2009年度 入 学 式
学長告辞「新時代を迎えて」
新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。明治大学を代表して,心よりお祝い申し上げます。
既に本学に在籍している約2万4千名の学生,および49万名余の卒業生(校友)は勿論,私ども明治大学の教職員も,皆さんと新しい縁をもつことを嬉しく思うとともに,皆さんを心より歓迎いたします。
明治大学は,1881年(明治14年)に創設され,今年 創立129年目を迎える 歴史と伝統を誇る都心型総合大学です。本学の創立当時,わが国は,近代国家に仲間入りするため,「維新」すなわち「これ(維)あらた(新)なり」の気概のもと,諸制度の改革に取り組んでおりました。とくに,欧米の先進諸国が植民地化政策を展開する国際情勢の中で,わが国の独立を守るため,新しい「国造り」に取り組んでおりました。
このような時代状況において,本学の創立者達は,わが国の近代化のためには,「個の確立」すなわち「個人の尊厳」をベースにした国造りを目指すべきであると考え,本学の前身・明治法律学校を開設いたしました。この教育方針は,建学の精神「権利自由」・「独立自治」として,ゆるぎない伝統となり,今日に引き継がれています。社会や企業等の組織の中にあっても,自らの使命(役割)を自覚し,他者との「連携・共生」をはかりつつも,『個』として光り輝く存在になってほしいと願い,本学は,そのような人材の養成につとめてまいりました。
わが国は,第二次世界大戦の終戦時にみられた「廃墟」から,民主化と自由市場化の大きなうねりの中で,科学技術の刷新,および新エネルギーの発見とあいまって「奇跡的な復興」を遂げ,今では世界から経済大国といわれるほど「物質的な豊かさ」を享受することができる国になりました。しかし近時,アメリカの「自由市場原理」の指標だけでは,十分でないことが明らかになりつつあるといえます。合理性や効率性に支えられた「経済的利益の偏重」から,「人間主役」の原点に立ち返ることが必要な時代になりつつあると思います。
昨秋以降,当初アメリカで発生したサブプライム・ローンを組み入れたデリバティブ(金融派生商品)問題,これに起因する金融危機が,全世界をまたたく間もなく席捲して,わが国を含む全世界の実体経済に大きな影響を与えています。いわゆる経済不況という事態を予想させています。
ところで,この「危機」という語は,その象形から「危険Crisis」の『危』 と 「機会 Chance」の『機』 という二つの文字を巧みに組み合わせているともみることができます。皆さんは,どちらにベクトルを置いて現状を分析し,将来を展望しますか。私としては,皆さんには,後者すなわち「機会」の方を選択してほしいと願っています。
本年1月20日に,第四十四代アメリカ合衆国大統領に就任したバラク・オバマ氏は,その選挙活動中に常に人びとに語りかけた言葉は,ご存知のとおり,「Change(変革)」であり,「Yes,we can(われわれは成し遂げることができる)」でした。この言葉には,若さが感じられます。難しい課題に挑戦(Challenge)する勇気が感じられます。そして,将来にむけた期待,夢が感じられます。
ここにおられる新入生の若い皆さんには,是非,「時代の変化」を真正面から受け止めてほしいと願っています。
ところで,19世紀は各国が独立国家としての確立を目指した時代,そして20世紀は国と国の関係が注視される「International world」時代,そして世界は今,国家を超えた地球市民的な考え方が尊重される「超国家的世界(Transnational
World)」の時代に移行しつつあると思います。
人類は,自らの歴史に目をむけるべきです。個人は勿論,民族や国家には,それぞれ固有の文化,歴史,経済・政治状況などにおいて,特有事情があります。このことを看過して社会の在り方を論ずることは,大変に危険なことであると感じております。つまり,これらを考慮し,全世界的な調和をはかり,各国それぞれの役割を分担する時代に入ったといえます。われわれ日本人には,この地球上の人びとが「平和裡に,等しく健やかに暮らす」ことを目指す活動を,積極的に展開する役割・使命があると考えます。
このような歴史的背景のもとで,国際社会は今,「近代化」への施策を支えてきた価値観や社会制度それ自体の大きな転換期を迎えています。換言すれば,現代は,パラダイム・シフトのプロセスの真っただ中にあるといえます。これからの「時代の進むべき方向性や価値観」につき,皆さんは戸惑いを覚えることでしょう。確かに,現在の実体経済は,わが国は勿論,世界的規模で厳しい状況にあり,行き先も不透明です。しかし,将来を見通すことが難しい時代である今であるからこそ,若者の皆さんにとっては,自らの夢(大志)を実現できる「大きなチャンス」をいただいている時代ともみることができると思います。
皆さんには,この明治大学で「矜持をもって,人が人間らしく生きるべき叡智(国際性豊かな教養)」を学び,いかなる難局に遭遇しても力強く「前へ」一歩進めうる勇気を
習得してほしいと願っています。
そのためには,「タテ軸」と「ヨコ軸」に沿って,深く学ぶことが必要です。タテ軸とは,これまで人類が歩んできた歴史・文化です。それに沿って学ぶこととは,普遍的な価値をもった古典,何世紀にもわたって国境を越えて受け継がれてきた芸術などを通じて,人類に共通する本質的なものを学びとることです。ヨコ軸とは,同世代の世界。それに沿って学ぶこととは,グローバルな視野を持ち,世界の「今」を理解することです。今日の時代は,人類の幸せのために,広い視野をもって,世界を舞台に活躍する勇者の出現を待っています。
他者との「連携・共生」を基本に据えて,自らの人生目標(役割・使命)を見いだし,是非,自らが信ずる夢(大志)を実現すべく挑戦してほしいと期待しております。
最後になりましたが,明治大学における学生生活が楽しく,かつ実り豊かなものになり,皆さんの前途に幸多いことを心よりお祈り申し上げまして,私の告辞といたします。
|