DIALOGUE特別対談・寄稿

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幅広い出会いの中から学生を育てる総合数理学部の学びと実践
-バルーンめいじろう設計を振り返って
総合数理学部 五十嵐悠紀准教授
総合数理学部2年 杉山恭之さん

本学創立140周年を祝して、大型のバルーンめいじろう(全長約3メートル)が完成しました。総合数理学部先端メディアサイエンス学科の五十嵐悠紀准教授の研究成果を活用し、五十嵐先生と総合数理学部1年(当時)の杉山恭之さんがこのバルーンめいじろう設計図の制作にあたりました。ここでは五十嵐先生と杉山さんに制作過程の振り返りとともに、総合数理学部での学びや研究分野のこれからなどについて語っていただきました。

*バルーンめいじろうはオープンキャンパスや学園祭など大学行事の際に披露される予定です。キャンパスでの大学行事が再開されましたら、ぜひご覧ください。

バルーンめいじろうプロジェクトがスタート

―五十嵐先生の研究の概要をお聞かせください。

五十嵐 これまで私は、ぬいぐるみやバルーンなどの設計・製作の部分について、コンピューターグラフィックス(CG)の分野から手助けすることで、初心者でも簡単にできるようにするという研究を行ってきました。ぬいぐるみがどのようにできているかを想像していただくとわかりやすいのですが、型紙に沿って裁断された布を縫い合わせて、中に綿を詰めて完成します。「こんな形で仕上がるといいな」と完成形を頭の中で想像するのは簡単ですが、その型紙や展開図を想像して描くことは難しいですよね。その、「展開図を描く」「展開図を3次元で組み立ててみる」という工程をコンピューターで行う研究をしています。

CG制作作業で、完成形を形づくることは「モデリング」と呼ばれる分野になります。一方で、型紙を縫い合わせ綿を詰めたり、バルーンに空気を送り込んで膨らませてみたらどうなるかということを計算し、再現する「シミュレーション」。これらは、これまでものづくりの工程の中で別々の段階で行われてきました。そこを合わせて、「シミュレーションをしながらモデリングをする」というのが私の研究のテーマです。物理的な制約を満たすための計算をコンピューターに任せながら、人間がデザインをして最終的に理想通りのぬいぐるみやバルーンの完成を目指していきます。そのような研究をしている中で、広報課から大型のバルーンめいじろう制作ができないかというご相談をいただきました。

―相談を受けた際の率直な感想はいかがでしたか?

五十嵐 すごく面白いお話だと思いました。そもそもめいじろうは二次元のイラストとして大学のホームページやLINEスタンプなど幅広く展開されていて、明大マートではぬいぐるみが販売されています。そこで、お話をいただいてすぐにめいじろうのぬいぐるみを色々と集めてきて観察しました。小さいキーホルダーから大きいものまでさまざまな大きさのものがありますが、小さいものと大きいものでは縫い方が違うということがわかりました。例えば、小さいものは耳の部分を薄い一枚布を貼り付けて再現していて、大きいものについては縫い合わせて耳の中まで綿が詰められています。足については、足だけで別のパーツとして体に縫い付けられている。そういったさまざまなパターンを観察して、それではバルーンはどのように作ろうかと考えました。

次に最終的な大きさをどうするかということですが、当時の土屋前学長からは10メートルくらいの大きさのものを作ってみてはどうかとお話をいただきました。駿河台キャンパスのリバティタワーや中野キャンパスのロビーに10メートルの立体物を置くとどうなるか実際に測りに行きましたし、バルーンの縫製などの制作業者の方や、実際に完成しためいじろうを運用・管理される広報課の方など、関係者の皆さんと打ち合わせを重ねて最終的なサイズ(高さ約3メートル)に落ち着きました。どの工程も楽しませていただきました。

―ここまでは五十嵐先生を中心に進めてこられましたが、バルーン設計図制作に関わる作業は、当時1年生の杉山さんが担当されたそうですね。

杉山 総合数理学部先端メディアサイエンス学科(FMS)では1年次からゼミナール指導が行われていて、僕は入学後に五十嵐先生のゼミに配属されることになりました。

五十嵐 総合数理学部のカリキュラムで、1年次の必修科目として「総合数理ゼミナール(春学期)」「先端メディアゼミナールI(秋学期)」が設置されていて、学生の配属はランダムになります。2年次には仮配属として学生が希望するゼミに1年入ります。3年次から本配属といった形で卒業研究に取り組んでいきます。本来であれば3年以上か、2年生に声をかけるところですが、CGをしっかり勉強してきた3、4年生に話をふってみると、「先生は笑顔でこの話を持ちかけてくれているけれど、これは大変だ」という雰囲気になってしまいました(笑)。そこで、1年生や大学院生も含めた全ゼミ生にもう一度確認した際に、杉山君が興味を示してくれました。1年生の中でも飛びぬけて優秀な学生でしたので、彼なら大丈夫だと、一緒に取り組むことにしましたが、思った以上に大変でしたよね(笑)。

杉山 手を挙げてみたものの、この時点ではそもそも3DCGを扱ったことはありませんでした。最後までやり遂げられてとても良い経験になったと思っています。

―どうしてプロジェクトに参加しようと決断したのですか?

杉山 もともと映画が好きで、特にVFXという実写とCGの映像を合成するような形で視覚効果を実現しているようなものを好んで見ていました。そのため、大学でそれに関わりそうなことがやれたらいいなと漠然と思っていました。大学に入学して、偶然ですがCGに明るい先生のところに配属されて、しかもこのようなチャンスが目の前に転がりこんできました。お手伝い程度で参加させてもらって少しでも知識がつけられればいいなと思って飛び込んでみましたが、蓋を開けてみたら自分と先生の2人で進めることになっていたので驚きました(笑)。

バルーン特有の難しさと作業を通して成長した部分とは

五十嵐 今回は、キャラクターとしてぬいぐるみやキーホルダーなどすでにある程度立体のデザインがある「めいじろう」のバルーン化ということで、杉山君にはブレンダー(Blender)という既存の三次元モデリングソフトを使ってデザインをつくってもらいました。その後、バルーンになったときのシミュレーションをしながら微調整していく部分を私の研究のソフトウェアで仕上げていきました。バルーンとして成り立つためには、ただ立体としてモデルが完成すればいいだけでなく、サッカーボールなどのように内部が1つにつながった形状になっていなければなりません。

―バルーン特有の難しさがあるということですね。

杉山 ブレンダーの使い方を学びながらめいじろうの立体モデルを作っていきました。さらに、その形を維持しつつ、胴体と手や足、耳やしっぽをつなげる、ぬいぐるみでいうと縫い合わせる作業をCGで行いました。つながりがきれいになるようにモデルの辺の構成や点の配置を細かく修正していく作業がとても大変でした。

五十嵐 CG上のキャラクターとして普通のモデリングソフトを使うのであれば、本体を作った後に、耳や手足などのパーツをつけていくので十分です。しかし、今回はバルーンとして内側から空気を送り込んだシミュレーションを行い、空気が端まで行き届き、膨らませた後の形が思い通りのものになっているかどうか、パーツがつながっているかということまでが要件となるので大変でしたね。また、ぬいぐるみであれば、耳などのパーツは別パーツとして綿を入れて後で縫い合わせるといったこともできますが、バルーンなので内側がつながっている必要があります。

―かなり時間もかかったのではないでしょうか。

杉山 期間としては3か月間くらいでした。もちろん他の授業や課題、試験などと並行しながら取り組みました。作業自体の時間は数字としては数えていませんが、かなり集中して作業したことを覚えています。

五十嵐 こういった開発や研究というのは、実際の作業時間だけではなくて、それ以外の通学時間や食事中などにも考えていたりと、切り分けられない時間が多分にあるものです。この作業期間は、杉山君の頭の中がめいじろう一色でしたでしょうね。

杉山 その通りです。

五十嵐 実際のバルーンにするために、布地に縫い目をどのように入れていくか、ということも進めていきます。杉山君がブレンダーで入れた縫い目を私のシステムでインポート(読み込み)できるように開発しました。作業を進めながらメールやチャットなどでやり取りして、杉山君の作業が便利になりそうな機能を追加して渡して、さらに必要なものがあるかどうかを聞いて…とラフにやり取りできる環境でしたが、私自身の研究のという観点からもとても良い勉強になりました。

杉山 常にオンラインで先生とつながってアドバイスやフィードバックを素早く返していただいたので、とても作業のしやすいありがたい環境でした。

―作業を通じて得たことなどはありましたか?

杉山 ブレンダーを使うスキルが格段に上がったと思います。2年次は渡邊恵太先生のゼミでインタラクションデザイン(ユーザーの使い勝手を向上させるようなデザイン)を学んでいます。ゼミ生同士でとあるファブリケーション(ものづくり)関係の展示会に出展することになり、僕はモデリングを担当することになりました。すでにバルーンめいじろうで培った下地があったのでブレンダーでの操作には困りませんでした。別のCGツールを使う際にも、用語や機能などはある程度同じような名称がついているので機能の見当をつけられたり、使った際の挙動の違いなども感じられたりしたので、ツールへの理解が深まりました。

―五十嵐先生が杉山さんの成長を感じられたことはありましたか?

五十嵐 今回の作業では杉山君の作業の過程を録画して、それを共有して確認していました。顔や耳を作って、手を作って足を作って…とどんどん複雑な工程になっていく中で、「こうやってつくったのか!」と私が気付きを得るような作り方をしてくれていることもわかりましたし、モデリングのスキルの上達が記録として残っていて、今こうして見返してみるとじーんとくるものがあります(笑)。

杉山 最初の方の作業を見返してみると、まだ慣れていなくて気恥ずかしさはありますね(笑)。それでも根気強くご指導いただいた五十嵐先生には感謝しています。

さまざまな分野で活用 知的な支援システム構築へ

―五十嵐先生の研究は今後どのように進められるのですか?

五十嵐 私の研究ではぬいぐるみの制作など手芸などを取り扱っていますが、これまで人間が努力や試行錯誤して培ってきたノウハウがあって、それをコンピューターに取り込むのはとても難しいことです。同じぬいぐるみのノウハウであってもさまざまな会社ごとにノウハウを持っており、それらは互いには共有されていない状態です。そういった知識を少しでもコンピューターに取り込めば、もっと知的な支援システムがつくれるのではないかと考えています。今まで経験や知識がないとできなかったことを、コンピューターが支援していくことで、専門家の仕事を奪うのではなく、できない人の底上げに役立てていければよいなと思っています。

―コンピューターを使うことで、これまで人間が想像できなかったようなことができるようになるかもしれませんね。

五十嵐 熟練の技を持った年配の方が手作業の良さを教えてくださるだとか、コミュニケーションの機会も創出できるかもしれません。ITとの異分野コラボレーションや広がりに期待しています。私は手芸の分野が好きなので、そこにコンピューターを取り入れていますが、音楽やスポーツ、建築など他の分野でも幅広く新しいものが提案できたら面白いなと思いますね。

―杉山さんはどのようなことに興味を持っていますか?

杉山 今はインタラクションデザインを学んでいますが、CGへの興味は持ち続けていて、CGを現実世界に持ってこられないかということを考えています。例えば、YouTubeなどの動画サイトでたき火だけをずっと映している動画がありますが、これを三次元のディスプレイのようなものに投影し、CGでつくった炎がずっと揺らめいているインテリアのようなものができたら面白いなと思っています。CGを三次元に持ち出す、というところでは今回のバルーンめいじろうもそう言えるのですが(笑)。

五十嵐 これまでCGといえば、アクション映画の爆発の描写や、ニュース番組での事故現場のシミュレーションだとか、映像のプロフェッショナルだけが作れるものでした。けれど、今では家庭用のコンピューターの性能が上がり、使いやすいソフトも普及して身近になってきています。誰もがCGで新しいものを作り出すことが身近になり、これからますますそういう世の中になっていくと思います。3Dプリンターの価格もどんどん下がってきていますし、そのうち家庭に1台あって、誰でもアイデアをすぐ形にできるというのが当たり前になるかもしれませんね。

幅広い出会いの中から専門性を深めていくFMSの教育

―お話の冒頭、FMSでは、1年次、2年次、3・4年次と3回ゼミに所属することができると伺いました。学科全体で学生を育てているような感覚なのでしょうか?

五十嵐 そうですね。FMSの先生方みんなで学生みんなを育てるという環境だと思います。ずっと同じ研究室で育つのも悪くないですが、特定の分野に特化してしまうともいえます。4年間、たくさんの先生や先輩、後輩から学ぶことで、この分野を広い視野で眺めながら専門性も磨くことができます。1年次の配属はランダムですが、2年生、3・4年生は違うゼミに入ってみることを学科としては勧めています。

さらに、1年生の間もいろいろな研究室のゼミの先生のところを回っていくスタイルになっています。五十嵐研の1年生がまとまって、今週は中村聡史研究室に行く、翌週は荒川薫研究室に行く、と順に研究室を訪問して各先生から学ぶといったゼミを展開しています。1年生が終わったときには、学科の全ての専任教員と話したことのある状態で、2年次にどのゼミに仮配属で入りたいか考えられるようになっています。背中を見て学べというスタンスの先生や、手取り足取り教えてくれる先生もいます。そういった環境で少しでも成長していってくれればと思います。

―杉山さんは実際学んでみていかがですか?

杉山 とても良い環境です。この先、卒業研究に向けたゼミ入室をはじめ選択しなければいけない場面が出てくるので、そこで決断できるようにしたいですね。

五十嵐 何でも広く学べるようでいて、いつかは自分の専門性を決めていかないといけないですからね。

―いろいろな先生と接することで刺激を受けて自分がやりたいことが見つかるのかもしれませんね。

五十嵐 さまざまな分野の先生がいらっしゃるので自分に向いている分野も見つけやすいでしょうね。

―卒業後の進路はいかがでしょう。

杉山 今の時点では大学院に進学し研究の道に行くことはあまり考えていません。あと2年半FMSで学べる時間があるので、そこで得られるものは全部吸収して、武器をたくさん身に着けることが今の目標ですね。自分が得たものを駆使して、周りの環境を少しでもよくできたり、自分の仕事で達成感が得られればよいなと思います。

―1年生にして早くもめいじろうバルーン制作という武器ができましたね。

杉山 とても大きな武器になりました(笑)。

―完成したバルーンめいじろうはコロナ禍でまだ多くの人の目に触れていませんが、オープンキャンパスなどの大学行事で披露される日が待ち遠しいですね。多くの受験生や明大生の目に触れることになります。

杉山 同じようにCGに興味がある受験生には、「知識がなくても大丈夫だよ」と胸を張って言えます。

五十嵐 やる気と根性だけあれば大丈夫(笑)。

―最後はまさかの根性論ですね(笑)。本日はありがとうございました。

バルーンめいじろう制作と五十嵐先生の研究内容を分かりやすく紹介する動画がYouTube明治大学公式チャンネルよりご覧いただけます。ぜひご覧ください。

五十嵐 悠紀
総合数理学部准教授
2010年東京大学工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。2010年より日本学術振興会特別研究員PD、RPDを経て、2015年総合数理学部専任講師。2018年より現職。研究テーマはインタラクティブシステム、ヒューマン・マシン・インターフェース技術に関する研究。主な著書に「Computer Graphics Gems JP 2015-コンピュータグラフィックス技術の最前線」(共著)ほか。博士(工学)

杉山 恭之
総合数理学部先端メディアサイエンス学科2年