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祝辞「Polycrisis(複合危機)時代の担い手となる皆さんへ」

理事長 柳谷 孝

本日ここに、卒業ならびに修了を迎えられる皆さん、このたびは誠におめでとうございます。コロナ禍という予期せぬ困難により学修環境や生活環境が一変し、不安や戸惑いがある中でも、揺るぎない信念とたゆまぬ努力のもと本学で研鑽に励まれ、苦労を乗り越えて学位を取得されましたことに心より敬意を表します。また、これまで卒業生を支えてこられたご家族の皆さま方にもお慶びを申し上げますとともに、本学へ賜りました多大なるご理解とご支援に対しまして、学校法人明治大学を代表し、厚く御礼を申し上げます。

さて、私たちは今、後の歴史に問われるであろう大きな転換期に差し掛かっています。現下の世界情勢に目を向けますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は未だ終結の兆しが見えず、加速する世界の分断は資源や食料の高騰や急激な為替変動など経済にも大きな影響を与え、世の中の先行きに不透明感と緊張感が増しています。こうした様々なグローバルリスクが複合的に連鎖して増幅し、より大きな危機をもたらす現在の状況は「Polycrisis(複合危機)」と呼ばれ、本年1月の世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議において最も重要なキーワードとなりました。

このように混沌の中で目まぐるしく変化を続け、未来予測が困難な「Polycrisis」時代の真っただ中へと向かう皆さんに、ドイツ初の女性首相として16年もの長きにわたって国を率いたアンゲラ・メルケル首相が国民に向けて語った言葉を紹介します。それは、「自分一人がどう行動しても大した影響はないだろうなどと、一瞬たりとも考えないでください。一人ひとりが、今試されているのです」という言葉です。メルケル首相は、未知のウイルスに対する不安や不満によって国民が分断しかねない深刻な事態に危機感を表し、この世界的な脅威を自分事として捉え、国民同士が思いやりを持ち、結束して課題解決に取り組むことが重要だと訴えました。

本日の卒業に際し、私が皆さんに望むことは、世界で起きている様々な問題や課題に当事者意識を持ち、今後社会はどうあるべきか、そしてその実現のために自分自身は何をすべきなのか能動的に考えを巡らせてほしいということです。時には、問題の大きさに、自分一人の努力が何の役に立つのかと途方にくれることもあるかもしれません。しかし、そのような時こそ、自己と向き合い、主体性をもって自ら「考える材料」を発見し、一歩ずつでも課題解決へ向け「前へ」と歩みを進めてください。なぜならば、この社会は皆さん一人ひとりによってできているからです。その一人ひとりが自ら気概を持って踏み出すことで初めて社会は動き出し、この複合危機に立ち向かうことができるのです。未来は皆さんの先ではなく、皆さんの内にあります。母校明治大学で培った揺るぎない「個」を掲げ、不屈の明治魂を胸に、これからの時代を切り拓いていってください。そして、地球市民の一員として、国や人種の違いを超えて協調し、人類と地球環境との調和した未来を創造することに、皆さん一人ひとりが貢献してほしいと切に願っています。

結びになりますが、本学の在学生は大学院生も含め現在約3万4千人おり、そのうち奨学金を利用している学生は、延べ約1万5千人に上ります。こうした学費面はもちろんのこと、学内の各種施設整備や体育会各部の活動などについても、校友をはじめとした多くの方々のご寄付によって支えられております。本日卒業される皆さんも、今後社会でご活躍いただき、その暁には、未来の担い手となる後輩学生達へ手を差し伸べ、寄付という名の紫紺の襷を是非繋いでいっていただけますよう、お願い申し上げます。

本日の新しい門出に際し、皆さんの前途に幸多きことを心より祈念いたし、祝辞といたします。ご卒業、誠におめでとうございました。
【卒業式次第より転載】