明治大学で学び,本日ここに,めでたく卒業式を迎えた皆さんに対し,明治大学を代表して心から「おめでとう」と申し上げます。
皆さんがこの日を迎えるには,その背後にあって物心両面にわたり支えてきた御両親をはじめとする多数の方々がおられます。このことについて,感謝の念を深めていただくとともに,その恩に報いるためにも,人生の新しい旅立ちに際し,改めて自らの「高き理想」を確認し,決意を固めてほしいと願います。
ところで今,世界は,第二次世界大戦後60年余という歳月の中で,科学技術の革新(イノベーション)が一段とすすみ,人類の物質的生活環境も改善されて,その利益を享受しております。しかし,この地球上では,今なお宗教や民族間の対立による局地的な武力紛争,テロの恐怖などが多発しています。また貧困や難病,それに異常気象や地震などに苦しんでいる多くの人びとがおります。
これに比して,わが国は戦後のいわば廃墟と化した諸状況から,奇跡的な経済復興を遂げ,ついに経済大国といわれるまでになりました。確かに,今では物質的には豊かな社会になっているといえます。
しかし他方で,経済的な効率性の追求が日本社会に暗い影を落としていることも,顕著なところです。それは,他者(弱者)に対しての「思いやり」や「正義実現にむけた勇気」など人が人らしく生きるための英知が,現在の日本社会において失われつつあるのではないでしょうか。私達の人生において,「お金」は目的ではありません。人の幸せは,自らが生きがいをもちうる仕事(職)をえて,笑顔で暮らせることです。皆さんには,「人間らしく生きる」ための原点を忘れないでいただきたいと願っています。
わが国は,今,間違いなく明治維新,戦後改革に匹敵する「第三番目の変革期」しかもグローバリゼーションという大波をうけての質的転換期に入っています。私達が真に世界の中で活躍していくためには,次の2点を念頭におき,行動しなければなりません。
第1点は,「平和の確保」です。私達は人類史上はじめてで,かつ唯一の原爆被害を体験している国民ですから,「平和」を最高の理念として据え,私達はその実現にむけて献身的な活動を展開する責務があると考えます。
第2点は,「自然との共生」です。昨今の自然破壊は,世界的な規模ですすんでおり,その被害は深刻です。人類の将来を考えると,私達は「自然との共生」を理念に据え,地球環境の保全に英知を結集しなければならないと考えます。
すなわち,私達は常に平和を愛し,自然との共生を大切にする民族であることを発信しつづけなければならないと,強く思っております。このような使命は,今世紀わが国が国際社会から期待されているものであり,これからの実践の場で,先ほどの二つの理念を具現化するため,皆さんには,是非常に「正義の鐘」を打ちならす戦いに参加してほしいと願っています。
さて,本学広報部発行の「M‐Style(卒業生特集号)」に,私が皆さんに贈る言葉として,「行(ゆ)くに径(こみち)に由(よ)らず」を選びました。この語句は,論語に出てくるものですが,小さな道や裏道を通らずに,大通りを歩く,すなわち「人生の王道を歩いてほしい」との願いを表しています。小細工を弄するのではなく,正々堂々と取り組み,幅広くかつ高い視点から物事をみて問題解決にあたっていただきたいとの思いが込められています。さらに付け加えさせていただくならば,この明治大学で学んだ皆さんは,いかなる難局に遭遇しても逃げることなく,「前へ」歩むことを,常日頃の心構えとしていただきたいと願っています。
皆さんは,これから長い人生の間に,必ず一度のみならず,2度,3度と自らの運命を決すべき転機をむかえることがあると思います。そのときに,明治大学で培った人間力,すなわち明治魂を発揮して,常に矜持を保って王道を歩んでください。そして,鳥が国境を超えて大空を舞うように,または魚が大海を回遊して泳ぐように,自由に世界を舞台に活躍してほしいと願っています。
最後になりましたが,皆さんの前途に幸多いことを祈念申し上げまして,私の告辞といたします。
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