Project 109 創設110周年を迎える明治大学商学部の教育改革プログラム ~新たなステージでの教育研究と国際化をめざして~

世界を舞台に活躍できるビジネスパーソンを養成する明治大学商学部の魅力を探る!

問われるのは、語学レベルよりも意識の高さ

まず世界を舞台に活躍できるビジネスパーソンを育成するためには、ビジネス教育そのものがグローバルスタンダードに沿ったものであることが大切です。これまでの海外留学や研修は、主に語学の習得が目的でした。しかし明大商学部視点は、さらに先の、“語学を使って何を実現するのか”にあります。あくまでビジネス教育は世界に広がっていると考えるべきで、海外留学が語学研修の場に終始してはいけません。

以前、公認会計士に合格した学生が「英語は苦手だけど、国際会計基準を身につけたい」と海外プログラムへの参加を希望しました。そういう学生は、高い目的意識がある上、勉強の仕方を知っているので、きっと英語の上達も速いでしょう。つまり、目的意識が語学力をリードしていくという関係が重要なのです。学部のカリキュラムで目的意識を高め、それを世界へとつなげていく、これこそが真のグローバルネットワークだと考えています。

学部教育を“世界へ”とつなげるために、明大商学部は国際連携プログラムを充実させてきました。パリの大学でファッションビジネス戦略の授業を学んだり、カナダのヨーク大学でビジネスに関するプレMBAプログラムを受けたり、分野はさまざまですが、どのプログラムも、世界が求めるグローバル人材の成長を促すという明確な目的を持って取り組んでいます。

アクティブラーニングで自ら成長する

グローバルスタンダードの教育には、先ほどお話した目的意識のほかに、主体性と社会性が必要です。そこで明大商学部では海外の大学の事例を参考に、学生が自ら体験しながら主体的に学ぶ「アクティブラーニング」を進めています。

もっとも特徴的なのが「特別テーマ実践科目」でしょう。これは社会のさまざまな課題をテーマに、学生の力で解決を試みる体験型の授業。例えば、実際にアンテナショップを経営したりしながら、社会の教育力のなかで学生を鍛えてもらいます。狙いは、こうした活動を通して「学生の沈黙」を打破すること。この取り組みを体験した学生は、社会では多岐に渡る分野の知識が必要だと肌で感じるためか、その後、他の授業への取り組み方も違ってきます。このように学びから学びへとつなげていくことも、特別テーマ実践科目の役割です。

世界に広がる校友との連携で独自のキャリア教育を

明治大学には卒業生である校友が約53万人、商学部だけでも13万人を数えます。この校友ネットワークを活用した明大商学部の独自の授業があります。OBをゲスト講師に迎えた授業で、30人のクラスのなかで5グループに分かれ、OBが提供するテーマについて考えてもらいます。前半と後半に分かれており、その間に中間報告があるのですが、ここでの成果発表へのOBの評価はかなり辛口。しかしここで力不足に気付いた学生たちは、最終報告に向けて、取材したり、調べたり、グループで徹底的に話し合ったり、勉強の質を高めていきます。すると最終報告では、中間報告とは段違いの発表になり、OBからの好評に感動して涙を流す学生もいるほど。自分自身はもちろん、誰の目にも分かるくらいはっきりと成長できる授業は、そうそうないと思います。

私は、こうした授業を通して、学生に“今の自分の力と社会が求めている力とのギャップ”を認識して欲しいのです。いくら教師が「こういう人材が社会では求められていますよ」と繰り返したところで、学生が自ら気づかないことには、学ぶ姿勢には反映されません。学ぶことは決して就職のノウハウではなく、もっと本質的なものなのだと身を持って体験できるのが、明大商学部なのです。

商学部の研究内容を広く発信していく

こうした商学部の取り組みや研究の内容を、外に向けて発信していくことも大切な責務だと我々は考えています。広報活動のIT化やデジタル化はもちろん、校友会や父母会との地域連携を通じた教育成果の情報発信も積極的に進めていきます。

分かりやすい例では、商学部の学びについてくわしく紹介している<これが商学部シリーズ>全5巻が挙げられるでしょう。2014年3月に刊行予定の第5巻、「ビジネスと教養(仮題)」では、世界で活躍するOB10人にインタビューを実施。それぞれの分野からのメッセージのほか、大学や学生への要望・期待についても話してもらっています。この本の中では、社会(OB)からの要望に対して、“一般教養”を担当する商学部の教員がそれに回答するという、おもしろい試みをしています。その理由は、ビジネスの世界における一般教養の重要性を周知させたかったからです。ビジネスは決してビジネスの話だけで進むわけではありません。むしろ文学や文化など、ビジネスとは無関係に見える話題が、プロジェクトを進めるエネルギーとなる場面は多々あります。そしてこの総合力を養うにはなにが必要かというと、ずばり“教養”の一言に尽きるのです。つい「本当に必要なのか」と思われがちな一般教養の授業ですが、実は重要なビジネススキルが養えることを、多くの人に知っていただければと思います。

明大商学部での学びの魅力を外部に周知させることは、学生たちの誇りにもつながります。「明大の学生が自信を喪失したら日本は終わり」。これくらいの気概を示すことで、「Project109 商学部110周年プロジェクト」は、さらに大きな意味を持つものになるでしょう。

横井 勝彦(よこい・かつひこ) 商学部教授・商学部長

1954年生まれ。1982年明治大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。
専門は「イギリス経済史」「国際技術移転史」。

主な著作:『アジアの海の大英帝国』(講談社)、『大英帝国の<死の商人>』(講談社)、『日英兵器産業とジーメンス事件』(共著、日本経済評論社)、『日英兵器産業史』(共編著、日本経済論社)、『帝国の終焉とアメリカ』(共著、山川出版者)、『パクスブリタニカとイギリス帝国』(共著、ミネルヴァ書房)、『日英経済史』(編著、日本経済評論社)、『軍拡と武器移転の世界史』(共編著、日本経済評論社)、ピーブルス『クライド造船業とイギリス海軍』(訳書、日本経済評論社)、ポーター『大英帝国歴史地図』(共訳、東洋書林)、ヘッドリク『インヴィジブル・ウェポン ―電信と情報の世界史 1851〜1945―』(監訳、日本経済評論社)