※当アーカイブのテキストは展示開催当時(2019年)のものです。



後期:2019年7月26日(金)~ 8月26日(月)

◆台付ケース

No.00

はみだしっ子雑誌表紙
複製原画・掲載誌
『別冊花とゆめ』1977年夏の号
プリモアート2019年2月制作
雑誌(ともに東京より)




◆壁面ケース

東京の原画について
 三原順のマンガ原画は、モノクロの本編原画やカラーのイラストカット原画含め、現在ほとんどが東京にあります。2015年に開催した当館での展示「~没後20年展~ 三原順復活祭」をきっかけに、同年より著作権継承者の方からお預かりし、文化庁から助成を受け、当館にて原画整理を行いました。その作業を昨年度までに終え、近々、継承者の方のもとにお戻しする予定です。その間整理した原画は約6300点。大きめの押入れがいっぱいになるくらいの分量です。
 東京にあった原画の中からは、前回展示で紹介したもの、紹介できなかったもの、もっとも有名な「はみだしっ子」や、その他の作品などバランスよく織り混ぜて展示します。

No.01

はみだしっ子part19
つれて行って10 トビラ
『花とゆめ』1980年11号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはグレアム

No.02

「はみだしっ子」
『花とゆめ』1975年1月号-1981年16号

 グレアム、アンジー、サーニン、マックスの4人の少年が、各々の事情で肉親の保護を受けずに生活することとなる。ストーリーは、4人一緒の放浪生活を描く序盤(PartⅠ「われらはみだしっ子」~ PartⅨ「そして門の鍵」)、グレアムとアンジーがある大きな秘密を抱え、かつ4人離れ離れに生活せざるを得なくなる中盤(PartⅩ( 山の上に吹く風は」~ PartⅩⅡ「裏切者」)、再び4人一緒に生活することになり、さらに申し分のない保護者が見つかりもするが、かつて抱えた問題の大きさや、新しく発生した事件などに翻弄され立ち向かう終盤(PartⅩⅢ「窓のとおく」~ PartⅩⅨ「つれて行って」)に分けることができる。
 現在も人気のある少女マンガ誌『花とゆめ』(白泉社)初期をけん引した代表作のひとつであり、作者没後なお読者を獲得し続けるロングセラーである。


はみだしっ子
イラスト詩集
『三原順イラスト詩集 ハッシャバイねんねんころりよ』
白泉社、チェリッシュブック、1977年7月25日発行
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはサーニン

No.03

はみだしっ子part19
つれて行って17 トビラ
『花とゆめ』1980年21号
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはアンジー

No.04

はみだしっ子
イラスト詩集
『三原順イラスト詩集 ハッシャバイねんねんころりよ』
白泉社、チェリッシュブック、1977年7月25日発行
原画(東京より)
※描かれているキャラクターはマックス

No.05

はみだしっ子part19
つれて行って1 トビラ
『花とゆめ』1979年22号
原画(東京より)

No.06

はみだしっ子part19
つれて行って1 本編
『花とゆめ』1979年22号
原画(東京より)

No.07

はみだしっ子part19
つれて行って23 トビラ
『花とゆめ』1981年11号
原画(東京より)

No.08

『三原順のトランプランド』
箱カバー
白泉社、チェリッシュブック特別版1979年1月20日発行
原画(東京より)

No.09

はみだしっ子part19
つれて行って24 トビラ
『花とゆめ』1981年14号
原画(東京より)

No.10

はみだしっ子
雑誌ふろく(LETTER PAD)
『花とゆめ秋の大増刊』
1976年9月30日号
原画(東京より)

No.11

ルーとソロモン
ルーとソロモン総特集トビラ
『LaLaデラックス春の号』1979年5月5日号ルーとソロモン総集編
原画(東京より)

No.12

「ルーとソロモン」
『Lala』1976年9月創刊号-1981年8月号

 一家の末っ子ルー・ウォーカーとその飼い犬ソロモン、ルーの姉ピアとの関係性を中心に描いたギャグコメディ。ソロモンは特にピアによる虐待のため、いつか仕返しをしてやろうと考えており「喰ってやる」が口癖。といっても人語を解せるが話せないので心の中で思っているのみである。また、元来のやさしい性格があだ(?)となり、仕返しはつねに失敗に終わる。
 「はみだしっ子」の人気が爆発していた頃、『Lala』創刊号で連載開始された売れっ子時代の代表作のひとつ。


ルーとソロモン
予告カット
右上:『LaLa』1979年10月号
右下:『LaLa』1980年3月号
左上:『LaLa』1980年6月号
左下:『LaLa』1979年4月号
全て原画(東京より)

No.13

ロング アゴーIII トビラ
『別冊花とゆめ』1982年秋の号
原画(東京より)

No.14

「Die Energie 5.2 ☆11.8」
『Lala』1982年6-8月号

 「Die Energie 5.2☆11.8」は、原発問題を扱っている。原発反対の立場、電力会社に勤める者の立場の両方を見据えて描かれた深みのある作品。2011 年東日本大震災時、本編中の1ページが短文投稿サイトTwitter に投稿され、わずか2・3ヶ月のうちに三十数万回閲覧された。1982 年に少女マンガ誌で描かれたとは思えない重厚な内容で、その先見性により2011 年当時の三原順再評価につながった。2015 年時点では閲覧数は四十五万回に達していた。


Die Energie5.2☆11.8
トビラ
『LaLa』 1982年6月号
原画(東京より)

No.15

雑誌表紙
『別冊花とゆめ』1979年冬の号
原画(東京より)

No.16

「ムーン・ライティング」シリーズ
『花とゆめ』1984 年5号 -『花とゆめEPO』1990年11月号

「Sons」
『花とゆめEPO』1986 年6号-1990年11月号

 舞台はおそらくアメリカの片田舎。少年時代のD.D. を主人公に、彼の出生の秘密、親族間の軋轢などを描く。トマスとの出会いも描かれる。全体に深刻な内容なのだが、三原順独特のユーモアが随所に織り込まれ、不思議な読後感を醸し出している。「ムーン・ライティング」シリーズ最終編であり、作者後期の代表作。「Sons」を独立した作品に数え、シリーズに入れない場合もあるようだ。


右上:
ムーン・ライティング(前編)
予告カット
『花とゆめ』1984年4号

左下:
Sons綴じこみふろく
(カセットレーベル)
『花とゆめ』1986年10号
原画(東京より)




2色ページ用原画について

 マンガ雑誌ではかつて頻繁に2色印刷が使用されていました。マンガのカラーページは4色のインクを使用するのが基本ですが、かつてはインクが高価で4色印刷はコストがかかったため、2色印刷が利用されました。コストを下げつつ誌面を少しでもはなやかにする工夫だったのでしょう。単行本化される際は、すべてがモノクロで印刷される場合が多く、雑誌掲載時の色を見る機会は少なくなります。4色原画はイラスト集などに収録されることもあり、目に触れる機会もありますが、2色の、しかもコマで区切られた本編原画は雑誌掲載時以外、ほとんど目にする機会がありません。
 本コーナーでは、そんな貴重な2色原画のうち、画風が完成しその美しさが冴える「ロング アゴー」から、前期はⅠの冒頭8ページ、後期はⅡの冒頭8ページを展示します。


No.17

「ロング アゴー」
『花とゆめ』1982年13号、18号
『別冊花とゆめ』秋の号

 「はみだしっ子」の主要キャラクターであるジャックとロナルドを主人公にしたスピンオフ作品。連載が終わったのちに描かれた3回シリーズであった。「ロングアゴー」の頃は、絵柄の変わり目である。少女マンガらしい華やかさと、後につながるクールな画風がバランスよく同居しており、「この作品が最も好き」というファンも多い。


ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.18

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.19

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.20

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.21

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.22

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.23

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)

No.24

ロング アゴー II
本編
『花とゆめ』1982年18号
原画(東京より)




展示原画掲載誌コーナー

 ケース最下段には、今回展示される原画が掲載された雑誌を並べています。No.25からNo.30の6冊は前期・後期のいずれかに展示される、北海道からの原画が発表された雑誌。
 No.31とNo.32の2冊は各期に展示される、東京にある原画が発表された雑誌を交換し展示します。
 原画と比べて鑑賞してみてください。色味を調整したり、題字の色や位置を考えたりして原画の魅力を伝える工夫をしているのがわかります。

※壁面ケースNo.25‐30 の展示は前後期共通です。こちらをご覧ください。

No.31

『別冊花とゆめ』1982年秋の号
雑誌(東京より)
※後期ケースNo.13に原画展示

No.32

『別冊花とゆめ』1979年冬の号
雑誌(東京より)
※後期ケースNo.15に原画展示




◆正面壁

北海道からの原画

 三原順原画を当館で整理していく過程で、見当たらない原画があることが分かってきました。調査を進めるうちに、一部の原画は、三原順が生涯のほぼすべてを過ごした北海道に住む、彼女のご友人の手元にあることが分かりました。
 東京にある原画の整理をある程度終えた2018年度、所在がわかっている原画の状態確認と所在不明の原画の手掛かりをつかむため、北海道へ調査に向かいました。結局4ヶ所5名への取材を行い、さまざまな知見をいただきました。確認ができた18点のカラー原画は、所蔵者のご厚意で公開がかないました。本展示開催のきっかけとなったその18点を、前・後期に分け、おもに壁面とテーブルケースにて紹介します。

※まだ見つかっていない三原順原画があります。もし所蔵者をご存知の方がいらっしゃいましたら、当館にご一報ください。お譲りいただきたいわけではなく、可能であれば場所や状態を確認させていただければと思います。


壁01
はみだしっ子part11
「奴らが消えた夜」第5回 トビラ
『花とゆめ』1977年20号
原画(北海道より)

壁02
はみだしっ子カレンダー
1982年2月用
『はみだしっ子カレンダー』(白泉社)
1981年11月発行
原画(北海道より)

壁03
綴じこみふろく「'79年はみだしっ 子&子羊カレンダー」
『花とゆめ』1979年2号
原画(北海道より)

壁04
はみだしっ子
「アンジー特集」本編
『別冊花とゆめ』1977年秋の号
原画(北海道より)

壁05
はみだしっ子
雑誌表紙
『花とゆめ』1977年2号
原画(北海道より)

壁06
はみだしっ子
綴じこみふろく(バレンタイン カード)
『花とゆめ』1980年5号
原画(北海道より)

壁07
はみだしっ子
雑誌表紙
『花とゆめ』1979年1号
原画(北海道より)

壁08
はみだしっ子
雑誌ふろく(等身大ポスター)
下絵コピー、1979年(東京より)
プリモアート、2019年2月制作(東京より)

壁09
はみだしっ子
雑誌ふろく(等身大ポスター)
『花とゆめ』1979年19号
ふろく(東京より)




◆別壁

01.
修復原画コーナー

 原画整理を進める中、単純に汚れているからといった理由からではなく、状態が悪く展示に向かない原画が出てきました。
 例えば、カラー原画にかけたトレーシングペーパーが画面に貼りつきはがれなくなってしまったもの(ケース.1)。カラー原画に貼付されたカラートーン(スクリーントーンの一種)がめくれて取れそうなもの(ケース.2)。制作当時、1枚の原画を切り分けてアシスタントに渡し並行で作画が進められた後、セロテープでつなぎ合わせられた原画。さらに同様の原画でセロテープが劣化しはがれてバラバラになってしまったものなどです。
 そこで、保存修復科のある東洋美術学校に、保存上問題のある原画の一部について相談をしました。マンガ原画の修復は初の試みとのことでしたが、意欲的に取り組んでいただけた結果、危険な状態だった原画が展示可能なまでに修復されました。その原画を展示するとともに、修復の指揮をとられた小野慎之介先生によるレポートを添付いたします。


02.
Sons その2 トビラ
『花ゆめEPO』1986年6号
原画(東京より)
03.
『かくれちゃったのだぁれだ』
本編
白泉社
チェリッシュ絵本館1984年7月25日
原画(東京より)




◆覗き込みケース

01.
印刷のバリエーション

 ここでは、印刷のバリエーションを比較できるよう展示しました。北海道からの原画の中から前・後期各1枚を展示し、その原画の初出媒体(原画が最初に印刷された媒体)、「プリモアート」(高精細複製原画)、その他を比較することができます。
 マンガのカラーページは一般に4色のオフセット印刷です。表紙などに蛍光ピンクを1色足してマンガ印刷独特の明るさを出している場合も多くあります。もっと高価な印刷方法もたくさんありますが、安価で大勢の手元に届くことを目的としているマンガ雑誌はこの印刷を選んできました。たとえ色数の多い印刷機を使っても、原画と同じ色を出すことは難しく、それが4色ならなおさらです。しかしだか らこそ、限られた中で、作者や編集者、デザイナーそして印刷の技術者などが、なるべく原画の印象にあわせ原画のよさを伝えようと工夫しています。たとえば、赤など画面で一番印象的な色味に寄せて印刷するなどもその工夫の一つです。
 「プリモアート」は大日本印刷株式会社によって制作されている高精細複製原画です。北海道に保管されている原画の色見本とするために印刷しました。北海道原画に関しては所蔵者の許可のもと、高精細のスキャンデータを著作権者の手元に残す ことにしました。ですがデータだけでは、紙にプリントアウトしたものが原画の色に近いかどうかを確認することができません。また、北海道の個人宅に戻ると印刷するたびに原画と比較することは困難なため、色見本となる複製を作成したのです。技術者による色調補正を加えたうえで10色印刷で丁寧に仕上げてあります。これは、マンガ雑誌ではなかなかできない方法です。「プリモアート」の他にも、さま ざまな企業や施設が、それぞれの目的に沿った方法で、マンガ原画の複製に取り組んでいます。


02.
はみだしっ子
自選複製原画集用イラスト
『三原順 自選複製原画集』1
(白泉社)1979年4月20日発行
原画(北海道より)
03.
はみだしっ子
自選複製原画集用イラスト
『三原順 自選複製原画集』1
(白泉社)1979年4月20日発行
プリモアート、2019年2月制作(東京より)


04.
オフセット印刷とオンデマンド印刷

 白泉社の「チェリッシュギャラリー・自選複製原画集」は1970年代末から始まり、80年代に頻繁に刊行された少女マンガ家の画集シリーズです。通常のイラスト集とはちがい、イラストが本の形に綴じられることなく、紙ケースの中に一枚一枚単独の複製原画が入っていました。絵画のように一枚ずつ額に入れて大切に自室に飾っていた少女読者も多かったようです。こちらはマンガのカラーを印刷する際の 一般的な4色のオフセット印刷です。オフセット印刷は色ごとに版下を作成し印刷する方式で、高精細な印刷が可能ですが、コストが高くなるため大量印刷に適しています。
 オンデマンド印刷は、版下を作成する工程などがありません。少部数を早く印刷するのに向いています。一般にオフセットほど精密な印刷はできません。今回の報告書用冊子はオンデマンド印刷を採用しました。オフセットとオンデマンド両方で印刷見本を作成したのですが、三原順原画は、なぜかオンデマンド印刷での色味が原画に近かったからです。


05.
はみだしっ子
自選複製原画
『三原順 自選複製原画集』1
(白泉社)1979年4月20日発行
書籍※オフセット印刷(東京より)
06.
『マンガ原画整理に関する報告書 三原順原画
を中心に』
(明治大学 米沢嘉博記念図書館)
2019年3月20日発行
冊子※オンデマンド印刷(東京より)