Go Forward

告辞「次代を拓く『個』の確立」 学長 福宮 賢一

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。本学の課程において研鑽を重ね、新たな進路に向けて出発の日を迎えた皆さんに、賞賛とともにエールを送ります。

また、これまで、ご子女の勉学を温かく支えてこられたご父母ならびにご関係の皆さま、お慶びさぞかしのことと存じます。心からお祝いを申し上げます。

さて、大学で学ぶことの意義を一言で言えば、自律した「個」を確立するための基礎づくりにあります。論理的思考能力を鍛え、問題の所在と核心を自分自身の力でとらえること、そして課題解決の方法や道筋を構想し、それに向けて自ら行動する力を持つこと。皆さんはこれらの修練を重ねて、今日を迎えたのです。

先行きの進路は、常に凪ぎの穏やかな航路であるとは限りません。程度の差はあるにせよ、数多くの困難に出会うことでしょう。その度ごとに、壁を乗り越える努力を繰り返して、さらに「個」の自律に磨きをかけていくことになります。この試練こそ、自己実現のために不可欠な要素なのです。試練から学ぶことを避けてはなりません。この意味で、卒業は通過点にすぎず、学びの終わりではないといえるでしょう。

私たちの社会は今、20年に及ぶ経済の長期低迷から、脱却に向けて胎動が始まったようにも思われます。しかし、その回復の足取りと先行きには、まだ不確かな要素がまとわりつき、不安定性を払拭するには、ほど遠い状況にあります。さらに、少子高齢化の急速な進展、グローバリゼーションへの対応、震災復興、原発事故対応や地球的環境問題など、それぞれの中に複数の深刻な課題が存在し、しかもそれらが相互に絡み合うといった、多面的で重層的な様相を呈しています。私たちは、これらの難問に早急に取り組むことが迫られているのです。

こうした状況にあって、卒業生の皆さんには本学で培った能力を縦横無尽に駆使して、先行き不透明な現代をたくましく、しなやかに生き抜き、そして実り豊かな次代を切り拓いていただきたいと思います。未来開拓力の発揮こそ、皆さんの使命です。そのためには、理想を高く掲げ、くじけることなく前進しようとする強い意思が必要です。疲労困憊をいとわない努力だけが、ご自身や社会の未来に希望を託すことを可能にしてくれるのです。卒業生の皆さんに、心の底から声援を送ります。

時代こそ違うものの、皆さんの使命は本学創立者たちが担った使命と共通するところがあります。鳥取県鳥取藩出身の岸本辰雄、山形県天童藩出身の宮城浩蔵、福井県鯖江藩出身の矢代操の3名は、明治政府の要請により各藩から選抜された俊英たちでした。1870年に18歳で出会い、勉学をともにして、その11年後の1881年には明治法律学校を設立します。この間にフランス法学を学び、フランス留学をして学位取得するなど、まさに、刻苦研鑽に励み、わが国の近代化のための法体系整備に情熱を傾けました。特に、日本人の手で日本人に近代法を教えることの実現に奮闘したのです。皆さんには本学卒業生として、困難に出会ったとき、また心が折れそうになったときに、このような本学創立者の使命と奮闘を思い出していただきたいと思います。

本学の建学の精神「権利自由」「独立自治」は、基本的人権の尊重と「個」の確立を謳うものであり、人類普遍の原則を掲げた理念です。これをユニバーシティ・アイデンティティとする本学の卒業生であることの誇りを胸に、皆さんは未来へ向けて着実な歩みを続けてください。流した汗の中にのみ、未来を的確に展望する視座が存在すると強く信じます。そして、希望はその場所に確実に息づいて、皆さんの歩みを見守ってくれます。

皆さんの前途に幸多かれとお祈り申し上げます。獅子奮迅のご活躍を期待します!卒業おめでとう。

【卒業式次第より転載】