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近時の情報開示に学ぶ〜その後〜

経営学部長 大倉 学

2018年9月1日発行の本紙「論壇」において、私は「近時の情報開示に学ぶ」と題した一文を書かせていただきました。そこでは、主として以下の3点について、企業の会計報告のありようの変化について触れました。第1に、情報開示の国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)という国際的なスタンダードに基づいて財務諸表を作成・公表する企業が増加していること(2018年6月時点で161社、2022年12月時点で251社、東京証券取引所調べ)、第2に、財務情報と非財務情報を統合的に報告する「統合報告書」を自発的に作成・公表している企業が増加していること(2018年9月時点で411社、2022年9月時点で516社、宝印刷D&IR研究所調べ)、そして第3にESGに関する積極的・自発的情報開示が重視されてきていることです。そして、こうした私企業でのステークホルダーに対する情報開示のありようから、大学における情報開示のありようについて、その標準化と定量・定性両面からの検討を学ぶとして結びました。

その後、情報開示を巡るさまざまな検討がなされてきましたが、例えば、2021年には「コーポレートガバナンス・コード」において東京証券取引所プライム市場上場会社に対して、気候変動に関わるリスクおよび収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について質的・量的な充実が求められ、また昨年11月に金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案が公表されました。金融商品取引法適用対象会社は有価証券報告書において、サステナビリティに関する企業の取り組みの開示として(1)サステナビリティ全般に関する開示、(2)人的資本、多様性に関する開示、(3)サステナビリティ情報の開示における考え方および望ましい開示に向けた取り組み、が示されました。(2)では、「女性活躍推進法」等に基づいて、女性の管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差を公表している企業はその記載が求められています。

一方で、現在四半期ごとに作成・公表が求められている「四半期報告書」については、有価証券報告書での開示制度を廃止して決算短信へ一本化し、さらにはその任意化という議論も行われています。

私は、情報開示に関する「強制」と「任意」という視点、また、現行の仕組みの枠の中で情報の質を高める「充実」と現行の仕組みを広げていく「拡充」という視点で整理する必要があると思っています。企業の中長期的な計画、その進捗や達成度合いを測る物差しとして、また将来の動向を予測する物差しとしての情報開示のありようを考えながら、教育・研究機関という非営利組織体での情報開示のあり方を再び考えているところです。
(経営学部教授)