◆第4期……レゴシとルイ

 動物版ヒューマンドラマと銘打たれた「BEASTARS」では、主人公レゴシを中心としつつ、ほかにもさまざまな動物たちが登場する。レゴシを始め彼ら彼女らはそれぞれの性格まで踏み込んで描かれており個々の生き方、葛藤や喜びをもっている。とくにレゴシに深くかかわる者に、アカシカのルイがいる。レゴシとルイの関係はコインの裏と表のように対比的に描かれ、物語が進むにしたがい変化し、さまざまな側面を見せる。肉食獣と草食獣、後輩先輩、恋敵、闇と光、友情。彼らのあり方には「BEASTARS」で描かれる多くのドラマが含まれている。


《壁ケース展示》




●キャラ紹介&イラスト

No.01
レゴシ
種族:ハイイロオオカミ
 17歳オス。「BEASTARS」の主人公。肉食獣の中でも大型種で、身体能力も高い。性格は物静か、マイペースで地味に生きることを目標としている。自身が肉食獣であることに対し劣等感をもっている。昆虫が好き。自分の能力を隠しているが、物語が進むにつれ、草食獣を守るために力を発揮してゆく。
 「BEASTARS」の登場キャラの性格には、それぞれの種族の性質が色濃く影響している。イヌ科は社交的、ネコ科は自由奔放など。個性の違いが、種族によっておおまかに似る傾向にあるようだ。

《板垣巴留コメント》
 オオカミのキャラクターは中学か高校くらいから考えていました。
―略― 大きくて強いのに、オオカミは猫背なんです(本物がね)。コソコソするから悪役にされがちなんだろうなと思うと可愛い動物です。
(『BEASTARS』1巻より)




広告用カラーイラスト
2019年2月11日公開

No.02
ルイ
種族:アカシカ
 18歳。模範的な優等生だが、実はプライドが高く他者を見下している。財閥の御曹司であり、端正な容姿と演技力で演劇部の花形役者として人気を集めている。名門のチェリートン学園の中でもビースター(※)候補として学園内外に知られていた。肉食獣に対して嫌悪感を抱いている。冷静沈着だが、予想外の事態には素の表情が出ることも。父オグマ曰く「愚行に走る癖」がある。

※ビースターとはその世代を代表する優秀な獣のこと。青獣ビースターが各学園から毎年一匹選ばれ、その中からさらに一匹だけが壮獣ビースターに選ばれる。ビースターに選ばれた者はのちに政治・経済・スポーツなどで活躍している。

《板垣巴留コメント》
 レゴシと違って自分との共通点が少なすぎるのでいろいろと気遣っちゃいます。その分、ルイの人間らしい弱さが垣間見えると、私との距離も縮まって描きやすくなります。―略―キャラクターデザインは色々とレゴシの真逆を意識してます。
(『BEASTARS』2巻より)




広告用カラーイラスト
2019年2月11日公開

No.03
第1期・ケースNo.03と同じ

No.04
第1期・ケースNo.04と同じ

No.05
第1期・ケースNo.05と同じ

No.06
リズ
種族:ヒグマ
 17歳オス。演劇部裏方の音響チーム所属。常ににこやかな表情をした優しい力持ち。ヒグマは肉食獣の中でも特に大型で力が強い。そのため身長2mを超える個体は力を抑制する薬の服用が義務付けられている。リズは薬の副作用から頭痛が頻発するため、それを紛らわせるためにハチミツを手放せない。自身でも加減しきれないほど腕力が強く、周囲に脅威を与えないように注意を払っている。そのために一線を置いた関係となり孤独を募らせている。料理好きで寮のクマ科仲間に食事をふるまうこともある。

『BEASTARS』11巻カバー
2018年11月15日、秋田書店

No.07
学園寮701号室のメンバー
種族:イヌ科
 レゴシの暮らす寮の仲間たち。ジャック(ラブラドールレトリバー)、コロ(イングリッシュシープドッグ)、ボス(フェネック)、ダラム(コヨーテ)、ミグノ(ブチハイエナ)、そしてレゴシ(ハイイロオオカミ)と、全員イヌ科だが、種族もサイズもバラバラのメンバーで構成されている。レゴシにとって気の許せる仲間たちであり、とくにラブラドールレトリバーのジャックは十年来の仲でお互いの癖まで把握している良き幼馴染である。レゴシの日常を象徴する大切な場所であり、レゴシが寮を出た後も仲間とたびたび交流している。

第22話「建ち並ぶビルの影」扉
『週刊少年チャンピオン』2017年12号

No.08
動物を描く理由
《板垣巴留コメント》
 もともと動物だけの世界を描いていました。人間と動物の世界は遊びで描いていたりもしたんですけど、みんなやってるしなぁという気持ちもあり、「BEASTARS」では完全に動物だけの世界にしました。
 その動物固有の造形の良さは反映したいと思っています。オオカミの猫背や鼻の長さとか、ライオンは顔が角ばってて鼻が横長なところとかがいいなぁとか。そういうキャラとして良いぞ、という部分は取り入れています。動物の体の良さは後ろ足が逆関節なところだと思ってたんですけど、あれを取り入れて描いてみたらどうしても気持ち悪くなってしまって。なので骨格は人間ですね。後ろ足かっこいいんですけどね。

第88話「淑女大暴走」扉
『週刊少年チャンピオン』2017年31号




●第4期テーマ:レゴシとルイ

No.09
幼少期のレゴシ
 7歳の頃のレゴシ。ジャックとはこの一件のあとから仲が良くなってゆく。レゴシのセリフからは種族にとらわれない個々を重視する考え方が見てとれる。続くページでレゴシは「オオカミに生まれて良かったことなんてこの7年間で1度もなかった」と言っており、この頃からすでに自身がオオカミであることに対するコンプレックスをもっていることもわかる。マイペースなレゴシは、これらの信条も昔から変わっていないようだ。
 現在のレゴシと比べると、鼻先が短く瞳が大きく、非常に可愛らしい。

第49話「古代を飛び越せ子どもたち」より
『週刊少年チャンピオン』2017年41号

No.10
幼少期のルイ
 5歳の頃、ルイと名付けられるシーン。オグマに買い取られたことから父子関係が始まった。食われる者である宿命などルイのルーツが描かれている。

《板垣巴留コメント》
 ルイの過去というのは、作中でそれまでためていた分、それなりの過去がないとそのハードルは越えられないなと思っていました。生き餌という設定自体は以前から考えていたので、ルイがそうだったという設定にしました。アニメ化にあたって読み返したら、自分でも信じられないくらい1話に情報量が詰め込まれてて、よく1話に入れ込んだな、と(笑)。ルイが「4番」の掛け声で目を覚ますシーンにのんびり2ページも使ってたりして、あとで絶対後悔しただろうな、とか。足の裏の番号もあとのエピソードでうまく使えて良かったです。
 ルイは光を浴びない地下牢で、ただの商品として生きていたので、光が当たる場所や立場に固執する部分があるのかもしれません




第33話「宣誓… 上へまいります」より
『週刊少年チャンピオン』2017年24号

No.11
脚1本
 レゴシが演劇部の自主練の見張り役として、ルイに駆り出されるシーン。物語の初期はとても友好的な関係とは言えなかった。レゴシから見たルイは学園内で有名な優等生であり同じ演劇部の先輩。ルイはレゴシを「草木のよう」と評しており、物静かな後輩と見ていたようだ。
 最上段のコマにルイの角が映っている表現は、作品全体に通ずる映画のカメラワークを想起させる手法にみえる。ルイのセリフ「僕の脚1本でもくれてやる条件」というブラックジョークが印象的である。

第3話「霧の中の警鐘」より
『週刊少年チャンピオン』2016年43号

No.12
共演
 演劇部の新歓公演2日目、舞台上で乱闘を始めたレゴシとビルを止めにルイが現れたシーン。レゴシは助けられたことでルイのカリスマ性をあらためて知り、ルイは続くページの「お前の考えは正しいよ」というセリフにあるようにレゴシを認めた様子が見られる。このシーンまでレゴシとルイの違いが描写されてきたが、ここで両者とも弱者を虐げる者の敵となる、ある種の仲間意識を共有したのかもしれない。
 肉食獣同士の争いを草食獣が止める、つまり単純な暴力の強さではなく、正しい主張をもった者が場を制している。現実とは違う、舞台ならではの展開だからこそルイのカリスマ性が発揮されている。

第16話「君を焦がす制裁」より
『週刊少年チャンピオン』2017年5+6号

No.13
信念
 公演を終えファンにコメントするシーン。ファン向けのレビューであると同時に、ルイの「信念があるならば… そいつには必ず光が当たるべき」という言葉には、レゴシへ向けたメッセージが込められているようにもみえる。レゴシにも伝わっており、このあとのエピソードにおける自分の信念とはなにか、という自問につながっている。

第17話「遠吠えのイヤイヤ症候群」より
『週刊少年チャンピオン』2017年7号

No.14
殴り合い
 暴力組織シシ組にハルが誘拐されたあとのシーン。現実的に判断しハルの救出をあきらめようとするルイと、無謀でも救出しようとするレゴシ。レゴシは、そんなルイにむけ自分のやり方を貫くこと、そして「ハルは俺がもらう」ことを宣言する。レゴシが激情をあらわにする姿と、ルイが心の声を押し隠す様子。それぞれの性格が対比的に表れているシーン。
 肉食獣であるレゴシのポテンシャル(それが自分にはないものであること)を思い知らされ、ルイは敗北感に苛まれることになる。
 展示原画の流れではレゴシがいきなり殴りかかったように見えるが、先に手を出したのはルイだった。

第36話「こぶしの縁から溢れるもの」より
『週刊少年チャンピオン』2017年27号

No.15
明暗
 ルイがシシ組のボスになることを決意し、演劇部に退部届を提出しに来たシーン。ハル救出の一件を受けてレゴシは注目のヒーローとなり、ルイは裏社会の住人になったことを「明暗が見事に逆転した」と表現している。ルイはたびたび明暗や、光と闇という表現を使う。表社会と裏社会であったり、ヒーローとその他大勢であったりさまざまな対比を暗示している。
 ルイに限らず「BEASTARS」に登場するキャラクターは、それぞれのルーツに根差した思想や信念をもっている。それが、キャラが生きているように思わせてくれる要素なのかもしれない。

第50話「炎のオセロ」より
『週刊少年チャンピオン』2017年42号

No.16
シシ組のルイ
 シカであるルイをボスに据え活動する新生シシ組。ルイは、組員のイブキによってボスになるか食われるかという選択を迫られ、生き残るためにボスになることを選んだ。ボスとなってからはリーダーの資質を発揮し、自身が草食獣であることを利用して新たな取引を成功させていった。
 シシ組での経験はルイに大きな影響を残している。イブキとの対話から、肉食草食の共存の可能性、肉食獣の抱える本能・苦しみを知ったのだった。裏社会とかかわり見識を広めていく様子はレゴシと同様であり、個別に同様のルートをたどる、両者の対照的な関係性がうかがえる。

第56話「救世主の誘惑」より
『週刊少年チャンピオン』2017年48号

No.17
食殺犯の襲撃
 学園の中でアルパカ食殺事件の犯人を捜し始めたレゴシ。そのさなかに犯人から無言の襲撃を受け、圧倒的な怪力で追い詰められる。危機的な状況にもかかわらずレゴシは犯人に対し草食獣を守ると宣言する。この襲撃を切り抜けたレゴシは、犯人の手掛かりを得たと同時に自身の力不足を知り、パンダのゴウヒンのもとで闘いの修業を始めるのだった。
 これまでの消極的な平和主義から、行動をともなう積極的な平和主義へ切り替わったシーンともいえる。直前のシーンで、ハルへの恋心が信仰心のように重いと指摘されているように、この宣言もハルへの気持ちが大きな動機になっている。

第60話「博愛主義のディープワールド」より
『週刊少年チャンピオン』2017年52号

No.18

 食殺犯の正体は同じ演劇部のリズだった。再びの戦闘のさなか、リズの「種族の壁を壊せるのは捕食だけだ」という言葉に、レゴシが答えるシーン。レゴシのルーツに異種族、そして愛というキーワードが刻まれていることがわかる。レゴシとリズの闘争は力と力の対決だけでなく、互いの主義をぶつけ合う闘いになっていく。

《板垣巴留コメント》
 この言葉が出たのは、レゴシがおじいちゃん(ゴーシャ)のことを突然思い出したからですね。ヒグマという強大な相手と闘って生死の狭間に漂う瞬間に家族を思い出すんじゃないかと考えて、異種族であるおじいちゃんから受けた優しさを思い出して、この台詞につながっています。レゴシにずっと根深く息づいていたメッセ―ジだったんですね。でもこうやって言葉に出すことができたのは、これまでいろいろあって成長したからかなと。闘いの場で唐突に出る「愛」のセリフなのですが、私はこういう〝暴力〟と〝愛〟のような真逆の組み合わせみたいなものが好きなのでしょうね。




第84話「その手 乱気流 巻いて」より
『週刊少年チャンピオン』2018年27号

No.19
再会
 裏市のゴウヒンのもとで修業中のレゴシと、シシ組として活躍するルイが偶然に再会したシーン。レゴシは裏市で修業するにあたって、因縁のあるシシ組から素性を隠すために体毛を刈り込んでいる。ルイもレゴシだと気付きながら知らないふりをしていた。
続くシーン、No.20の展示原画ではお互いに対して思うところが明らかになる。学園に戻り秩序をもたらしてほしいと、レゴシはルイを説得する。しかしシシ組に居場所を見出したルイは断り、レゴシこそその役目を負うべきだと主張する。お互いへの認識を伝えあうも、この場では物別れに終わった。

第74話「君はぼっちのナイト」より
『週刊少年チャンピオン』2018年16号

No.20
レゴシのエゴ
《板垣巴留コメント》
 レゴシの言う草食獣の尊厳というのは、弱い立場の者が上に立ねばならないという考えのあらわれです。レゴシはエゴイスティックなところがあるので、相手を立ててるようでナメてる部分があるんですね。ルイはレゴシからそういう考えを感じ取っていて、苛立つと同時にその思想を認めてる部分もあって。一言では言えないですが、お互いに認め合ってはいるけれど、それぞれ未熟さもあるという部分が描ければな、と思います。
 ルイ自身は何度も肉食獣の強さに屈服させられているので、レゴシという強烈な存在が上にいることを認めざるを得ないと考えるようになって「お前がヒーローになれ」ってセリフになっています。悔しい気持ちとともに本心からの言葉です。かたやレゴシは「あなたは弱いんだからあなたが偉くなきゃダメだよ」と思っている。意外とレゴシは「草食獣は弱い」っていう肉食獣のエゴを強くもっていて、フラットに見てるようでそうでもないんです。強い生まれの残酷さですが、レゴシを介するとそんなに嫌悪感がないかなと。

第76話「ないものねだり狂想曲」より
『週刊少年チャンピオン』2018年18号

No.21
イブキ
 ライオンのイブキの秘密が明かされるシーン。ルイをシシ組に引き込んだ提案者であるイブキ。ボスとしての風格を見せるルイに忠誠を誓うも、ルイは心を開かない。それを打開するためにイブキは、かつて自身が薬の原料として売り物だったという過去を明かす。
 草食と肉食という立場の違いがあっても、かつて弱者だった者同士として共感する場面。同じ80話の威怪薬(肉食獣を原料とした薬)のエピソードもあわせ、肉食=強者とは限らないことがあらためて示される。そして異なる者同士が心の壁を乗り越えることもあるという「BEASTARS」のテーマが示された場面でもあるといえる。

第80話「ほほえみの取捨選択」より
『週刊少年チャンピオン』2018年22+23号

No.22
ルイとイブキ
 シシ組を抜けると言い出したルイに対し、引き留めるイブキ。イブキが内心を吐露する姿に、ルイは肉食獣への認識をあらためる。裏稼業に生きる者としてケジメをつけなくてはならず、殺されるとわかっていながらイブキはあえてルイに襲い掛かった。

イブキについて
《板垣巴留コメント》
 前触れなく1話のなかでいきなり死んだので皆さん驚かれたかもしれませんね。でも好きなキャラだからこそ、いい終わり方をさせてあげたいという気持ちがありました。イブキの名前は最初に登場したときから決まっていました。ルイをボスにしようとした張本人で、あの時のシシ組はみんなキャラが定まっていないただの悪役集団だったんですけど、誰か一匹だけルイに寄り添ってくれるキャラが必要だと考えて、読者の方がなじめるように日本人ぽい名前ということでイブキにしました。




第92話「君は百獣のプリンス」より
『週刊少年チャンピオン』2018年35号

No.23
蛾の教え
 修行中のレゴシが蛾の幼虫を食べたシーン。食殺犯であるリズを、ただ倒すのではなく理解したいと考えたレゴシは、リズと同じように生命を食べるという経験を得ようとする。肉食草食という食性が強調される点もあわせ「BEASTARS」では食が大きな意味をもつ。

《板垣巴留コメント》
 このネームを描くのはめちゃくちゃ楽しかったです。とくに昆虫が好きというわけではないんですが。「BEASTARS」で食べてもいい生命として虫を出して、そこからレゴシがなにか感じ取ってくれたらいいな、と。描くにあたって実際に横浜にある虫の料理を出してくれるお店に食べに行きました。食べて一番強烈な味がしたのが、蛾の幼虫だったのでこういうエピソードになりました。カブトムシとかの成虫より、幼虫の方が味が圧倒的に強くてドロッとしてて衝撃でしたね。正直あまりおいしくなくて……。ああやって食べるものじゃないですね……。




第82話「アクロス ザ ユニバース」より
『週刊少年チャンピオン』2018年25号

No.24
リズとの決闘
 レゴシとリズは、シャワールームでの闘い(No.18のケース)のあと、日を空けて誰にも邪魔されない場所で決闘することを約束した。レゴシは蛾の言葉を思い出しながら、体格に勝るリズに立ち向かう。

《板垣巴留コメント》
 このシーンは、ささいなことかもしれないですけど、私の中で異能力バトルものを描くのが苦手だっていうことが分かって、でも私もそれっぽいことがしたい、と思ったんです。私の負けん気がきっかけで描いたシーンですね(笑)。
 レゴシにあってリズにないものが、食べた相手と和解した、蛾と通じ合ったっていう部分なんですね。その持ち味を活かしつつ、絵的な面白さも考えてこんなシーンになりました




第93話「シャツに付いた金の毛をポケットに入れて」より
『週刊少年チャンピオン』2018年36号




●板垣巴留おすすめ作品

No.25
映画
《板垣巴留コメント》
 「生きる」は昔の映画なのに今見ても面白いです。美大の映像学科に通っていたので黒澤作品は講義でいくつも観たんですけど、「分からん……」ってなってました。当時だからすごかった作品で、今はもっとすごい映画がある、と。でも「生きる」は観てから時間がたって自分の中で発酵してきたというか、記憶に残っています。志村喬さん演じる主人公が、余命を宣告されて死を意識して、歌いながらブランコをこぐ姿が印象深いですね。自分が苦しいときに脳裏に浮かびます。ほかにも、主人公の表情とか。志村喬さんの大きな目で訴えかけてくるような表情の演技がすごい好きです。やっぱり主人公は目が大きいほうがいいのかなって。レゴシの目がだんだん大きくなっているのはその影響を受けているのかもしれません(笑)。

《板垣巴留コメント》
 メディアを問わず、観た後に脳が覚醒するような感覚があるのがヒューマンドラマですね。「ブラックスワン」(映画)や「白い巨塔」(テレビドラマ)は、しがらみとか思考の向こう側、人間の果ての姿が観られる作品だと思います。私は人間の本当のことを知りたいっていう欲求を作品に求めるので、こういうチョイスになりますね。
 影響を受けた作品はいろいろあります。黒澤明の「生きる」(映画)や、ディズニーの「ターザン」(映画)、洋画の「ボーダーライン」(映画)ですね。あらためて考えてみるとジャンルはまちまちですね。

映画(DVD):
「生きる」(黒澤明、1952年)
「ターザン」(ケヴィン・リマ、クリス・バック、1999年)
「ボーダーライン」(ドゥニ・ヴィルヌーヴ、2016年日本公開)

マンガ(書籍):
「セキララ結婚生活」(けらえいこ、1991年)
「あたしンち」(けらえいこ、1995年)
「だれも寝てはならぬ」(サラ・イネス、2003年)

バンド・デシネ(書籍):
「塩素の味」(バスティアン・ヴィヴェス、2013年邦訳)
「ブラックサッド 黒猫探偵」(フアンホ・ガルニド[画]、フアン・ディアス・カナレス[作]、2014年邦訳)




●ショートストーリー&「BEAST COMPLEX」

No.26
リズとテム
 リズがなぜテムを食殺するに至ったか、がリズの視点から描かれたエピソード。
 同じ演劇部として交流していた彼らは、テムの一言がきっかけで親密になっていった。このエピソードでリズの抱えていた苦悩と友情の結末が示される。彼らの結末は、肉食獣と草食獣が歩み寄ろうとした結果のひとつであり、レゴシと、ルイもしくはハルが辿るかもしれない未来のひとつを例示しているようにもみえる。

第77話「ハニーハントの純情」より
『週刊少年チャンピオン』2018年19号

No.27
《板垣巴留コメント》
 テムに限らずですが、草食獣も肉食獣も高校生っていう若いうちは異種族と努めてフラットでいようとするんですね。まだ柔軟な心を持っているので仲良くできると考えて無邪気に触れ合っています。いろいろ学んで大人になると関係性に変化があると思います。それにしてもテムはちょっと変わり者ですね。
 最後のコマの角が丸いのは実は単行本の際に修正しました。最初は普通の四角いコマだったんですけど、雑誌掲載した後に担当さんから「このシーンが幻覚だってわかってない読者がいるっぽい」と聞いてたんです。窓のカーテンとかで差別化してたんですが「みんな分かんなかったかぁ」と。それでより分かりやすく修正しました。実際のこの場面は、第1話のとおりに「怪物だ」のあとすぐに掴みかかって食べてます。

第77話「ハニーハントの純情」より
『週刊少年チャンピオン』2018年19号

No.28

第77話「ハニーハントの純情」より
『週刊少年チャンピオン』2018年19号

No.29
ゴーシャとヤフヤ
 36年前、コモドオオトカゲのゴーシャとウマのヤフヤは、ビースター候補として切磋琢磨していた。肉食獣と草食獣のどちらが次の壮獣ビースターになるか、周囲の注目が集まっていたが、彼らはお互いをライバルではなく共闘するパートナーと考えていた。ビースターではなくビースターズになろうとしていたのである。

ウマという動物
《板垣巴留コメント》
 ウマは私にとって悲しみの動物と思っています。まるっきりサラブレッドのイメージなんですけど。ウマはいつも無理をさせられている動物というイメージです。見た目も美しくて身体能力も高くて無理ができるがゆえに、無理をさせられてしまっている。ウマのもっている歪んだ部分をヤフヤに込めているかもしれません。あんなニンジンを食べたり。




第103話「タネが撒かれれば雨が降る」より
『週刊少年チャンピオン』2018年48号

No.30
タイトルについて
《板垣巴留コメント》
 そろそろタイトル回収をしなくては、と思っています。連載が始まるにあたってオムニバス形式でやることも考えていたんですが、当時の担当さんに「少年マンガには大きな柱が必要だよ」と教わって。「BEASTARS」というタイトルになったのは、最初に候補としてふたつ、BEASTのうしろに形容詞としてFULをつけたBEASTFULとBEASTARSというのを考えていたら、担当さんが「BEASTARSって気になる単語だからこれを軸に連載したらどうか」と。
 ゴーシャとヤフヤがビースターズになろうとしていたという展開はこのネームを描いているときに思いつきました。ヤフヤとレゴシになんとか因縁を作らなきゃと考えたんですが、苦戦していたときに「そういえばおじいちゃんいたじゃん!」となって、こういうエピソードになりました。うまくタイトルを落とし込めてよかったです。

第103話「タネが撒かれれば雨が降る」より
『週刊少年チャンピオン』2018年48号

No.31
ゴーシャからレゴシへ
 ゴーシャの言う「もっと大切な共存」とは恋人自身と、自分と恋人の間にできた子どもを指している。その子どもはのちにレゴシの母親となる。レゴシは見た目ではわからないが、種族としての特徴を受け継いでおり、コモドオオトカゲの毒が効かない体質になっている。

《板垣巴留コメント》
 レゴシのおじいちゃんがトカゲというのは実は1話目から決まっていて、1話目のレゴシが梯子を降りるシーンで、レゴシの降り方がおかしいんですよね。トカゲっぽく逆さまになって降りていく。あと、ハイイロオオカミは肉食動物の中で大きいほうではないんですが、レゴシは185cmくらいの長身で、それもコモドオオトカゲが大きい動物だから遺伝しているという設定です。




第103話「タネが撒かれれば雨が降る」より
『週刊少年チャンピオン』2018年48号




●雑誌など

No.32
第1期・ケースNo.32と同じ




◆「BEASTARS(ビースターズ)」

動物のみが存在する世界で、主人公のハイイロオオカミ・レゴシの青春と葛藤を描いた“動物版ヒューマンドラマ”。発表から間もなく支持を集め、2017年に『このマンガがすごい!2018』(宝島社)オトコ編 第2位を獲得。2018年に第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、 第11回マンガ大賞大賞、第22回手塚治虫文化賞新生賞、第42回講談社漫画賞少年部門を受賞。『週刊少年チャンピオン』誌上にてアニメ化が発表された。

肉食獣と草食獣が共存する現代社会を舞台に、主人公のレゴシの成長を描く作品。捕食者であるレゴシと被食者であるウサギのハルの、あまりにも障害の大きい恋愛を軸に、演劇公演、裏社会との邂逅、学園に潜む闇、出生の秘密、学園外の社会への旅立ちなど様々な経験から、レゴシは自分の生き方や他種族とのかかわり方を見出していく。


《壁面展示》

マンガ家になるまで
《板垣巴留コメント》
 美大の映像学科に進んだのは、画家は無いなぁ、と思って(笑)。イラストレーターはトレンドを掴む感覚が必要に思えて、そんなアンテナは無いし……。お話を作ることが好きだったのでそれなら映像学科がいいかなと。映像学科は入試に絵の実技はなくて、一つの言葉を与えられてお話を作るというのが試験でした。だから美大生だから全員絵が描けるというわけではないんですね。
 私の場合は、高校は美術学科に通っていて、絵はその頃に学びました。そこでは絵が上手い子が一番偉い、絵の上手さがそのままヒエラルキーになっていたので、必死で画力を培いました。生き残るために。

壁01

第75話「君の振り子時計で巻き戻して」扉
『週刊少年チャンピオン』2018年17号

壁02
《板垣巴留コメント》
 決闘するエピソードの巻頭カラーといえば、闘う者同士が向き合っていたりとか、盛り上がるための構図みたいなものがあると思うんですが、それは絶対「BEASTARS」には合わないだろうなと考えました。敵チームと味方チームが激突!みたいな絵じゃない、対立という要素ではなく、どういう関係ともとれる絵のほうがいいなと。少年誌としてはそういう絵を期待している読者もいるんだろうな、とは思いつつ迎合して失敗しても意味がないので、こういう感じになりました。
 この月を描くのは大変でしたね。こんなサイズのコンパスがなくって、スタッフさんに軸を抑えててもらって糸を結んでぐるっと描きました。

第92話「君は百獣のプリンス」扉
『週刊少年チャンピオン』2018年35号

壁03
《板垣巴留コメント》
 この話が発表されてから、読者からかなり反響がありました。もはや炎上したくらいに。描くときに迷いはしたんですが、今にして思うと迷うふりだったかもしれません。絶対こう描くと決心した上で、ためらいもあったというか。読者のなかには、きっとレゴシがもっと正しい者だと見ていた方もいたということだと思うんですが、でも私としてはレゴシには正しくない部分もあるし嘘は描けないとも考えてこうなりました。描いてるときは、傷を負ったルイがレゴシにむかって「行けー!」って叫んだところとか「私いままでで一番少年マンガしてる!」って思って嬉しかったんですけどね。単行本が出てみると、意外と怒っている読者が多かったので「私はまだまだどんな読者が読んでいるのかわかっていなかったなぁ」とも思いました。それでもこの展開に後悔はありません。

第95話「18倍濃縮の雫」より
『週刊少年チャンピオン』2018年35号

壁04

第80話「ほほえみの取捨選択」扉
『週刊少年チャンピオン』2018年22+23号

壁05

第97話「僕ら馳走にあずかった」より
『週刊少年チャンピオン』2018年41号

壁06

第97話「僕ら馳走にあずかった」より
『週刊少年チャンピオン』2018年41号




《覗き込みケース展示》

※展示品情報・解説・コメントは第1期・《覗き込みケース展示》と同じ




《その他》

台、映像展示
第1期・台、映像展示と同じ