
「人間のように考えるコンピュータ」の開発に端緒を発する人工知能(AI)は、1950年代から人間の左脳的機能の実現を目指してきた。AIの工学的応用として、熟練者の経験をルール化して開発されたエキスパートシステム、人間の右脳的機能を人工神経回路、 表現に曖昧さを導入したファジィ推論などの研究が1970年代後半から積極的に行われてきた。それらは現在ではインテリジェントシステムと称されている。数ある産業システムの中でシステム運用と制御に関し、常に最先端の技術導入を計り、非常に高レベルの技術水準を維持する電力システムでは、インテリジェントシステムの研究の着手がアメリカを中心に行われてきた。アメリカの研究動向と呼応して、1987年から当研究室でもインテリジェントシステムの電力システムへの応用を研究している。電力システムは、非常に複雑システムであるため、インテリジェントシステムによる問題解決に多くの工夫が必要とされている。これまで、当研究室では「電力システムにおけるブレークスルー」となる研究が数多く達成され、多くの大学院生が米国電気電子学会(IEEE)の国際学会を中心に研究発表を行っている。最近では、当研究室における2つのプロジェクトの実用化研究が先端的インテリジェントシステムとして脚光を浴びている。1つのプロジェクトは、電力消費量や種々の気象データからファジィルールを発見するデータマイニングによるファジィ回帰2進木とファジィ推論による短期電力負荷予測システムの開発である。
この研究は1995年より、中部電力中央給電指令所と共同で進められ、ファジィ推論による翌日最大電力負荷予測は実用化されている。2つめのプロジェクトは、電力システムの長距離送電線に発生する事故の種類と発生地点を評価する推論システムの研究を2001年より、東京電力技術研究所と進めている。この研究も実用化を念頭にして行われ、事故の種類と発生地点を評価する高精度なインテリジェントシステムの開発に日夜はげんでいる。