明治大学 平成17年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム
広域連携支援プログラム-千代田区=首都圏ECM-
本プログラムは、文部科学省が公募する、平成17年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択されました。」
現代GP採択関連講座
市区長・教育長リレー講座「子供と地域の街づくり」―街づくりにおける広域連携の枠組みつくリ―
[報告書]  PDFPDF版
開催日時:平成17年11月9日(水) 参加人数:参加人数32人
講師:岐阜県多治見市長 西寺 雅也 テーマ:地域を再発見する街づくり
 多治見は愛知県と岐阜県の県境にあり、名古屋から30分くらいのところにあります。小さな盆地がいくつも集まってできている地形です。80年代に名古屋のベットタウン化で、20年で人口は6万5千人から10万人へ増加しました。その後、バブルが崩壊し、名古屋都市圏が収縮し、宅地開発が止まり、人口は完全に横ばい状態となりました。同じ年代、同じ階層の住民が集まっており、自治体の2007年問題が起き始めています。高齢化率は現在17%ですが、これから10年を境に人口の減少、高齢化は急速に進み、財政を圧迫してくるでしょう。
 そこで、私は2003年の市長選で「持続可能な地域社会づくり」をメインテーマにマニフェストを作成しました。そして、2004年には総合計画を策定し、計画に載っていない突発的な支出を許さない政策の徹底化を図り、机上の空論にしないために、財源推計を盛り込みました。今後、支出は5年間で90億減らさないといけません。このため、事務事業を4段階評価し、廃止を含めて予算編成を行っていますが、思ったように削減することができません。このように全国の自治体の7割強は危機的な状況になってきていると思います。
多治見市の陶磁器
 多治見市の地場産業は陶磁器です。昔から問屋制マニファクチャーにより、卸業者が全部富を仕切っていました。その為、お屋敷が多く残っています。そして、陶器商が全国に売りに行くという商売でしたので、多治見に買い物に来てもらうという発想がありませんでした。私は市長になって11年目ですが、まず、まちづくりとして、多治見に来て見て体験してもらうビジター産業を始めました。市役所のあるお屋敷街は明治末期の建造物で土蔵も朽ち始めていて後世に残すラストチャンスでもありました。
 散策できる町並みを作るオリベストリート構想として、本町地区と市之倉地区の2箇所のオリベストリートを作りました。ここは2人の人間国宝がいるところで多くの陶器を焼いている窯元があります。今では毎日、人が訪れる観光スポットになっています。私は日本の街は無秩序にできていて、汚いと感じています。もう一度、町並みを作っていきたいという私の気持ちを理解してくださった市民の方々は、本町地区のオリベストリートに新しい建物を建てるとき、自主規制で、土蔵に合わせたトータルな景観を作ろうと努力してくださるようになりました。多治見は豊かな資源はなく、産業としてはピーク時の6割の売り上げしかない厳しい陶磁器があるのみですが、市立陶磁器意匠研究所では毎年20人を2年間に渡り養成しています。ここの卒業生はメーカーなどでデザイナーとして働く傍らクラフトなどを行うようになりました。もともとスローな産業であった陶磁器は量産時代を終え、スローな産業として甦りつつあるのです。地域ブランドは低いですが、1300年もの間、陶磁器を焼き続け、高い技術を持った地域は多治見以外にはありません。
市民パワーと道草ライフ
 多治見の自慢はそれだけではなく、市民が元気なことです。市之倉地区では、市民の力でオリベストリートと産業を結び付けました。また、国土交通省で打ち出したグリーンベルト構想では、山と市街地の接点で災害が起こりやすいので里山を残そうというものですが、市でワークショップを行いました。ほとんど予算は出ません。しかし、市之倉地区からは保育園保護者と老人クラブ、団地からはリタイヤした人10人のグループ、小学校の周りからはPTAと健全育成という3つのグループが名乗りを上げ、運動が起こりました。ノウハウ、機材は提供して、職員もボランティアで参加しましたが、市民が里山の整備をしました。又、多治見のめだかを農薬で汚れた農業用水をきれいにして放流しようと職員の発案から実現しました。
 そうしましたら、池田地区というところが目覚めまして、500坪の田んぼを自分たちで借りて、ビオトープを作り、基盤整備を建築業、水道屋さん、造園業の方が、植樹などは市民の皆さんで行って、500坪の私立の公園を作ってしまいました。
 話は変わりますが、私はスローライフを勧めていまして、みちくさをテーマに3つの活動をしております。1つ目は地域のみちくさマップを作る。2つ目はみちくさウォークをする。3つ目はみちくさ作文コンテストであります。まずはお金がかからない、みちくさウォークから始めまして、3月の土曜日に各地域を1箇所ずつウォーキングしました。その中で、それぞれの地域でみちくさをするためのマップ作りを始めました。これも市役所が話をもちかけ、市民が行い、池田地区で去年完成しました。みちくさ作文コンテストは全国から募集し、今年で2回目となります。このように、市民とともに、自分たちの住んでいる地域をもう一度見直そうという運動もしています。
 多治見市の公民館、文化会館はすべて、文化振興事業団という財団法人が管理をしています。私の住む地域の公民館では文部科学省から賞をもらったのですが、気軽に立ち寄れる場所にしようと休館日にカフェを開いたり、子ども大学で中学生が小学生の面倒を見たり、夏休みにはリタイヤした人が子供の宿題を見たりしています。又、文化振興事業団では教えたい人、情報を発信したい人を募集し、コーディネイトし、オープンキャンパスを開催しています。自己負担ですが、73講座がありとても人気があります。
 このように市民の活動が徐々に活発化し、行政の職員の関り方も変わってきました。最初はきっかけ作りをし、あるときから自分たちがやるように変わってくるのです。「新しく建つ小学校の裏の山に通学路を作りたい。では市民の皆さん、やってください。」とそんなやり方が定着してきました。私はコミュニティの問題を地方自治法で定められている地域自治組織で考えてはいません。村落共同体の方へ引っ張られている感じがするのです。市民生活から見ると、趣味の団体の方が結束が固い気がします。ですから、いろんなコミュニティが重層的に重なって地域を支えていくことが大切だと思います。
学校教育
 次に学校教育ですが、基本は学校が楽しいか楽しくないかだと思います。小5、中2、保護者、教員にアンケート調査を実施します。定点観測を行っていくことによって学校がどういう空間になっているかを把握できると思っています。又、多治見市は構造改革特区を第2次からずっと要望し続けています。各学校に運営協議会を作り、権限を委ねようというものです。義務教育に関しては首長に権限はありません。教員は県の教育委員会を見ており、市民に責任を負っていません。学校を市民に近いところで判断できるような組織にしたいのです。
【主な質疑応答
Q: 多治見市の政策の中に「簡単で効果の高い健康づくり戦略」「みんなで支えあう福祉の街づくり」とありますが具体的にお聞かせ下さい。
A: これは厚生労働省が作った健康作り計画の地方版です。目標を明確にしようと「食生活」「喫煙」「運動(心とからだ)」を年代ごとにわけ、どのようにしていくかの目標をそれぞれかかげて、わかりやすい健康作りをしようというものです。福祉にしても年代ごとの目標をたて、計画的に介護予防を行うことが必要だと思います。
Q: 行政と市民がうまく協働できるためのアドバイスはありますか。
A: 行政マンが常にアンテナをはっていて、仕組みを考えることが大切です。ワークショップをやっていても、市民に丸投げしてしまっては違ったものになってしまうことがある。職員がコーディネーターとして、少し下がって、市民と一緒に歩みながらできるかどうかがこれからの時代に求められていると思います。
Q: 政策の中にある「市民参加による学校づくり」「地域参加の学校運営」に関してはどのような成果がありますか。
A: 学校運営は変わっていないです。学校の治安も、塀を高くしたり、防犯カメラを付けたりと逆に刑務所にしてしまうよりは、ボランティアの人たちを学校の中に入れてもらってどんどん活動してもらうほうが良いと思います。実は学区選択性を導入しようとしたときは横並びでないと困ると市民からの反対がありました。私は多様な学校があって選択できるように、通学区の自由化だけでもしたいと考えています。
Q: 条例の制定などいろいろなことをされていますが、職員と市民を動かしているコツはありますか。
A: 条例は作るまではとても一生懸命ですが、作ることが目的になり、なかなか持続しないものです。市長になって全市的にバリアフリーに取り組もうと話をしたら、それは福祉担当課の話だろうと相手にされなかった。しかし、3年間言い続け、あきらめずに言い続けたところ、職員の皆が真剣に取り組んでくれるようになったのです。
参加者感想
 西寺市長さんが、街づくりの理想あふれる計画を、一歩一歩、着実に実現されていることは本当にすばらしいことだと思います。ご苦労も並々ならぬものだと感じますが、「あきらめずに言い続けること。黙っていたら何も変わらない」とのご信念が痛いほど伝わってきました。また、学校教育改革で、ご自身の恩師が、改革反対の指揮をとられているとお聞きし、ご心痛もさることながら、改革の難しさを感じました。


前のページに戻る チェーンプロジェクト概要GPニューストップページ │ このページのトップへ
明治大学トップへ 商学部トップへ 生涯学習・学校教育 文部科学省
Copyright (C) 2005 Meiji University, All rights reserved.