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ブタ体内で膵臓再生に成功 長嶋教授(明大)らの研究グループが発表

本学農学部の長嶋比呂志教授と東京大学医科学研究所の中内啓光教授らの研究グループは、遺伝子導入と体細胞クローニング技術を用いて膵臓のないクローンブタを作ることに成功した。その研究成果が2月18日付けで米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されるのに合わせて、文部科学省の記者クラブで記者向けのレクチャー会が、科学技術振興機構(JST)主導で、明治大学と東京大学の共同発表として行われた。

この研究は、中内教授とJST戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「中内幹細胞制御プロジェクト」の松成ひとみ研究員、長嶋教授らが、遺伝子導入と体細胞クローニング技術を用いて、膵臓のないクローンブタを作ることに成功。さらに、このブタに体細胞クローニング技術と胚盤胞補完技術を用いて、健常ブタの胚細胞由来の膵臓を作ることに成功したもの。

レクチャー会には、NHK、TBS、共同通信など約15人の記者らが参加。研究の内容や社会的意義、今後の課題について多くの質問が出された。報道解禁となった19日には朝のNHKニュース「おはよう日本」で取り上げられたのをはじめ、日本経済、朝日、東京、産経新聞などで、移植用臓器作製へ道を開くものとして報道された。

ヒトに移植できるまで3~5年 今後は国(日本)の指針改定がカギ

ヒトの膵臓作製にチャレンジする技術的基盤が構築されたことを説明する長嶋教授(左)と中内教授(文科省記者クラブ)

研究グループは、将来の再生医療にも大きく期待できるものとしており、ヒトのiPS細胞を使い、ヒトの膵臓を持つブタを作る研究に着手したい考えを示した。しかし、ヒトと動物の細胞が交じった生物ができることへの倫理的な懸念があり、現在は国の指針で禁じられている。

中内教授は「障害があっても3~5年で、ヒトに移植できるレベルになる」との予測を述べた上で、懸念を払拭する技術と成果は得られているとして、「ガイドライン(指針)の改定を数年前から要望している。今回の発表で、世界が一斉に(この研究を)始めることを考えると、日本で難しい場合は国外での研究も検討したい」と世界を一歩リードする研究の先頭はゆずらない姿勢を見せた。米英国では承認を得ることで研究可能で、中国や韓国などの多くの国では、規制は設けられていない。
現在、日本では約30万人が慢性腎不全のため人工透析を受けていて、年間一人約500万円、毎年1兆3000億円を超える医療費を必要とし、保険財政を逼迫させている。さらに、糖尿病の増加に伴い、腎不全患者は毎年1万人増加していることが報告されており、研究成果が一日も早く、治療に活かされることが望まれる。

体細胞クローニング(体細胞核移植)

体細胞核を未受精卵に移植することによってクローン個体を作出する方法。1997年に英国のウィルマット博士らによってクローン羊「ドリー」の誕生が初めて報告された。核ドナーとなる体細胞にあらかじめ外来遺伝子を導入しておくことによって、遺伝子組み換えクローン動物の作出も可能となる。