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新春対談 2018年を実りあるものに

人工知能(AI)の発達やグローバル化の進展、18歳人口の減少など未来予測が困難な現代において、高等教育、とりわけ明治大学はどのような役割を担っていかなければならないのか。柳谷孝理事長、土屋恵一郎学長が就任3年目を迎える2018年、長期ビジョンを踏まえた第2期中期計画や、学長方針に基づく教育・研究の推進など、この1年の展望について語った。

未来を見据え基盤を整備



牛尾 あけましておめでとうございます。本日は、「2018年を実りあるものに」と題して柳谷理事長、土屋学長のお二人に話を伺いたいと思います。まず初めに、理事長・学長に就任して3年目を迎える年となります。2017年を振り返っての感想をそれぞれ伺いたいと思います。まずは、柳谷理事長、よろしくお願いいたします。

柳谷 あけましておめでとうございます。2017年を学校法人経営の観点から振り返りますと、これまでの懸案事項について一定の目途を付けることができたと考えています。まず、2016年度の決算では、企業の純利益に相当する基本金組入前当年度収支差額が約14億6千万円の黒字となりました。2011年度より赤字基調が続いておりましたので、6年ぶりに10億円を超えるプラスとなりました。これは11万人を超える志願者によって入学検定料収入が増加したことや、水光熱費をはじめとするコスト削減が功を奏したことが大きな要因でありました。また、2017年度入学者からの学費改定と、2018年度からの入学定員増を実現できたことで、学納金収入という点では、以前より安定的な方向性が見えてきています。これも、ひとえに教職員、校友、ご父母の皆さんのご理解とご協力の賜物であります。そのほかにも、保有資産の見直しとして、旧誉田農場(千葉市)の売却が実行できたことや、2019年春に完成予定の「和泉国際混住寮(仮称)」の整備がスタートしたことなどがあります。明治大学が未来に向かって輝き続けるために、本年も引き続き、法人と教学が一体となって取り組んでいきたいと考えています。

土屋 あけましておめでとうございます。2017年の大きなテーマの一つに、内閣府が打ち出した東京23区内の私立大学における定員抑制方針があります。私立大学としては大学のダイナミズムを維持するために新しい試みが必要であり、それに対する収容定員の厳格化や定員抑制方針は、いささか厳しいものがあります。本学は幸いにもご理解をいただき、1030人の入学定員増を認めていただくことができました。将来的に新しいプロジェクトを進めていく上でも、財政的な基盤を整備できたと思います。他方、研究の面では、2016年度に先端数理科学インスティテュート(MIMS)の取り組みが「私立大学研究ブランディング事業」に採択されたこともあり、全体の動きとして、各部門が研究プロジェクトをどのように作っていくのかという機運が高まった1年だと思います。昨年11月23日には明治大学の研究成果を社会へ発信することを目的とした初めての試みとなる「明治大学アカデミックフェス」を実施し、1000人を超える来場がありました。今後は、教員が研究に時間を費やすことができるように転換していき、いずれは、「あの明治が、研究大学としてNo.1に」と言われるように研究型大学として明治大学の新しい一面を見せていきたい。すぐには難しいかもしれませんがそれが私の夢です。教育の面では、「海外トップユニバーシティ留学奨励助成金」を新設し、欧米のトップスクールへの留学者に対する奨学金を年間で総額5000万円用意しました。大学がサポートして優秀な学生を送り出せることは、とても重要なことだと思っています。

「第2期中期計画」と「教育・研究年度計画書」



牛尾 2011年に策定された長期ビジョン「世界へ—国際人の育成と交流のための拠点、世界で活躍する強く輝く『個』を育てる教育研究の実現」を見据えた第2期中期計画の概要や特筆すべき点などについて柳谷理事長に伺いたいと思います。

柳谷 学校法人経営の充実と強化の目的は、建学の理念に基づいて設置される大学を持続的に発展させることです。大学教育は4年間のサイクルで運営されており、制度面の特質や改革の取組速度を考慮すると、法人経営の適正性と透明性を確保するためには「中長期計画運用サイクル」の導入と実践が不可欠であります。2018年は、長期ビジョンに基づく第2期中期計画をスタートさせる年です。第2期中期計画の教学関連事項は「教育・研究年度計画書」の学長方針を踏まえて策定しておりますが、今回の中期計画では、世界大学ランキング・アジアトップ100へのランクアップを目指すなど、具体的な数値目標や評価指標を可能な限り取り入れた点が大きな特徴といえます。2021年の創立140周年、そして2031年の創立150周年を見据えて、各年度で進捗を確認しながら中期計画の実効性を高めていきたいと考えています。

牛尾 続いて、土屋学長に伺います。2018年度「教育・研究年度計画書」が策定され、教育では「人類の課題への挑戦~総合的教育改革の実質化」、研究では「共創による明治大学の研究のブランド化」など、8つの項目について方針が定められました。その中でも重要なトピックなどについてお聞かせください。

土屋 「共創的研究」では、学部や分野の枠を越えた研究の推進が重要だと考えています。学部間、文系・理系など連携が進みやすい仕組み作りも必要です。また、企業との共創、連携もカギです。昨年、農学部の村上周一郎准教授が産学連携により、安全かつ迅速に発酵熟成肉を製造できる技術「エイジングシート」を開発し、ファーストキッチンなどがその熟成肉を商品化したことで、大きな話題を呼びました。また、MIMSの萩原一郎特任教授による「折紙工学」や理工学部の黒田洋司教授のロボットの研究など、いろいろな形で企業と結びつき、共創的プロジェクトが行われています。現在は10件ほどですが、「100プロジェクト」と銘打ち、今後5年間で100件まで増やしたいと考えています。

大学を支える校友と父母のエネルギー



牛尾 将来を見据えたビジョンの下、さまざまな事業を推進するにあたっては、校友、父母との連携も欠かせないと思います。この点について、柳谷理事長いかがでしょうか。

柳谷 明治法律学校が1881年に創立したその翌年に「校友規則」が制定され、1886年に第1回校友総会が開催されるなど、明治大学の歴史は、校友とともに歩んできたものといえます。3人の若き法律家が協力して創立した本学でありますが、その際の「明治法律学校設立ノ趣旨」には「同心協力」という言葉が記されています。学生として在籍する期間は数年間ですが、校友は一生であります。後輩学生への支援を通じて、次代の校友を育成する、という「同心協力」の輪を今後も広げていっていただきたいと願っております。

土屋 昨年、沖縄で開催された全国校友大会に参加し、改めて全国の校友会の力を感じました。しかし、地方から明治大学に入学する学生が減ってきているので、このままいくと将来的には全国の校友会支部そのものの継続が難しい状況です。そのような状況を変えていくため、私は校友子弟の推薦入学制度の検討も一考に値するのではないかと思います。現在でも3世代にわたって明治出身という方もいらっしゃいますが、校友によって引き継がれていく明治大学のカラーというものがあります。この伝統を継承し、地方の校友会支部を維持していくためにも、さまざまな声があると思いますが、地道に説得しながら進めていきたいと思っています。

牛尾 父母会との連携はいかがでしょうか。

柳谷 昨年、ホームカミングデーが20回目の節目ということで、父母会役員経験者の方を初めて招待させていただきました。台風が接近して雨が降りしきる中ではありましたが、多数の方にお越しいただき、大変盛り上がっていただきました。私どもは、ご父母の皆さんから「子どもを明治大学に入れてよかった」と言われることが、この上ない喜びを感じる瞬間であります。また、ご父母の皆さんご自身も、明治大学を「第二の母校」と感じていただきたいとも考えています。今後とも引き続き、“Students First!”の強い思いで、日々の大学運営に当たっていきたいと思っています。

土屋 明治大学の父母会ほど、エネルギーに溢れた組織はないと思います。法学部長時代から父母懇談会に参加していますが、全国を回って、子女の学業などについて相談を受け、同時に交流を行うということは画期的な取り組みだといえます。また、昨年は韓国、台湾のように海外にも父母会ができましたし、父母会の各種奨学金も充実しています。このように大学を支えていただいている父母会を私はとても大事にしたいと思っています。 校友会、父母会にあるこのエネルギーこそが明治大学の将来を支えていくものです。これは、明治大学がこれまでオープンに開かれた姿勢を貫いてきたある種の象徴ではないかと思いますね。

牛尾 私も参加させていただいて感じることは、校友の母校愛が強いこと、父母間の結束がとても強いということです。我々教員にとっても、特にご父母の皆さんと直に交流し、触れ合うということは、刺激になります。

明治大学の将来像をデザインする年に

牛尾 最後に、2018年をどのような年に位置付けているか、あらためて、意気込みや抱負をお聞かせください。

土屋 残された任期はあと2年ですが、課題はまだまだあります。私としては法人とともに連携しながら、中野キャンパスの第二期工事やスポーツパークの整備などを着実に進めていきたい。また、和泉キャンパスや生田キャンパスにおいても、新たな教育・研究棟やバリアフリーの問題があります。創立150周年を見据え、キャンパス体制の合理化も含めた整備計画も準備していく必要があると考えています。これまでの理事会から引き継いだことをしっかりと任期中に解決し、次の4年間の準備をする。自分の任期も含めてトータル12年間を通して考えなければ、将来の見通しが立ちません。法人と教学がいわば二頭立ての馬車のように、それぞれのパートを補完し合いながら、強い力をもって前進していきたいと考えています。

柳谷 世界の潮流を見ると高等教育のボーダーレス化が進み、大学間競争がいよいよ激化してきています。日本も18歳人口が減少していく中で、国からの補助金がこの10年間で4%も減ってきています。国の財政状況を鑑みても、2020年以降はさらに減少幅が拡大していくものと予想され、2018年以降、私立学校の再編が幕開けしていくのではないかと思います。明治大学においても、2018年は第2期中期計画の中で具体的な数値目標を定め、潮流を乗り越えていこうと打ち出すタイミングで、「明治大学の将来像をデザインする年」にしなければならないと思っています。一方で足元をみると、築40年以上過ぎた施設が主要なもので現在18棟あり、新しい教育・研究環境の整備と既存の老朽化した施設の建て替えが急務です。その整合性を見極めながら、短期間に資金が集中して財政面を圧迫しないよう留意しつつ、大学全体を俯瞰しながら優先順位を決めて、建設計画を策定していかなければなりません。その点、教学と法人でこれからも相互によくコミュニケーションをとっていきたいと考えています。

牛尾 教学と法人が一体となって、明治大学を“前へ”進めていければと思います。本日はどうもありがとうございました。

理事長 柳谷 孝

1975年明治大学商学部卒業。1975年野村證券(株)入社。1997年同社取締役、2006年同社副社長、2008年同社副会長など歴任。昭和産業㈱社外取締役などを務める。2016年5月より現職

学長 土屋 恵一郎

1970年明治大学法学部卒業、1977年同大学院博士課程単位修得退学。1978年明治大学法学部助手、1993年同教授。法学部長、教務担当常勤理事など歴任。2016年4月より現職。専門分野「法哲学、近代イギリス思想史」

進行 副学長(広報担当) 牛尾 奈緒美

フジテレビアナウンサーを寿退職した後、子育てをしながら大学院へ。1998年入職。2009年情報コミュニケーション学部教授。2016年4月より現職。研究テーマは「企業に働く人々がジェンダーの枠を超えて活躍できる場・方策を考案」