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工藤寛之 准教授
日常を、
バイオマイクロ
システムで
可視化する。
電気電子生命学科 生命理工学専攻 バイオ・マイクロデバイス研究室 工藤寛之 准教授

腕時計のようなデバイスで汗を採取し、その成分をリアルタイムに調べる技術の開発に取り組むバイオマイクロデバイス研究室の工藤先生。ここでは、自身の研究領域に至った経緯と、その魅力についてお話しいただきました。
きっかけは、お下がりのコンピュータ。
中学生の時、叔父からお下がりコンピュータをもらったことが、いまの私につながる起点だったかと思います。電話帳みたいな分厚いマニュアルがついていて、とにかくマニュアル通りにキー打ち込んでみると、プログラムが動く。それを繰り返しているうちに、プログラムの構造を自然と理解できるようになりました。おもちゃ代わりに遊ぶ感覚です。社会的にもコンピュータへの期待が高まっていたことも重なり、大学では電気電子系に進学し、放射線のセンサを研究しました。修士課程の研究でまだやりきれていないところがあり、折角なら納得がいくまでやろうと思い、博士課程修了まで研究を続けました。
その後、東京都の中小企業への技術支援を担う、東京都立産業技術研究所(現東京都立産業技術研究センター)に入りました。積極的に取り組んだのは、プラスチックの微細加工。大学院では半導体の微細加工を中心に研究していましたが、半導体よりも中小企業が扱いやすい素材であるプラスチックの方が支援先にとって役立つと考えたのです。プラスチックの微細加工を始めると、バイオ系の技術者から「プラスチックでこんなことはできないか」という要望が寄せられるようになり、これらに一つひとつ応えていくと、とても喜んでいただけました。次第にバイオ関連のマイクロシステムの研究への興味が高まり、大学の教員という立場でバイオセンサの研究をはじめました。

汗から、より多くの情報を。
体重計や体温計は、身体の物理的情報を自分で計測できる身近な機器。一方、身体の成分の情報を得るには、病院で血液を採って検査してもらい、結果が出るまで数日かかってしまうのが一般的です。そこで私の研究室では、身体の成分の情報も、物理的情報のように手軽に扱える機器の開発を目指しています。身体の状態を反映する血液成分にアクセスするには皮膚や血管に穴を開ける必要があり、誰もが安全に行うにはハードルがあります。でも、採取しやすい唾液や涙、尿、汗などにも血液同様にたくさんの情報が詰まっていることがわかってきており、これらの成分を手軽に取得することができれば、身体の状態を推定することが可能になります。
私が注目したのは汗。身体の様々な状態に応じて変化する汗の成分情報を収集できる腕時計型モニタリングデバイスの開発をしています。汗に含まれる成分が1日の中でどのように変化するか。多くの人の情報を収集し解析することによって、その値の意味がわかってきます。すると、個々人の健康のために計測結果を活かすことができるようになります。汗中成分の変動に関するビッグデータが集まれば、スポーツの画期的なトレーニング法や全く新しい美容法が見えてくるかも知れません。
面白い研究の先にある、面白い世界へ。
私の研究室では、学生の関心事を起点に研究を進めています。そうすると私の思いが至らないところが補完され、私の世界が拡がっていきます。あともうひとつ大切なことは研究のテーマを率直に面白いと感じるかどうか。面白くないと研究を続けることがただただ苦しくなってしまいます。そして面白い研究の先には、きっと面白い世界が拡がっていると思うので。
私がライフワークとして研究していきたい対象は、「集団」として人間です。一人の健康ではなく、集団の健康に関わるイメージでしょうか。例えば、ある小学校の生徒の唾液を検査する。その結果、各教室を集団として捉えた健康状態の傾向や窓際の生徒と通路側の生徒での心理状態の違いがわかるかもしれません。個々人に心や身体の健康状態があるように、きっと集団においても心や健康状態があり、それを計測することができると思うのです。もしそんな技術が実現できれば、この学校の幸福度は髙いとか、この街は活気に満ち溢れているとか、これまでなかった集団の見える化が実現できます。遠い未来の話かもしれませんが、とても有意義で面白い技術だと思い、研究を続けています。

大学生の頃に出会った浅田次郎さんの著作。日常を淡々と描くストーリーですが、個人的に心に響くものがありました。その時から浅田次郎さんのような文章を書けるような人になりたいと思っています。
スタッフについて
電気電子生命学科 生命理工学専攻 バイオ・マイクロデバイス研究室工藤寛之准教授
2003年早稲田大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。東京都立産業技術研究所(現東京都立産業技術研究センター)勤務を経て、2013年より現職。バイオ・マイクロデバイス研究室にて、マルチスケール生体モニタリングシステムの研究を行なっている。
研究内容
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医療⽤代謝評価システムに関する研究
肺炎や排血症、腎不全などに伴う高乳酸血症を検知するシステムを開発。容態の変化に対応する医療から、悪化する兆候を検知して「先回りする医療」への進化を目標に臨床応用を進めている。
[写真引用元(2枚目):Kudo H, IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines 141(3), pp. 83-87 (2021)] -
In-vivo乳酸モニタリングの応⽤研究
無線式の汗中乳酸モニタを開発し、世界で初めてボルダリング中の汗中乳酸の変化をリアルタイム計測。バイオMEMSの技術を活かした高度な生体センシングの研究を進めている。
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情動に関わるペプチドホルモンに関する研究
「絆」や「愛情」との関連が知られるオキシトシンの時間変化を調べる免疫計測技術を開発。ストレスや愛情に関連する生体成分を情報化し、「個人」を超えて「社会」の感情の可視化を目指している。
主要な業績
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2022.07 論文 / 共著“Salivary Uric Acid Sensor using The Fordable 'Finger-Powered' Microfluidic Device,” IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines, 142 (3) (2022), 38-42.
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2021.01 論文 / 共著“Wireless Biosensing System for Daily Self-testing of Salivary Uric Acid,” IEEJ Transactions on Sensors and Micromachines Vol.137 No.12 (2021), pp.450-454.
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2018.05 論文 / 共著“Electrochemical Biosensor for Simplified Determination of Salivary Uric Acid”, Sensors and Materials, 30(5) (2018), 1187-1195.
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2018.01 論文 / 共著“Real-Time Skin Lactic Acid Monitoring System for Assessment of Training Intensity”, Electronics and Communications in Japan, 101(5) (2018), 41-46.
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2017.12 論文 / 共著運動負荷の評価を目的とした皮膚表面における乳酸分泌量のリアルタイム計測システム 電気学会論文誌E 137(12)