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本棚 「ある軍法務官の生涯」 西川 伸一 著(風媒社、税込1870円)



明治憲法下の日本では、軍人の犯罪は、特別裁判所の一種である軍法会議が裁判権を有していた。軍法会議の裁判官は軍人と、法律専門家である文官の軍属の法務官で構成されていた。本書は、その法務官を明治40年代から約30年近く務めた堀木常助の伝記研究である。それに加え、堀木の視点から見た軍の内情、ひいては日本を取り巻く状況が、現代的問題意識に裏打ちされた著者の巧みな語り口によって描かれている。特筆すべきは、遺族から提供された堀木の日記を縦横無尽に駆使していることであり、学術的貢献は大きい。白眉は、堀木が法務部長を務めていた第7師団が満洲に派遣された1934、35年を扱った第5~7章であり、法務官としての日常だけでなく、堀木が各界要人と面会していたことが明らかにされている。専門的見地からは、堀木の「満洲国」軍の軍法会議への関与が指摘され、極めて興味深い。本書は法務官の制度や変遷についても丁寧な解説がなされ、豊富な図表、写真もあり、読書人に広く薦めたい1冊である。

宮杉 浩泰 研究・知財戦略機構客員研究員(著者は政治経済学部教授)