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明大博物館の社会的使命の拡充

博物館長 千葉 修身

文化庁・(公財)日本博物館協会主催の「令和5年度全国博物館長会議」が7月5日、文部科学省にて開催された。「転換期にあるミュージアム-いま何が求められているのか-」をテーマとする基調講演3つと個別講演4つ、その質疑応答で、13時より5時間に及ぶ長丁場の会議であった。博物館現場の諸課題に関する情報共有を図る趣旨から、教育・学術・文化の発展と地域の活力向上に寄与する博物館行政、対話と連携の向上、博物館経営の持続性に関する方策が活発に議論された。

おおむね博物館が抱える諸課題を把握する点では極めて有意義な会議であったが、大学博物館固有の課題は取り上げられなかった。博物館を備える大学が少ないとはいえ、アクセス上の問題(親しみにくさ)の解決は、その社会連携の在り方が喫緊の課題として特に議論の的に据えられるまでに切迫している。当館では刑事・商品・考古の3部門からなる陣容の下、これまでも、常設展・企画展等々を通じ、さらには入館料を無料として、その研究成果を広く社会に公開・発信する使命を遂行してきたが、大学内の特別施設という印象とも相まって、 学内外を問わず、その親近性の醸成は十分とはいえなかった。近年は、当館の学芸員・事務職スタッフ一丸の尽力により、学生広報アンバサダー制度や屋外サインの設置、SNS等による各種の情報発信の迅速化、さらには来館者アンケートの分析を通じて立案された多様な方策が企画展等にも具体化されるなど、その親近性には顕著な向上が現れている。

大学博物館は-当該大学の設置形態の如何を問わず-「文化発信」を旨とするその公器としての社会的な役割・機能を持続的かつ柔軟に発揮していかなければならない。総じて大学博物館を取り巻く環境は、その人材の育成・維持の側面に加え、資金的にも実に厳しい状況下にある。当館もその例外ではない。幸いにも、理事会を中心とする法人側の理解と卒業生の厚志に支えられ、入館料無料の方針は堅持されているが、親近性を醸成する他方の柱、「文化発信」の適時性も欠くことはできない。常設展の刷新にはおのずと制約があるのに対し、企画展等の開催に向けた障壁は比較的少なく、低い。社会的関心事の動向を踏まえつつ、企画展等の適時の開催により、過去から現在、未来へと継承される、人類の営みの注目すべき態様を写し出す展示を引き続き行っていく必要がある。なお、そのための資金は、ご寄付によるところが大きい。明大博物館の社会的使命の拡充に向け、当館既設の「“文化発信”資金」への一層のご協力を、本欄を借りて、関係者各位にお願い申し上げる次第である。
(商学部教授)