobdell, Marvel Comics, 1993)原画

No.28

クリス・バチャロ
Chris Bachalo / Pencil
リック・J・ブライアント
Rick J. Bryant / Ink
"A Season in Hell"
Shade, the Changing Man Volume.2 #47 (Writer: Peter Milligan, DC Comics, 1994)
原画

No.29

クリス・バチャロ
Chris Bachalo / Pencil
マーク・バッキンガム
Mark Buckingham / Ink
"Hither, Comes, The Sugar Man!"
Generation Next #2
(Writer: Scott Lobdell, Marvel Comics, 1995)
原画

No.30

■ジム・リー(Jim Lee)
 アメリカのコミックアーティスト。1964年生まれ、韓国・ソウル出身。幼少期に一家でアメリカに移住し、ミズーリ州で育つ。フランク・ミラー、アラン・ムーアの作品に出会ったことからコミックスアーティストを目指すようになり、マーベルコミックスでデビュー。Xメンで一躍人気アーティストになるが、1992年マーベルとの専属契約を破棄し、トッド・マクファーレンなどマーベルの人気アーティスト6人で独立してイメージコミックスを設立。1998年、DCコミックスに移籍し、現在はDCコミックス、チーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める。

■アダム・ウォーレン(Adam Warren)
 アメリカのコミックスアーティスト。1967年生まれ、アメリカ・ニューハンプシャー出身。コミックスアーティストの専門学校であるJoe Kubert School of Cartoon and Graphic Artでコミックスの技術を学び、卒業後、高千穂遥の小説「ダーティペア」シリーズのキャラクターを使ったオリジナルコミックスの出版を試み、1989年、直接高千穂の許諾を得て『The Dirty Pair: Biohazards』(Eclipse Comics)でデビュー。90年代から00年代までのアメリカで「Manga Style」と呼ばれるアートスタイルの基準をつくった作家のひとり。


《おしぐちたかしコメント》
■ジム・リー、アダム・ウォーレンのこと
ジム・リーは『X-Men』#1の大ヒットがあったから、彼が(トッド)マクファーレンなんかと独立してイメージコミックスを立ち上げたときもマクファーレンとジム・リーに関しては絶対に売れるだろうと思って『Wild C.A.T.S』と『Spawn』を1号から入れた。アメリカでは出版社やキャラクターありきで見るから、イメージのヒットが衝撃だったんだと思うけど、日0本人は作家で見るから、当然この二人は売れるだろうと思ったんだよ。
最初はちょっとぎこちなかったけど、日本的なデフォルメの仕方をだんだんと消化していった作家だよね。士郎正宗さんあたりがいい見本になってたのかもしれない。安彦良和さんの系譜というのが日本のマンガのなかにはあって士郎さんというのは、意外にそれを感じさせないスタイルなんだよね。


ジム・リー
Jim Lee / Sketch
未発表
原画

アダム・ウォーレン
Adam Warren / Sketch
未発表
原画

No.31

■スティーブ・レイアロハ(Steve Leialoha)
 アメリカのコミックスアーティスト。1952年生まれ、カリフォルニア出身。1975年、『Star*Reach』#3(Star*Reach)に発表した短編でデビュー(Writer: Mike Friedrich)。1976年以降はインディー、メジャーを問わず、ペンシルもインクも担当するユーティリティープレイヤー的なアーティスト。私生活では、アンダーグラウンドコミックスのアーティストでアメリカの女性コミックスに関する研究者でもあるトリナ・ロビンスがパートナーである。


《おしぐちたかしコメント》
■スティーブ・レイアロハのこと
この二枚はスパイダーウーマンとアベジャーズ・ウェストコーストというキャラクターが好きで買ったものだよね。特にデヴィッド・ロスの絵はやっぱり「アベンジャーズ」が好きだった、ということだよね。ウェストコーストだけど、ちゃんとゴライアスやスカーレットウィッチといった主要キャラクターが描かれた絵で。


スティーブ・レイアロハ
Steve Leialoha / Pencil & Ink
"Vengeance!"
Spider-Woman Volume.1 #44
(Writer Chris Claremont, Marvel Comics, 1982)
原画

No.32

■デヴィッド・ロス(David Ross)
 アメリカのコミックスアーティスト、ライター。カナダのアニメーション専門学校を出て80年代からマーベル、DCでアーティストとしての活動をはじめる。インディペンデントパブリッシャーでの作品もなくはないが、主にメジャーでの地味なタイトルを担当してきた職人的な作家。近年はカナダの専門学校「Max The Mutt」でコミックスとストーリーボード制作を教えている。


デヴィッド・ロス
David Ross / Pencil
ティム・ディゾン
Tim Dzon / Ink
“Personal Demons”
Avengers West Coast Volume.2 #94
(Writer: Roy & Dann Thomas, Marvel Comics, 1993)
原画




■正面壁

■マイク・ミニョーラ(Mike Mignola)
 アメリカのコミックスアーティスト、ライター。1960年生まれ、アメリカ・カリフォルニア出身。ホラー系の映画でコンセプトアートやデザインを手掛けることもある。1983年にコミックスアーティストとしてのキャリアをスタート。90年代初めまではマーベル、DCで版権ものを手掛けていたが、1994年に当時のイメージコミックスの成功を受けてダークホースコミックスが設立したクリエイターオリジナル作品レーベル「Legend」から『Hellboy: Seed of Destruction』(Writer: John Byrne, Dark Horse Comics)を発表。この成功から以降はオリジナル作品をメインに作品を発表。その作風は日本のマンガ家にも大きな影響を与えている。


マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Writer, Pencil & Ink
“The Chained Coffin”
Dark Horse Presents #100-2
(Dark Horse Comics, 1995)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink
“Seed of Destruction”
Hellboy: Seed of Destruction #2
(Writer: John Byrne, Dark Horse Comics, 1994)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Writer, Pencil & Ink
“Heads”
Abe Sapien: Drums of the Dead
(Dark Horse Comics,1998)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Writer, Pencil & Ink
“Wake the Devil”
Hellboy: Wake the Devil #1
(Dark Horse Comics, 1996)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink
初出不明
カット

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Writer, Pencil & Ink
“Box Full of Evil”
Hellboy: Box Full of Evil #1,#2
(Dark Horse Comics, 1999)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink
初出不明3点
カット

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink, Color
“Bride of Frankenstein”
Universal Monsters Trading Card (Topps, 1995)
Trading Card原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Writer, Pencil & Ink
The Rocketeer Adventure Magazine #3
(Dark Horse Comics, 1995)
イラスト

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink
“Gotham Grey Evil”
Batman / Hellboy / Starman #1
(Writer: James Robinson, DC Comics / Dark Horse Comics, 1999)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil & Ink
“Jungle Green Horror”
Batman / Hellboy / Starman #2 (Writer: James Robinson, DC Comics / Dark Horse Comics, 1999)
原画

マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil
ジョン・ナイバーグ
John Nyberg / Ink
Bram Stoker's Dracula #4
(Writer: Roy Thomas, Topps, 1993)
原画

マーク・バッジャー
Mark Badger / Ink & Color
マイク・ミニョーラ
Mike Mignola / Pencil
“Triumph and Torment”
Marvel Graphic Novel: Dr. Strange and Dr. Doom: Triumph and Torment
(Writer Roger Stern, Marvel Comics, 1989)
原画



■キャラクターと作家への思い入れ
 本展示前期は「ペイント系」やカラーリングといったコミックス制作における技法、制作工程面に着目する構成としたが、後期はオーソドックスなアメリカンコミックス(一部フレンチBDのものを含む)の原画をメインに、おしぐち氏個人の嗜好をよりストレートに反映したコレクションを展示している。
 マット・ワグナーのインディーでのSFアンチヒーローもの「グレンデル」やガイ・デイヴィスのようなメジャーとはいえないアーティスト、キャラクターものに関してもスパイダーウーマンやサブ的なキャラクターがメインのアヴェンジャーズのサテライトチーム「アヴェンジャーズ・ウェストコースト」など、おしぐち氏の比較的マニアックな側面がよく出たセレクションだといえるだろう。

■ケレイ・ジョーンズ(Kelley Jones)
 アメリカのコミックスアーティスト。1962年生まれ、アメリカ・カリフォルニア出身。1983年、当時マーベルコミックスで刊行されていたアメリカ版「ミクロマン」のコミックス『Micronauts』のシリーズでデビュー。90年代にはホラー系のタイトルやバットマン関連タイトルでのゴシック的なアートスタイルが注目された。作風的にはバーニー・ライトソンなどホラー系の細密な画風のアーティストの影響が強い。


《おしぐちたかしコメント》
■ケレイ・ジョーンズのこと
これもアーティストに興味があるというよりは、Vertigoやグラント・モリソンの『Doom Patrol』への関心から買った原画。


ケレイ・ジョーンズ
Kelley Jones / Pencil
マーク・マッケナ
Mark McKenna / Ink
Doom Patrol Volume.2 #36
(Writer: Grant Morrison, DC Coimics, 1990)
原画

■トラヴィス・チャレスト(Travis Charest)
 カナダのコミックスアーティスト、イラストレーター。1969年、カナダ・エドモントン出身。農場で育ったために正規の美術教育などは受けておらず、コミックス業界と特に縁もなかったが、1992年、当時失業していた彼はコミックス出版社にサンプルを送り、そこから仕事が来るようになったという。1993年、ジム・リーの招きを受けて彼のスタジオ「Wildstorm Studio」のメンバーになり、看板タイトル『Wild C.A.T.S』のアーティストに抜擢された。2000年以降は極端な遅筆からほとんど作品を発表していない。


《おしぐちたかしコメント》
■トラヴィス・チャレストのこと
トラヴィスはたぶん日本でオレくらいしか原画を持ってないだろうと思う(笑)。彼はインタビューもとらせてもらってるんだけど、いま読み返すと異常に調べて書いてるよね。日本でジム・リーとトラヴィスのサイン会をやったときに『Wild C.A.T.S/X-Men』(Marvel Comics/Image comics, 1997)の原画なんかも展示させてもらったんだけど、本音でいうとあの作品の原画がほしかった(笑)。


トラヴィス・チャレスト
Travis Charest / Pencil
トロイ・ハブス
Troy Hubbs / Ink
“…As It Is In Heaven.”
WildC.A.T.s: Covert Action Teams Volume.1 #25 (Writer: Alan Moore, Image Comics, 1995)
原画

■ガイ・デイヴィス(Guy Davis)
 アメリカのコミックスアーティスト、イラストレーター、映像制作者。1966年生まれ、80年代半ばから自費出版や小出版社からの作品発表でコミックスアーティストとしての活動を開始。1989年以降は大手での仕事が増え、特にマイク・ミニョーラとのコラボレーションでのホラー作品で安定した評価をされていたが、2011年にデザイン、絵コンテ、ストーリーボードなど映像制作にキャリアを切り替え、以降は映画『パシフィック・リム』のデザインなどギレルモ・デル・トロ監督作品中心に活動している。


《おしぐちたかしコメント》
■ガイ・デイヴィスのこと
このひとはもともとインディーでやってたアーティストだけど、すごく雰囲気のあるパルプノワール風の画面をつくるひとで、原画の価格も安かったから画風に惹かれて買った。ガスマスク姿のサンドマンもかっこいいし、手堅い仕事だよね。


ガイ・デイヴィス
Guy Davis / Pencil & Ink
“The Vamp Act”
Sandman Mystery Theater #13
(Writer: Matt Wagner, Steven T. Seagle, DC Comics, 1994)
原画

■アラン・デイヴィス(Alan Davis)
 イギリスのコミックスアーティスト、ライター。1956年生まれ、イギリス・ノーザンプトン出身。ファンマガジンの制作からプロのコミックスアーティストの道に進み、マーベルコミックスがイギリス向けに刊行していたアンソロジーで限定的に展開していたヒーロー「キャプテンブリテン」のコミックスを脚本のアラン・ムーアとのコンビで連載したことで高く評価され、アメリカに進出。以降、マーベル、DCで多数の作品を手掛けている。


《おしぐちたかしコメント》
■アラン・デイヴィスのこと
アラン・デイヴィスはマーベルの『Defenders』のころの画風が好きで、当時の絵はかわいいんだよね。なにかショタ系のセンスがある。そのあとにこの『Excalibur』がはじまって、やっぱり一枚持っておきたい作家だな、と思って買った。


アラン・デイヴィス
Alan Davis / Pencil
ポール・二アリー
Paul Neary / Ink
“The Sword is Drawn”
Excalibur Special Edition
(Writer: Chris Claremont, Marvel Comics, 1987)
原画




■覗き込みケース

■メビウス(Moebius)
 フランスのコミックス作家、アーティスト。ジャン・ジロー(Jean Giraud)名義でも作品を発表している。1938年生まれ、2012年没。フランス出身。コミックスアーティストとして注目されたのはジャン・ジロー名義での1963年にはじまる西部劇連作『Blueberry』(Writer: Jean Michel Charlier, Dargaud )からだが、「メビウス」としての活動にスポットが当たるのは1974年大人向けのSF、ファンタジーコミックス誌『Métal Hurlant』(Les Humanoïdes Associés、同誌のアメリカ版が『Heavy Metal』)創刊参加以降になる。メビウスは1985年から89年までアメリカにスタジオを開き、活動していた。


《おしぐちたかしコメント》
■メビウスのこと
小さなラフスケッチは、メビウスが80年代にアメリカで関わっていた映画関連のもの。一時期、まんがの森でフランスのSTARDOMと提携して、日本でメビウスのアートビジネスを展開する話があったんだけど、うまくいかなかった。アメリカやヨーロッパではエージェントがついてギャラリーで原画を売買するのが普通のことになってるけど、けっきょく日本では今でも(コミックスの)原画を、絵画として売買する土壌が根付いてないでしょう。


■ジェフ・ダロウ(Geof Darrow)
 アメリカのコミックス作家。1955年生まれ。代表作はフランク・ミラー(Frank Miller)脚本の『Hard Boiled』(Dark Horse Comics, 1990)、『The Big Guy and Rusty the Boy Robot,』(Dark Horse Comics, 1996)、自身が脚本を書いた『Shaolin Cowboy』シリーズ(2004~)など。これらは日本語版も翻訳刊行されており、『Big Guy』と『Shaolin Cowboy』に関しては本展示企画者、椎名ゆかり氏による訳書が誠文堂新光社より刊行されている。『City of Fire』はダロウがメビウスと共作し、1985年にヨーロッパ版限定900部、USA版限定100部で販売されたポートフォリオ※を、DARK HORSE社が1993年に普及版として出版しなおしたもの。


※ポートフォリオ
…薄い大判の紙挟みに複製原画を入れた作品集のこと。本展示においては、ジェフ・ダロウとメビウスが共作した『City of Fire』などがそれにあたる。


《おしぐちたかしコメント》
■ジェフ・ダロウのこと
この『City of Fire』はダロウさんが下絵を描いて、それをメビウスがインクを入れてカラーリングをした、という複雑なつくりかたをしていて、だから全体はダロウさんのゴチャっとした感じなんだけど、ディティールを見ていくとやっぱりメビウスなんだよね。

メビウス
Moebius / Art
ジェフ・ダロウ
Geof Darrow / Art
“City of Fire”
(Dark Horse Comics, 1993)
ポートフォリオ

メビウス
Moebius / Art
Unpublished Works 7点(年代不詳)
原画

メビウス
Moebius / Art
MOCKBA
(Stardom, 1990)
原画

メビウス
Moebius / Art
FOLLES PERSPECTIVES
(Stardom, 1996)
画集




■その他

■おしぐちたかしコレクション展限定 フー・スウィ・チン(FSc)同人誌 特別無料配布

 muZz(ミューズ)#1、#3、#4、#14
 ニコネコ毎日#1、#2


■フー・スウィ・チン(FSc)(Foo Swee Chin)
 本展示では会期中、おしぐちたかし氏のご厚意により、氏が編集に携わっているシンガポールのマンガ家、フー・スウィ・チン(Foo Swee Chin、符瑞君、略称表記として「FSc」を使用することが多い)作品の日本語版同人誌を無料配布する。FScは2000年代はじめにアメリカのオルタナティブコミックスシーンで活動をはじめた作家だが、2004年から開始したウェブコミックス「muZz(ミューズ)」の日本語版同人誌がおしぐち氏のプロデュースで刊行されたことをきっかけに「クレアボヤンス」(太田出版、2011)、「シンガポールのオタク漫画家、日本をめざす」など日本語オリジナルでの作品発表もおこなっている。