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金子弘昌 准教授
「原子から、地球まで」
を
一つの数式で
表したい。
応用化学科 データ化学工学研究室 金子弘昌 准教授

人が持っている知識や知見をデータ化し、それを学習することで化学の新たな実験結果を予測する人工知能。金子先生が研究するのは、そんな人工知能を作るデータ化学工学という領域です。この研究領域と出会った背景からその魅力についてお話しいただきました。
何で上を目指すのか。
中高生時代の将来の夢は高校の先生になること。そのための受験を考えていたのですが、担任の先生から「せっかく受験するなら、もっと上を目指せ」と勧められ、志望校を変更し難関大学へ進学することになりました。高校生の頃から数学が得意科目だったので、その世界で上を目指そうと考えていましたが、大学では自分よりももっと優秀な学生がいることを知りました。数学では上を目指せない、自分が上を目指せる領域はあるのか、それが大学入学後に私が掲げたテーマでした。
まず考えたことはひとつの領域で上を目指すのでなく、数学と何かを掛け合わせた領域を探すこと。自分は数学以外の何に関心があるのか。その問いに対する答えは、地球温暖化、土壌汚染、食糧危機など環境に関することでした。数学と環境にまたがる学問を探したところ出会ったのが、いま私が研究している化学工学という領域です。

あらゆる実験を数式化する。
ノーベル賞を獲るような基礎的な研究をするのが一般的な化学。その化学を実用的に使うのが化学工学です。化学工学が目指すところは「原子から、地球まで」。目に見えない分子から私たちを取り巻く環境、そして地球までを扱う学問です。化学の世界で実験は不可欠ですが、必ずしも実験室の中だけでできるわけではありません。化学プラントでの実験、自然環境の中における化学的な仕組みの検証、要素が複雑になればなるほどシミュレーションのパターンが求められます。そして実際に実験をすると物質が枯渇する可能性もあります。私の研究室ではその様なあらゆる実験を数式化し、人工知能で立証できるようなシステムを検討しています。
そして、いまは私の研究内容を広く外に開いていくことを意識しています。学生はもちろん共感してくれる仲間や企業さまとともに社会に還元できればと考えています。自分が上を目指す、それも大事なことですが、誰かの役に立つこと。自らの研究が世の中に感謝されていることが、いまでは私の研究のモチベーションになっています。

人工知能の一歩先へ。
私には、原子から、地球までを一つの数式で表したいという夢があります。そして私の研究室には学生の数だけ夢があります。私の研究室で大切にしていることは、成果はもちろんですが、研究に取り組むことで学生自身が成長できたかということ。そして学生とともに研究しているからこそ、夢につながる新しい視点や発想を得ることができ、私自身の成長にもつながっています。
研究において仮説を立てることは、夢と同様にワクワクします。自らが立てた仮説を検証し、その結果を踏まえ、また仮説を立てる。それこそが研究の本質であり醍醐味だと私は思います。そして人工知能の領域を拡張する仮説を立てられるのは人間だけであり、それが人間の役割と言えるかも知れません。人工知能が考えつかないことを考えることを喜びに、これからも研究と向き合っていきたいと思っています。

化学や化学工学における人工知能・プログラミングについて書いた書籍です。化学や化学工学における人工知能はまだまだ新しい領域なので、より多くの人にこの研究の可能性を知ってもらいたいと思い執筆しました。そしてこれらの書籍が私の研究に新たなつながりをつくっています。
スタッフについて
応用化学科 データ化学光学研究室金子弘昌准教授
2011年東京大学大学院工学系研究科修了。博士(工学)。2017年明治大学理工学部に専任講師として着任。2020年より現職。データ化学工学研究室にて、統計学・情報学・データ解析・機械学習を駆使して人工知能やモデルをつくることで、暗黙知を形式知化したり、その形式知を活用して新たな設計をしたりする、化学・化学工学の研究をしている。
研究内容
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直接的逆解析法の開発
日々実験を繰り返す分子・材料の研究開発や、シミュレーションを繰り返すプロセス開発において、必要なことは、目的変数yの目標値を達成させるための説明変数xの値を即時的に提案すること。本研究では、分子設計・材料成形・プロセス設計におけるyの値からxの値を直接的に予測する手法 (直接的逆解析法) を開発した。
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様々な材料を対象とした材料設計と実験での検証
本研究では、企業や大学との共同研究などを通して、様々な種類の材料を対象に材料設計を行っている。材料ごとに予測精度の高いモデルを構築する検討をしたり、活性・物性・特性の目標値を達成する材料の合成条件などを設計したりしている。さらに、材料の合成条件を設計した後の実験による検証、その検証結果を活用した次の材料の設計にも取り組んでいる。
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プロセス状態の推定、異常検出・異常診断
本研究では、装置やプラントにおけるプロセス状態を推定、モニタリング、装置やプラントで起きる異常をあらかじめ検知、予測したり、検出された異常の原因を診断したりする研究に取り組んでいる。また、ソフトセンサーも活用してプラントの先の状態を予測することもしている。
主要な業績
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2022.11 論文 / 単著Direct prediction of the batch time and process variable profiles using batch process data based on different batch times, Computers & Chemical Engineering,
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2022.10 著書 / 単著化学・化学工学のための実践データサイエンス―Pythonによるデータ解析・機械学習
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2021.06 著書 / 単著Pythonで学ぶ実験計画法入門 ベイズ最適化によるデータ解析
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2021.05 著書 / 単著Pythonで気軽に化学・化学工学
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2019.10 著書 / 単著化学のための Pythonによるデータ解析・機械学習入門