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大切な方々に情報をしっかり伝えること—大学広報の役割

副学長(広報担当)・広報センター長 歌代 豊
7年前、学長室専門員として大学広報委員長を担当することになり、最初に着手したのが広報組織の改革だった。法人には広報紙誌別の編集委員会、教学には大学広報委員会があったが、広報関連の機能が組織的に分離している状況であった。そこで、全学の広報を統括する広報戦略本部を新設するとともに、大学広報委員会を発展的に広報センターに改組した。これにより、法人・教学の総合的な広報戦略の推進体制を築くことができ、マスコミ交流会、ホームページリニューアル、Meiji.net創設、グローバル広報等さまざまな広報の改革、取り組みを円滑に展開できるようになった。

その後の広報改革の中で、学ぶことが多かったのは3.11の対応だ。震災当日、大学自体に大きな被害は無かったものの、統括防災本部を設置し、都心の帰宅困難者の受け入れ等の対応を行った。

初動対応が一段落した翌日、東北地方での想像を超える被災状況が次第に明らかになり、余震や原発の不安も高まってきた。日本が危機に瀕し、大学としても不測の事態として対応をせざるをえない。これから大学としてすべきことがたくさんあり、それを関係者に適切、適時に伝えることが重要になると感じた。

大学は企業とは異なり、組織の内と外の境界が明瞭ではない。多様な関係者への連絡手段を考えた場合、ホームページを使うしかないと考えた。パートナー企業にも迅速に対応いただき、週明けの3月14日には、ホームページトップ画面からバナー等を外し、「お知らせ」のみに特化したシンプルな画面に置き換えた。そして、被災された皆様への学長メッセージをはじめ、その後の各種連絡事項を発信していった。

明治大学では、安全面等を考慮し、卒業式・入学式を中止し、また授業開始を5月2日に延期する等の措置を講じたが、ホームページを通して決定事項を逐次伝えていった。1週間後には、トップ画面に多くのお知らせが並んだことから、被災された方々、卒業予定者、在校生、新入生、留学生など関係者カテゴリ別の副画面も用意することにした。

この3.11の経験で再認識したことがある。一つは、ホームページは大学の広報・コミュニケーション媒体として、特に非常時には極めて重要だということだ。そこで、その後のCMS(コンテンツ管理システム)を導入したホームページリニューアルにおいても、通常の一般的な「ニュース」とは別に、非常時用の連絡手段として「お知らせ」「重要なお知らせ」という機能を設け、メッセージはTwitterにも転送するようにした。この機能は、台風による授業休講等の連絡に活用している。

もう一つは、「大切な方々に必要とする情報をしっかり届けること」が広報・コミュニケーションの原点だということだ。大学に限らず組織は、これまで通りという慣例主義や、ベストプラクティスという物まね主義に陥りがちである。3.11は参考にする前例がなく、大学全体がゼロベースで対応策を決め、実行した経験となった。大学および広報を取り巻く環境は変化し続けている。非常時でも、平時においても常に、伝えるべき方々、伝えるべき情報、それに適した手段・方式を、自分たちで考え続ける必要がある。

広報では今後、ホームページという自媒体を核に、ソーシャルメディアへの情報拡散、マスメディアに向けてのパブリシティを強化するとともに、危機管理広報にも配慮し、レピュテーションマネジメントに取り組んでいくが、「大切な方々に必要とする情報をしっかり届けること」を心に刻み推進したいと思う次第である。

(経営学部教授)