明治大学 平成17年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム
広域連携支援プログラム-千代田区=首都圏ECM-
本プログラムは、文部科学省が公募する、平成17年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)に採択されました。」
現代GP採択関連講座
市区長・教育長リレー講座「子供と地域の街づくり」―街づくりにおける広域連携の枠組みつくリ―
[報告書]  PDFPDF版
開催日時:平成17 年11 月16 日 参加人数:参加人数30人
講師:愛知県犬山市市長 石田 芳弘 テーマ:生涯学習と街づくり
磁力のある街づくり
 私は日々、市民の皆さんと磁力のある街づくりを考えています。磁力とは違いのことです。役所の仕事は究極のマニュアルである法律を守ることです。しかし、マニュアルで町を作ったらおもしろくない。磁力のない街づくりになってしまいます。隣町がやっていることをしてはだめです。オンリーワンの街づくりが大事です。私は犬山市を、「教育と文化」をテーマにしたテーマパークだと思っています。ですから、老人クラブに行っても、「福祉にではなくて、子供たちのためにお金を使わせてください」とお願いしています。もうひとつ大事なことはランドマークを持つこと。一瞬にしてビジュアルとしてイメージできるもの、犬山市の心の中心を不動に持つということです。犬山市は恵まれたことに日本の国宝の4つのお城の中のひとつ「犬山城」があります。日本人は室町時代からの100年の間、どの町にもお城を作り、お城を中心にして街を形成してきました。どの街もお城へのあこがれがあり、「犬山城」は理想的なランドマークです。街を考えるとき、住んでいる人を横軸、過去に住んでいた人を縦軸としての空間ととらえるのではなく、歴史の軸を入れた4次元空間としてとらえなければなりません。街づくりは、時空を超えたコンセンサスを持っておこなわなければ、一過性の街になってしまいます。街は生命体です。調子の悪いときもあります。しかし大事なことは前向きのビジョンと希望を持って、努力と工夫をすれば必ず事態は好転し、オンリーワンの「犬山市」を作っていけるのです。
教育と文化は最高の経済活動
 観光というのはその街の自慢のものを人にお見せすることだと思います。そして、文化はその街の個性、違いであります。磁力のある街づくりは観光に結びつきます。「教育と文化」は犬山市の自慢のものイコール観光です。わが市では教育視察に来られた方は観光客とカウントします。沢山のお金を犬山市で使っていってくれるからです。今、全市博物館構想を計画しています。尾道市などは文学の街ですが、携帯電話で「どこでも博物館」という観光ナビを作っていて、その場所の観光説明を受けられるようになっています。そんなこともヒントにしながら、住む人、訪れる人に大きなものを与える街を作っていきたいと思っています。
生涯学習と街づくり
 私は人生は学ぶためにあると思っています。村上和雄さんという筑波大学の遺伝子学の先生が書いた「命の暗号」という本があります。人間が持つ細胞の一つ一つにはすべて同じ遺伝子が組み込まれており、人が感動したり、希望をもったり、よい環境に出会ったりすると遺伝子はスウィッチオンして、生命体がいきいきとしてくるそうです。これこそ、生涯学習であり、街は最高の教室を提供しています。生涯学習として市民大学も人気があります。講師はすべて私が推薦します。犬山市のことを少しでも知っている人にお願いし、犬山のためになることを言ってくれる。それを全市博物館構想にフィードバックする。街づくりになるのです。
私の教育論
  孔子の言葉に「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とあります。つまり、楽しむことこそが最高のエネルギーで、楽しむことは達成感を味わうことであり、子供たちにその達成感を教えるのが教育だと思っています。犬山市には小学校10、中学校4、保育園が13あります。市の規模としては保育園は充実しています。ある時、保育園長さんが「子どもがはじめて歩く、はじめてしゃべるという感動を私たちは知っていて、その感動を親が知らなくていいのか」との話をしました。この状況で子が育つのがバーチャルになり、リアリティがなくなっているのではないかと危惧します。確かに子どもを育てる環境は苛酷になってきていますが、親の子育てへのハンディ感が強く、その要求を聞くことだけが行政の姿勢であっていいのかと疑問に思い始めてきました。ハンディの後の達成感を味わえないからです。私は中央教育審議会に地方代表で出ていますので、「子育てを教育の価値観でやっていこう」と主張しています。
 教育はフィンランドをお手本にしています。フィンランドは人口600万の兵庫県と同じ規模の国ですが、世界第1位の学力を誇っています。そのやり方はまず第一に、徹底的に教育の仕方を地方に移譲していること。お金は国が出し、やり方は地方にまかせている。第ニに、ここが大事です。教科書の検定はなく、指導書があり、それに基づいて担任が教科書を決める。第三に、授業以外の雑務がなく、2学期制で行事が少ない。第四に、校長が権限をもっている。第五に市民が教師を応援してあげている。フィンランドは学力を求めて学力が上がるのではなく、自ら求めて学ぶことにより学力があがっているのです。教師をだめにしているのは市民です。「子どもが変わった」とよく言われますが、子どもは世の中の鏡ですから、子どもを変えているのは大人なのです。学校の使命は授業で、ほかの事は市民の仕事だと思います。小学校単位のコミュニティが大事で、学校は子どもたちのためだけではなく、大人のため、いろいろ実験をする街づくりの拠点なのです。犬山市では自治基本条例を作成中です。大体出来上がりましたが、作っても読まないという意見があり、中学生に表現を考えてもらおうと十八年三月制定予定で、進めています。そのように街全体で子どもを育てています。
参加者との主な質問応答
Q: 具体的に教育で行っていることを教えてください。
A: まず、学校の授業を25人の少人数にし、そのための教員を市で100名雇いました。しかし少人数にこだわることなく、チームティーチングや、競争をさせることを目的としない習熟度学習により、子ども達が内発的に学習する環境を作っています。また、教科書。検定教科書は使用していますが、1冊5000円の指導書の分の予算をカットし、先生方で犬山バージョンの副教本を作ってもらいました。そのための取材費は市で払っています。このような自主的な活動により教師魂に火がつきました。私は、凡庸な教師はただしゃべるだけ。普通の教師は説明するだけ。よい教師はやってみせ、卓越した教師は子供の心に火をつけるものだと思っています。そして、その教師の心に火をつけるのが市民の応援であり我々の役目だと思います。次に教育委員会です。教育委員会無用論もありますが、私は教師たちの応援団体として必要だと思っています。問題は純粋培養で多様性がないところです。犬山では教育長を行政の人間にしました。しかし、それでは現場のことはわかりませんので、校長経験者を市で雇って学校教育部長になっていただき、私も入り、少人数教育のオーソリティである大学教授に研究会に参加してもらったりして徹底的に議論しあう。その中でひとつ気づいたことがあります。教師の任命権は県にありますが、内申権が市町村にあるのです。この内申権を活用し人事に活かしました。又、文化と教育は一体であり、文化は放電、教育は充電との観点で、教育委員会に文化での権限を持たせています。更に幼保一元化、中高一貫教育、人材の宝庫の大学との街づくりもこれから取り組んでいきます。
Q: 職員の意識改革はどのように行いましたか。
A: 市の職員には町全体が仕事場だと言っています。以前、外から登用した助役が「公務員の給料の一部はボランティア分」と言ってボランティアをやっていて、市民支援条例というのを作ったらさっさとやめてNPOで頑張っている人がいますが、市長のできることは任命権を駆使することです。生え抜きだけではだめで外から人を入れ行政文化に多様性を持たせるのです。今ローカルマニフェスト運動をしています。政策が関係ない選挙のやり方を変えていかないといけません。選挙カーで支援を頼むのではなく、ミニ集会で政策を訴え、浸透させていく。公務員もそんな集会に出て市民と交わることが必要です。
参加者感想
 石田市長さんが、犬山城をランドマークとして、教育と文化をテーマに「犬山市」という大きな絵画を描かれている様子がお講義の中から伝わってきました。そして市長さんの最大の武器は徹底的にディスカッションし、相互理解をされていく中にあるのだと思いました。
 また、教育と文化は最高の経済活動というお話は私たちの活動にとって、示唆に富むものでありました。また、基本条例を中学生にもわかるように書くというのは、感動の一言です!どれもこれも「すごい」という言葉で表すしかありません。ほんとうにすごかったです!
 皆さん、楽しんでいらっしゃいました。ありがとうございました。 。


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