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「奴隷制の歴史」 ブレンダ・E・スティーヴンソン 著、所 康弘 翻訳(筑摩書房、税込1540円)



2020年、米国で警官による黒人殺害事件が続発し、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動が「再燃」した。今度こそ「差別撲滅を!」という怒りと希望。これを何度繰り返してきたことか。

本書は奴隷制の歴史、特に奴隷貿易と南北戦争以前の米国の奴隷制を、膨大な史実から克明に記している。奴隷制は歴史上、最も一般的かつ最も多様な制度であるが、米国では奴隷は単なる財産で、人権はないに等しかった。「偉大なる奴隷解放者」のリンカーン大統領でさえ、黒人に人種的劣等性の烙印を押した。また、男性奴隷以上に悲惨な女性奴隷の状況も、知られざる事実である。

奴隷制は残酷な行為であると同時に、極めて収益性の高いシステムでもあった。奴隷に関する事細かな法律はその重要性を表すもので、米国経済は奴隷貿易、奴隷労働、奴隷の再生産に支えられた。

奴隷制の廃止後も、黒人差別は制度的人種主義として根深く残っている。多くの「現代奴隷」を抱える今日の世界経済を理解するためにも、本書で歴史を学ぶことの意義は大きい。
小林 尚朗・商学部教授(翻訳者も商学部教授)