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大学院での異分野融合研究教育

大学院長 小川 知之

人工知能が将棋ばかりか囲碁でもプロ棋士を打ち負かしたり、自動運転が実用可能になったり、20年前には予想しなかったような技術革新が達成されています。さらにこれらは速度を増して開発が進み、この先10年で我々の想像を超えるようなレベルに達することでしょう。一方、ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の生産・経済活動がいかに複雑なネットワークに支えられているかを浮き彫りにしました。我々が日々口にしている多くの食品にまでその影響が及び、また影響範囲の全貌を誰も正確には理解していません。

さて、いうまでもなく大学院は「創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等の養成」、「高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人の養成」、「確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成」、「知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成」という4つの人材養成機能を担っています。これからの社会を先導する「知のプロフェッショナル」を育成する役割が期待されています。しかしながら現在の細分化した専攻での専門教育のままで今後10年の時代の変化に対応できるでしょうか。

このような危機感のもと、大学院では3年間限定で「現象数理・ライフサイエンス融合教育プログラム」を実施してきました。大学院研究科間共通科目において「現象数理・ライフサイエンス融合教育系科目群」を設置して、理工学研究科・農学研究科・先端数理科学研究科・先端数理科学インスティテュート(MIMS)に所属する教員が担当しました。特にその中のPBL科目では、研究科を超えて分野の異なる大学院生同士を同じグループにしてSDGsも視野に入れたディスカッションを繰り広げました。大学院生たちの発想は我々の想像以上で、そのままベンチャービジネスが立ち上げられそうなものもありました。大学院生に分野の垣根を超えて本気でディスカッションできる場を提供することがいかに重要かを実証することができました。また、この融合プログラムの主眼は融合教育だけでなく融合研究にもあり、大学院生の融合教育を通して実際に、教員同士の融合研究も生まれました。

大学院ではこれまでも、分野融合的な試みや海外の大学とのダブルディグリープログラムなども実施してきています。実績を上げつつも、その立ち上げや継続にあたり担当部署への負担が重くのしかかることが課題の1つです。社会からの要望にも応えつつ、大学院生にとってもキャリアアップの場として魅力的かつ意義深く、そしてそれにコミットする教員も自分自身の研究の幅が広がるようなプログラムをいかに構築していくか、議論を深めていきたいと考えています。
(総合数理学部教授)