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告辞「自分の心と直感を信じて!」

学長 大六野 耕作

この佳き日に、卒業・修了を迎えられた皆さんに、心からのお祝いを申し上げます。ご卒業おめでとうございます。また、これまで、卒業生を陰に日向に支えてこられたご家族の皆さまを日本武道館にお招きし共に卒業をお祝いできますことを、われわれ教職員も心より喜んでおります。改めまして、保護者の皆さまに心よりお祝いを申し上げたいと存じます。顧みれば、この3年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックがもたらした「生き難さ」と格闘する日々の連続であったと思います。

8波に及んだ感染症の拡大と収束の繰り返しは、恰も近代文明がもたらした人間の傲慢さを嘲笑うかのように、拭いきれない不安や恐れ、束の間の安心、事態を打開できないことへの苛立ちや失望の連鎖をもたらし、ある種の「閉塞感」がわれわれの心を支配した時期もあったのではないかと思います。大量の化石燃料の消費に支えられた経済活動は、皮肉なことに、人間の生存そのものを脅かす気候変動や環境破壊を生み出し、経済活動を効率化し人間の生活を豊かにするはずであった科学技術が、かえって個々人の格差や社会の分断を生み出す場合があることを、われわれは改めて思い知らされました。ロシアによる一方的なウクライナ侵攻によって始まった戦争は未だに終わりが見えず、米ソ冷戦終結後に一気に勢いを得た自由とデモクラシーへの奔流が、必ずしも人間の自由、平等の実現、さらには、平和な世界秩序の創造にはつながらなかったこと、地域によっては、人権を無視した「強権的な専制主義」や「大衆迎合的なポピュリズム」を生み出しつつあることを象徴するものともなりました。

しかしながら、皆さんは100年に一度という感染症のパンデミックの最中にあっても心を折ることなく、むしろ、パンデミックがもたらす「生き難さ」を正面から受け止め、その「生き難さ」の正体を見つめ、人間の本質や、人間社会の将来についても、深く思いを致す機会を持たれました。この経験は、この100年間では誰も経験したことのない貴重なものであり、必ずや次の時代を切り拓く様々な知恵につながっていくに違いないと確信しています。本日、卒業・修了を迎えられた皆さんには、在学中に培った知識・知恵・技術、そしてその精神力を総動員して、いま人類が直面している問題に正面から立ち向かい、「人間が人間として生きるに値する豊かな社会(世界)」を創造するための「よい準備」を始めていただきたいと思います。時流に流されることなく、現在起こっている事態を冷静に分析し、世界のあるべき姿を描き、その実現を図る方策を生み出していただきたいと願っています。

結びにあたり、Apple創業者の一人であったスティーブ・ジョブズが2005年6月15日にスタンフォード大学の卒業式(Commencement:人生の始まり)で行ったスピーチの一節を送りたいと思います。
Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma–which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.
(君の時間は限られている。他人の生き方を真似するような無駄をしてはいけない。ドグマに囚われてはいけない。なぜなら、それは他人の思考の結果に過ぎないのだから。自分の心の内なる声が、他人の意見というノイズでかき消されないように気をつけよう。最も重要なことは、自分の心と直感を信じる勇気を持つことだ。というのも、心と直感はすでに、あなたが本当は何になりたいかを知っているのだから。それ以外のことは、些細なことに過ぎない。)

卒業生、修了生の皆さん、あらゆる困難を乗り越えながら自分らしく「力強く 前へ!」
【卒業式次第より転載】