INTERVIEWインタビュー

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大学は自分の価値観を導き出すための方法を学んだ場所
江戸切子職人・三澤世奈さん(2012年商学部卒業)

2019年に堀口切子の新ブランド『SENA MISAWA』を起ち上げた 江戸切子職人の三澤さん。大学卒業後、一度はネイリストの道に進みますが、大学在学中に出会った江戸切子への思いを断ち切ることができませんでした。 その「自分の価値観」を導き出した大学での4年間や、現在のお仕事について、お話を伺いました。

自分が提供したいサービスの本質

―明治大学商学部に入学したきっかけを教えてください。

高校生の時から将来ネイルサロンの経営、つまりネイリストになりたいと思っていました。その上で、どのようにサービスを売っていくか、どのようにお客様に価値をわかってもらうかという方法を学びたいと思い、商学部へ進学しました。

―学生時代はどのように過ごしましたか?

ゼミ活動、サークル活動やアルバイトもするという一般的な学生だったと思います。授業では、広告関係やマーケティングに興味があり、マーケティング論や、経営論などの論理的な考え方を学ぶ授業が好きでした。二瓶喜博先生のゼミでは、先生のご専門である口コミマーケティングを学んだり、統計的な手法とその対照的な質的な調査を用いた論文を制作したりしました。

また、大学でマーケティングを学ぶ上で、本当に自分が提供したいサービスの本質について考え直す機会がありました。経営を目指していたネイルサロンの市場が飽和状態になり、先生から業種を選択するという上で、価格競争に陥りにくいものや高付加価値な商品を選択することが大切だと教えていただいた時のことです。

この時に、自分が本当に提供したいのは、「自分の好きなことで人に喜んでもらえること」で、そういったことを仕事にしたいと思いました。

―三澤さんにとって、それはどのようなことだったのでしょうか?

私は小さい頃から手を動かすものづくりが好きで、自分が工作した人形を両親が喜んで飾ってくれたり、高校時代にはデコ電(デコレーション携帯電話)制作をして友人に喜ばれたりした経験があったので、そういう得意なことを仕事にしたいと思っていました。

―そうした中で、江戸切子と出会ったのですね。

まさに就職をするという時に、本当にネイリストという職業に進むことでいいのかと考え直し、もっと広い視野で仕事を探したいと考えるようになりました。そんな時に、現在働いている会社の代表であり、親方の堀口が制作・プロデュースを手掛けた商品と出会いました。美容クリームの器を江戸切子でつくったというプレシャスな商品で、その物自体が美しいということもありましたが、伝統工芸という分野でありながら、他の分野の商品になることに感動しました。

本当に自分が進みたい道が見つかったと思いましたし、手仕事にこだわっていた中で、伝統工芸というバックグランドの価値があるもので、本当に素晴らしいものに出会えたなと思いました。

―それから、どのように江戸切子職人になったのですか?

その商品を手がけていた親方に「弟子にしてください」と、連絡をしたのが大学3年生の時でした。しかし、その当時、親方はまだ独立したばかりで人を雇うような状況ではなく、断られてしまいました。

そして一度ネイリストの道に進みましたが、その間も都度、堀口切子のホームページをチェックしていたところ、ある日「スタッフ募集」という文字が掲載されていて、「これは!」と思い、連絡をして3年越しに入社が叶いました。初めに断られた理由が、その時はタイミングではなかったと思っていたので、時が来ればチャンスをつかむことができるという諦めきれない思いがありました。

江戸切子という分野で自分が果たす役割

―今はどのようなお仕事をされていますか?

江戸切子職人になって5年目の2019年に『SENA MISAWA』という堀口切子の新ブランドを起ち上げました。現在はその商品のプロデュースや制作を行っています。

―作品づくりではどのようなことを大切にしていますか?

まず一番は自分が欲しいと思えるもの、自分が心地よいと思えるものをつくるということを大切にしています。その中で、江戸切子という分野において、自分がどのような役割を果たせるか、どのような恩返しができるかということを考えてつくっています。

―大学での学びが、現在の仕事において役に立ったと実感することはありますか?

本当にたくさんあります。ものづくりをする上で、本能的、感性的な部分で創作することが大切ですが、理性的、客観的な判断ができるということは、大学で学んだことが生きていると思っています。

私のブランドでは、今までにない江戸切子の色や質感を意識して表現しています。もちろん自分がそういったものが好きということもありますが、伝統工芸の江戸切子という分野で自分の役割は何かと意識した時に、今までにない表現を模索することが、一つの役割だと思い、客観的に見て、差別化されるものをつくりました。

今まで江戸切子の伝統が続いてきたのは、その時代に合わせて先人たちがデザインを変えてきたからで、私のデザインも先人達と同じ役割を果たすことができたらうれしいです。

―サークル活動を通して学んだことも今に生きていますか?

MDDというダンスサークルに入っていましたが、他大学との合同サークルだったので、本当にたくさんの方々と交流を持つことができました。合宿では先輩とチームを組み、最終日には全体でコンテストを行い、順位を決めるというイベントも楽しかったです。

そうした活動の中で学んだことは「思いを共有する」ということで、会社組織の中でものづくりに向き合う時間とリンクするものがあります。弊社では理念共有を大切にしていて、自分たちが何を美しいと思ってつくっているのか、誰のためにつくっているのかを明らかにすることが、共通認識として必要であると考えています。特にそういった考え方を整理するときに、大学で得た知識を活用することで自分が先導して話し合っています。

共有するものがある幸せ

―三澤さんにとって明治大学とは、どのような場所ですか?

自分の価値観を導き出すための方法を学んだ場所です。自分の価値観というのは、自分が何を幸せに思うか、ということだと思います。それを考える時間が大学の4年間でしたし、どう決めるかという価値基準を学ぶことができました。

また、在学中に強く感じていたのは「個」を大切にする雰囲気が学内にあることで、自分から積極的に学ぼうとすれば道が開かれていて、逆に必要以上の干渉がないところが良かったですね。自分の好きなことを自由に学ばせていただいたという印象があります。

―今年、明治大学は創立140周年を迎えました。最後に、大学、そして学生に向けて、メッセージをお願いします。

創立140周年おめでとうございます。明治大学という場所で学ぶということは、本当にたくさんの先輩方と共通の体験をすることであり、それだけで自分にとって財産だなと、特に社会に出てその価値を実感しています。卒業してから実際に明治大学の先輩方とお話しする機会が何度もあり、その都度共感し合える部分がたくさんありました。誰かと思いを共有できる経験があることに幸せを感じています。

学生の皆さんにとって、コロナ禍という大変な状況の中で、明治大学で学んでいるということが、将来誰かと思いを共有する時の大きな要素になってくるのではないでしょうか。今私が感じていることを将来、皆さんと共有できたらうれしいです。

三澤さんからの動画メッセージを公開しています

三澤 世奈
江戸切子職人
1989年群馬県生まれ。2012年明治大学商学部卒業。2014年株式会社堀口切子に入社。同社においてブランド『SENA MISAWA』をプロデュース。
Instagram @senamisawa
ホームページ https://senamisawa.shop/