アルパインクライマー 谷口 ケイ

「女性だから」って声を聞くけど、
やりたければ努力してやればいい

女性アルパインクライマーとして世界中の山を舞台に活躍する谷口ケイさん。小柄ながらも底知れぬ体力と精神 力で世界の高嶺を次々と制覇し、栄誉ある「ピオレ・ドール(金のピッケル)賞」を日本人として、女性として初めてノミネート・受賞した。学生時代から何事にも全力で取り組み、後に続く人たちへの確かな道を切り拓いてきた。

山と友達になって恐怖心を克服

 何が起こるか分からないのが自然の世界。ルート上が氷壁かもしれないし、クレバスが大きな口を開けているかもしれない。そういう山に登っているから大きい人だと思われるけど、会ってみたら「凄く小さいね」とよく言われる。本当は小さい方が無駄なカロリーを消費しないから、ヒマラヤみたいな高い山では最終的には生き延びるんですけどね(笑)。

 正直、山に対してはいつも恐怖心を抱いています。でも、登り始めると恐怖心はなくなるんです。人間関係と似ていて、初対面の人には一歩引いて接していても、挨拶を交わして話しをするうちに打ち解けますよね。同じことが山と自分の間でも起こるんです。山と対話をするとお互いの距離が縮んでいく。こうして山と友達になると、恐怖心はなくなるんですよ。

やりたいことをやり通した学生時代

 大学生の時から何事にも一生懸命取り組んできました。自分のお金で大学に入ったという思いが強かったので、無駄に過ごす時間がもったいないというのがあったのでしょう。つまらない授業をする先生がいると「金を返せ」って言いたくなるくらい、食らいついて授業に出るような学生でした。

 私は二部の学生で、昼は働き、夜は講義という生活。憧れていた植村直己さんと同じ山岳部は諦め、体同連サイクリスツツーリングクラブに入部しました。ここでは25 期生として「伝統への挑戦」をスローガンに掲げ、伝統としきたりに縛られることなく、自分 たちらしさを出すことを心がけてきました。形はなくても記憶に残る取り組みが重要だと考えたのです。

 また、「女性だからできない」と言われるのがとにかく嫌い。先輩に無理だと言われた片道300kmを走る自転車のロードレースに女性として初めて参加もしました。いま考えると頑張りすぎた気がしますが、自分に続いてきた後輩たちもたくさんいましたし、そうした 努力があって今の自分が形成されたのだと思います。いまでも時々「女性だから」って声を耳にするけど、他が何と言おうと自分がやりたいと思えば、努力してやればいい。ただシンプルにそう考えています。

自分で限界を設けないで

 じつは初めての海外遠征でマッキンリーに登った際、パートナーのトラブルなどがあり、結局、二日続けて2回の登頂を果たしました。その時、「あれ?自分って思っている以上にもっとできるのでは?」と新たな可能性が見えたんです。山の世界は極限の状況でいつも死が隣り合わせ。だから身の安全がもっとも大切だけど、一歩踏み込んで挑戦するか、踏み出さないで安全な域にずっといるかで自分のキャパシティはどんどん変わってくるものです。だから学生のみなさんも、自ら限界を作らないでほしい。自分の可能性が無限であることを見つける旅、それが人生なのだから。

Profile of Kei Taniguchi

初めての海外遠征で北米大陸最高峰のマッキンリー峰の登頂成功に始まり、2004年パキスタン・ゴールデンピーク(7027m)、06年ネパール・マナスル(8163m)、07年エベレスト(8848m)など世界中の高峰を制覇。08年インド・カメット峰未踏の南東壁に初登攀。これに対して、日本人として、女性としても初のピオレ・ドール(金のピッケル)が贈られ、日本を代表する女性アルパインクライマーとして注目される。1972年生まれ。和歌山県出身。

明治大学広報
雑誌 明治
meijin Vol.1

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