INTERVIEWインタビュー

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コミュニケーションを大切にしていれば、自分の限界を超えた先の景色を見ることができる
東京エレクトロン(株)代表取締役社長・CEO 河合利樹さん(1986年経営学部卒業)

チームで動く時に大切なコミュニケーション力や、相手をリスペクトする姿勢を、ゴルフ部を通じて学んだ――。半導体製造装置で世界的なシェアを誇る東京エレクトロン(株)で代表取締役社長を務める河合さんは、学生時代はゴルフ三昧だったと笑いながら話してくださいました。しかし、その日々の中に、現在のビジネスに生きる学びがたくさんあったそうです。

便利な生活のカギを握る「半導体」

―東京エレクトロンはB to B企業ということもあり、あまりCMなどで名前を目にする機会はありませんが、実は生活に密着した企業だと伺いました。まずは事業内容について教えていただけますでしょうか。

皆さんが日々利用しているパソコンやスマートフォンなど、便利な生活に欠かせない電子機器の多くには、半導体やフラットパネルディスプレイが使用されています。東京エレクトロンはこの半導体とフラットパネルディスプレイをつくるための装置を開発、製造するとともに、優れた技術サポートを提供する企業です。TVのCMなど積極的に行っているわけではないので、東京エレクトロンの社名を聞く機会は少ないかもしれませんが、実は多くの人と関わりの深い会社なのです。

―半導体の需要はまだまだ高まっていくのでしょうか?

高まる一方です。昨年(取材時点)2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延、また、日本における集中豪雨、北米でのハリケーンや寒波など、気候変動による自然災害が多く発生しました。加えて、貿易摩擦に代表される地政学的問題、また、人権問題などグローバルにさまざまなことが起こり、社会や人々の生活に大きな影響を及ぼした年となりました。このようなさまざまな課題を背景に、現状をVolatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取って「VUCA(ブーカ)」と表現されることがあります。一方、私たちの日常やあらゆる産業でデジタルトランスフォーメーション (DX) が進み、改めて情報通信技術 (ICT) に必須である半導体の重要性が際立った1年でもありました。かつてないスピードでデータ社会への移行が進む中、地球環境問題への解決に向けた取り組みもあり、〝デジタル×グリーン〟が世界の大きな潮流となっています。ここでいうグリーンとは、〝カーボンニュートラル〟すなわち、二酸化炭素の排出量を抑える〝脱炭素化〟を目指すことです。このように、どのような状況でも経済活動が止まらない、強くしなやかな社会の構築に向けて、世界は今、ICT、DX を強力に実装するとともに、脱炭素社会の実現に取り組んでいます。この実現には半導体の技術革新が重要になります。

―ITの進化で生活はさらに変わるのかもしれませんね。

ガラッと変わると思っています。今後、自動車の自動運転などの新たなテクノロジーの進化やスマート工場、農業、医療、そしてスマートシティなど、あらゆる産業のデジタル化が社会に広く浸透していきますが、その全ての根幹に位置し支えるものは、〝半導体〟です。半導体は、コンピュータやテレビに使われ、さらに携帯電話へと広がっていきましたが、もはや、その存在はモノを動かす単なるチップではなく、社会全てのインフラとなっています。半導体があってこそ、社会のデジタル化が可能になります。その半導体に対する技術要求は、さらなるメモリーの大容量、高速通信、高信頼性、低消費電力など、留まるところを知りません。

―地球環境の保護という観点ではどうなのでしょうか。

「デジタルとグリーン」の両立には当然取り組まなければならない課題があります。現在、大量のデータの配信やオンラインサービスが立ち上がっていますが、そのためにはデータセンターが必要です。関東に米国大手企業のデータセンターがありますがその市の人口は、約10万人。ところが、その電力消費量は、東京エレクトロンの工場がある人口約80万人の山梨県に匹敵します。こうなるとITで暮らしを便利にするのは良いけれど、CO2の排出の観点では疑問が生まれます。デジタルとグリーンを両立させるうえで重要なカギを握るのは「低消費型電力」で、東京エレクトロンは低消費電力の半導体をつくることにも尽力しています。半導体の技術革新を通して地球環境の保護に貢献することもまた、当社のミッションです。

―聞けば聞くほどその重要性が伝わってきます。これからさらに市場が盛り上がっていきそうですね。

1947年にトランジスタが誕生しました。そこから70年経った現在、半導体の市場は約4000億ドルにまで成長しています。さらに2030年頃には1兆ドルになるという予想もあります。(出典:WSTS,IBS)70年かけて出来上がった市場が次の10年で倍以上になるわけです。この辺りは非常に楽しみなところですね。

―就職先として興味を持つ学生も増えそうな気がします。

東京エレクトロンはCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)経営を意識しています。事業活動を通じ、デジタルとグリーンの両立という世の中の共有価値の創造に貢献することを通じ、社会価値と経済価値を生むのと同時に、そこで働く人にもハッピーになってもらえるような会社を目指していますから、ぜひたくさんの学生に興味を持っていただきたいですね。

ビジネスの基礎はクラブ活動で培った

―河合さんが入社された経緯についてお聞かせいただけますか。

大学4年の時は、体育会ゴルフ部の副将で、部活動のことしか頭にありませんでした。就職活動がちょうどリーグ戦の直前だったこともあって、恥ずかしながら就職のことはあまり考えていなかったのが正直なところです。たまたま私の姉が東京エレクトロンで働いており「自由で将来性のある良い会社」と聞いていたこと、そして、明治大学の就職課に東京エレクトロンから「体力のある学生」という求人が来ていたこと、この2つが重なり、受けてみたのが全ての始まりです。ゴルフばかりやっていたところでこの会社に導かれたので、縁があったのだろうと思います。ゴルフ優先で東京エレクトロンの内定が出た瞬間、全ての就職活動をやめてしまいました。今思えばこれが良かった。(笑)

―そこまでゴルフに打ち込まれたのにはどんな理由があったのでしょう?

やはり仲間とともに過ごすクラブ活動が充実して楽しかったからですね。大学では学業そっちのけで打ち込みました(笑)。ただ、その経験が後々の役に立っているなと感じることは多いです。ゴルフは朝の集合がとても早い上、1学年上の先輩よりも30分早めに集合しなくてはなりません。とくに1年生の場合は、4年生が到着する1時間半前ですから朝4時に集合場所にいなければならないこともありました。しかし、1人が寝坊すると連帯責任で全員が厳しいトレーニングを受けることになります。1年生1人が遅刻したことで2年生の先輩もトレーニングを受けることもあるのです。必死でお互いをかばいあったり、トレーニングに耐えていました。あの時は大変でしたが、今となってはいい思い出。この時に育まれた組織の中の個人の行動の重要性、チームワークや助け合いの精神が今の私の基礎になっています。

―代表取締役社長になられた今も、チームワークは大切にされているのですか?

もちろんです。メーカー企業の場合には製品のマーケティングや開発、製造、営業、納入後のアフターサービスなどがあり、1人では仕事を完結することができないので、組織の連携が重要になります。また、1人で動くよりチームで周りの人の協力を得ながら動いた方が質が高い大きな仕事ができますよね。社長になってからは特に、自分の能力の限界を会社の成長の限界にならないよう、組織力、チームの重要性を強く意識するようになりました。ちなみにチームで動く時に大切なコミュニケーション力や、相手をリスペクトする姿勢もクラブ活動を通じて学んでいたので、ここも社会人になってから生きた部分です。社員からたくさんの提言やアドバイスをもらい、それが経営に生きていると実感しています。本当にクラブ活動から学んだことだらけで、ゴルフ部で過ごした時間は自分にとって何よりの財産です。

―楽しいからという理由でそこまで頑張れるというのもすごいですね。

若いうちは、理由なくがむしゃらに進むのもいい経験になると思います。成果にとらわれず、目的地はさだまっていなくてもとにかく前へ、前へ進む姿勢と言いますか。特に社会人では、仕事が予定通りに進まないことも多々あるので、都度悩むのではなく、とりあえず目の前のやれることを工夫しながらやりきります。それを続けるうちに次の道が見えてきますから。

―なるほど。目的や結果ばかり追い求めていては、最初の一歩が踏み出せなくなるというのはあるかもしれません。

そうそう、その行動が無駄になってもいいじゃないですか。むしろ学生のうちは無駄なことをたくさん経験しておかないともったいない。今の学生さんはコロナ禍でさまざまな制限を余儀なくされていますが、これも経験だと思います。この機会を利用して、夢について考えたり、安全や健康を第一にしながら、やりたいことに関連する情報を、たっぷり時間をかけて調べてほしいと思います。この時、〝やりたいこと〟をあまり絞り込み過ぎず、選択肢をいくつか持っておくことをおすすめします。

社会に貢献する企業を選ぶことが重要

―就活生は特に河合さんからアドバイスをいただきたいでしょうから、私が代表してお伺いしたいと思います。河合さんは社会で活躍するには何が大切とお考えでしょうか。

社会で活躍するという観点では、企業選びと個人の志が大切です。ご存知のとおり、国連では2015年に2030年を目標としたSDGsが採択されました。社会での活躍を目指す限り、社会の共有価値は何かという点を意識し、事業活動に結びつけている企業がお薦めです。また、「世の中に貢献できる良い仕事をしている」という意識は、心の安定と日々の活力につながり、社会で活躍する人に求められる重要なポイントです。

―「社会で活躍するには、社会で活躍する企業を見つける」というのは、当たり前のようですが、これまで見落とされてきたポイントのような気がします。

もう1つ加えるなら、コアな競争力がどこにあるのかをきっちり認識している企業がお薦めです。ビジネスは競争なので、得意なところで勝負しないと稼げないからです。学生のうちはあまり利益に意識は向かないかもしれませんが、〝稼ぐ力〟を追求することはとても重要です。利益が出なければ社員を幸せにすることもできません。

―代表取締役社長として社員の幸せを追求したいと考えられている河合さんだからこそ生まれるアドバイスですね。

十分な利益に基づく経営基盤の下、失敗を恐れずチャレンジできる機会をつくるように常に考えています。これは、社会で活躍したり貢献したりする人材を創出する上で、非常に大事です。もちろん成功した時の報酬や、フェアな人事、それに風通しの良さもやる気を引き出すためには大切です。

―東京エレクトロンは離職率がとても低いと伺いました。

東京エレクトロンの離職率は国内で1%くらいです。世界中でビジネスを展開していますが、海外子会社を含むグループ全体でも2.5%くらいと、他社と比較して圧倒的に低いです。離職率の低さは重要です。なぜなら「企業の成長は人。社員は価値創出の源泉」だから。社員のモチベーションの高さとも関連するのでうれしく感じています。また、離職率が低いことは、お客様の機密情報が転職先に持ち出される可能性が低いので、当社への安心と信頼につながっています。

―会社選びの重要性は理解したのですが、では入社後、社会で活躍するために個人はどのようなことを意識するとよいのでしょうか。

誠実さ、相手の立場を思いやる心、一生懸命さ、チームワーク。私は経営学部出身で理系ではなかったので、「半導体って何?」というところからのスタートでした。入社当初、営業でしたが、お客様から次の製品の仕様についてリクエストされても専門性が高すぎて分からないことだらけでした。そのような時、先輩やサービスエンジニア、工場の仕様担当者、設計・製造エンジニアが助けてくれて、要求どおりの仕様で装置を納め、想定以上にお客様の満足につながりました。この時、チームで活動することの大切さを学びました。1人で奮闘するよりも何倍もの大きな仕事ができると。そして、これは社長になるまで一貫して言えることでした。

前述のとおり、私は常日ごろ、自分の能力の限界を会社の成長の限界にしてはならないと考えているのもこういった経験からです。しかし、チームワークを形成するためには会社の成長につながる一生懸命さ、誠実さ、相手の立場を思いやる心なくしてあり得ません。

「前へ」の積み重ねが140周年につながっている

―新型コロナウイルスの感染拡大で先が見えない状況が続いていますが、未来のビジョンをどのように描いているのでしょうか。

メガトレンドを捉えることが重要です。冒頭でもふれましたが、どんな状況でも経済活動が止まらない、強くしなやかな社会の構築に向けて、世の中は、ICTやデジタルトランスフォーメーションを強力に実装していきます。これが未来に向けた潮流です。その中で、半導体の技術革新を追求することで、世界に貢献していきたいと考えています。

―コロナ禍でオンラインやリモートでの会議、打ち合わせは増えたと思うのですが、やはり直接お会いするほうが良いものですか。

コロナ禍である現在は、もちろんオンラインが中心です。これも半導体が実現しています(笑)。ただ本音を言うと、私は直接会って話したいですね。たとえば自分からのメッセージはオンラインでも伝えることが可能ですが、現場で働く社員の意見は、食事などでコミュニケーションをとりながらでなくてはなかなか聞くことができません。コロナ禍の前は日頃から各拠点を訪問していましたし、社員集会や座談会も頻繁に開催していました。社員の声から学ぶことも多いですし、アイデアや新たな戦略が生まれることもあります。早く直接、密なコミュニケーションがとれるようになってフランクな会話をしたいです。目指す目標は、これまでと同様、最先端の技術と確かなサービスで、社会の要求に応えていき、夢のある会社づくりと社会の発展に寄与することです。東京エレクトロンの技術でステークホルダーをハッピーにしたい。この思いはコロナ禍の前も後も、そしてこれからも変わらないでしょう。

―お仕事についてイキイキと語られる姿を見ていると、本当に仕事を、そして会社を愛されていることが伝わってきますが、仕事以外のプライベートでやってみたいことはございますか?

そうですね、思い浮かぶのはやはりゴルフ。スコットランドの歴史あるコース巡りができたら理想だなと思います。あとは海が好きで船舶の免許を持っているので、小型クルーザーで釣りに行くのも夢ですね。今後は、会社を通じて世界に貢献するとともに、趣味の時間も積極的にとって、ゴルフや釣りも楽しみたいと思っています。

―明治大学が創立140年を迎えます。最後に明治大学に対する思いをメッセージとしていただけますでしょうか。

140周年おめでとうございます。私は明治大学に受け継がれる「前へ」という言葉が非常に好きです。この「前へ」という姿勢を貫いたからこそ、時代に応じて良いところを残し、そして新しいものを吸収し、変化に変化を重ね、この140年という記念すべき日を迎えられたのではないでしょうか。これからも明るい未来に向けて、「前へ」の精神で、大学の発展、ひいては社会の発展に貢献していってもらいたいと思います。もちろん私もOBとして、母校を応援し続けていきます。

河合 利樹
1963年大阪府生まれ。 明治大学付属中野高等学校出身。1986年明治大学経営学部卒業。1986年に東京エレクトロン入社。 2010年に執行役員、2015年に代表取締役副社長・COOに就任。 2016年から代表取締役社長・CEO。