バルーンめいじろうプロジェクトがスタート
―五十嵐先生の研究の概要をお聞かせください。
五十嵐 これまで私は、ぬいぐるみやバルーンなどの設計・製作の部分について、コンピューターグラフィックス(CG)の分野から手助けすることで、初心者でも簡単にできるようにするという研究を行ってきました。ぬいぐるみがどのようにできているかを想像していただくとわかりやすいのですが、型紙に沿って裁断された布を縫い合わせて、中に綿を詰めて完成します。「こんな形で仕上がるといいな」と完成形を頭の中で想像するのは簡単ですが、その型紙や展開図を想像して描くことは難しいですよね。その、「展開図を描く」「展開図を3次元で組み立ててみる」という工程をコンピューターで行う研究をしています。
CG制作作業で、完成形を形づくることは「モデリング」と呼ばれる分野になります。一方で、型紙を縫い合わせ綿を詰めたり、バルーンに空気を送り込んで膨らませてみたらどうなるかということを計算し、再現する「シミュレーション」。これらは、これまでものづくりの工程の中で別々の段階で行われてきました。そこを合わせて、「シミュレーションをしながらモデリングをする」というのが私の研究のテーマです。物理的な制約を満たすための計算をコンピューターに任せながら、人間がデザインをして最終的に理想通りのぬいぐるみやバルーンの完成を目指していきます。そのような研究をしている中で、広報課から大型のバルーンめいじろう制作ができないかというご相談をいただきました。
―相談を受けた際の率直な感想はいかがでしたか?
五十嵐 すごく面白いお話だと思いました。そもそもめいじろうは二次元のイラストとして大学のホームページやLINEスタンプなど幅広く展開されていて、明大マートではぬいぐるみが販売されています。そこで、お話をいただいてすぐにめいじろうのぬいぐるみを色々と集めてきて観察しました。小さいキーホルダーから大きいものまでさまざまな大きさのものがありますが、小さいものと大きいものでは縫い方が違うということがわかりました。例えば、小さいものは耳の部分を薄い一枚布を貼り付けて再現していて、大きいものについては縫い合わせて耳の中まで綿が詰められています。足については、足だけで別のパーツとして体に縫い付けられている。そういったさまざまなパターンを観察して、それではバルーンはどのように作ろうかと考えました。
次に最終的な大きさをどうするかということですが、当時の土屋前学長からは10メートルくらいの大きさのものを作ってみてはどうかとお話をいただきました。駿河台キャンパスのリバティタワーや中野キャンパスのロビーに10メートルの立体物を置くとどうなるか実際に測りに行きましたし、バルーンの縫製などの制作業者の方や、実際に完成しためいじろうを運用・管理される広報課の方など、関係者の皆さんと打ち合わせを重ねて最終的なサイズ(高さ約3メートル)に落ち着きました。どの工程も楽しませていただきました。
―ここまでは五十嵐先生を中心に進めてこられましたが、バルーン設計図制作に関わる作業は、当時1年生の杉山さんが担当されたそうですね。
杉山 総合数理学部先端メディアサイエンス学科(FMS)では1年次からゼミナール指導が行われていて、僕は入学後に五十嵐先生のゼミに配属されることになりました。
五十嵐 総合数理学部のカリキュラムで、1年次の必修科目として「総合数理ゼミナール(春学期)」「先端メディアゼミナールI(秋学期)」が設置されていて、学生の配属はランダムになります。2年次には仮配属として学生が希望するゼミに1年入ります。3年次から本配属といった形で卒業研究に取り組んでいきます。本来であれば3年以上か、2年生に声をかけるところですが、CGをしっかり勉強してきた3、4年生に話をふってみると、「先生は笑顔でこの話を持ちかけてくれているけれど、これは大変だ」という雰囲気になってしまいました(笑)。そこで、1年生や大学院生も含めた全ゼミ生にもう一度確認した際に、杉山君が興味を示してくれました。1年生の中でも飛びぬけて優秀な学生でしたので、彼なら大丈夫だと、一緒に取り組むことにしましたが、思った以上に大変でしたよね(笑)。
杉山 手を挙げてみたものの、この時点ではそもそも3DCGを扱ったことはありませんでした。最後までやり遂げられてとても良い経験になったと思っています。
―どうしてプロジェクトに参加しようと決断したのですか?
杉山 もともと映画が好きで、特にVFXという実写とCGの映像を合成するような形で視覚効果を実現しているようなものを好んで見ていました。そのため、大学でそれに関わりそうなことがやれたらいいなと漠然と思っていました。大学に入学して、偶然ですがCGに明るい先生のところに配属されて、しかもこのようなチャンスが目の前に転がりこんできました。お手伝い程度で参加させてもらって少しでも知識がつけられればいいなと思って飛び込んでみましたが、蓋を開けてみたら自分と先生の2人で進めることになっていたので驚きました(笑)。
